表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎拳士と突然変異  作者: 作者です
6章 赤鋼
62/209

十三話 敵と味方

静けさの中に川の流れる音がする、その中で響く青年の足音は若干の乱れを生じていた。


俺は俺だ、クロじゃない。


彼は自分に言い聞かすように、何度も同じ言葉を頭の中で繰り返す。


今は何も考えるな、呪いについて考えるのは戦いが終わった後だ。


グレンは呼吸を整えようとしていたが、上手く呼吸を揃えることができないでいた。



俺の中で生まれた感情がクロの気持ちだというのは分かっている。だがそれが分かっていても、笑いながら人を殺そうとした自分が怖い。


実際に呪われてみて、その恐ろしさが良く分かった。


戦っている最中は冷静なんだ、だけど喜びが内側から溢れてきて、戦いが終わったあとに強い罪悪感と自分への恐怖に襲われる。


今の精神状態で敵の襲撃を受ければ・・・俺は致命傷を受けかねない。


冷静を保てないと、複数を相手に戦うなんて俺には無理そうだ。


動揺により混乱を起こしている頭で、グレンは先程の戦いを振り返る。


何かを考えること、それだけで自分は冷静を取り戻せる性格だと分かっていた。



戦った三名の中に水使いがいた。


水使いは得物からの把握が難しい、そもそも自分で武器を造りだせるからな。彼らが好む玉具の能力は、同時魔法を補助するのが多い。


複数の魔法を同時に使うのが水使いの特徴だからな。


何よりも雨魔法を同時に使いながら、充分に戦える水使いほど恐ろしい存在はいない。



敵の展開していた土の領域から俺の姿を消した方法。土の領域は対象の感情と魔力などで相手を予測する。


顔や名を土使いが知っているだけでも、対象を土の領域で把握し易い。


俺は先ほど橋の上で自分は炎であり橋だと思い込んだ。ガンセキさんやレンゲさんなら簡単に見破られるが、未熟な土使いの領域では完全には見破れないんだ。


短所でもあるけど俺は一点に集中するのが得意なんだ。己という存在を忘れて橋を演じる・・・自分は炎であり橋だと俺は本気で思い込むことができる。


レンゲさんが言うには、自分というのが俺には無いらしい。だから自分を忘れるなんて簡単なのかもしれねえ。


川を流れる大火玉は俺の炎で燃えているため、土の領域には反応する。だがそこから感じるのは俺の魔力だけであり、俺だという確証は持てない。


橋を燃やしていたのも俺の炎であり、その中に隠れていた俺は感情を消して自分を橋だと思い込んでいた。


土使いから見たら、どちらが俺か混乱するんだ・・・そこで悩みが生じる。


グレンという存在は川に飛び込んで水路を逃げているのか、それとも橋の上で燃えている炎の中に隠れているのか。


だがそのどちらにも、俺の魔力(魔法)の反応しか土の領域で掴むことができない・・・グレンだと確証できる存在がこの世から消えていた。


片手剣士とナイフ使いは俺がいるかの確認に橋上へ向かい、土使いは橋には足を踏み入れず、土の領域でグレンが何処にいるのか探っていた。


土使いが持つ最大の弱点は、地面がないと殆どの魔法を使用できないこと。


ボルガは西壁の上から草原側に岩壁を召喚していた、壁上には土がないのに草原に岩の壁を造りだすなんて芸当、岩の壁を相応に修練している土使いで無ければ不可能らしい。


岩壁を召喚するのに要する速度や任意の場所へ壁を出現させる技術は、熟練との関係は直接ない。だけど熟練を上げるには修行が必要であり、修行をするためには岩の壁を召喚する必要がある。


熟練を上げるために修行をしていれば、自然とそれらの技術も上がっていく。


だがボルガは岩の壁を召喚するさい、いつも両腕を地面に添えていた・・・だからあいつは靴底で地面を叩くだけで岩壁を召喚することはできない。


岩壁の同時魔法や一斉魔法も、意識して修行しなければ上達はしない。


壁上から岩の壁を草原側に召喚する、そんだけ奴は岩の壁を日頃何度も召喚していたってことだ。



以上の理由で橋の上は土使いにとって最悪の場所なんだ、殆どの魔法を使うことができないからな。


そして敵が近付いて来た瞬間、俺は橋ではなくグレンだと思いだした。


事実、俺が橋を演じるのを止めた瞬間、土使いは俺の存在に気付いた。



土の領域は確かに使える魔法だけど、その欠点を逆手に取られることもある。土の領域に頼りすぎるのは、そんだけ危険なんだ。


俺が予想していたより敵は強くない、だからといって油断していると痛い目に遭うだろう。



グレンは走りながら酸素を少し吸い込むと、長く息を吐く。


始めは疑い半分だったが、この呼吸法って技術はかなり使える。これを習得するのに数ヶ月、実戦での使用には数年かかった。


だがまだ甘く、ふとした切欠で呼吸が乱れる。


基本的に吸うより吐く回数のほうが多い、息を止めたり歯を食いしばったり用途に応じて様々だ。例えば極限まで息を吐いた後に息を数秒止め、さらに吐く。


始めの内は酸欠を起こしたが、空気の吸い込み方に秘密がある。一吸で大量の空気を取り込む方法があるんだけど、しくじると吸い込みすぎて咳き込む。


グレンは一定のリズムを保ち、独自の呼吸を取り続ける。


要は気持ちの問題だ、これをしたらこうなると自分に思い込ませる、そんなのも関係してんだ。



考え事と呼吸のお陰で、グレンは冷静を取り戻し始める。


よし、何とか落ち着いた。


俺は俺なんだ、クロじゃねえ・・・俺自身は人間を傷つけることを喜んでない。


これは呪いだ、呪いごと受け入れるんだ。魔獣の想いを受け入れてこそ、本物の魔獣具使いなんだから。


二段掌波、確証もないのに使ってしまった。俺は何故か触れなくても敵を吹き飛ばせる掌波ができるなんて自信を持っていた。


恐らくクロの意識が俺にそう教えてくれたんだ、でもそれからだ・・・クロの意識に従った瞬間、俺の心は喜びを強めた。


腕に練り込んだ魔力を掌に凝縮させたら掌波、胴体と腕に練り込んだ魔力を掌に凝縮させたら二段掌波。


何となく分かった、新しい人内魔法を使用するさい、クロの意識に従うと呪いが強まるんだ。


たしかな確証を得てから新技を使わないと、俺の心は魔獣具に支配される。




実を言うともう一つ、試してない新しい人内魔法の発生条件がある。戦闘に入る前に試しておいた方が良いな。


走りながらグレンは、左腕に練り込んだ魔力を右腕に移動させる。その作業が終わると、もう一度左腕に魔力を纏い、そのまま練り込んだ。


グレンの両腕は極化状態となる。


左右両腕に練り込んだ魔力を一斉に胴体へ移動、両腕の魔力が胴体に移った瞬間を見計らって、己の心臓に向けて魔力を凝縮させた。


・・

・・


結果は失敗だった、左腕の魔力と右腕の魔力を一斉に心臓へ向かわせ、絶妙なタイミングで心臓に左右の魔力を合流・凝縮させないと駄目なんだ。


この新技は難度が高く、今の俺では戦闘の最中に使うことはできない。使うとすれば戦闘の始まり、先手を取る一瞬だけ。



俺を狙う九名の内、六名は退けた。


戦闘不能に追い込んだのは腕を折った一人と、川に落とした一人。残りの四人はまだ戦える状態・・・じゃないな、橋の上で俺は片手剣士を殺しかけている。


未だ接触してない残りの三名は、恐らく俺の進行方向に先回りしているだろう。



そいつらを突破できれば、時計台までは何とか行ける。


両腕に練り込んだ魔力を一斉に胴体へ向けて移動させ、そのまま心臓に凝縮させる。


この条件を満たすことで恐らく発動する新たな人内魔法があり、その能力も予想している。


ガンセキさんに人内魔法の説明したことにより、幾つか発動するであろう条件を考えてくれた。


心臓に魔力を凝縮させるなんて、俺には考え付かなかった。


グレンはガンセキの言葉を思い出す。


『心臓という臓器がお前のどの位置に存在しているか知っているか? 正確な位置を知っていないと、絶対に成功しないぞ』


心臓は胸の中心から左よりに存在している・・・のではなく、両肘を結んだ線の中心であり、握り拳ほどの大きさらしい。


身体の構造を知ることは体術だけではなく、全武術の基本だ。俺もオッサンから一応だけど教わっている。


グレンはもう一度、両腕に魔力を練り込む動作をする。


心臓の位置、心臓の鼓動を感じ取りながら、其処へ両腕から移動させた魔力を凝縮させる。今は感覚だけでも掴んでおこう、戦闘の最中に使う積りはない。


この人内魔法が偶然でも成功すれば、残る三名と戦わずに切り抜けることができる。


失敗した場合も予測しておこう、失敗すれば戦闘しなくてはいけないから。


成功すれば戦わないで切り抜けられる、失敗すれば戦闘して頃合を見て逃げる。


・・

・・

・・


川沿いを走るグレンの進行方向に、四名の姿を視界に捉えたのは、10分ほどの時間が経過してからだった。


敵の数が予想より多い、だがここで動揺しては駄目だ。


グレンは左腕の魔力を右腕へ移し、人内魔法を発動させる頃合を見定める。


敵が俺に何らかの攻撃を仕掛けた瞬間を狙い、新技を発動させる。


成功か失敗は運次第。


今まで八回挑戦し、成功したのは三回・・・最後の一回は失敗だった。それを良い方向に捉えるか、悪い方向に捉えるか。


この場合は失敗して当然、成功したら儲けと考えるのが一番良い。


グレンは走る速度を落としながら、ゆっくりと停止する。


立ち止まったグレンは構えを造ると、意識を集中させる呼吸法を発動する。



俺から前方の敵四名は先程と違い止まっておらず、走りながら近付いてくる。


敵は前に二名、少し後ろに二名が並んで走る。


俺と接触する一歩手前、後を走っていた二名がそろって急停止する。


停止後すぐに二人は地面に手を添えて、横長の岩壁でグレンの進路を塞ぐ。


グレンの進路を塞いだ二名の得物は両方ともガントレット。



前を走っていた二名の敵は、止まらずに走り続けていた。


グレンは前方の二名が持つ武具を観察する。


一方がガントレット、もう一方は短剣。


ガントレットを得物とする敵は、走りながら拳打を仕掛ける体勢でグレンに迫る・・・属性は分からないが、魔力纏い強化の能力だろう。


短剣を得物に持つ敵はグレンに剣先を向ける・・・恐らく雷撃を放つ積りだろう。


雷使いが雷撃を放つ一瞬をグレンは狙った。



・・・今だ。



グレンは冷静を保ちながら鼓動を感じ取り心臓の正確な位置を導きだす、そのまま一斉に両腕の魔力を胴体へ移動させ、間を開けずに心臓目掛けて魔力を凝縮させた。


感覚として凝縮された魔力は、心臓により全身へ巡る。これはあくまで感覚だ。


以上の条件を満たすことで発動する人内魔法。



ギゼル流魔力拳術・進歩 全身極化(一瞬)。



短剣使いがグレンに剣先を向けて雷撃を放った瞬間だった、前方に捉えていたグレンが突如視界から消え、己の放った雷撃だけがグレンの存在していた位置を通過した。


強い風が短剣使いの身体を擦り、仲間であるガントレット使いは自分と同じように呆然と立ち尽くしている。


次の一瞬、短剣使いの後方で岩の壁が破壊される爆音が響いた。


一体何が起こったのか分からない、いつの間にか目の前にいたグレンは消え、次にその存在を確認したときには岩の壁を壊し、赤の護衛は逃走を再開させていた。


自分の後方で岩の横壁を召喚した二人の土使いも、破壊された壁を見詰めながら唖然としいる。


短剣使いは混乱していた、敵は一体何をしたのか、それすら分からなかった。


・・

・・


グレンはここぞとばかりに全速力で走る、敵が混乱している内に距離を少しでも広げる必要があった。


一瞬全身極化・・・四度目の体験。


全身極化中は思うように身体を動かせない、熟練次第で切り抜けながら攻撃を仕掛けられたと思うけど、今の俺だとあれが限界だ。


まるで時間が物凄くゆっくり流れているような感覚、自分の身体が重くて悲鳴を上げているのが良く分かった。


少し体中の関節が痛い、一瞬の全身極化でこれだとすると・・・全身極化を数秒行っただけで、そのあと動けなくなりそうだ。


もっとも極歩の全身極化を発動させるのは、逆手重装の力を使っても俺には難しそうだ。


たとえ可能だとしても、俺はそれを極歩とは認めない。


あえて言うとすれば極歩ではなく・・・外歩、または外道かな?


グレンは呼吸を整えると、独自の走行法を発動させる。


このまま時計台まで走り抜く。


・・

・・

数分後、グレンは大通りへ到着した。

・・

・・


先程切り抜けた四名の敵は、俺が全力で走ったお陰で距離を広げることができた。


一度走る速度を落とし、ゆっくりと移動する。


大通りには巡視している一般兵が多く、全力で走っていると怪しまれる。


敵は俺以外に危害を加える積りはないし、土の領域があるから兵士との遭遇を避けて移動しているはずだ。


だが俺が兵士に頼るようなことをすれば、容赦なく奴等は一般兵を巻き込む可能性が高い。街中で俺を襲った時点で、オルク率いる実行部隊は覚悟を決めているだろうからな。



グレンは小走りで大通りを移動し、時計台に向かうための道へ足を踏み入れる。


時計台への道は大通りほど幅は広くないが、地面は確りと整備されていて、非常に走りやすい道であった。


なんせ時計台はレンガという都市の象徴だからな、他所から来た旅人なんかも一度は足を向ける場所だ。


目的の場所まであと少しだ・・・ガンセキさん居てくれよ。


・・

・・


平坦だった道は次第に坂となり、時計台が小高い丘となっていることが良く分かる。


大昔の人は時計台を建設する為だけに、わざわざ人工の丘を造ったんだ。


お陰でこの街では、どこからでも象徴を拝むことができる。もっとも離れすぎると時間が分かんなくなるけどよ。


この街に住む全ての住人は、時計台をただの建物とは思ってない。千年を越える時を刻み続けてきた時計は、この都市からすれば歴史その者であり、レンガの中心なんだ。


レンガの都市旗には時計台が描かれている。今の時計台とは違う、恐らく初代の時計台だろう。



俺はそこを・・・戦場にする。


生き残るためなら、俺は手段を選ばない。絶対に死なない、俺は絶対に死なない。


グレンは何度も自分に言い聞かす、俺は死なないと。


・・

・・


小高い丘の頂上に辿り付いたグレンは、一度立ち止まる。


ガンセキさんは・・・まだか。


時計台の周りは1mほどの木製柵で囲われていて、その内側には綺麗な芝生が敷き詰められている。


芝生の上には数ヶ所に照明玉具が設置されているが、明るさには期待できない。


大きく息を吸い込み、大きく息を吐くことで呼吸を整える。流石に走り続けて疲れた。


塔の入り口は裏と表の二ヶ所存在していた。


グレンは赤の護衛である証明書を手に持つと、そのまま真直ぐに進み表入り口を護っていた三名の一般兵に声を掛ける。


「何者かの襲撃を受け、ここで敵を迎え撃ちます・・・この場から離れて下さい」


時計台の警護をしている一般兵の一人が前に出てグレンに近付くと、勇者の護衛である証明書を受け取る。


恐らくここの警備を任されている責任所なのだろう、40代前半の兵士は頷きながらグレンに応える。


「事態は飲み込めました、貴方が赤の護衛だと言うことも間違いはないようですね。しかし・・・我々はここの警備を任されている、時計台から離れることは許されません」


それが彼らの仕事だから。


40代前半の兵士は証明書をグレンに返すと、手に持っていた槍を確りと持ち直す。


「貴方が勇者の護衛だとしても、この都市に滞在している限り護るべき対象であり・・・街中で争いを起こす者達を捕らえるのも兵士の使命です」


兵士たちは気付いていた、目の前に立つ青年がどのような思いで此処まで辿り付いたのか。


確かに青年の装備している左腕の武具は不気味だが、着ている服は土埃に塗れ、僅かだが敵の返り血が足下に付着していた。


レンゲの工房から時計台までを走り続け、息が切れてない訳がない。


だがグレンは兵士たちと共に戦うことを拒む。


「この場所を戦場にすることを申し訳なく思っています、ですが敵は恐らく信念旗です・・・俺の味方をすれば、連中は容赦なくあんた達にも剣を向ける可能性があります」


信念旗の存在をレンガ軍の兵士なら知っているだろう、そして実行部隊は全て属性使いで構成されている。


グレンは相手の目を見ないように、申し訳なさそうな口調で話を続ける。


「俺の予想だと時計台を警備している一般兵の数は、四から六人ですよね・・・正直その人数では、足手まといにしかなりません。それに暫くすれば、勇者一行の増援がここに到着することになっているので」


こんな言い方はしたくないが、20を上回る数の属性使いが相手なんだ、俺は間違ったことは言ってない。


グレンの失礼な言葉に対して、嫌な顔もせず40代前半の兵士は返事をする。


「確かに属性兵に比べれば力は劣ります・・・しかし、我々の力は個ではなく数だと考えています」


一般兵は暫し考え込み、一つの提案をグレンにする。


「20分・・・15分を耐えてください、相応の数でここに戻ってきます」


この場所はレンガのほぼ中央であり、属性兵へ増援を求める場合は15分では無理だろう。


恐らく巡視している一般兵を何らかの方法で呼び集めるのだろう。


40代前半の兵士がだした提案は、グレンに取って有り難いものだった。


「失礼を言ってすんません、そうしてくれると助かります」


たとえ一般兵でも、相応の数が集まれば強い力となる。


俺が頭を下げると、兵士さんは確りと頷きながら。


「今回の場合、治安維持軍も動いてくれると思います。そちらにも要請を送ってみます」


治安維持軍とはレンガ軍とは無関係であり、国ではなく世界規模の犯罪者を対象とした軍団のことを指し、各都市には必ず治安維持軍の支部が存在している。


都市だけでなく、近辺の村までもが彼らの活動区域であり、治安維持軍には属性使いも数多く所属していた。


勇者の村にはないが、屯所が存在している村も幾つかあるらしい。


夜勤内務の一般兵は、必要時は治安維持軍の連中に助けを求める。だが、緊急時以外は絶対に魔物の相手はしないんだ。


レンガ軍も犯罪者を捕らえる権限は持っているが、魔物や犯罪からレンガの民を護るという意味合いが強い。


対して治安維持軍は、犯罪者が都市から逃れようと、国規模で犯罪を犯した罪人を追うことができる。


鎧国の治安維持軍と他国の治安維持軍は一応同じ組織らしいが、別物として見た方がいい。


だからこの国の場合は、鎧国治安維持軍なんて呼ばれている。


高い戦闘能力を持った罪人も存在しているため、そういう輩を専門に狙う部署もあるらしい。



重い罪を犯した罪人は、国外に逃亡しようと奴等から逃れることはできない。ただ一ヶ所・・・魔王の領域を除いて。



信念旗は治安維持軍にとって最大の敵だ、救援を要請すれば動いてくれるだろう。


だけどよ俺は連中に苦手意識を持っている。


奴等にとって、魔人は重罪人だからな。


・・

・・

・・


40代前半の兵士はグレンに一言。


「それでは必ず戻ってきます・・・生き抜いてください」


グレンはもう一度頭を下げる。



五名の一般兵はこの場所から離れ増援を呼びに向かい、一名はこの場所に残り時計台の中に潜んでいる。


増援を呼びに行った5人は、信念旗と接触しないよう別ルートで丘を下る。



敵は俺が時計台から動いてないことを土の領域で気付いているはずだ、それでもこの場所に現れた場合、時計台を人質に取るという作戦は失敗だ。


敵が現れるまで本当は座ってたいけど、それをすると身体の動きが悪くなる。


グレンは時計台の壁に背をもたれる。


・・

・・

1分が経過

・・

・・


ガンセキさんが増援として来るのが先か、それとも20分耐え切ることができるのが先か。


グレンは時計台から背中を離す。


逆手重装を動かすと、心の中でクロに語り掛ける。



頼むぞ・・・相棒。



青年の目前には、素顔を布で隠した者達が四名。


恐らく戦っている内に増えていくだろう、敵の増援が到着する前に、一人でも多く戦闘不能にしねえと。


グレンは構えを造る。


敵は広がって俺を囲む。


背中は時計台、扇状に敵はグレンを囲む、逃げ場は無い。








俺は絶対に生き残る・・・喩え、人殺しになったとしても。








6章:十三話 おわり

読んで頂き有難う御座います。


時計台に一般兵がいることを忘れてまして、彼らをどう動かすか悩んでました。


少し無理があるかも知れませんが、治安維持軍についてはそんな感じです。


次回は数日後になると思います。どうか宜しくです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ