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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
6章 赤鋼
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十一話 急展開

俺は誰かと約束したら、高い確率でその約束を破る。破る積りは無くても、何かしらの理由が付いて破る。


ゼドさんとした敬語を使わないという約束も破ったし、レンゲさんとの約束も護れるか分からない。


約束が増えすぎると、身動き一つ取れなくなる気がするから・・・俺は約束が嫌いだ。


冗談半分の約束なら別に良い、でも重い約束からは何時も逃げていた。



出来るかどうかも分からない約束をして、その相手に向かって絶対に遣り遂げる何て、俺には怖くて言えない。


だから俺はこの言葉を良く使う。


『やれる事はやって見る』


こう言って何時も俺は逃げている。


俺が使命に背いて怒られたときにガンセキさんが言ったこと。


『悪いがお前の評価を落としたりせんぞ、評価を落とせばそれだけお前に楽をさせることになる』


嬉しいとか言う気持ちもあったけどよ、正直言うと嫌だった・・・期待されるのが嫌で堪らない。


ガンセキさんは俺を評価しすぎだ、自分のことってのは他人の方が良く分かるらしいけど、それでも俺は自分のことを欠陥だらけだと思っている。


こんなこと口が裂けてもセレスには言えねえ、あいつは勇者として数え切れない人間の期待を背負わないといけないのに、俺は誰かに期待されるのを嫌がっているなんて。


人の期待には応えたいけどよ、その期待に応えられなかったら。そう思うと怖くて堪らない。



セレスにいつも偉そうなことを言っているけど、俺は何事からも逃げ腰なんだ。


痛みのない許しを得ると俺は苦痛を感じる癖に、誰にも期待されない楽な生き方を望んでいる。


ガンセキさんが俺の評価を落とさないでいてくれたから苦痛は感じなかったけど、ガンセキさんに期待されることも怖れている。



それでも俺はセレスに逃げるなと何時も言っているんだ、ガンセキさんの期待から逃げたいけど逃げる訳にはいかない。


軍での仕事をした所為で、俺は一度ガンセキさんの期待を裏切っているんだ、少しでも良い策を練らないと。俺にできる限りの策を考えないと駄目なんだ。


喩えその策で知らない誰かが死んでも、俺には婆さんの金があるんだ、何度でも立ち上がってみせる。


誠の姿を見るまでは・・・俺は生きることに執着する。


どうせ俺はポンコツなんだ、これ以上壊れても大して困らない。



セレスの為に戦ったことなんて俺には一度もねえ、俺は俺の為に戦っているんだ。



自分勝手で我侭で捻くれてても、俺は俺の自己満足を満たせればそれで良い。


だから馬鹿の感情なんて二の次だ。


この考えだけは死んでも譲らない。


・・・

・・・

・・・


闇に包まれた工房の中、グレンは視線を机上の手持ちケースに向けながら。


「それじゃあ、そろそろ良い時間なんで帰ります」


言葉を素っ気なく残すと、逆手重装を左腕から取り外すための動作に移る。


一人で外せるか練習がてら、一度やってみた方が良いかな。


慣れない手付きで逆手重装を取り外そうとするグレンを見て、レンゲは質問をする。


「見たところさ、油玉と火玉は持ってないよね」


軍での仕事がないからな、理由もなく腰袋を装備していたら信念旗に怪しまれる。


現在の状況で俺達が最も有利なのは、連中は俺が探られていることに気付いてないと思っている点だ。


「小油玉を三つ、火玉と油玉をそれぞれ二つほど上着に隠してありますけど・・・あと油の入った小瓶も」


以前から何度か使っているが、小油玉は名前の通り小さい油玉だ。中に入っている油は少ないが、敵の不意を突くことが可能であり、なかなか便利な代物だな。


油玉と火玉、それと油の小瓶は懐に隠してあり、小油玉は右腕の前腕に散り付けてある。


小油玉を右前腕に装着させているのは変人お手製の道具で、決められた振動を与えると俺の掌に落ちる仕組みになっている。





レンゲはグレンの話を聞くと、困惑を浮かべながら返答する。


「なんか嫌な気配を感じたから、念のため領域を展開させてたんだけどね。突然で悪いけどさ、この工房から北と東に5名ずつ、私達に意識を向けている何者かが存在しているね」


その言葉に、グレンは唖然となりながら。


うそ・・・だろ。


グレンは急な展開から来る動揺を呼吸で落ち着かせる。


冷静にならなくては、まずは聞くべきことが有るだろ。


心を何とか落ち着かせると、グレンは冷静を装いながら。


「そいつらに敵意はありますか、それとここからの距離は?」


通常だと土の領域は地面を使う必要がある、だが熟練者となれば地面を使わなくとも金属で代用することができた。


ガンセキが杭に土の領域を発動させたのは、杭の能力ではなく、ガンセキは土の領域の熟練が高かったからできることであった。


現在、レンゲが土の領域を発動させているのは自身の使っている金槌だった。


「ある程度慣れた金属でないと、地面の代用はできないんだよね」


だが金属はあくまでも地面の代用、直に地面に触れた方が効果は断然に高い。


レンゲの工房内には地面が剥き出しになっている場所と、そうでない場所があった。


金槌を一度机の上に置くと、レンゲは地面を直に触れることのできる場所に向かう。


「私が土の領域を展開していることを誰にも知られないように発動させてあったから、多分相手は私の領域には気付いてないよ」


そもそもレンゲが土の領域を発動させたのは、神は究極玉具という説をグレンに教える為だった。


だがそれにより、レンゲはこちらに意識を向けている何者の存在を知った。


「ここからの距離は、徒歩で5分くらいの場所で北と東の両方とも止まっている・・・どうやら意識を向けているのは私ではなく君だね」


こちらに意識を向けている者たちが存在しているにも拘らず、レンゲが神は究極玉具説をグレンに教えたのは、相手が工房から離れているからだろう。


レンゲは地面に手を添えると、グレンを探っている者達の意識を調べる。


「間違いなく君に強弱の敵意を向けていると思う、隠そうと息を潜めているけど、特殊な訓練は受けてないみたいだね」


その言葉により、グレンに意識を向けている連中は敵であることが明確になった。


この世界には特殊な訓練により、感情をコントロールできる者達が存在していると、ガンセキさんに聞いたことがある。


俺に敵意を向けている輩は、影に身を隠した暗殺者って訳じゃなさそうだ。


グレンは続けてレンゲに質問する。


「相手が何使いなのか分かるか? どんな属性が何人いるのか分かるだけでも助かる」


俺の問いにレンゲさんは首を左右に振りながら。


「相手が光の魔力か闇の魔力か、それだけなら分かるんだけどね・・・属性までは分からない。だけど東と北にはそれぞれ最低でも一人ずつ土使いが存在していることは確かだ」


敵も土の領域で俺の動きを探っているってことか。


東に5名、北に5名・・・動きがないって事は、俺が工房からでるのを待っているのか。


俺が工房から宿へ帰る途中を襲う積りってことかな。


・・

・・


レンゲは地面から手を放すと、グレンを見て一言。


「君を狙っている連中は自分達から動く積りはないみたいだね。さて、どうする? なんならこのまま工房にいても良いけど」


相手はオルク率いる実行部隊だ、俺がこのまま動かなかったら、痺れを切らして工房に襲撃を仕掛ける可能性が高い。


「もしもの時、ガンセキさんと合流する場所は予め決めてあります」


ただ・・・ここからだと少し離れているか。


工房から時計台まで、俺が全速力で走っても40分前後、信念旗の妨害を考えれば50分くらいか。


宿屋から時計台までは50分も掛からない、ガンセキさんの走る速度でも30から40分ってとこだ。


宿屋の方にも見張りとして敵が張っている可能性がある。


宿を張っている連中が土の領域を使えば、ガンセキさんが気付くだろう。充分離れた場所で結界を使いながら存在を隠し、肉眼で宿を張っていると思う。



ん・・・待てよ、敵だってレンゲさんに付いては調べている筈だ。


工房内にいる俺を離れた場所から土の領域で張っていたら、レンゲさんがそれに気付くと分かっている筈だ。


それに土の結界は個人でしか使用できない魔法だ、東と北を合わせた10名もの人数で工房を囲めば簡単にレンゲさんにバレるだろう。



グレンは疑問が浮かび、レンゲに質問をする。


「もし誰かに探られていた場合、どうやって土使いはそれを見抜くんですか?」


その問いにレンゲは困った表情を浮かべながら。


「土使い特有の感覚なんだけどね、地面が教えてくれるっているか、嫌な予感がするって言うか」


全ての土使いに備わっているわけではないが、土の領域が使える土使いは持っている感覚らしい。


「ある程度の経験がある土使いに近付き過ぎれば、結界で存在を隠していても気付かれるからね、覚えて置いた方がいいよ」


いや、俺は土の結界すら使えないから。


・・

・・


何となくだけど、敵の作戦が分かった。


恐らく俺が工房からでても、東と北の10名は直ぐには動かない。


敵はワザと土の領域を使い、レンゲさんに自分達の存在を気付かせたんだ。


グレンは自分の予想を確証に近付けるため、レンゲに頼みをする。


「もし今から逃げるとしたら、敵はこの工房から東と北にいる訳だから、俺はその間を全速力で走り抜けます。多分なんですけど、俺が逃げるルート上に何名か隠れていると思うんですが、調べることはできますか?」


工房から東の5名と北の5名は、恐らくそちらに俺の意識を向けさせるために存在している。


この場所から北東に土の結界で存在を隠した何名かが潜んでいて、逃げてきた俺を迎え撃つ積りだろう。


グレンの頼みを聞いたレンゲは、工房から北東に逃げるルートを探る。


「お見事、土の結界で隠れている連中が数組存在しているね・・・3名を3組、計9人で君を足止めする積りのようだ」


工房から北に5人、東に5人、東北に存在を結界で隠している9人。南と西に逃げれば十数分で壁に行く手を阻まれる。


そこまで考えた所でレンゲが一つの提案をする。


「西壁か南壁の属性兵に助けを求めるってのはどうかな、赤の護衛だって証明書を持っているでしょ?」


確かに持ってる、だけど彼らに迷惑を掛けたくない、それともう一つ。


「そのくらいのことは相手側も考えている筈です、属性兵に助けを求める場合は壁上への階段を登る必要がありますからね」


壁上へ行く為の階段、その付近に数名ずつ潜んでいる。



俺を襲撃する為に、敵は最低でも20名以上を用意している。


信念旗実行部隊を全て集めても30名程度だとガンセキさんは言っていた、俺を襲撃する為だけに半数以上を使ったのか?


違うな・・・ガンセキさんの情報が間違っていたんだ、オルクは正確な人数を隠していたんだ。


俺の予想では、実行部隊の正確な人数は100名以上だ。


今回、俺を襲撃するために、20~30名を用意した。こう考えた方が妥当だろう。



今後取る行動を考えてみる。


工房から北か東に逃げて、5名をやり過ごして逃走する。


工房から北東に逃げて、3組に分かれた9名をやり過ごし逃走する。


南か西に逃げて、階段付近の数名を突破して、属性兵に助けを求める。



どうする、南か西に逃げるのは俺としては嫌だけど、属性兵に助けを求めることに成功すれば俺の勝ちだ。


だが相手もそれを理解している。分かっていながらオルクが手を何も打ってないとは考え難い。


東と西には5名、北東には9名、さあ・・・どうする。



考えに浸っているグレンに、レンゲが言葉を掛ける。


「まずは一度深呼吸をして、君に必要なのは浅く広い考え方だよ」


レンゲの言葉にグレンは頷くと深呼吸をする。


浅く広く、俺が生き抜く為に最善のルートを考えるんだ。


「俺は北東に逃げる・・・纏まった5人より、散らばった9人の方が戦い易いからな」


考えが浅はか過ぎるかも知れない、だけど東北の9人は土の結界で存在を隠している訳だから、土使いの可能性が高いんだ。


東と西を合わせた10名、多分土使いは領域を展開させている2人だけだ。


それ以外は火雷水、または風の属性使いだろう。


風使いだけは戦った経験が無い・・・この国では物凄く少ない属性だからな。


まあ風使いに関係なく、人と戦った経験が俺には数える程しかねえけどよ。


北東の9名は属性が分かっているんだ、その方が俺としては戦い易い。



人と戦う、相手は俺を殺す積りで仕掛けてくる。



俺は、人をこの手で殺したことがない・・・いや、一度あるか。俺は自分の闇魔力で人を殺したことがある。


でも今回は違う、俺も殺意を持って人を殺めないと駄目なのか?


そんなこと、俺にできるのか。


グレンは心の中で自分に問う。


お前は人を・・・殺せるのか?



情けない青年の全身は震えていた。


レンゲはニッコリと笑いながら震える男の背中を叩く、それによりグレンは意識を恐怖から開放した。


黄の護衛だった職人は、赤の護衛に優しい口調で語り掛ける。


「私も人を殺したことはない、だけど人間と良く似た化け物と、人間とそっくりな化け物を殺した経験がある」


魔者と魔族。


「私も怖かった、だけどさ・・・殺す時って一瞬なんだよ。こっちも必死だからね、慣れてくれば何も感じなくなる」


それが魔王の領域なのか。


「どんなに人と似ていても、相手は闇の者なんだ。殺さなくてはいけない、だけど今から君が戦うのは人間なんだ、絶対に殺さなくてはいけない敵じゃない」


それでもグレンは黙ったまま。


だって圧倒的に不利なのは俺なんだぞ、確実に生き残るには殺さないと駄目なんだ。


レンゲはグレンを見詰めたまま、表情を崩すことなく声を発する。


「君は魔物を何体も殺している・・・本当に危険なとき、体が咄嗟に反応して相手を殺す筈だ。問題はその後だね、人殺しになった瞬間、君の心に大きな隙が生じる」


その隙を他の敵が突く。


グレンはレンゲから視線を逸らしながら震えた声で。


「人殺しになった動揺を、どれだけ速く鎮めることができるか、それが重要なんだな」


魔物という生物を殺し続けてきたグレンにとって、命の危機を感じれば自然に体が反応し、躊躇(ちゅうちょ)なく相手を殺せる。


だが、人殺しになった瞬間、グレンは罪に囚われる。


「できるだけ誰も殺さないように逃げるんだ、人を殺せば次の瞬間に君は致命傷を負うからね」


グレンは心を落ち着かせるため、一度呼吸を整える。


・・

・・

冷静さを失わずに。

・・

・・


レンゲは青年を見る。


その青年からは震えが消え、冷静さを取り戻しているように見えた。


並みの属性使いに倒されるほど、君は弱くない。


「君の実力を信じるんだ、自分が弱いと思っている内は、大勢を相手に勝つことはできないよ」


弱者でいた時間が長いから、グレンは自分の実力を上手く把握できてないんだ。


喩え群れの魔獣だとしても、一対一で勝てる者が弱い筈がない。


これは昔のギゼルさんにも言えることだ・・・君が持つ最大の弱点は、自分を信じられないことだ。


グレンは己を憎んでいるんだ、憎い相手を信じることなんてできない。


だがグレンをそう思わせる原因がもう一つあった。


「俺は並位属性使いの中で、一人の土使いと共に戦った経験があります。もし並位属性使いが皆、彼と同等の実力だった場合、俺は勝てる気がしません」


なるほどね、それが一番の理由か。


グレンは誰かと共に戦った経験がなければ、誰かが戦っている姿を見た経験も殆どない。


そんな彼が今までに見たことのある土使いは、ガンセキとその並位属性使いの二人だけ。


君に一番足りないのは自信だ、それを君に付けさせるために、できそうなことが私には有りそうだね。


「私も元だけど土使いだ、君のいう人が何をしたのか教えてくれる?」


君が共に戦った並位土使いは、多分だけど只者じゃないよ。


・・

・・

・・


グレンからボルガという土使いについて話を聞いた。


地面に衝突した衝撃で砕け散った岩から、圧壁でグレンを護る。それだけならまだ分かる、だけど倒れてくる牛魔の巨体とグレンとの僅かな隙間に壁を召喚する。


一瞬の判断でそれを直ちに実行できる技術。とてもじゃないが、そう簡単にできる芸当じゃない。


レンゲは笑顔を浮かべながら。


「そのボルガって人はさ、間違いなく岩の壁を極めているね。もしその人にガンセキが修行方法を考えたら・・・魔族と戦う上で重要な戦力となる」


高位魔法を使えても一人だけで魔族を相手にするのは難しい、だからこそ並位魔法をどれか一つでも極めた属性使いが必要になる。


そもそも並位魔法って考え方が間違っているんだ、岩と大地はともかく、氷と雨なんて同じ属性だけど種類が違うんだから。


雨魔法は広範囲に効果を及ぼすけど、時間経過で効果が現れる魔法だから直接の攻撃力はないんだよね。


氷魔法の並位突破・・・私は見たことがあるけど、高位魔法に引けを取らない威力だった。


そして恐らく、刻亀はそれを使う。


レンゲは自己を評価する才能のない青年を確りと見詰めながら。


「ボルガって人の岩の壁は、ガンセキより熟練が断然上だよ。岩の壁だけを徹底的に修練しなくては、そんな芸当は不可能だね」


ガンセキは使える魔法が多い、だから熟練を均等に上げている。


岩壁を頑強壁にする場合、異常なほどの修練が必要になるんだ。実際にボルガって人は攻撃魔法が石投げしか使えない有様だ。


他の属性使いなら、一定の熟練が備われば次の魔法に移る。グレンの話では、ボルガは岩の盾も使えない。


彼は飽きもせず、只管に岩の壁だけを修行し続けたんだ。


夜勤外務は確か夕方からだったね、毎日修行してなければ頑強壁を20代前半という若さで実現できるとは思えない。



ガンセキとは種類が違う修行の才能だね。どちらかと言うと、父親と同じ才能だ。


私はあの人が召喚した氷の壁に、大地の巨腕を防がれた経験がある。だけどその分・・・雨魔法は下手くそだった。


でもそれを帳消しにするくらい、あの人が使う並位魔法は凄かった、彼の氷は火傷するほど冷たかった。


だから私は、氷魔法を並位魔法とは思ってないんだ。


レイケツさんの修行に関する才・・・同じことを何度繰り返しても一行に飽きない才能。


恐らくこれと同じ才能をボルガって人は持っている。


そしてレイケツさんはもう一つ、暇がなくても時間を見つけては修行をする性格。


凄く面白い人でみんなレイケツさんが大好きだった。名前のケツを強調すると凄く怒るんだよね。


・・

・・

今はそんな状況じゃないのに、レンゲは懐かしそうな笑顔を浮かべていた。

・・

・・


グレンは成る程と頷きながら。


何となく分かっていたが、あのデカブツはかなり腕の立つ土使いなんだな。


正直あいつの防御技術を全ての土使いが持っていたら、どうしようとか考えていた。


ボルガの話をしていたら、なんか嫌な緊張が解けたな。



今は心地いい緊張だけが残っている。



グレンは最後に重要な質問をレンゲへ。


「今回の戦い、土使いがかなり多い・・・土使いの弱点をできれば教えて下さい、それと土の領域に付いて詳しく話を聞きたい」


俺の予想が上手くいけば、土の領域を逆手にとった策ができる。


真剣な表情でレンゲは頷きを返す。


・・

・・

数分後

・・

・・


大体の話をレンゲから聞いたグレンは礼を言う。


「色々と有難う御座いました、必ず役に立てます」


実戦で一度も使用した経験のない逆手重装、残玉の少ない油玉と小油玉。


何処までできるか分からないけど、誰を蹴落としてでも生き残ってみせる。


レンゲはそんなグレンを見ながら。


「なんなら私も手を貸すけど・・・長いこと実戦に立ってないから、役に立てるかどうかは微妙だけど」


青の責任者 氷突破レイテツ


赤の護衛  炎拳士ギゼル


黄の護衛  地刺士レンゲ


白の勇者  天雷剣シビレ


長い歴史の中で、多くの魔族を闇へ葬った伝説の勇者一行。


しかしレンゲは勇者を失ってから、10年以上実戦から離れていた。


グレンは先輩であるレンゲを見ながら。


「力ならこれだけで充分です、俺には逆手重装がありますんで」


その言葉の後、懐から金を取り出すと、それをレンゲに渡しながら。


「逆手重装の所為で上着を着れない、手持ちケースと上着は明日にでも取りに来て良いっすか?」


レンゲはグレンからお金を受け取ると、ニコニコ笑いながら。


「はい、確かに貰うものは受け取りました、これで逆手重装は君の戦友だ。それと荷物を取りに来るのは明後日にしてくれるかな、折角の機会だからさ、君の門出を祝いたいんだ」


グレンは頷きながら。


「それじゃあ、明後日の昼頃に工房でってことで良いですか?」


レンゲはニッコリと頷く。


そんなレンゲを見ながらグレンは思う。


このまま会わなくて良いのだろうか、レンゲさんが望むなら・・・ガンセキさんと一緒に来たいと思っているんだけど。


いくら俺でも何となく分かった、二人がどういう関係なのか。師匠と弟子だけじゃない、もっと深いそれ以上の絆で2人は結ばれている。


それはグレンが最も怖れている感情、何度捨てても湧き上がってくる嫌な想い。



レンゲさんは会いたいと思っている筈なのに、なんで何も言わないのか。


2人のことだ、俺から口を挿んで良い訳がない。




グレンは杭に魔力を流し込むと、その杭をレンゲに渡す。


レンゲは困惑の表情を浮かべる。


その顔を見ないようにしながら、グレンは言葉を。


「明後日、それを受け取りに来ます」


それ以外は何も言わない、それ以上はもう関わらない。


レンゲから調度良い大きさの袋を貰い腰に装着する、その中に油小瓶と油玉と火玉を各2つしまう。


小油玉は、右前腕に装着してあるが、臨時の腰袋は中から道具を取り出すのに時間がかかるため、戦闘の最中に使うのは難しい。


グレンは黙って外への扉に向かう。その扉を開けながら一言。


・・・

・・・

「俺は必ず勇者を魔王まで導いて見せる、だから切り抜けて見せます」

・・・

・・・


静かに扉は閉まった。


レンゲは何も言わず杭を見詰めていた。


身体から力が抜けて、地面へと蹲ってしまう。


暖かな瞳で両手に持った杭を見詰める。


楽しかった一年という短い日々の記憶が蘇り、職人を捨てたはずの乙女に戻す。


女の子は杭を優しく抱きしめていた。


この想いを受け止めてくれる貴方はいない、だから代わりに貴方の杭に。


君の名を呼ぶ。






「ガンセキ」






6章:十話 おわり

投稿遅くなりました。


明日も遅くなります、すんません。


次回は戦闘場面になるのですが、分かり難い場面が多いかもしれません。


できるだけ直してから投稿する積りですが、分かり難かったらすみません。


それでは次回も宜しくです。

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