表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎拳士と突然変異  作者: 作者です
6章 赤鋼
56/209

七話 未だ彼の戦争は

レンガでグレンが最も好きな場所、東側と中央通に比べれば煩いといえるが、鉄工街に比べれば静かだと思う。


考え事をしやすい、集中できる落ち着いた場所だ。


グレンは工房通りに立っていた。


ここに来たからには考え事をしてしまうのが、彼の性である。



【魔獣具に付いて】


なぜ光の魔力から魔獣具は能力を発動できるのか。


魔獣具とは闇の魔力を宿した魔獣の力を宿しているんだ、そこから光の魔力で能力を発動できるのは変だと思う。


まず闇宝玉と魔獣の素材は何が違うのか考えてみよう。



【闇宝玉】


闇宝玉は自然の産物であるから、闇光関係なくどちらの魔力でも能力を発動させることは可能なはずだ。


人間が闇の宝玉具に光の魔力を注いだ場合、そこから造りだせる力は闇魔力を吸い取ったり溜める能力が主だな。


闇宝玉は基本戦いに関係のない能力が多い、闇の純宝玉なら生きている魔物から魔力を吸い取るなんて芸当も可能らしいが。


何となく分かると思うが、人類が持つ光魔力との相性は非常に悪い、だからこそ充分な能力を発揮させるのが難しいのだろう。


魔族が闇宝玉を使えば、物凄い力を発揮させる可能性が高いとも言える。



【魔獣・魔物の素材】


魔物・魔獣具は闇の魔力でなければ能力を発動させない。


そもそも魔獣・魔物の素材が持つ力とはなんなのか・・・光の魔力というエネルギーを利用して、闇の魔力を造りだす力である。これが俺の予想だな。


魔物の素材とは元になった魔物の象徴であり、牛魔の場合は角、群れの場合はボスからしか使える素材は取れない。


魔獣の素材なら何となく分かる・・・なぜ魔物の素材にもそんな力があるのか? 爺さんなら分かると思うけど、俺には思いつかない。 


素材の力で闇魔力を造り出し、魔獣具は呪い(魔獣の心)により能力を発動させる。



【魔獣・魔物具と、宝玉具は何が違うのか】


白魔法・宝玉具・生活玉具・魔獣具・魔物具・人内魔法、一度これらの法則を纏めてみよう。



・白魔法

光魔力⇒神+想像⇒白魔法発動


・宝玉具

光魔力⇒宝玉具(宝玉+魔法陣)⇒能力発動


・生活玉具

光魔力⇒宝玉+魔法陣⇒何かしらの装置⇒快適な生活?


・人内魔法

光魔力⇒魔力を操り特定の条件を満たす⇒人内魔法発動



ここまでが魔法と宝玉具だ、次は魔物・魔獣具の法則を予想してみる。


・魔獣具

光魔力⇒魔獣の素材(闇魔力)+呪い⇒魔獣の力発動


俺の予想だと魔物具は宝玉と魔法陣を利用している。


・魔物具

光魔力⇒[魔物の素材(闇魔力)]+[宝玉+魔法陣]⇒魔物の力(偽)



【魔物・魔獣の素材について】


黒い魔犬の素材なら、黒い魔犬の闇魔力を造りだすことができる。


牛魔の素材なら、牛魔の闇魔力を造りだすことができる。


魔獣具の力は元になった魔獣が力を発揮させている、だからやろうと思えば黒魔法だって可能だと思う。


魔物具は宝玉と魔法陣を使うことで、元になった魔物の力に似せているだけだ。


牛魔の素材から造り出した魔物具で、牛魔突進の真似事は可能だけど、岩魔法(黒魔法)の真似事はたぶん不可能。



ここで一つ忘れてはいけないことがある・・・闇魔力は人間にとって害を及ぼす。


魔物具は闇の魔力により力を発動させている、だが闇魔力だけではそう簡単に人は死なない。


魔人病が発症した時に患者が死ぬ原因は、闇魔力が光魔力の量を上回り、やがて心を闇魔力が支配することで死ぬ。


その前に封印をして、闇魔力を抑えつけなくてはいけない。


魔法陣により発動した能力は、現在も俺の光魔力を糧にして発動を続けている。


普通の属性使いは魔力を使い切っても気絶することは滅多にない、俺が魔力を使い切ると気絶しやすいのは、封印に必要な光魔力を使わない為なんだ。


だが弱い封印だとこれがない、魔力を使い続け限界が来ると発作が起きる。また、夜間に発作が起きることも稀にあるらしい。


封印の強弱に関わらず死人がでる理由は・・・封印をすることにより暴れる闇魔力から、誰かが魔人病患者の心を護らないとならない。


婆さんが魔法陣にて俺の闇魔力を封印をし、二人は封印が完成するまで闇魔力から俺の心を護ってくれた。


俺は想像空間の中で己の炎により黒炎(闇魔力)から心を護ったが、二人の場合は俺を抱きしめるしか方法がなかった。



グレンは想い出したくない過去の記憶を辿りながら。


二人は俺の体から溢れ出る異常な量の闇魔力を直接全身に浴びながら、ずっと俺を抱きしめ続けていた。


異常な量の闇魔力でも一瞬触れただけなら影響はない、封印に要する時間はほぼ1日、その間ずっと抱きしめ続ける行為が人間の身体に強い悪影響を及ぼす。


抱きしめるのを止めれば良いのに、二人は俺を抱きしめ続けた。



魔獣王の領域は強力な魔力が展開されているが、なぜ人体に影響がでないのか。


時王の領域 夜間のみで朝と共に領域は消滅する。


数王の領域 数週間進入していれば、人体にも強い害を及ぼすらしい。


空王の領域 魔獣王が地上を好きなだけ破壊したら、飛竜と共に領域は空へ消える。


幻王の領域は不明。


魔王の領域は戦場のことで、強力な闇魔力には覆われていない。




魔物具に注いだ光魔力は素材の力で黒魔力となる、だが注いだぶんが切れれば自然になくなる。


魔人が身体に宿す闇魔力と、魔物具により造りだされる闇魔力では量が違うんだ、不快感は使用者も感じるだろうが苦痛とまでは感じないと思う。


問題は魔獣だ、魔獣具は黒魔法を使うことができる。


魔人は一度でも黒魔法を使えば死ぬ、だがその場合は俺自身の黒魔法・・・黒炎を使用したらの話だ。


しかし魔獣の黒魔法だとしても、使用者は何らかの苦痛を覚悟した方が良いかも知れない。


クロは黒魔法を使わなかったけど、奴は魔力纏い・・・魔物内魔法とでも呼べば良いのか? それを極めた魔獣だ。


あれだけの魔力を纏えるんだ、その技術は極化魔法に匹敵している。


以上のことから分かるように、並位魔法でも熟練次第で高位下級と同等の力を得ることが可能なんだ。



【光の宝玉について】


光宝玉は闇以外の全属性を具えている。


造り方は闇以外の全種宝玉を混ぜ合わせることで光の宝玉となる。言葉では簡単だが、その技術は光の一刻が終ってからの千年間で人類は習得できてない。


それどころか濁宝玉しか人工で造り出せないのが現状であり、光の宝玉は古代種族の失われた技術だ。




この世界では最大の疑問が存在している、多くの学者も考えているが確かなことは分からない。




【黒魔法】


人類は神から白魔法を得ている。


では魔族や魔物は何から黒魔法を得ているんだ? 残念ながら誰にも分からない、魔族にでも聞かないと解明は無理だろうな。


だが予想はできる、魔人病なんて輩が居るんだ・・・奴等の裏には、神と同等の力を持った何者かが潜んでいる。


それは神と同じように不可思議な物なのか、それとも視界に移すことのできる存在なのか。



魔王こそが魔族に取って・・・神と同類の存在なのか?


今はまだ推測しか出来ない、所詮は俺の予想なんだ。


・・

・・


しまった、考え続けていたら随分と時間を使っていた。


グレンは遠くの空を見上げ時計台を探しだすと、現在の時刻を確認する。


ここから時計台までは離れているから正確な時間が分からない、大よそ17時手前って所だろうか?


さっさと行かないと、約束の時間に遅れてしまう。



グレンは急ぎ足でレンゲの工房へと向かう。


・・

・・

・・


以前来たときと変わらない白で統一された工房、純白とは言えず少し汚れている。


そもそも白ってのは汚れが目立つからな、この色を使う場合はこまめに洗浄しないと駄目だ。


まあ、レンゲさんがそれをするとは思えないけど。


それにこの汚れが良い味をだしている・・・と言うことにしておこう。



何時までも工房を眺めていると不審者と間違われるので、グレンは扉の前に立ちノックをする。


予想通り返事は・・・ないと思った瞬間に扉が開き、中から相変わらず汚い格好の人物が現れた。


「遅いよグレン、待ってたんだからね」


予想を外れてレンゲさんは扉を開けると、笑顔で俺を迎えてくれた。


「約束の時間は確か17時だと思ったンすけど?」


遅れてないはずだ、遅刻しないように速足でここまで来たんだからよ。


だがレンゲはグレンの正論をニヤケた顔で否定する。


「男の子は約束の時間より速く来ないと、君は配慮が足りないね」


いや、だから遅刻はしてないだろ・・・約束の時間に間に合っているじゃねえか。


理解できないといった表情のグレンを、レンゲは工房へ招き入れる。



工房内は相変わらずの汚れ具合であり、見事に煤がなんたらかんたら。


俺が住んでいた借家も綺麗ではなかったけど、下手なりの掃除はたまにしてたぞ。


「あんた・・・掃除しようとは思わないのか?」


グレンの問いにレンゲは苦笑いを浮かべながら。


「工房内を掃除したらさ、なんかそれと一緒に技術まで綺麗サッパリ掃除しちゃう気がするんだよね」


この人にとって、汚れも努力して来た証なのかも知れない。



グレンが工房内に足を踏み入れると、レンゲは一足先に机へ向かい椅子に座るように促す。


「さあさあどうぞ、遠慮しないで座ってよ・・・座るだけならタダだからね」


言われた通り素直に椅子へグレンは腰を下ろす。


俺が座ったのを確認すると、レンゲさんは少し大きい皮製の手持ちケースを持って現れる。


グレンはケースに視線を向けている、レンゲはそれに気付いたのか、手持ちケースについて説明する。


「この中に君の武具が入っている」


少し重そうに皮製のケースを机の上に乗っけると、レンゲは腰を叩きながら。


「使わない時はこの中に入れて置いてね」


グレンはレンゲの言葉を聞きながらも、視線は手持ちケースに向けられていた。



実物を速く見たいんだけど。


そんなグレンの思いを知ってか知らずか、ニヤニヤと笑いながらレンゲは口を開く。


「御開帳は宿題に答えてからだからね、ちゃんと考えてきた?」


出された宿題は2つ、オッサンの宝玉具に付いてと俺が宝玉を使えない理由。



工房内で唯一の椅子はグレンが座っているため、レンゲは煤塗れの床に腰を下ろす。


「それじゃあ、まずはギゼルさんが過去に設計した、グレン専用武具の試作型についてからね」


ギゼル専用玉具・・・試作型は戦闘をする為の物ではなく、変人を戦える状態にする為の玉具とレンゲさんは言っていた。


おっちゃんの過去、変人が赤の護衛だった頃の話、前にガンセキさんから聞いたことがある。


『片方の膝から下を魔族に斬り落とされながら、その手で勝利を掴み取った』


あの人は戦場で片足を失っていたらしい、だけど俺はガンセキさんに話を聞くまでそれを知らなかった。


俺が見る限りでは、変人の歩行に違和感を感じたこともない。


それらの情報からグレンが導き出した答え。


「試作型ってのは、失った片足のことですよね?」


宿題を出されたときに分かっていたことであり、レンゲさんも俺がこう答えると分かっていただろう。


グレンの予想通り、レンゲはとても詰まらなそうに。


「はいはい正解正解、すごいですね」


なんなんだこの人・・・ムカつくな。


だが疑問もある、人の手足をあれ程に再現できる技術が存在しているとは思えない。


剣や槍だって優れたものを造る場合は相応の技術が必要になる、だが人間の足なんて・・・構造が難しすぎるだろ。


それらの疑問をグレンはレンゲに伝える。


「人の手足なんて簡単に造れるんですか? 古代種族の技術だってのは予想できるけど」


生活玉具と同じで聖域から得た技術だってのは分かる、だけど人の手足なんて生活とは関係ねぇよな。


設計図でも発見されたのか・・・それとも光の一刻の時代で古代種族から人類へ授けていた技術なのか。


予想を立てて見たんだけど、立てた予想になんか納得がいかない。


そんなグレンの表情を見て、レンゲはなぜか嬉しそうに。


「君の予想通り古代種族に関係はしているね、だけど聖域で発見されたのは義足や義手じゃない」


聖域内は光の結界により安全なのか・・・喩え魔物は入って来れなくても、聖域には自己防衛機能が備わっていた。


古代人形 宝玉により動く侵入者を襲う人型の兵器。


魔力を補充された業態で封印されており、侵入者が決まったフロアに侵入すると動きだす。


正確な起動時間は確認されてないが数時間らしい、魔法は使用しないが武器を持って侵入者に攻撃をしてくる。


魔力を何らかの方法で溜める・・・その技術が使えれば、魔力を持たない人間でも宝玉具の使用が可能となるかも知れない。



古代人形は光の一刻では確認されておらず、聖域内にのみ存在が確認されている。


「固体は弱いけど数で押してくる群れの魔物みたいな連中らしいね、中には凄く強力なのも確認されているけど人型でなく大きいみたい」


古代人形の知能は低く、侵入者を見境なく攻撃するように設定されている。


レンゲさんの知識は師匠から聞いたものらしい。


「職人としての基礎技術を私に教えてくれた人はね、義体玉具の製造にも携わっている職人なんだ」


義体玉具 古代人形から得た技術を応用した物で、失った手足の代わりをする。


胴体部分は構造が複雑であり、それ以前に人間の臓器とは別構造なので応用できない。


ギゼルの場合は義足玉具となる。


脳からの指令で足を動かすのではなく、宝玉と魔法陣と古代人形から得た技術の応用により足を動かす。


だがまだ完全な物ではなく、人の手足に比べれば断然劣る。


「ギゼルさんの場合、斬り落とされたのが膝下だったのが不幸中の幸いだった」


最も構造が難しいのは膝の関節部分であり、ギゼルにはその間接部分が残っていた。


足首と指、この2ヶ所を義足玉具で再現することで、一応の機能をギゼルは取り戻せている。


「普通の義足玉具なら日常生活を何とか問題なく過ごすこともできるし、ある程度の戦いなら耐えられる」


義足玉具の調整くらいなら変人でも可能のようで、村に居るときは自分で調整しているらしい。



だけど・・・足に義足玉具をどうやって装着するんだ?


その疑問をグレンはレンゲに尋ねる。


「義足玉具を足に取り付ける道具があってね、その道具を造る専門の職人がいる」


足に義足玉具を装着するのは玉具ではなく、あくまでも道具らしい。


失った身体機能を再現するなんて簡単なことではないよな、やはりここでも古代種族の技術が役に立っている。


グレンは更なる疑問をレンゲに問う。


「義足玉具と俺の宝玉武具は別物だよな、なんで俺専用武具の試作品なんだ?」


俺の魔獣玉具はどちらかと言うとガントレットに近い、義手玉具でもガントレットとは別物だ、そもそも構造が違う。


レンゲはグレンの質問に嬉しそうな表情で答える。


「義足玉具は軽量化させる必要があってね、その所為で強度の方に少し問題があるんだ」


それでもある程度の戦いには、以前のようにとは言えないけど耐えられる・・・だけど変人の場合はそうは行かなかった。


変人の魔力量は標準以下、魔法も魔族相手には役不足だった。


ギゼルは道具を駆使しながら戦っていたが、その戦い方の中心はやはり体術であった。


体術を中心に道具を駆使しながら頭で考えて戦う。



軽量化し強度を犠牲にした義足玉具では、魔力を纏っていない状態ですら、ギゼルの体術には数分も耐えられなかった。だがらこそギゼルは少しでも戦えるよう、自分専用の義足玉具の設計を始めた。


ギゼル大橋の建築に力を入れながら、僅かな時間の合間を見て、己の体術に耐えられる義足玉具を造りだす方法をさがした。


軽量にして強度の高い金属を探したり、多少重くても強度を優先した義足玉具を設計したりもした。


様々な方法を試しては失敗する、そのなことを繰り返しながら辿り付いた方法は・・・2種類の宝玉を一つの玉具に使用する。


義足玉具の機動に必要な雷の宝石玉を義足玉具に埋め込み、金属の強度を底上げさせるために土の宝石玉を練り込んだ。


これは多くの職人が挑戦しては諦めてきた技術であり、成功した例は数える程しかない。


巨大な玉具ならこの技術を使うことが出来るが、個人で使うような玉具にこの技術を使うのは非常に難しいことであった。


だがギゼルとレンゲの師である職人は諦めなかった、二人の執念で遂に軽量でありながら強度の高い義足玉具を完成させる。



レンゲは寂しそうな顔をグレンに向けながら。


「それでも本来の力を取り戻すことは出来なかった、魔力を纏った状態で数分戦うだけでも故障しちゃうんだよね」


彼にとって最大の決め技である魔拳極歩 全身極化。


そんな負担のかかる人内魔法を、義足玉具が耐えられる筈もなかった。


3年の歳月を掛けて造り出した義足玉具では、魔族と戦えるだけの力を取り戻すことが出来なかった。


「私達は・・・勇者を護れなかった」


床に座りながら悲しそうな笑顔をグレンに向けるレンゲ。


グレンから言えることは一つしかなかった。


「あんたと変人の想いは俺が背負う・・・そのためにオッサンが設計したのが、グレン専用武具なんだろ?」


不器用なグレンの言葉に、レンゲは優しい笑顔を向けると。


「君が背負うのはギゼルさんの想いだけでいい」


そう言うと小さな声で。


「私の想いは杭に預けてあるから」


グレンは消えそうなレンゲの声に気付いていたが、そのことには触れなかった。


・・

・・


気持ちを切り替えると、レンゲはグレンに発言する。


「それじゃあ次は、何で君が火の玉具を使えないのか、その理由を私に教えて」


正直言うと理由までは分からなかった、だけど原因なら何となく分かる。


グレンは自信のなさそうな声で。


「俺が火の玉具を使えないのは魔力の所為だ、水の玉具を使えるってことは魔法陣に俺の魔力は反応している。以上のことから俺の魔力と火宝玉に原因が存在していると思う」


その答えを聞くとレンゲは頷きながら。


「前に純宝玉と偽宝玉を渡した時にさ、君は自分の魔力を注いだでしょ?」


レンゲの質問に対し、グレンは正直に返事をする。


「どちらが本物かまでは分からなかったけど、何となく別物だって分かった」


俺の言葉にレンゲさんは興味深そうにしながら。


「実を言うとギゼルさんの提案なんだよね、偽宝玉と純宝玉を持たせて違いを見極められるかどうか確かめろって」


あのオッサン、人を試すような真似をしやがって。


レンゲはそのまま話を続ける。


「君の言ったことが本当だとすると、純宝玉は魔法陣なしでも君の魔力により微かだけど、間違いなく反応したことになるね」


魔法陣なしで宝玉が反応するなんて、そんなことがあるのか?


「前例はないね、だけど可能性としてはないとは言えない」


魔力を送ることで宝玉は魔法陣により能力を発動させる。


常人では感じられない僅かな反応を、グレンは感じ取った。



言い換えれば火宝玉との共鳴?



そこまでの話をグレンにすると、レンゲは職人の表情でグレンに言葉を掛ける。


「君は火宝玉との相性が悪いんじゃない、相性が良過ぎる・・・有名な言葉でいうと共鳴率が高いんだ」


レンゲの発言にグレンは表情を驚愕に染めながら。


「ちょっとまて、共鳴率は神との相性で宝玉とは関係ないだろ」


俺の疑問にレンゲさんは首を振りながら。


「共鳴率は世間で一番有名な考え方だけどね、多くの職人は別論を使っている」


レンゲが共鳴率の説明に入る。




共鳴率と熟練は基本的には同じ効果であり、魔法の攻撃力や防御力などはこれによって変化する。


違いがあるとすれば。


共鳴率 全ての魔法に適用する、産まれながらの才能であり、年齢や修行により上げるのは不可能。


熟練  個々の魔法によって違う、岩の壁なら岩壁の熟練、岩の腕なら岩腕の熟練。使った回数や修練により上げることが可能。



岩の壁は一般的に二壁造りだすことで厚壁にして級を上げるが、岩の壁だけを徹底的に修練することにより、級を上げることができる。


並位中級魔法 岩の頑強壁・岩の壁と同じ魔力消費で厚壁と同等の防御力を誇る。


さらに頑強壁を二壁造りだすことができれば、並位突破魔法 岩の鉄壁と成る。


岩の鉄壁なら大地の巨腕すら防ぐことが可能と言われていた。


ただし・・・頑強壁を召喚するには、相応の熟練が必要とされている。



共鳴率は不完全な考え方であり、レンゲは共鳴率ではなく、この言葉を使っている。


「私は共鳴率じゃなくてね、魔力の質と呼んでいる」


質の高い魔力を神に捧げることで、神はその魔力と人の想像を利用して魔法を実現させる。


グレンはレンゲの言葉に質問で返す。


「詰まり魔力の質が高いと、濁宝玉や宝石玉は反応しないってことですよね・・・その理由は?」


その質問にレンゲは苦笑いを向ける。


「理由付けは色々と考えられるけど、恥ずかしながら確かなことは分からない、だけどこの考えに間違いはないよ。だって君の良く知っている人は、純宝玉すら反応しなかったらしいから」


嘘だろ、俺はそんなこと一度も聞いたことねえぞ。


「勇者の情報を狙っている人達がいるのは知っているよね、彼女が雷の宝玉武具を使えないってのは、オババを含めた数人しか知らない情報なんだ」


だがグレンは納得が行かない、続けてレンゲに質問する。


「あいつの片手剣は宝玉武具ですよね、それに天雷砲は雷宝玉がないと不可能な魔法じゃないですか」


そこまで言ってグレンは気付く。


あいつは勇者の儀式のとき、何の変哲もない木剣で天雷砲を撃っていた・・・俺は策士として失格だ、そんだけの情報があれば気付かなければ駄目だった。


「セレスは宝玉武具は使えなくても、宝玉武具の能力を必要としないってことですか?」


その言葉にレンゲは頷きながら返事をする。


「勇者様の片手剣はオババに頼まれて私が別の職人に依頼した。君は彼女の片手剣を確りと見たことないね」


純宝玉の練りこみに成功すると、金属の場合は特殊な変化を起こす。


火の純宝玉は鋼が薄い赤となる。

【赤鋼】


水の純宝玉は鋼が薄い青となる。

【青鋼】


土の純宝玉は鋼が薄い黄となる。

【黄鋼】


雷の純宝玉は鋼が薄い白となる。

【白鋼】


そこまでの説明を終えたレンゲがグレンに語る。


「ガンセキの杭は地の祭壇を造らないと黄色くならないから分かり憎いと思う、だけど彼女の片手剣は異常に強力な天雷雲に耐えられるよう、土の純宝玉を練りこんで金属その物を強化している」


そう言われたら、セレスの片手剣は気持ち黄色かった気がする。


グレンはレンゲの言葉を聞くと、ガンセキから渡されていた杭を手に持つ。



ガンセキの杭は特殊な造りをしており、高度な技術が込められている。


数多くの能力を備えながら、地の祭壇という強力な能力も秘められていた。その代わり使用方法が異常に難しくなっている。


レンゲはガンセキの杭を懐かしそうに眺めながら。


「その杭は無銘の職人が造った代物なんだけどね、持つ人物次第で歴史に名を残しても遜色ない名品だ・・・私にはそれ程の技術はない」


俺がこの杭を持っている理由をレンゲさんは聞いてこなかった。



グレンは魔力の質が高いからこそ、高位下級魔法で魔犬の魔力纏いを突き破れたし、セレスの素手から発射された天雷弾を数秒だとしても防ぐことが出来た。



ここまでの話を聞いたグレンが一つ質問をする。


「何故セレスは・・・宝玉具の力なしで天雷砲だけじゃなく、あらゆる能力を使えるンすか? 無理でなければ教えて下さい」


その質問を聞いたレンゲの表情は、より一層に職人の顔を深める。


「重い知識は時に危険を呼ぶ、そのことを知れば世間を・・・下手すれば世界中の多くの人々を敵に回す可能性もある。君にその覚悟はあるか?」


レンゲの言葉でグレンは理解した、その知識は危険な情報であると。


グレンの表情を見て、レンゲは笑顔を造ると明るい口調で語り掛ける。


「その知識を得るかどうか、それは君の武具を渡してからにしよう」


職人の言葉に冷や汗をかきながら、グレンは苦笑いを浮かべたまま口を開く。


「ヒントはないんですか?」


グレンの頼みに今度はレンゲが苦笑いを浮かべると、暫く考え込みながら。


「神様が人間に与える魔法ってさ、自然の属性と少し違うよね」


雷撃は距離で威力が変化したり岩の壁を破壊する、電撃が直撃すると一定時間だけ痺れさせることが可能。


白魔法で造り出した属性は・・・宝玉具のように能力を秘めている。


そこまで考えたグレンの顔が青ざめていく。


震える声でグレンは喉から声を絞り出す。


「まさか・・・俺達が神と思い込んでいる存在は」


次の言葉を述べようとした瞬間だった、レンゲが始めてグレンに叫ぶ。


「迂闊に述べるな!!」


その説を世間が知れば、人々は神を冒涜したと怒りを露にする可能性が高い。喩えこの場には二人しか居なくても、容易に言ってはならない程に危険な考え方である。


レンゲは溜息を一つ吐くと。


「だから君にヒントを与えるのは嫌だったんだ・・・この件は後で私から詳しく説明する。君がここに来た目的はグレン専用武具だ、まずはそれを渡してからにしよう」


グレンは容易すぎる己の行動に対し、素直にレンゲへ頭を下げる。


レンゲもグレンの行動を見て、怒鳴ったことを謝ると床から立ち上がり、机の上に置いてある皮製の手持ちケースに手を伸ばしながら。


「それじゃあ君も立って、今から試しに装着するから」


グレンはレンゲの言葉に従い、椅子から立ち上がると上着を脱ぐ。


・・

・・

・・


レンゲは手持ちケースに触れると、一度グレンを確りと見詰める。


「この武具には魔獣の邪念だけじゃない、一人の男が背負った使命が詰まっている」


職人の顔は次第に属性使いの表情となり、黄の護衛としてグレンに語る。


「ギゼルさんの想い・・・炎拳士の執念を君は背負う覚悟があるか」


それは始めて聞く言葉だった。


グレンの表情を見て、レンゲはニッコリと笑いながら。


「誰も知らないけど、共に戦った一部の同志だけが知っている・・・その身を焦がしながら、勇者を支え続けた人のこと」


ギゼルさんはそう呼ばれるの、凄く嫌がっていたけどね。


『あいつの為に戦ったことなんて一度もねえ。あの馬鹿が無事に帰ってくることを、一人でずっと待っているセリアの為に俺は戦っているだけだ』


これが旅の中で何時も言っていた彼の口癖だった、あの人は照れ屋だったから。




魔王の領域・・・あの場所がギゼルさんを変えた。




いつも照れながら顔を真っ赤に染めていたあの人が、戦場に足を踏み入れてから年月を重ねるたびに笑わなくなって、最後は笑顔どころか無表情になった。


彼は勝つために手段を選ばなくなり、誰もあの人を信用しなくなった。


最後には・・・勇者すらギゼルさんに憎しみを向けた。



私も彼が憎かった、残酷な策を平気な顔で実行するあの男が・・・憎かった。



でも私は見てしまった、同志の亡骸と魔者の死骸が大地を埋め尽くす夕焼けの戦場で、一人肩を落としながら立ち尽くしていたあの人を。


死臭漂うその中で雲に隠れた太陽に、必死の形相で手を伸ばしていた彼の姿を。


彼は天才だった・・・だけどそれ以上に人だった。


私達は彼の才能に頼り続けて、彼の心を追い詰めて。


彼を狂わせたのは・・・私達だったのに。


私達はこの戦争が終わる筈がない、心の片隅でそう諦めていた。


だけどギゼルさんだけは諦めていなかった、だから彼は戦うことを止めない。


私は彼を否定しながら、一緒に戦うと決めた。




戦って戦って、戦っても終らなくて、それでもギゼルさんは戦い続けた。




ギゼルさんが足を失ったとき、私は嬉しかった。


彼の戦いが終った、そう思ったから嬉しかった。


でもギゼルさんは諦めなかった、身体も心もボロボロなのに、それでも足掻き続けた。


ギゼル専用義足玉具の完成を目前に、私達の勇者は村の慰霊へと帰る。


勇者が死んでもギゼルさんは諦めようとしなかった。


私は彼を泣きながら説得した。


村に帰るよう、私たちの勇者が眠っている故郷に帰るよう説得した。



彼を支え続けた青の責任者。


憎みながらも彼を慕い続けた白の勇者。



生き残った私がギゼルさんを説得した。


本当はギゼルさん・・・戦場に残りたかったんだと思う。


勇者の死を、皆の死を無駄にしたくないから。


だけどもう見てられなかった、私はもう見たくなかった。


仲間が死ぬ所を、私は見たくなかった。


私の我侭で、ギゼルさんを故郷に帰した。



レンガまでの道中、ギゼルさんは死んでいた・・・生きているのに死んでいた。


この街に辿り付き、私は彼を村まで送ろうとしたけど、ギゼルさんに断られる。


ギゼルさんと分かれてから何度か手紙を送ったけど、返事の便りは一度もなかった。




ある少年との出逢いが、死んでいたギゼルさんを蘇らせた。




レンゲは真剣な眼差しで、一人の青年を視界に映す。


青年は何とかその瞳を見詰め返す。


嘗て黄の護衛だった職人が問う。


「君は炎拳士の誇りを背負う覚悟はあるか」


赤の護衛は苦笑いを浮かべながら。


「勇者を支えたことなんて一度もない、そんな俺は炎拳士とは言えねえ・・・だけど、オッサンの使命なら背負ってみせる」


レンゲはその言葉を聞くと思わず笑ってしまった。


「まったく本当になんと言うべきか・・・」


グレンは言われる前に返事をする。


「似てませんよ、俺とあの変人を一緒にしないで下さい」


笑いながらレンゲは皮製の手持ちケースに触れ、鍵を開けると躊躇なく開く。




「これが君の武具だ、銘を・・・」




私が言った我侭の所為で、彼の心はまだ、あの場所に居るんだ。


グレンとガンセキ、青髪の少女と白銀の勇者。



お願いだ・・・彼の戦争を・・・終わらせて。


彼の心を、故郷に帰してあげて。


ギゼルさんはまだ故郷に帰ってから、私達の勇者と責任者へ逢いに行ってない。




グレンの視界に映るその武具は赤かった。


左腕だけ重装備、俺も人のこと言えないけどよ、幾らなんでも見たまんま過ぎるだろ。


ケースの中に入っているから、どのような形かは良く分からない。


だけどその武具は美しいというより、執念の詰まった少し不気味な赤色の鋼だった。


銘をこう呼ぶ





逆手重装 赤鋼





6章:七話 おわり 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ