六話 逆手に宿るは闇か炎か
多くの人が行き交う木製の橋。その橋には柵もなく数m下を水が流れている。
先人が洪水に備え、水が溢れないように何かしらの工事をしたのかも知れない。
川はモクザイに流れていたときより幅が広くなっていて、渡り切るのに十数分を要する。
レンガを囲う壁の一部は川により途中で途切れている、そのため草原側にも橋が造られていた。
その橋は水だけを通し、魔物がレンガに進入しない造りになっているらしいのだが、それでも極稀に進入を許してしまうこともある。
だが水中を住処とする魔物は海沿いにはそれなりにいるが、陸地であるレンガ周辺には殆ど生息してない。
ここら辺にいるのはどちらかというと、川も泳げるが住処は陸地って感じの魔物だな。
魚が今も生き残っているのは、そのお陰なのだろうか?
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グレンは太陽の下、一人爺橋に座り込んでいた。
転落防止の柵がないといっても、爺橋の両端には膝くらいまでの柵らしき物が設置されているから、橋から足をぶら下げることはできない。
俺の隣に爺さんはいない、今日は釣りには来てないみたいだな。
ゼドから重要な情報を手に入れてから、既に2日が過ぎていた。
昨日は当初の予定通り軍本部へ向かい、当時の兵士について調べてもらった。
現在も存命している方はいるが、前回の刻亀討伐に参加した兵士の方々は既に亡くなられていた。
人の寿命は永遠ではなく、誰だって何時かは死ぬ・・・だから人は死ぬことを怖れる。
死ぬのは怖い、死にたくはない、生き続けたい。
自分の人生に意味を持たせたい、だから足掻き続ける。
あの爺さんは今も、懸命に足掻き続けている。
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果たして、彼の人生に意味は在るのか?
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2日前の爺橋は夕暮れに染まり、大通りを歩く多くの人々も同じように赤く染まっている。
老人は何時ものように爺橋の中央に腰を下ろし、青年はその背後から老人の背中を眺めていた。
この風変わりな老人の背中は、実際よりも大きく見えた。
前から思ってたんだけど、橋の真ん中で釣りなんかしてて兵士に怒られないのかな? 爺橋の置物かなんかと間違われてたりして。
グレンが失礼なことを考えていると、珍しく老人から語りかけてきた。
「お前さん・・・魔物は好きか?」
振り向きもせず老人は問い掛ける。違うのは生物だけで魚や家畜、最近ではペットだった。
だが今回の生物にグレンは返答できずにいた。
魔物に対する俺の感情を世間が知れば、多くの人は気味悪いと言うだろう。
グレンは嫌そうな笑顔を表情に造り、老人の問いかけに答える。
「魔物は人類の敵だ、憎むべき相手じゃないのか?」
だが老人はグレンの答えに不満を表す。
「そりゃー世間の考えじゃねーのか? おりゃーよ、お前さんの考えを聞きてーなー」
無理やり造りだしていた笑顔は消え、グレンは顔を顰めながら。
「俺は敵だと認識している、だけど奴の声を聞いてから・・・心の底から魔物を憎めなくなった。だけど俺は人間として魔物を殺し続ける」
グレンは魔物に対しての感情を偽りなく老人に話す。
しかし老人はグレンの正直な返事を否定した。
「お前さん・・・本当は昔から魔物を憎んだりしちゃいねえ、世間に合わせて自分の意見を隠していただけだ」
グレンは首を左右に振り、老人の言葉を否定で返す。
「俺が奴等にどのような感情を懐いても、魔物が闇の魔力をその身に宿している限り、奴等は人類の敵だ」
そう・・・敵なんだ、憎むべき存在であることに変わらない。魔物は本能で人間という一種を憎んでいるのだから。
グレンの言葉に偽りはない、魔物は憎み続けなければいけないと。
次に放つ青年の言葉には、彼が過去に犯した重罪が込められていた。
「喩え子供だとしても、見逃せばやがて成長し群れを率いて村を襲う」
モクザイは犬魔の群れに襲われ、力を持たない3名が帰らぬ人となり、魔法を使える2名が村を護る為に戦って死んだ。
軽傷者と重傷者を合わせれば、数十名の被害者をだした・・・一歩間違えれば一つの村が消滅していたかも知れない。
モクザイだけじゃない、黒い魔犬の群れかどうか分からないが、他にも犬魔の群れに襲われた村だって存在している。
己の犯した罪を知っているからこそ、グレンは老人の言葉を否定する。
「魔物を見逃すような屑は・・・」
感情が抑え付けられず、思わず罪人は叫んでしまう。
「・・・人殺しと何が違う!!」
その叫び声に橋を歩いていた民たちが二人に視線を向ける。
グレンは理不尽に叫んだことを老人に謝る。
「悪かった・・・だけど魔物が闇の魔力を宿している限り、俺は人間として奴等を憎み続ける」
老人はグレンの怒鳴り声を聞こうと微動だにせず、釣竿を握ったまま淡々とした口調で返事をする。
「お前さんは魔獣がなぜ、身体の一部を残すのか分かるか?」
魔獣は死ぬとき、稀に身体の一部を残すことがある。
自分を殺した相手が憎いからに決まっているだろ、奴等はそうやって人を苦しめ続けるんだ。
グレンはその感情をそのまま老人に返す。
「殺した相手を呪う為じゃないのか」
魔獣の声は人を惑わす、己を殺した者を呪い殺す為に。
グレンの答えを聞いた老人は流れる川を見詰めながら、穏やかな声で語り掛ける。
「魔物は確かに本能で人を憎んでらー だけどお前さん、なんで奴等の想いを信じようとしねーんだ?」
川を見詰めていた老人は釣竿を橋に置くと、ゆっくりと視線をグレンへ向ける。
始めてみた老人の顔はしわくちゃで、眉毛も伸び切って、頭髪は白く力ない。
だがその眼差しは生きてきた歴史を焼き付け、人生という生き様を宿していた。
老人は述べる、己の歩いて来た道を。
「どんなに本能で人類を憎もうと、殆どの魔物には心がある。魔獣が身体の一部を残したのは、相手を人間としてではなく、個人のことを心の底から憎めなかったからだ」
闇の魔力で本能を支配されようと、魔物は心で人を見る。
次の言葉で、グレンは老人の正体を知る。
「オラには分かる、お前さんは魔獣に取り付かれている・・・魔獣は憎しみだけでは相手を呪ったりせん。お前さんに取り付いている魔獣の声は偽りだけだったのか?」
グレンは俯き黙り込む。
老人は職人としての人生をグレンに語る。
「犬がなぜお前さんに身体の一部を残したのか」
「呪いは使用者だけが背負うのか」
「憎しみを越えた先にこそ、魔獣具は極地へと使用者を導く」
青年は視線を老人に向ける、その非力な弱者の眼は、悲しいほどに強く輝いていた。
老人の姿を見て、グレンは彼の人生を必死に否定する。
「目指した果てがそれかよ、他に・・・何もなかったのか」
その問いに老人は頷きながら言葉を返す。
「これがオラの60年だ」
グレンは座っている老人に歩み寄ると、その場に力なく両膝を落とし何かを願う。
「嘘だと言ってくれ、俺は・・・認めねえ」
彼にとって老人の言葉は、あまりにも残酷な者だった。
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60年前
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ある出来事を切欠とし、一人の青年は魔獣について調べるようになる。
魔獣について調べている内に魔物具の存在を知り、そこから魔獣具へと辿り付いた。
気付けば魔物具を造り続け、やがて青年の腕は周囲に認められる。
鉄工商会は青年に魔物具の盛んな都市へ行くように進めるが、青年はそれを断り続けた。
時は過ぎ青年は有名な魔物具職人へと成長した、遠方より彼を訪ねて魔物具を依頼される程の腕前であり、次第にその名は国中に知れ渡る。
始めて彼が魔獣具の依頼を受けたのは42歳、魔獣の素材から呪いを消してくれという依頼であった。
呪いを消すにはまず素材の元になった魔獣について調べる必要が在る。
魔物具職人は魔獣の住処が存在していた近くの村まで旅をし、その魔獣についての情報を集める。
充分な情報を集めたら、次は住処へと足を運び魔獣の好物や塒の土・石などを採取した。
するべきことを終えると己の工房へと戻り、まずは基礎となる魔法陣を造る。
その魔法陣は土・石を土台とし、魔獣の好物などを使用することで塒を魔法陣で再現する、それにより魔獣の憎しみや怒りを抑え付ける。
魔法陣に利用するのは魔獣の属性と同じ宝石玉、属性を持たない魔獣には純宝玉を使用する必要がある。
宝玉は魔獣具に練りこむ訳ではないので、鉄工商会から借りるだけで済む。
次に塒を再現した魔法陣に、魔獣の素材を置き・・・能力を発動させる。
魔獣の情報収集から魔法陣の素材集めで約一年、魔獣の素材から呪いを抑え付ける作業で一ヶ月。
呪いを抑え付けた魔獣の素材から武具を造りだすのに3週間。
彼の持つ魔獣具の呪いを消す技術とは、魔獣の塒を再現した魔法陣を製作することである。
見事な魔獣具を造り出した魔物具職人は、この時より魔獣具職人と呼ばれる。
魔獣具の製造に成功した職人は世界でも少ない、国中の各地から彼への依頼が届くようになる。
魔獣が素材を残すことは滅多になく、彼に依頼されるのは完成品の鑑定である。
既に完成している魔獣具では呪いを消すことは出来ないが、呪いの発症条件を探ることは可能だった。
魔物具職人でも魔獣具の鑑定は可能だが、彼はより深く魔獣具の呪いを探ることができる。
魔獣には心が在る、これを認めない魔物具職人は、魔獣具の鑑定は絶対に出来ない。
次に重要なのは魔獣具に呪われた過去の、または現在の使用者について調べることだった。
魔獣に呪われた人間たちの共通点を調べることで、呪いの発症条件を予測する。
魔獣の元になった魔物の性格なども重要な情報であり、気の短さや人間への憎しみの強さ、行動範囲や縄張り意識、昼と夜の違いなど。
これら全ての情報から呪いの発症条件を導きだす。
魔獣具に宿る魔獣の心を感じるという高等技術も存在しているが、失敗すれば職人自身が呪われてしまう可能性がある。
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彼は多くの魔獣具に触れ、多くの魔物具を造り続けた。
自らの手で造り出した魔獣具はこれまでの人生で四振り、どれも能力を残しながら呪いだけを消すことに成功している。
気が付いたら彼は、老人と呼ばれる歳になっていた。
六十を過ぎた頃から魔獣具の名工と呼ばれ、既に彼と並ぶ魔獣具職人は存在していなかった。
だが老人は気付き始めていた、魔獣に呪われる条件がなんなのか。
魔獣に呪われる者は全て・・・魔物のことを心の底から憎めない人間であると。
そして魔獣を含めた殆どの魔物は、どれほど本能で人間を憎もうと、その心まで本能に支配されてないことに。
魔獣は人間を呪い殺す為に身体の一部を残すのではない、魔獣は心の底から憎み切れない人間に身体の一部を残すのだと。
魔獣具が選ぶ人間もまた、魔物を憎み切れない愚か者だけであった。
老人は魔獣具職人としての極地へと辿り付いた。
呪いを抑え付ける技術は、魔獣の心を抑え付ける行為に等しい。
呪いの発症条件を探る行為は、魔獣の心を踏みにじる行為に等しい。
魔獣具はどれほどの苦痛を与えても、絶対に使用者を殺しはしない。
なぜなら魔獣もまた、使用者と共に痛みを受けているからだ。
魔獣は本能に逆らってまで、人間である者の味方をしていた。
それは魔獣にとって苦痛であり、魔獣具で在り続ける限り、終わることのない地獄である。
憎しみを乗り越えた先にこそ、魔獣と使い手の間には絆が生まれ、魔獣具は真の力を発揮する。
それこそが老人の目指してきた人生の果て、究極の魔獣具であると。
呪いとは魔獣の憎しみ。
呪いとは魔獣の怒り。
呪いとは魔獣の叫び。
呪いとは魔獣の苦しみ。
呪いとは魔獣の痛み。
呪いとは魔獣の想い。
呪いこそが使用者と魔獣の絆であり、魔獣具が宿す力の源であると。
60年を費やした職人としての技術は、全て無駄であったと老人は悟った。
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グレンはそんな老人の人生を認めることが出来なかった。
目指す果てに存在していたのが、そんな虚しい結論だなんて。
老人は若き青年を見詰めながら。
「オラは自分の人生を否定しねえ、お前さんが認めなくてもオラの60年には意味があった」
魔獣具職人として磨き続けてきた技術が全て無駄であったと知りながら、老人はその人生が無駄ではなかったと言う。
老人は目線の先に蹲っている青年に言葉を掛ける。
「この60年があったから、オラは魔獣具を使おうとしているお前さんに言えることがある。どれほど過酷な呪いがお前さんを苦しめようと、呪いごと全てを受け入れろ」
苦しみを魔獣と共に乗り越えた者だけに、魔獣具は本当の力を発揮させる。
老人は職人としてグレンに教えられることを全て伝える。
喩え呪いは命を奪わなくとも、使用者の心を壊すことがある。
呪いにより壊れた者は、周りの人間にも牙を向けることもある。
呪いの恐怖を一通りグレンに伝えると、最後に老人は語る。
「だが犬も、お前さんと同等の苦痛を背負っている・・・これだけは忘れるな」
この程度のことかも知れない、だけど職人として生きた年月が在るからこそ、導き出した結論がこれだった。
グレンは俯きながら老人に尋ねる。
「良いのかよ、職人にとって技術や知識は命よりも大切なんだろ?」
それが無駄な技術や知識だったとしても、他人に教えられる物ではない。
だが老人は首を振るいながら。
「オラには魔獣具の使用者に言える事がこれしかねぇー」
老人は何時もの口調で笑いながらそう言った。
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俺は魔獣具の使用者としてではなく、この爺さんに勇者一行として聞かなくてはいけないことがある。
グレンは立ち上がると、老人に向けて頭を下げながら。
「俺は刻亀の情報を集めている、あんたの持つ知識を簡単には教えて貰えないと思うけど・・・教えて欲しい」
老人は頭を下げている青年を見上げながら。
「お前さん、勇者一行か?」
グレンはその言葉に頷きで返す。
「情報収集を俺が任されている、資料や人から情報を集めたけど上手く行ってない」
刻亀と戦う場合、魔獣王が存在する場所に向かうのが難しく、討伐を決行する場合は大勢の人間に力を借りる必要がある。その所為で刻亀の情報は非常に少ない。
グレンが任されているのは全体の策ではなく、刻亀と4人で戦う為の策だった。
その場合、必要な情報は刻亀の攻撃手段。
どのような魔法を使ってくるのか、どのような物理攻撃を仕掛けてくるのか。
姿形は当然として移動する速さ、さらに細かく言えば知能や気の短さ。
それらが分かれば、予め攻撃の対処方法を考えておける。
以上のことをグレンは老人に伝えた。
老人は視線をグレンから外し、身体を川の方に向けると腕を組み、そのまま一言も喋らなくなる。
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時間は目前に流れる川のように過ぎていく、気付けばこの橋を通る人の数も物凄く増えていた。
誰かと誰かが会話をしている声、足早に家路を急ぐ靴音、小さな子供の幸せそうな泣き声。
まるで老人と青年の存在しているこの場所だけが、世界から取り残された空間のようだった。
爺さんは何も言わず流れていく川を見詰めていた、釣竿を握ることもなく、その姿はまるで・・・・昔を想いだしているかのように思えた。
時々うつらうつら眠そうにしていたり、死んでいるのかと想ってしまうほど動きを無くしたり。
俺と爺さんが居るこの場所だけが、なんか時が止まってるみたいだな。
どれ程の時間が過ぎたのか分からないが、まだ周囲は夕焼けの赤色だった。
自分で思っているほど時間は過ぎてないのかも知れない。
どこか居辛いこの場所を、なぜか居心地良く感じてしまう俺が此処にいた。
気付いたら爺さんが川を眺めながら、片腕だけを俺の方に向けている。
その片腕には汚い布切れが握られていた。おっちゃんのそれとは違う・・・長い年月の中で本当に汚くなく劣化していった物だった。
老人は静かに語りだす。
「こりゃーオラの命だ、この中に詰まっているのが職人となった切欠でー」
グレンは老人から一枚のボロ布を受け取る。
その布には文字が書かれていた、決して汚い字ではないが所々滲んでいた。
グレンは暫くその布に目を通す、次第に青年の表情は布に書かれた文字を食い入るように記憶していく。
何でこの爺さんが、これ程の情報を持っているんだ。
思わず俺は爺さんに尋ねてしまう。
「あんた・・・何者だ、この情報を何処で手に入れた?」
グレンはそれを言ったことを後悔した。
年老いた彼の背中はより一層に小さくなり、まるで蹲るかのように顔を俯かせていた。
爺さんは消えて無くなりそうな声で。
「オラは60年前に仲間を失った・・・一人だけ生き残っちまった」
前回の討伐作戦だけではない。
今回の刻亀討伐作戦でも、討伐ギルド登録団体が俺達に力を貸してくれるんだ。
グレンは小さな老人を視界に映しながら。
あんたは居たんだな、60年前の作戦で壊滅した討伐ギルド登録団体の・・・どれか1つに。
そして見たんだ、当時の勇者一行と戦っている刻亀の姿を。
完璧な情報とは言えないだろう、だが紛れなく俺の求めていた情報だった。
老人は顔を俯かせたまま。
「オラは逃げた・・・あの雷使いはたった一人で戦っていたのに、オラは刻亀が恐ろしくてその場から逃げ出した」
仲間達が全て死に、最後の足掻きとして刻亀に一撃を喰らわせようと高原に向かった。だけど怖くて何もしないで逃げ去った。
そこからどうやって麓の本陣まで逃げ延びたのか、それは全く覚えてないらしい。
本当はもっと色々とあった筈だ、仲間が死に絶えるまでこの爺さんは戦い続けたんだから。
中継地点も殆ど壊滅し、行く当てもなく・・・死を覚悟して刻亀に挑んだ。
たしか当時の勇者は水使いだった筈だ、一人で戦っていた雷使い、この爺さんは彼を見捨てて逃げ出したことを今も悔やみ続けている。
俺の予想だけど、魔獣について調べ始めた理由がそれだろう。
グレンから老人に言えることは一つしかない。
「あんたが犯した罪を許せるのは爺さんだけだ・・・だけどあんたが恥を犯してまで俺に与えてくれた情報は」
俺の人生って、誰かに頭を下げてばかりだな。
「必ず!! 必ず・・・活かしてみせます」
グレンは老人の小さい背中に向けて、精一杯の感謝を送る。
俺は頭を上げると、何も言わず老人から離れていく。
爺さんから離れていく俺の背後で、嗄れたジジイの汚い声が響き渡る。
「お前さん・・・人は好きか!!!」
グレンは格好つけて、振り向きもせずに片腕を上げると、そのまま左右に振って己の意志を老人に伝える。
好きだよ、憎たらしいほどに大好きだよ・・・このクソ爺が。
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こうして俺は、また望まない絆を創ってしまった。
老人の居ない爺橋からグレンは歩き始める。
今から俺は、魔獣玉具を逆手に宿す・・・クロ、俺がお前の憎しみごと背負ってみせる。
お前を見逃した事により生じた罪を、お前が俺に何時か罰として与えてくれ。
俺は魔物を、魔族を殺し続ける。
友と共に苦痛を望もう
敵と共に地獄を進もう
戦友よ・・・俺と共に道を歩こう
6章:六話 おわり
遅くなりました、それと読んで頂きありがとうございました。
六話では魔獣玉具のうち魔獣具について書きました。
爺さんが果てで見つけた結論は、あくまでも爺さんの結論です。
他の魔獣・魔物具職人の果てには別の結論が存在しているかもしれません。
彼は始めの内は魔獣について調べてただけなのに、何時の間にか魔獣具に取り付かれていたのかも知れませんね。
次回も数日後になるかと思います、どうか宜しくです。