三話 炎対水
オババが叫ぶ。
「始め!!」
戦いが始まる。
俺は全身に魔力を纏い、基礎身体能力と魔法防御力を高める。
両手に火を灯す。
アクアの獲物は弓、流石に死人が出ては困るので、刃は付いていない。
「それじゃ、グレン君いくよ!!」
俺に向かって木矢が放たれる。
実体のある物理攻撃は炎の壁では防げない、剣などの得物を持たない俺には回避するしか選択はない。
アクアの放った木製の矢は氷を纏っており、回避後に矢が地面に当たると、その周囲1mが円状に凍りつく。
俺は回避後、直ぐに走り出しアクアの懐に入り、火(低位)の出力を上げて炎(並位)にする。
炎の拳でアクアに攻撃する、アクアは氷の壁を出現させ、俺の炎を防ぐ。
氷の壁が、炎に溶かされて水に変わる。
ヤバイ!!
グレンの足下には氷の壁から溶け出した水が、その水をアクアが操って再び凍りつかせる。
即座にグレンは飛び上がり、間合いを離す。
アクアは悔しそうに。
「あ~残念、もうちょっとでグレン君を動けなく出来たのに」
くそ、下手に近づけないな・・・足下が凍り付いて、動けなくなったらまずい。
少し工夫しよう・・・。
グレンは一度右手の炎を消し、右腰袋から油玉を取り出し右手に持つ。
油玉を投げる事もなく、そのままアクアに向かって走る。
「駄目だよ!! いくらやっても君の炎じゃ、僕の壁は壊れないよ!!」
アクアは氷の壁を造る、グレンは手を握り締めて壁に殴りかかる。
グレンが拳を握った時、手に持っていた油玉が破裂して、グレンの右手は油塗れになる。
これならどうだ!! 油で炎の火力を底上げする。
炎の油拳が氷の壁を焼き尽くす、壁が壊れた時・・・アクアは笑みを浮かべて、俺に向けて弓を構えていた。
・・・・
俺・・・馬鹿だ、壁壊す事しか考えてなかった。
グレンは横に倒れて、放たれた木の矢を避ける。
だが甘かった、水の上に倒れてしまった。
「あの・・・アクアさん・・・お願いがあるんだけど」
アクアは笑いながら
「グレン君、捕まえた」
捕縛の氷によって片腕と片足を捕らわれてしまった。
「捕まっちゃった」
アクアは俺に向けて弓を構える、彼女の使う矢には2種類ある。
1 全て氷で出来た・・・氷の矢。
2 矢筒から取り出した木製の矢に氷を纏わせた・・・氷の木矢。
アクアが今俺に向けているのは氷の矢だ。
「降参する?」
「するかボケ」
俺は氷に油玉を投げて、炎を灯す・・・。
「熱っ!!!!」
滅茶苦茶熱い、でも氷は融けた。
アクアは俺に向けて氷の矢を放つ、矢の選択ミスだ・・・全て氷って事は・・・炎の壁で防ぐ事ができる。
流石に氷の塊は無理だが、氷の矢くらいなら溶かす事が出来る。
俺は片腕で氷の矢を焼き払い、アクアに火の玉を投げつける。
もっとも、油をかけてない相手に火の玉だけを投げても効果は薄いが、一瞬の目潰しくらいの効果はある。
アクアが仰け反った瞬間を狙い炎の拳で攻撃する、だがアクアは自分の手に氷の盾を造って炎を防ぐ。
俺は盾に防がれたまま腕を思いっきり振りぬく、アクアは滑るようにそのまま後方に下がる。
間合いが離れた。
「グレン君、道具を使っちゃ駄目だよ!! もっと凄い魔法見せてよ!!!」
「うるさい!! これが俺の戦い方なの!!」
「それなら僕だってもう容赦しないからね!!!」
アクアは氷の矢を、天に向ける。
・・・いかん!! あいつ雨を使う気だ!!
グレンは炎を両手に灯し、雨を阻止する為に走り出す。
だがグレンは氷の矢に気を取られ過ぎていた。
アクアの足下から水が流れだし、その水はアクアを中心に地面に面して広がっていく。
この魔法は水の領域と言う・・・簡単に言うと、水使いの有利な場だ。
現に今、俺の足下周辺だけが凍り付いており、動けない状況だ。
アクアが神言を唱える。
「天よ雫を、地上を水で満たせ、魔力を食らう非情の雨を」
その直後、アクアは氷の矢を天に向けて放つ・・・矢は見えなくなり、少しして俺の肌に雫が落ち始める。
これは、高位魔法・・・魔力奪いの雨。
まいったな・・・魔力温存しないといけないのに。
アクアはグレンを見て、ニヤニヤと笑いながら。
「あと数十分でグレン君の魔力、空っぽになっちゃうよ・・どうする?」
グレンは火の玉を左腰袋から取り出し、火を着けて凍った自分の足下に落とす。
落とした火の玉の火力を上げて炎にする。
「氷が融けちゃう前に攻撃するからね」
アクアは矢筒から矢を取り出し、グレンに向けて弦を引く。
「降参する?」
「アクアさんの脅しなんて、怖くないです」
グレンは袖に隠し持っていた小油玉を手に落とし、アクアに投げる。
アクアは横宙返りで避ける。
「そんな遅い玉、ボクには当たらないよグレン君」
この小娘、俺を馬鹿にして・・・だが氷の壁を造り出す余裕は無いと見た。
魔力奪いの雨と水の領域、しかも俺の足下を凍らせているんだ。
「それじゃあ、打つよ!!」
アクアは矢を放つ、俺は炎の壁で矢を焼き払う。
しかし炎の壁では物理攻撃は防げない、だが矢を纏う氷だけは蒸発させる事ができる。
詰り、触れても俺は凍りつかない。
俺は仰け反りながら木の矢を掴む、その頃には俺の足下の氷は融けて動けるようになっていた。
グレンは走り出す。
アクア、お前は雨魔法を使うべきじゃなかったんだよ、確かに魔力を奪われるのは痛いが、その分お前は他に魔力をまわせない。
雨さえなければ俺の足下だけじゃなくて、広範囲の地面を凍りつかせる氷の領域だって、やろうと思えば出来た筈なのによ。
そもそも雨魔法は、仲間が居てこそ真の力を発揮出来るんだ、単独で使うもんじゃねぇ。
俺は走りながらアクアに向けて油玉を投げる、無論照準なんて定まってないんだ、当たる訳が無い。
「グレン君、何処に投げてるのかな?」
は、これがお前用に考えた俺の策だよ。
実を言うとアクアが水の領域を使うのを、ずっと待っていた。
雨の所為で俺自身もう魔力量に余裕がない、さっさと決めさせてもらう。
油玉を全て投げきった。
アクアはもう勝った気分だろう。
「もう玉なくなっちゃったね、グレン君そろそろ終わりにしよ」
「そうさな・・・もう終わりだ」
雨魔法で魔力を奪われている所為で、1度使うだけでも燃料切れになる・・・多分、これで駄目なら俺の負だ。
グレンは利き手である右手を天にかざす。
「何するの? グレン君??」
「お前さっき・・・もっと凄い魔法見せろって言ったよな?」
「え!! 本当に!! 見せてくれるの!!」
良く分からないが両手をあげてながら飛び跳ねて、凄く喜んでいる・・・何なんだこいつは?
「まあいいや・・・アクアさん用の、凄い魔法見せてやるよ」
「え!! ボク用の魔法?」
「うれしい!! 楽しみ!! 速く見せてよ!!」
駄目だ、こいつの反応が全く理解できない。
でも・・・やるしかないだろ。
グレンは神言を唱える。
「紅蓮の炎よ、叫びと共に、我が手に燃え上がれ!!」
右手が焼けるように熱い、気を抜くと剛炎が散らばる。
グレンの右手には物凄い炎が唸りを上げている。
アクアは護りも忘れて、何故か見惚れている。
「・・・・うわ~ すごいよ燃えてるよ・・・カッコイイ」
ここからが俺の策だ。
俺は油玉をアクアに向けて投げていた訳じゃない、アクアが避けた油玉は水の上に落ちて散らばる。
俺の目的は、水の領域を油塗れにする事だった。
油は水に浮く、それを利用して水の領域を俺の剛炎で乗っ取るのが目的だ。
炎属性の最大の武器は【燃え移る】・・・詰まり剛炎を油に燃え移させる、それが俺の策だ。
グレンは剛炎を足下の油に着火する。
瞬く間に剛炎は広がり、辺り一面が真っ赤に染まる。
この策に置いて、油の役目は剛炎を広げる事だ・・・剛炎だと油なんて、一瞬で消失しちまう。
一面に広がった剛炎が消えないように操る必要があった。
炎魔法で一番魔力を消費するのは、火~炎、炎~剛炎といったように、火力を上げる作業だ。
炎属性の位を上げると、燃え上がる炎も大きくなる。
創り出した炎をその場に留める、この事自体の魔力消費はそこまで多くない。
だが今回は範囲が広すぎる為、かなり消費がでかい。
アクアは剛炎を眺めながら。
「あ!! 気付いたら僕、炎に囲まれてるよ・・・どうしよう」
雨の所為で俺にも余裕がない、魔力の消費を少なくする為に、辺り一面に広がった剛炎の範囲を少し狭める。
「さあアクアさん、覚悟は良いか!!」
グレンは剛炎を手に、そのままアクアに向けて走り出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
「たんま無し!!」
地面の水は既に蒸発している、氷の壁も剛炎が邪魔をして造る事ができない。
アクアは氷の盾を腕に造る。
だが氷の盾に、剛炎の拳は防げない。
グレンはアクアに殴りかかる・・・寸で止めていた。
オババが叫ぶ
「そこまで!! 勝者、グレン!!」
グレンは指を鳴らし、辺り一面の剛炎を消すと、そのまま仰向けに倒れる・・・もう限界、燃料切れだ。
アクアは倒れたグレンの顔を覗き込み。
「グレン君に負けちゃった」
たいして悔しそうでもない・・・それが俺は悔しい。
何とか勝てたけど、もう動けない。
「アクアさんよ・・とりあえず雨止めてくれ・・・」
これ以上、雨降らされたら俺は気絶する。
「・・・ねえ、グレン君・・・もう一回だけ剛炎見せてよ・・・お願い!!」
「無理だ・・・燃料切れ・・・動けない・・・」
「そっか・・・それじゃ仕方ないね、また今度見せてよ」
セレスが近づいて来た・・・。
「グレンちゃん!! やったねカッコ良かったよ!!」
こいつ、俺と喧嘩してた事もう忘れてるな・・・馬鹿だ。
「ああ・・・勝ったのにアクアの方が元気だけどな」
アクアはメラメラ言いながら両手を上げて、さっきからグルグル回ってる。
「でもグ~ちゃん素敵だったよ、これで私の勇者様に一歩近づいたね」
セレス・・・それを言うなら王子様だろ・・・もうダルイ・・雨止まないし。
「あれ? グレンちゃん? どうしたの?」
グレンは気絶した・・・。
「こりゃ!! アクア雨魔法を止めんか!!」
「あ・・・忘れてた・・・」
ガンセキは1人冷静に。
「こんなんで魔王退治・・・大丈夫か・・・」
三話 おわり