五話 炎対店主
遅れて申し訳ありません。
内容に自信が持てず、書き直してみましたが・・・難しい。
始めての試みで上手く書けていないかもしれませんが、どうか宜しくです。
時刻・・・11時15分。
グレンは武具屋の入り口に立った2人に向かって口を開く。
「それじゃあ、1時間したら戻って来いよ、俺は迷わずに置いて行くからな」
アクアが不満の声を上げる。
「グレン君は保護者代わりなんだから、そんな事しちゃ駄目だよ」
俺は何時お前らの保護者に成った・・・そんな記憶は何処にも無いぞ。
「ガンさんにレンガを案内するように言われているじゃないか」
確かに言われている。
「分かりましたよ・・・待ってますよ」
セレスがグレンに語り掛ける。
「グレンちゃんは待っている間、何処にも行かないの?」
グレンは頷くと。
「特に買いたい物なんて俺には無いからな、この武具屋の方が周囲の店より興味が有る」
結構武具は見てて飽きない。
尤も買う積もりは微塵も無い・・・と言うか買う金も無いけど。
それに俺には専用の武具がある。
グレンはセレスに対し忠告をする。
「セレス、お前には前科が有るからな、時間に遅れたら一生根に持つぞ」
アクアが言うには俺は性根が腐っているらしい、その言葉通り俺はウジウジと文句を言い続けてやる。
「グレン君・・・何時から君はそんなに器が小さい男に成ったんだい」
この野郎、俺を茶化す余裕は出て来たというのか。
アクアの言葉を無視して二人に話し掛ける。
「さっさと行け、時間が無くなるぞ」
俺のありがたい御言葉に2人は素直に従い、武具屋から出て行った。
正直言うと俺には2人を仲直りさせる方法が思い付かない・・・ガンセキさんは放って置いても大丈夫と言っていた。
確かにガンセキさんの言う通り、喧嘩していると言うよりもギクシャクしているの方が合っていると思う。
セレスもアクアも仲直りしたいとは思っているんだろう・・・俺が2人の傍に居ると、逆にそれを邪魔しそうだ。
人と関わる事を避けて生きて来たから、人間関係を考えるのは苦手だよ。
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改めて武具屋の主人と2人きりになる。
武具屋には俺以外にも数人客は居るけど、どれも俺と同じ冷やかしだから数分すると居なくなる。
元々客が商品を買う事は少ない・・・その分、あまりにも安い武器は誰も買わない。命を預ける物だ、それをケチる人間なんてまず存在しないと思う。
まあ値切る人間は居るだろうけどな、それでも一日一振り売れたら良い方なんじゃないのか?
この世界の武具の数え方は振りだ、一振り二振り・・・鉄を打つ事からそう呼ばれている。
40万の武具を売る事が出来たとする、鉄工商会からの仕入れ額は? それを差し引いて、この武具屋の儲けはどれ程なんだろうか。
そもそも40万の武具の元値は幾らなのか、それ以前に武具の元になる鉱石の値段は?
時代の流れや場所によって、物の価格は常に変動する。
商売って仕事は難しい・・・複雑な仕事だ、俺が予想しているより恐らく数段難しい。
ただ魔物を倒せば金を貰える、楽な仕事じゃないけど分かり易い。
物を売るって仕事には興味がある、おっちゃんが道具屋を仕事に選んだのも何となく分かる。
グレンは改めて店内を見渡す。
この店は人通りが多い場所だけど、大きさ・品揃えは他店とそこまで変わらない。
俺が気に成るのは変り種の商品を一つ置いている事だな。
宝玉具にはガンセキさんの杭の様に変わっているのが在るけど、変り種ってのは宝玉を使わない物を言う。
宝玉を使わない武具より珍しいから少し値段は高い。
宝玉具職人が変り種を製作する事があり、それを鉄工商会から武具屋が仕入れる。
玉具職人が変り種を製作する事は少ないから、出回る事も滅多にない。
でもよ、この店の変り種は違うんだ。
俺は鎖短剣が気になって仕方ない・・・この店も含めて。
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10分程すると、店主は材料の準備が終ったようで俺に声を掛ける。
「お客さん、大体は終りました。材料がちゃんと有るか確認をして貰って良いですか?」
まあ、金を払った訳だし材料が不足していたら困るのは俺達だ・・・だけど矢の材料なんて、俺はそこまで詳しくないから分からないぞ。
俺が店主の立っている場所に近づくと、また俺の表情から予測したのか材料の説明に入る。
基本木製、鏃(先端)の金属、鳥か何かの矢羽は3枚、2枚羽の矢は原始的で主に儀式などに使われる、3枚羽にする事により矢を回転させて殺傷力を強める事が可能だ、4枚羽は軌道が安定するが回転しない為威力に難が有る。
鏃の先端は鋭く尖ってなく、少し丸みを帯びている。
ここからは専門的過ぎて、素人の俺では完全に理解出来なかった。
しかし流石、武具の売買で商売しているだけあって詳しいな。
俺の予想なんだけど、この店主は凄腕だと思う。
確かに俺は表情から感情が出やすい。
戦闘に置いて、特に一対一の戦いでは相手に集中し、相手の心理を読もうとするのは誰だって同じだ。
俺達4人の中で、敵の心理を一番上手く読み取れるのはガンセキさんだ、なんと言っても経験の差だと思う、潜り抜けた死地の回数が俺達とは違うんだ。
次はアクアだな、こいつの場合は直感的に読み取るのが上手い。経験じゃなくて性格からだと思う、人を良く見て観察しながら直感的に読み取るんだ。
実を言うと俺は敵の心理を読む能力はそこまで高くない、理由は分かっている・・・基本魔物が相手で人と戦った経験が少ない、俺の場合は敵の内面から予測すると言うより、少し戦ってから魔物の特徴を掴んで外面から行動を予測している。人間の場合は属性と武器から判断するけど、ガンセキさんの杭は神言カットまでしか分からなかったから失敗だ・・・セレスの共鳴率を上回るなんて絶対にない、そう言う考えが敗因だな。
まあ、一番下手くそなのがセレスだ、あいつの場合は頭が雑念ではなく残念すぎて何とやら。直感で少しは相手の心理を読めるかも知れない。
グレンは目の前で人当たりの良さそうな笑顔を見せている人物を観察する。
年齢は・・・50前後だろうか?
何処か疲れた間が滲み出ている、見た所戦いによる傷跡は見られない、一見だけだと何処にでも居そうな男だ。
確かに俺は感情が顔に出易いが、それでも表情から心理を読み取る何て簡単に出来る事じゃない。
この店主は俺達とは違う方法で・・・商売と言う戦場の中で、感情を読み取る能力を身に付けたんだ。
俺は策士の端くれとして、この人と勝負して見たくなった。
感情を読まれるのは不利だ、それでもこの店主にどれだけ俺の考える力が通用するのか試したい。
策士として、私欲の為に知識を使っては成らない。
相手と戦場は違うかも知れないけど、俺より遥か先を行く策士だ。
私欲も混ざっていだろうが、自分の力を知る事は今後の役に立つと思う。
それに・・・俺はこの人と関わる必要がある・・・そんな気がするんだ。
おっちゃんに教わった商売の情報だけだと少ないと思い、多少だが前よりはこの街や商売に関する情報は調べてある。
だけど相手と俺の持つ情報量は差が大き過ぎる、そこを考える力で押し切る。
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勝利条件・・・店主にこの店は【裏】武具屋だと認めさせる。
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あくまでも俺の予想だ、この店の何処かに強力な武具が隠されている。
違法武具屋と違い鉄工商会と上手く付き合いながら、裏で違法武具屋を営む者が存在している。噂の話で確証なんか何処にも無い、事実上この街で鉄工商会に知られない独自の仕入れルートを開拓するなんて不可能なんだ。
だけど俺にはこの店が裏武具屋だという変な自信がある。
グレンは黙って作業をしている店主を静かに視界に映していた。
この店主と始めて口を聞いた時、意味不明の違和感を感じた・・・相手の感情を探った訳じゃない、俺の本能が何かを鳴らしたんだ。
それでも俺は・・・挑んで見たい・・・。
まずは探りを入れ、反応を確かめる。
「失礼ですが、レンガの出身ですか?」
店主はゆっくりと俺の方を向く。
「・・・して、何故そのように思われますか?」
質問で返された。
深く考えると、この店主は自分の故郷は喋りたくないという意味になる。
詰まり、自分の情報を相手に教えたくない。
俺がこの店主に出身地を聞いた理由。
「珍しい武具が置いて在りました・・・詳しくは知りませんが、鉄工商会からあのような武具を仕入れる事は難しいと思いまして」
本気で探せば変り種を置いてある他店も見付かるだろうけど、この店に置いてある変り種は別物なんだ。
この店の鎖短剣は鉄工商会では仕入れ不可能な物・・・そう言う風に見て貰いたい。
あと今の言葉には、この店主に向けて独自のルートを持ってますか? と言う意味も入っている。
店主にに対し、俺がこの店は裏武具屋だと疑っていることを主張している。
この店が独自の仕入ルートを持っている確証が掴めれば、勝負は俺の勝ちだ。
店主は再び俺の言葉に対して質問で返す。
「珍しい武具が置いてある事と、私が他所から来た商売人だと言う事に関係は有るのですか?」
これは俺の勘だ、レンガ出身の者で鉄工商会を敵に回す人間は居ないと思う、この街で産まれ育った者は、幼少の頃より鉄工商会の恐ろしさを良く分かってるからな。
だけどこの国でレンガほど沢山の武具・防具が揃う場所は少ない・・・違法武具屋の大半は鉄工商会の力を知りながら、この街で商売をする為に他所からやって来た者が多い筈だ。
以上の内容を言葉に纏め、店主に放つ。
「鉄工商会がレンガの武具屋に売るのは決まった武具と防具だけです、他所から来た人なら独自の仕入先を持っているでしょうし・・・鎖短剣は鉄工商会からの仕入れは難しいと思います」
俺が勝負を挑んでいる事に気付いたのか、店主は視線を逸らし作業に戻る。俺にハンデをくれたようだ、顔に感情が出易い俺に対して、会話だけでの勝負に乗ってくれるみたいだな。
店主は作業をしながら。
「鎖短剣は始めはお客様の目を引く積もりで仕入れたのですが・・・恥ずかしながら思った以上にお客様の興味を引きませんでしたな。ただし、あの武具は鉄工商会から仕入れた品ですよ」
変り種は珍しいから人目を引く事が可能だと思うのは無理がないかも知れない。
珍しいだけでも興味を聞かれて買う客だっている、この世界には趣味で武具を集めている人間もいるんだ。
でも問題は其処じゃない・・・あの鎖短剣は鉄工商会から仕入れる事は不可能なんだ。
「鉄工商会が強力な宝玉武具や変り種を普通武具屋に売ってくれる事は、滅多に無いですが有ると思います。だけど見た所、【実戦】に耐えられるだけの変り種だと思うのですが」
この世界では武具に重点を置いた職人の数は少ない。だけど宝玉不使用武具で、実戦に使える武具は相応の数が造られている。
勘違いしている人が多いんだ・・・【実戦可能な変り種】と【実戦可能な宝玉不使用武器】は、全くの別物だ。
宝玉具の職人が練習や試作で造った変り種は鉄工商会に送られ、それを普通の武具屋が仕入れる。
宝玉具の職人が造った変り種は5万~15万、彼らには武具を造る技能は其処まで高くない。どちらかと言うと鑑賞品として扱われる。
変り種を専門に造る職人は物凄く数が少なく、値段も鎖短剣は45万だ。
鉄工商会は外にも傘下組織が在るが、基本拠点にしているのはレンガ内だけだ。
レンガには宝玉具の職人は沢山居るけど、武具だけに重点を置く職人は殆ど居ない。
詰まりレンガでは・・・【本物の武具】と【実戦可能な変り種】を鉄工商会から仕入れるのは不可能なんだ。
では鎖短剣は何処から仕入れたのか? だけどこれだけでは、店主が独自の仕入れルートを持っているとは言えない。
店主は落ち着いた口調で喋りだす。
「確かに私は他所から来た商売人です、しかしそれだけでは私か独自の仕入れルートを持っていると言う証拠には成りませんな」
店主に自分は余所者だと自白させる事は出来た・・・問題は独自のルートを持っていると、店主に自白させる事だ。
この人に対して甘い返しだと思うけど、言ってみるか。
「それでは鎖短剣は何処で仕入れたのですか?」
店主は作業を続けながら。
「此処では買えない品を、鉄工商会以外の何処から仕入れたのか・・・言わずとも貴方なら分かっているのでは?」
確かに、ギャンブルで仕入れるなんて出て行く金が多すぎる・・・だけど、あそこなら実戦可能な変り種も売っているだろう。
「この店に置いてある実戦可能な変り種は、鎖短剣だけと言う事ですね」
店主は静かに頷くと。
「単品だけ持っていても裏武具屋を営んでいる確証には成りません、単品を買うだけなら幾らでも方法はあります」
鎖短剣だけなら手に入れる方法は金さえあれば幾らでも在る、例えば違法武具屋から買った武具を、そのまま自分の店で売っているとか。
俺が証明する必要があるのは相応の品を幾つも手に入れる為の、商売として必要な独自の仕入れルートだ。
独自の仕入れルートを店主が持っている者として考えて見よう。
今まで店主が言った言葉・・・それらを情報として、勝利への道を抉じ開ける。
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この店の裏には鉄工商会とまでは行かないけど、それなりに巨大な組織が隠れていると予想が立つ。
でなければ鉄工商会に知られない仕入れルートは創れない。
その組織と繋がる場合・・・こんな小さい武具屋では、店主本人が努力しなければ道は開かない。
例えば自ら国内を歩き回り組織の関係者と接触するとか、だけど相応の見返りを要求される筈だ。その高難度の交渉を承諾させるだけの腕を、この人は持っている。
または・・・店主その者が、影の組織の一員で在るか。
俺の知る情報が少な過ぎるか、これだけの予想では確証が導き出せない。
言葉による戦闘の基本を思い出して、一度頭の中を整理しよう。
『どんなに内側を探ろうと、上手の相手の本性を見抜く事は不可能だ。相手の本性を探れない場合、対抗できる手段は一つしかねえ、常に相手の言葉を疑いながら一言一句忘れずに、全ての内容を頭の中に保存しろ。変な事や筋が通ってない事があったら疑問に思え・・・言葉の矛盾から、勝利への道を掴み取れ』
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詰まり店主は、先程の言葉から・・・自分で鎖短剣を買ったと認めている訳だ。
客の目を引く為に、鉄工商会から仕入れたけど当てが外れた。
鉄工商会から仕入れた、は嘘だった事に成る。
【客目を引く為に、自分で鎖短剣を買った】
単純に考えると、戦略失敗だけど・・・そんな失敗をこの店主がするか?
違法武具屋は偽者の変り種も売っている、その中から鎖短剣を選び出すのは一度だけではすまない。
もしこの店が裏武具屋を営んでいたら・・・鎖短剣を表にさらす理由がある筈だ。
詰まり、売り上げを向上させる為じゃなく・・・鎖短剣を店に置く他の理由。
何で店主は自分の店に独自に仕入れた鎖短剣を置くのか?
俺は考え過ぎる癖が在る・・・独自の仕入れルートに気を取られ過ぎていた。
もっと楽に考えたら、簡単な理由じゃねえか。
だけどこの方法で行くとすると・・・多分、店主は難度を通常より上げてくる。
でも、この方法でしか勝てそうに無い。
「もしかして鎖短剣は・・・この店の真実を知らない客が、それを知る為の鍵言ですか?」
俺は勝負の方針を変えた。
今までは、この店が独自のルートを持っていると証明する事により、裏武具屋で在ると店主に自白させようとしていた。
元の情報量が少ない俺にとって、始めから不利になる戦方だ・・・本当はこの方法で勝利を掴みたかった。
俺が有利に成る戦い方、それが店主と客と言う立場を利用する戦方。
結果、この店の本来から存在していた決まり。一般客(俺)が、新規の客として裏武具屋に入る為の方法で店主に勝負を挑む。
勝負中は俺から目を逸らしていた店主が、始めて俺の方を向く。
「それではこの店が裏武具店だとした場合・・・新規のお客様が必要な理由は?」
グレンは回答を答える。
「違法武具屋は大っぴらにしているから沢山の客が来ます。だけど此処みたいな店は、新規の客を受け入れる事が出来ない」
その答えに対し、店主はまたも質問で返す。
「貴方様のように鎖短剣に気付かれるお客様は殆ど居ません、そうなると喩え高額な武具を仕入れようと、商売として成り立ちませんが?」
武具は消耗品じゃない、この店(裏)で一度買えばその客は当分来ない、万が一にも腕の立つ者が買いでもしたら・・・【一生の友】と成り、その者は二度と訪れない。
裏違法武具屋で扱われている商品は、武具として最高峰に位置する一級品だ。
詰まり、店主は何を言いたいのか・・・裏武具店を商売として成立させる方法を答えろ。
違法武具屋は鉄工商会に丸見えの独自ルートで強力な武具を仕入れている。
だけどそれ等の独自ルートより、安全な仕入先がある。
そこから仕入れれば、搬送の費用が安く済む。
何よりも下手な・・・もしくは目立ち過ぎる独自ルートだと鉄工商会に潰される。
「俺の勘ですが、違法武具屋を経営している者の一部は、裏武具屋から強力な玉具を仕入れているんんじゃないですか?」
それが一種の固定客と成っている。
裏武具屋で売っている武具はどれも馬鹿みたいに高い、だけど違法武具屋の場合は本物の武具を手にさえ入れる事が出来れば良いんだ。
違法武具屋の商品の売値は全て均一・・・だから本物さえ手に入れば、それで違法武具屋の商売は成立するんだ。
違法武具屋の店主が・・・裏違法武具屋の固定客に成る。
それだけじゃない、金持ちの中には武具の収集家も居る、そんな奴がお得意様に成れば多分だけど商売にも成るんじゃないか?
だが店主はまだ折れない。
「違法武具店は法律で本物が置かれていると証明されていれば罪には問われません」
月数回、国の役人に違法武具屋は本物を一時貸し出す、役人は渡された本物を調べ、本物であると証明されたら再び店主の元に返される。
そして国に許可を貰った違法武具屋は、大手を振って商売が出来る訳だ。
店主はそのまま続ける。
「ですが違法武具屋が本物を客に買われる事は滅多に有りません、本物を周期的に買われない限りは裏違法武具屋の固定客とは言えませんぞ」
この答えに関しては一言で説明が付く。
グレンは顔をニヤケさせながら。
「鉄工商会・・・こう言えば、あんたなら分かると思いますが」
鉄工商会は国の息が掛かっている、などと言うレベルじゃないんだ。
店主はその事に関してはそれ以上何も言わず、最後の質問をする。
「貴方様の話ですと私の店、裏違法武具屋は違法武具屋と違い、本物しか扱わないと言う事に成りますな・・・して、その証拠は?」
強力な武具を隠して売っている訳だし、偽者の武具を置く必要が無い、それでも事足りると思うが店主が満足できる回答とは言えない。
俺が矢を買う時・・・疑っていた俺に、あんたが放った言葉。
グレンはその言葉を一言一句違えずに口から放つ。
「確かに私は商売人ですが・・・それ以前に武具屋です。直接では在りませんが、人の命に関わる商売をしている身として誇りを持っております。どのような相手のお客様に対しても、決して対応は変わりませんし、私は信用第一の商売を心掛けています、目先の欲に溺れろば必ず後に響きますので」
言っている事は確かに間違っちゃない、違法武具屋が相手だろうと商売の為なら相手を差別しないって意味だ。
違法武具屋は金儲け第一・・・間違っちゃいないさ、立派な考えだと思う、何事も金が有ってこそだ。
裏武具屋は信用第一・・・これも正論だと思う、こんな世界だからこそ必要だよ。
鉄工商会はどうなんだろうか? 構造が複雑すぎて俺には分からない。
このレンガが鉄の街なんて呼ばれているのは鉄工商会のお陰だ。
鉄の街には2つの巨大組織がある。
レンガ軍・・・国軍であり、レンガの私兵でも在る。
鉄工商会・・・レンガだけでなく、勇者の村を含めたレンガ周辺の政治も仕切る。
鉄工商会はレンガ軍本部と直結している。
軍本部の敷地内に鉄工商会が在るんじゃない、鉄工商会の敷地内にレンガ軍の本部が存在している。
鉄工商会は国の息が掛かった等と言うレベルではない、レンガの商売だけでなく政治すら取り仕切っている。
詰まりだ、鉄工商会の最上位に立つ者こそが、鎧国全体の政治を動かす重臣の1人なんだよ。
鉄工商会はレンガの歴史と共に成長し、レンガと共に発展した・・・レンガその物なんだ。
恐らく世界最古の商業組織、その歴史は古代種族が現れる以前から存在している。
法律を利用して、鉄工商会は違法武具屋から本物を調査する事が出来る、鉄工商会はどれが本物か分かっているんだ。
恐らく・・・国として調べた本物の武具を、一般人に成りすました鉄工商会の人間が、周期的に違法武具屋から買い占めているんだ。
違法武具屋は全ての武具が均一に売られているから、必然的に安い値段で鉄工商会は強力な武具を買い占める事が出来る。
違法武具屋の存在その物が、鉄工商会からしてみれば金儲けの一端だ。だから鉄工商会が違法武具屋から本物を買い占る時は、商売が破綻しないレベルで買い占めている。
鉄工商会が違法武具屋の独自ルートを潰す事がある。
鉄工商会に潰される下手なルートってのは、詳しくは分からないけど鉄工商会にとって、余り好ましくない仕入先らしい。
違法武具屋が鉄工商会から圧力を掛けられている理由。
レンガの武具屋には素直に鉄工商会から仕入れている傘下の武具屋も存在している。
その傘下の武具屋の利益を上げるには、違法武具屋が邪魔なんだ。
赤鋼・・・一つの組織が全てを仕切り、絶妙なバランスの中で保てれているんだ、巨大な都市になる訳だよ。
複雑すぎてレンガの構造が俺には完全に理解できないんだ。
その鉄工紹介に知られない独自の仕入れルートを開拓した・・・この男は何者だ。
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店主が話を纏める。
「勝負は私の負けですね、私の言葉の矛盾から店のルールを導きだした、貴方様の勝利です」
口だけでは勝てなかった。それによ、本質は決定的に俺の負けだ。
俺から仕掛けた筈の勝負が、いつの間にか店主に主導権を握られている。
この勝負は最初から結末まで店主に誘導されたような気がする、この人は多分自分の言葉に分かっていながら矛盾を入れたんだ。
「一応勝負事だったようなので、鍵言の難度を上げさせて貰いました。本来なら、鎖短剣の話題を出したお客様に限り、私の判断で隠し部屋を開放しております」
今回俺が隠し部屋を開放させる為の条件は。
1・表の一般武具に鎖短剣が混ざっていた理由を答えよ。
2・裏違法武具屋でどのように儲けるのかを説明せよ。
グレンは苦笑いを浮かべる。
「何か勝った気がしません」
店主は笑みを浮かべると。
「今回は私の戦場での勝負事です、貴方の戦場は別に有るのでは?」
とてもじゃないが敵う気がしない。
「ただ・・・やはり貴方の戦場でも、その表情から出る感情は何とかしないといけませんな」
それが出来てたら苦労はしない、口に感情を出すのを抑える為に出た副作用だからな。
「しかし、まだ癖は有りますが短い時間で勝利への道を導き出す能力は、大した者だと思います」
それが自分の武器だとか言っちゃってる身の程知らずだからよ・・・今になってちょっと恥ずかしい。
「貴方は深く一点に考え込むのは上手いですが・・・浅く広くの考えはもう一つです」
単独や群れまでなら良い・・・だけど広い視野を持つ戦争は未熟。
確かに、その通りだと思う。
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荷物の包装を終えた店主はグレンに本題を。
「それでどうします・・・望まれるなら、隠し部屋の方に案内致しますが」
忘れてた、勝負の事しか考えていなかった。
「見せては貰いたいけど、金は無いですよ」
店主が笑顔を向ける。
「喩え裏でも武具屋である事に変わりはありませんので、その点は見るだけでも構いません」
それなら是非見せて貰いたい。
「ただし互いに名前を・・・そこからは裏の客として扱わせて頂く」
突然店主の纏う空気が変貌した。
元から只者じゃないとは思っていた、予想は出来ていた本性を見せるだけだろ。
軽率な行動かも知れない・・・だけど俺は古代玉具と呼ばれる品に興味が在る。
そう簡単に拝める品じゃない、果たして自我を優先させて良い者か。
グレンの表情から読み取ったのか、裏店主は語り掛ける。
「その八、喩え己の策で勝利を掴もうと策士だけは常に冷静で在る事・・・お前の判断は間違ってはいない」
裏店主はそのまま続ける。
「此処での情報を、一切外に漏らさない事さえ誓えるのなら、此方からは一切の干渉はしない・・・これを嘘と取るか、真実と取るかはお前の勝手だ。それともう一つ、先程お前が自分で言った言葉だ」
信用第一の商売をしている、そこに嘘は無いだろう。
グレンは悩んだが、結論を出す。
「それでは・・・年下としての礼儀で俺から。グレンと言う者です」
そう言うと丁寧に頭を下げる。
店主はグレンの行動を感情の消えた瞳に移すと、静かに口を開く。
「私はゲイル・・・名乗ったからには情報を漏らした場合、相応の責任は取って貰うぞ」
誰にも迷惑を掛けない・・・まだ迷惑を掛けてはいない筈だけど、俺は触れては成らない者に関わってしまった可能性がある。
この男と関わりを持った事を、俺は何時か後悔する事に成るかも知れない。
だけどこの男と関わりを持たなかったら・・・それ以上の自責の念に囚われる、そんな気がして成らないんだ。
「この場所の存在を人に喋るかどうか、それはゲイルさんしだいです、少なくとも貴方が俺に危害を加えない限り、俺は黙っている積もりです」
弱気に出るな、隙を見せるな・・・俺はこの男に対してだけは、常に対等として語らなくては。
グレンの言葉を聴くと、ゲイルと名乗る男は薄く不気味に笑う。
「知れた事だ・・・付いて来い」
男は言葉を短く切ると、グレンを残し歩き出す。
グレンは感情を表に出し易い、だが・・・喩え感情を相手に知られようと、常に冷静な心を保つ事が出来る為、動揺が表情に滲み出す事はまず無い。
だがゲイルの後を歩くグレンの額には、冷たい汗が流れていた。
2人は武具屋の奥に消えて行った。
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ゲイルと名乗るこの男は・・・矢の材料の準備に1時間掛かると言った。
現在の時刻・・・11時40分
4章:五話 おわり
五話の内容は意味不明の方が多いと思います。ですが覚えなくても今後のストーリーには影響はありません。
自分は主人公を裏武具屋に入れたかっただけですので。
七話でどうしても書きたい部分があり、其処を描くには主人公を裏武具屋に入れる必要があり、このような内容になってしまいました。
本当に申し訳ありませんでした。