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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
4章 源は、誇りか呪縛か執念か
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四話 命を奪う道具

3人は宿から外へ出る為に、宿主が座っているカウンターの前を通る。


何時もの様に、軽く挨拶をして通り過ぎる予定だったが予想外の自体が起こる。


なんと今まで俺達に話し掛けてきた事の無い宿主が、何故か今日に限って話し掛けてきた。


昨日の件で文句言われるかも知れないと覚悟はしていたが、その言葉も予想外だった。


「・・・お気を付けて・・・」


今まで泊まった事の在る田舎の宿屋の主人なら別段変な事ではない・・・だが、この宿の主人は別だ。


レンガに滞在して一週間・・・始めて話し掛けられた。


体を拭く為に使う布を借りる時だって、何時も無言で渡されてたし声を聞いたのは一度きりだ。


確か濡れた布を始めて借りた時に金を払おうとして。


「・・・料金は要りません・・・」


だったかな。



思いもしなかった宿主の言葉に、俺たち3人は驚きながら返事をする。


だが、俺達の返事を聞いていたのかいないのか、宿主はそのまま顔を逸らしてカウンター上に置いてあった書類に目を戻す。


アクアはそれでも続けて話しかけようとしたが、俺はそれを止めて外に出る。


・・

・・


外に出るとアクアがグレンに文句を言う。


「何で止めるのさ、もう話し掛けられる事なんてないよ、最後のチャンスだったかも知れないじゃないか」


お前はそんなにあの宿主と話をしたかったのか?


「あのまま続けても気まずく成るだけだろ、第一に俺たちが返事したら顔を背けてたじゃないか」


「違うよ、きっと照れ屋なだけだよ」


どう見ても照れ屋って感じではないだろ、あの人。


懲りずに口論している2人にセレスが口を開く。


「でも・・・始めて宿主さんの声を聞いた・・・とても優しそうな声だった」


ギクシャクしている関係でも、アクアの肩を持つセレス。


此処で何時もの俺なら・・・お前は単純馬鹿な単細胞だからな、声が優しそうだと言う理由だけで人を信じて何時か絶対に騙されるぞ、とか言って喧嘩に成るんだ。


この言葉からトゲを消す、試しにやって見るか。


「一つ言っとくけどよ、優しそうだからとか表面の印象だけで信用するなよ・・・人間なんて内面で何考えているか分からないんだ、常に疑い疑問に思え、相手が言っている事の変な点を探せ、必ず悪巧みを考えている人間は、言葉の何処かに大小の矛盾がある」


トゲを無くすと言うより、おっちゃん見たいな事を言ってしまった。


セレスは目を見開きグレンを見ると、驚いた口調で言葉を返す。


「ふえ? う、うん・・・分かった」


凄い、アクアの言う通り喧嘩に成らなかった。


アクアは俺に近づくと、セレスに聞こえないように小さな声で。


「ボクも今度からグレン君の言葉の中から変な点を探し出して、詐欺に乗らないように気を付けるよ」


・・・ごめんなさい・・・。



どうやらアクアもセレスには話し掛ける事が出来ないようだ。


何時ものこいつなら・・・セレスちゃん、グレン君は何時も心の中で悪巧みしか考えてない駄目な人だから、騙されないように気を付けようね、とか言って俺の事を茶化す筈だ。


・・

・・


3人は平べったい石の敷き詰められた、街中の薄暗い道を歩く。


俺達の宿は人通りが少なく、商売には余り向いていない場所に存在している。


この道から裏道に入り抜けた先には、もう少し大きくて陽当たりの良い道が在る。



3人は無言で歩き続けている、グレンが少し前に出て歩き、アクアとセレスはグレンを間に挟んで歩いている。


何時もなら遠足気分で、手を繋ぎながらルンルン歩いている癖に。


ウザイから俺は歩く速度を速め、2人から抜け出そうとする。だが、俺の速度に合わせてアクアとセレスも早足に成り、俺は2人に依然挿まれたままだ。


こいつ等、今まで喧嘩した事が無いのか・・・多分始めて喧嘩したんだな。


・・

・・


暫く無言の時が続く。


その静寂を破ったのはアクアだった。


「ところでグレン君は何処に向かってるのかな、それと今日は何処に行くのさ」


正直言うと、武器屋と時計台くらいしか考えて居ない。


その事を言うとアクアは再度不満を浮かべる。


「折角さ、修行が休みなんだから戦闘関係の事は忘れたいよ」


武器屋には行きたくないらしい。


「じゃあ、矢は何時買うんだ?」


「明日修行場に行く時にでもガンさんに頼んで寄って貰うよ」


武器屋に行かないんじゃ何処に行けば良いんだ、俺にはそんな難しい事は分からないからな。


「そこまで言うんならお前らが決めろ、俺は貰った金の管理だけするから」


俺がそう言うと、アクアは困った顔をする。


「ボクにレンガの事が分かる訳ないじゃないか」


続いてセレスに尋ねる。


「お前は行きたい所とか在るか?」


セレスは心此処に在らず、と言った表情をグレンに向ける。


「・・・ふえ?」


さっきから静かだと思ったら、珍しく考え事かよ。


「え、ええとグレン君が何処か行きたい所ないかって・・・」


ギクシャクしながらも語り掛けるアクア。


「あ、う、うん・・・ええっとね、衣類店とか覘いてみたいな」


服だ? ふざけるな、頭がおかしいんじゃないか、旅の荷物が増えるだろ。


ええっと、トゲを無くして。


「旅の荷物が増えるだろ、却下だ」


そもそも今着ている服はまだ着れるだろ、古くなったら直せば良いんだ。最終的に雑巾や小物入れにすれば良い。


グレンたちの故郷は勇者関係で金に余裕があるため、古着を買うという概念は薄い。


アクアがそんなグレンの言葉に反論する。


「別に覘くぐらい良いじゃないか、買うなんて一言もセレスちゃんは言ってないよ」


結局の所、アクアはセレスの味方なんだ、何時も俺の意見に文句言いやがって。


「覘くだけで終らないだろ、人間は欲深い生き物だからな、見たら欲しくなるのが人の性だ」


意味のない出費をしない一番の方法は行かない事だ。


アクアはグレンを見て、最近の口癖を。


「グレン君はお金が好きだから手放したくないだけじゃないか」


その通りだ、俺は金が大好きだ。


「その大好きな金を、余計な事に使いたくないんだよ」


・・・何時もの口喧嘩に発展しそうだ、ガンセキさんが居ないから止める人が居ない。


「グレン君はお金の使い方が極端すぎるんだよ、お金は好きな事の為に使うべきだ」


馬鹿言うな、その考えが俺には理解できない。


「それは金がある奴の言い分だ、今日の食事代を引いて好きに使える金は1人2500だ」


そんな金で服が買えるのか? そもそも金は生きる為に使うべきだ。


2人に2500を使い、残りの金で矢を買う。


「だから買うなんて言ってないじゃないか」


だから行ったら買いたくなるだけだろ。


そもそもだ、服を買ったとして何時着る積もりなんだ。


「俺達は旅の道中、常に専用の服着てるんだぞ、服屋に行って何するんだ?」


俺は断言する、服屋に行っても意味が無い。


「都会の服を見てみたいだけだよ、女の子なんだから興味があって当然じゃないか」


ますます意味が分からない。


「此処に住んでる輩が何を着てるか? 街中を歩いている人間を見れば、何を着てるか何て分かるだろ」


何か話が噛み合わない、俺の考えが変なのか?


一向に終わりが見えない討論を黙って聞いていたセレスが止めに入る。


「グレンちゃんが行きたい所ないかって言うから答えただけだもん。別に行かなくても良いもん」


アクアは溜息を付き、諦めた表情をグレンに向ける。


「グレン君・・・女心だけじゃないんだね、人としての当然の感情も勉強して置いた方がいいよ」


俺の考え方って変なのか? 間違った事は言ってないと思うんだけど。


「確かに間違って無いけどさ、正論だけどさ・・・偏り過ぎなんだよ」


余計なお世話だ、性格だからしょうがないだろ。


まあ、アクアの感じからすると、俺の考えは少し変らしいからな・・・元々は好きな事をして貰うためにガンセキさんから渡された金だし、俺が持ってると2人は楽しめないか。



グレンは立ち止まると、懐から金袋を取り出す。


セレスは首を傾けると、グレンに語り掛ける。


「どうしたの、グレンちゃん?」


グレンは金袋から5000を取り出すと、それを分けてアクアとセレスに渡す。


「どうも俺には金の使い方ってのが分からない、お前らが考えて好きな物を買ってくれ」


アクアは少しだけニヤケると。


「何かグレン君らしくないね、物分りが良いって言うか・・・納得できてないのにさ」


どうもこの事に関しては考えても答えが出そうに無い、たぶんアクアの言い分も間違ってはないんだろ。


「グレンちゃん・・・ありがと」


なんか癪に障るな。


「先に言って置くが、2500以上は渡さないからな、なんに使うかはお前らで考えろよ」


アクアが笑顔を向ける。


「分かってるさ、ちゃんと考えて使うよ」


グレンは未だ何時もの元気が見えないセレスに向きを返し、話し掛ける。


「衣類屋に行きたいなら行くけど・・・どうする?」


セレスは首を横に振ることで、意思をグレンに伝える。


それじゃあ予定通り、まずは武具屋に行く事にする。


2人が自身の袋に金を入れたのを確認して、再び歩き始める。



一応セレスとアクアも本人持ちの金は村から持って来ている筈だし、2500を上回っても買う事なら出来るだろ、どれくらい持って来ているのかは知らないけど。


因みに俺は自分の武具の件で全て使い切った。まあ、決して無駄な金ではない。


だけど勇者の村は金に余裕があるからよ、他村の連中はどちらかと言えば、俺に近いんじゃねえのか。まあ詳しいことはわかんないけどな。



グレンはアクアに問う。


「矢は買うとして、弦や薬煉は買って置かなくて良いのか?」


弦・・・弓に張る糸、詳しい事は分からないが消耗品。


薬煉・・・弦を長持ちさせる為の物。


アクアはグレンに言葉を返す。


「とりあえずは今持っている分だけで良いかな」


そうか・・・正直弓に付いては俺も詳しくないからな、アクアに任せた方が良い。



因みにアクアの弓は宝玉具ではない。


矢に氷を纏わす事が出来る理由を説明する。


まず始めに炎と雷は手で掴む事は出来ない為、武具に纏わすには宝玉の力が必要だ。


尤も、予め剣に油を纏わせて置けば、一定時間だが宝玉の力を借りずとも炎を灯す事は出来るが、知っての通り鉄は熱すると軟らかくなる。


熱しても硬度をそのまま保つには、宝玉具の力が必要に成る。



対して岩と氷は手で掴んだり触れる事が出来る、だから魔法として物に纏わす事が可能。


現にアクアは氷だけで矢を造れるんだ、木の矢に纏わせる事だって出来る。


説明が下手かもしれないが、要は氷と土は形を自由に変える事が出来るけど、炎と雷はそれが出来ない。


・・

・・

・・


時刻は11時少し前、3人は武具屋の前に立つ。


このレンガには結構な数の武具・防具屋が存在しているが、値段や商品の質はどの店も飛び抜けて違いは無い。


以前にも言ったが、この国の旅商人は大小幾つかの組織に所属している。


旅商人の役目は各地の村に商品を売りに行く事と、組織と組織の間で売り買いをし、その荷物を互いに運搬する役割もある。


全ての組織には国の息が掛かっており、補助を受けながら現在の状態を維持している。


レンガには【鉄工商会】と呼ばれる巨大な組織が存在している。


だがこの鉄工商会・・・他の組織とは違う、国の息が掛かっていると言うレベルでは最早無い。


レンガの場合は次の流れで装備が送られる。




鉱石の仕入先⇒鉱石の旅商人⇒鉄工商会⇒大鉄所・鉄所・工房⇒鉄工商会⇒武具,防具屋・レンガ軍。


鉱石の仕入先⇒鉱石の旅商人⇒鉄工商会⇒大鉄所・鉄所・工房⇒鉄工商会⇒国直轄の輸送部隊。




国直轄の輸送部隊が国全体に兵の装備を送る。


国内では戦争はしていない、魔王の領域で戦っている同盟軍には、王都より直接輸送される。


レンガにも一般向けの装備を製造している鉄所は存在しており、それらの武具や防具は旅商人が各村に売り捌きに向かう。




かなり適当だけど、こんな感じの流れだ。


詰まり大,小鉄所や工房で造られた品は直接レンガの武具屋に行くのではなく、一度鉄工商会を通してから武具屋に売られる。


宝玉具を買うには武具屋に行くとガンセキさんが言っていたが、工房に直接依頼する場合は相応の金を持っている地位の人間か、誰かの紹介が必要に成るらしい。


俺はオッサンの紹介でレンゲさんに依頼できたけど、職人に直接依頼するって言うのは滅多に無い事らしい。


以上の事から、レンガに存在している武具屋は何処も似たり寄ったり。儲かるかどうかは店の場所・店主の腕・運、等々あるけど商品の仕入先は殆どの店が鉄工商会なんだ、だから商品の質は何処も大きな違いは無い。



当たり前の話だが・・・それじゃあ満足できない武具屋だって存在する。


そう言う商売人たちは鉄工商会を通さない独自の仕入れルートを開拓し、変り種やら簡単には手に入らない宝玉具を仕入れている。


売っている品はどれも均一な値段で売られている、粗末な商品が混ざっているが、強力な代物も間違いなく売っている。


中には大昔の古代玉具を扱っている店も在るくらいだ。


因みに・・・これ等の武具屋は鉄工商会に目を付けられ、圧力みたいなものも受けている。


以上の理由からボロボロの汚い店が多く、存在している場所も人が殆ど通らない。


だからと言って、儲かってない訳ではない。


旅人は知っているんだ、失敗したら後悔が強いけど・・・そこらでは買う事の出来ない強力な武具が確かに置いてあると。


欲望は人の性、それを上手く利用した面白い戦略だよ。もっと凄いのは公表している事だ。


『まがい物も混ざっていますが本物も混ざっています、買うか如何かは自己責任で』


自己責任・・・詰まりあれだ、一種のギャンブル。


5万の価値しかない武具もあれば、数百万ほどの価値がある武具も存在している。それらが頑張れば買うことのできる値段で均一に売られているんだ。



本当は違法では無く法律で認められているが、これらの武具屋は何故か違法武具屋と呼ばれている。




グレンは改めて目の前の武具屋を見詰める。


ここは比較的に人通りも多く、武具屋としては標準的な大きさだ。


店内は綺麗とは言えないが、汚いとも言えない小奇麗な武具屋である。


ただの鉄工商会の息が掛かった武具屋だ。




確かに俺は違法武具屋の商品に興味が在る。


無論俺には商品の質を見分ける能力なんて無い。


たとえ鑑定できる腕を持っていたとしても、専用の道具や知識をもった人を使用して、時間を掛けて鑑定する必要がある。一見だけで価値が分かることもあるが、見分けるのに時間がかかることもある。


武具の質を簡単に調べる方法がある・・・実際に何度か使えばいいんだ。まあ買った時点でもうアウトだけど。


古代玉具の価値を調べるなんてもっと大変だ。玉具の錆びから時代を割り出したり、書物から物証したり、もう専門家の領域になる。


古代玉具・・・大きく分けて2種類。



1、数千年前の人間が造りだした玉具


2、数千年前に存在したと伝えられる古代種族が、失われた技術で造りだした玉具



ここでもう一つ、宝箱と呼ばれる古代玉具の説明が必要だな。


宝箱に入っていない玉具も発見されているが、既に玉具として死んでいて、残念ながら修復が不可能な状態だが、歴史的な価値はある。


大昔の人間が造りだした玉具は、宝箱の中に入っている物しか使えないんだ。


宝箱に入っていたとしても、そのまま使うことはできないため、専門の職人に修復して貰わないと玉具として蘇らない。


例えば発見または発掘された宝箱の中に入っていたのが、切れ味を優先させた剣の宝玉武具だった場合、その大半が錆びていて使い物にならない。再び使うには剣研ぎ師に頼んで錆を研ぎ落とさないといけない。


錆を全て落としてしまうと歴史的な価値が下がる、そのため柄の下の鉄の錆はそのまま残しておく。


間違っても自分で研ごう何て思っては駄目だ、職人として剣を研ぐ人がいる・・・それだけ難しい作業なんだよ剣を研ぐってことは。


切れ味だけじゃなくて、美術的な価値も研ぎ師の腕にかかっているからな。



[物語とは関係ないですが、刀は柄の下にある鉄(茎)の錆質や刃文、地肌で鑑定するそうです。無銘の刀でもそこから銘を探ることもできます。茎に銘を切るのは後世の人間でも出来ることだから、銘が切ってあろうと信用してはいけない]



ただし、古代種族が造りだした武具は数千年の時を過ぎようと、そのまま使用できる。


武具屋で手に入れることができるのは、遺跡から発掘された人間が造りだした古代玉具だけだ。


宝箱とは、時の流れから生じる劣化をある程度防いでくれる古代玉具であり、風と水の宝玉が使われている事だけは分かっているが、それでどのように劣化を防いでいるのかは不明。つまり【宝箱】と言う玉具は、失われた古代の技術なんだ。


その宝箱の中に入っている人間が造りだした古代宝玉武具は、後世に残すだけの価値がある品ってことに成るな。



聖域で発見された玉具は入手不可能・・・まだ片手で数えられる程しか見つかってない、国宝級の代物だ。


古代種族が造り出した古代玉具の事を【究極玉具】と呼ぶ。



違法武具屋で商品を買う場合は賭けである。どのみち買わないと武具の鑑定を専門家に依頼する事も出来ない。


・・

・・


俺達は武具屋の中に足を踏み入れる。


店内に置いてあるのは、剣・槍・戦斧など誰でも知っているような武具だ。


所狭しに武具が並べられているが、おっちゃんの店と違うのは確りと整理されていて、通れないと言う事はない。


置いて在るのは宝玉武具が主、一角に宝玉の使われていない安い武具が商品として飾られている。



先に一つ・・・宝玉を使ってないと言っても、武具ってのはそれなりの値段がする。


武具屋に置いて在るのは討伐・冒険・護衛、旅人が買う武器だ。


そもそも宝玉を使わなくても凄い武器は本当に凄い、100万を軽く超える宝玉なしの武器だって存在している。


レンガにはそう言う武具自体に重点を置いた職人が居ないから、此処に置いてあるのは安いだけだ。


宝玉武具の職人が剣を造る技術は、本業の剣職人ほどではなく、彼らは剣に宝玉を練り込んだり埋め込む技術を極めようとしているんだ。


宝玉を埋め込む場合は既に完成している武具に埋め込むことが可能だが、宝玉を練り込む場合は武具を造っている最中に作業をしないといけない。


つまり、既に完成している武具に宝玉を練り込むことは出来ない。



宝玉なしの切れ味重視の剣を造るとする。


剣を造る職人は鍛冶師だけじゃないんだ、剣研ぎ師は勿論のこと、鞘・柄などの外側を造る職人達も居る。


一人だけでそれ等の技術を全て極めるなんて不可能なんだ。剣を研ぐ・・・一人前として認められるのに10年だったかな。


詳しくは分からないけど、俺の武具を造るのだってレンゲさん1人で造る訳じゃないと思う。


俺が直接会うのはレンゲさんだけだけど、俺の武具には顔も知らない職人が関わっている筈だ。


一つの武器を造り出す為に・・・数人の巧みが力を合わせ、一振りの命を奪う為の道具を創り出す。それだけの値段と価値が付いて当たり前だ。


これらの本格的な武器は、宝玉を埋め込もうと、それを絶対に受け入れないらしい。


きっと・・・宝玉に頼りたくないという職人の意志が鉄の中に打ち込まれているんだ。



もっとも俺たちのいる武具屋にはそんな代物は置いてないけど。


とまあ、武具に付いて熱く語っているけど、俺達の目的は矢だ。



グレンはアクアに語り掛ける。


「矢を使うのはアクアさんだからな・・・お前が選んだ方が良いだろ」


俺には矢に良い悪いが在るのか分からない、実際に弓を使っているアクアが選んだ方が良い。


アクアは暫し考えながら。


「材料だけ買ってさ、自分で矢を造ろうと思うんだけど・・・売ってるかな、材料だけなんて」


グレンはアクアに驚きの表情を向ける。


「お前・・・自分で造れるのか?」


アクアは不愉快な顔になる。


「ボク一応だけど弓士だよ・・・造れるよ」


マジかよ、確かに手先は器用そうだけど。


「今まで使ってた矢もアクアさんのお手製なのか?」


アクアは頷く。


「そうだよ・・・ボクの弓だって師匠に教わって自分で一から造ったんだ」


俺だって一応だけど、体術を教わった変人が居るんだ。アクアだって弓の扱い方を教わった人が居て当たり前か。


アクアがそのまま続ける。


「それにさ、やっぱり自分で造った矢の方が安心感って言うかさ、人の所為に出来ないから」


恐らくこの言葉は、アクアの弓の師匠の言葉だろうな。


「材料が在るかどうか、店主にでも聞いてみろ」


俺がそう言うと、アクアは首を縦に振り店主の下に歩き出す。


たぶん、アクアには水使いだけじゃない、弓士としての誇りも持っている。


俺には在るのだろうか・・・拳士としての誇りは。


そもそも俺は拳士か? 俺は素手だけで戦ってる訳じゃない、道具を使っているし、今後は玉具を使う予定だ。



少し考えて見るか、旅の仲間はどんな感じなのか。


アクアは水使いの弓士だから・・・水弓士。


ガンセキさんの武器は2つだな、ハンマーで杭を地面に打ち込むから・・・土刺士?


セレスは雷使いの片手剣だから・・・雷剣士かな。


でも、何故か知らないけど剣士と言う言葉をセレスに使いたくない。


確かにセレスは剣を使う技量は俺より上だ、でもセレスは剣士じゃない。


グレンは隣で店内を眺めているセレスに質問する。


「お前って剣は自己流か?」


セレスは何故か、元気の無い表情をより一層に暗くする。


「・・・どうせ自己流だもん」


何となく想像が付いた、恐れ多いとか言われて弟子入りを断られたんだろう。


セレスは殆どの村人から様付けで呼ばれてるんだった。


「変なこと聞いて悪かったな」


また失言してしまった、俺はどうしようもないな。


セレスは俺に笑顔を造り。


「それでもね、オババが基礎は教えてくれたの」


婆さんは敵に接近して戦う炎使いじゃない、長年の知恵で簡単な事だけは教えたんだろうな。



そうか、セレスには剣士としての誇りが無いのか。


違うな・・・誇りが無いというか、剣士としての誇りを教えてくれる人が居なかったんだ。


だけど雷使いとしての誇りは持っていると思う。


婆さんは炎使いだ・・・他に誰か、雷使いとしての誇りを教えた人がいる筈だけど、聞くに聞けないか。



以上の事を踏まえて。


俺は仕事と言う実戦の中で体術を磨いた、だけどセレスは自己流の修行だけで今の剣術を身に付けている。


雷使いとしては師匠と呼べる人が居たかも知れないけど、5歳で高位魔法を使えるなんて普通じゃねえ。


だからセレスは・・・突然変異で良いや。



改めて俺は何だ?


俺は拳士としての誇り何て知らないぞ?


今になって後悔する、婆さんの話を確りと聞いとけば良かった。


炎使いとしての誇りって何だっけ?


少なくとも、炎使いとして癖は多いよな。炎飛ばせなかったり、玉具使用不可だし。


以上の事を踏まえて俺は・・・難癖炎の素手使い。


・・

・・


アクアは店主と話し・・・交渉をしているようだ。


俺とセレスは店内を見て回る。


武器は本当に色んな種類があるんだな。


やはり値段の方に目が行ってしまう。


宝玉武具(濁)・・・5万~30万、この差は職人の腕だろう。


宝玉武具(宝石)・・・15万~80万、この店には純宝玉は売ってないようだな。


武具(宝玉なし)・・・5万~25万、魔力の無い旅人はこの中から選ぶ訳だから相応の武器も売っている。



セレスは興味深そうに黙って眺めていたが、急に俺の方を向くと語り掛けてくる。


「ねえねえグレンちゃん、これどうやって使うのかな?」


そう言うと一方を指差す。


そこには短剣が壁にかけられていた・・・でも只の短剣じゃない、柄(持つ所)の尻に鎖が付けられていた。


その鎖は長く数m、鎖の先には小さな鉄塊。


見たことが無い武具だな、少し考えて見るか。


まずは短剣からだ・・・地味な造り、余計な装飾は無い、恐らく実戦重視。


詰まりあの短剣は飾りじゃない。


鎖・・・恐らく振り回して離れた敵を狙うんだろう。


ただし、あれだけ長い鎖と成ると相応の重量になる、それを果たして振り回す事が可能なのか?


軽量化してあるのか? だが下手に軽量化すると強度の方に問題が出てくる。


だがあの鎖である程度の強度と軽量を重ね揃えているとしたら。



片手で短剣を持ち、片手に持った鎖を回転させる。


敵の剣に向けて鎖を直線に放ち、それが敵の剣に巻き付く。


敵の剣に巻き付ける際に、下から潜り込むように巻き付けないと簡単に鎖が外れてしまう。


だが上手く巻き付ける技術を持っていれば、敵の獲物を封じる事が出来る。



グレンはその武具の値札を見る。


45万か・・・振り回せるギリギリの重量と強度を持った鎖。


敵に鎖を直線に放つ、だが敵は鎖の攻撃を回避し俺の懐に飛び込んできた。


敵は剣で俺に斬り掛かる、その瞬間に鎖で受け止めて敵の剣を防ぐ。


短剣と鎖は繋がっているから、鎖を投げようと短剣を手放さない限り、鎖は俺の手元に残る。


敵の剣を鎖で受け止めた瞬間に、敵の剣に鎖を手動で巻きつけて相手の剣を封じる。


そこを狙い短剣で斬る・・・こんな戦方かな?



短剣はあくまでも防御ではなく、カウンターから繰り出す攻撃として使いたい。


敵だって近づけば短剣で防いでくると予想出来る筈だ、逆に其処を突き、敵の攻撃を鎖で防いだ一瞬の隙を狙い短剣で止めを刺す。


その事をセレスに話す。


「ふえ~ グレンちゃん、物知りだね」


いや、俺の予想なんだけど・・・典型的な変り種だな。


「だけどよ、これを実戦に使うには数年・・・下手すりゃ数十年の修行が必要だ」


武具は大きく分けて2種類。



剣や斧や槍・・・直ぐに使える。


この場合はあくまでも使えるだ、使いこなせる訳じゃない。


使い方さえ分かれば、実戦では無理でも使う事が出来る。



鎖短剣等の変り種・・・直ぐには使えない。


使い方が分かっても使えない。切れ味を重視した剣や、鎖短剣のことだ。


特殊な武器で使用に癖があり、修練しないと使えない。



一つ疑問が浮かび、セレスに話し掛ける。


「なあ・・・この店、少し変だぞ」


セレスは首を傾ける。


「ふえ? どうして?」


なんで普通の店に・・・こんな変り種を置いているんだ。


グレンは周囲を見渡す。


変り種はこの鎖短剣だけだ、遊びの積もりで鉄工商会から仕入れたのか?


そうだとしても変だ・・・この鎖短剣は値段からの判断しか出来ないけど、実戦で使用できるだけの代物と言う事は、腕の立つ職人が造っている代物だ。


グレンは鎖短剣に手を伸ばそうとする。


だがセレスがそれを止める。


「グ~ちゃん駄目だよ・・・ほら、勝手に触っちゃ駄目って書いてあるもん」


セレスが指した方向を見ると、張り紙が張ってあった。


『商品に触れる場合は店主に声を掛けて下さい』


はっ恥ずかしい、売り物に勝手に触らないなんて常識だよな。


「グレンちゃん、顔が真っ赤だよ・・・お熱あるの?」


心配そうな顔でセレスが俺を覗き込んでくる。


「余計な心配をするな。まあ・・・確かに、お前の言う通りだけど」



久しぶりにセレスが笑う。


「グレンちゃんに褒められちゃった」


なんか酌に触る。


「調子に乗るな」


それでもセレスは嬉しそうに笑っていた。


こいつの頭を叩きたい。


グレンはそのまま黙ってセレスの下から離れると、店主とアクアの下に向かう。


「グレンちゃん待ってよ~」


「ついてくるな」


「ぶ~ 良いもん、わたし1人で見るもん」


・・

・・


グレンはアクアの隣に立つ。


どうやら交渉は終っているようだ。


「どうだ、材料は売っていたか?」


嬉しそうに笑っていたアクアの代わりに、店主が話し掛けて来る。


「今時立派な妹さんですな、最近は自分で矢を造ろうなんてお客様は殆ど居ませんから」


・・・聞き流しておこう、アクアは矢の事に夢中で気付いていない。


「それで料金はどれ程払えば良いですか」


「この程度で良いでしょうか?」


そう言うと店主は用紙を俺に見せた。


「・・・本当に良いんですか?」


勇者の村より安い。


店主はニコニコ顔でグレンに話し掛ける。


「矢の素材はそこまで高くありません、製造費として上ましされていますので、材料だけならこんな所が妥当ですな」


そうなのか・・・粗悪品って可能性は無いのか?


この店は正直言うと少し怪しい、俺の疑いすぎかも知れないけど。


俺の表情から店主は感じ取ったのか。


「確かに私は商売人ですが・・・それ以前に武具屋です。直接では在りませんが、人の命に関わる商売をしている身として誇りを持っております。どのような相手のお客様に対しても、決して対応は変わりませんし、私は信用第一の商売を心掛けています、目先の欲に溺れろば必ず後に響きますので」


たかが矢・・・されど矢・・・。


「すみませんでした、何分性分のようで」


店主は首を振るう。


「その性分は旅をする上では必要なものです、私の考えとしましては、一層に磨きをかけるべきですな。ただし、貴方はどうも顔に出易い」


俺の表情に感情が出易いのには、理由があると想い少し前に考えてみた。


人付き合いの経験が俺には殆ど無い。下手すりゃ数週間を誰とも話さない時もあった。


セレスだって例外じゃない、あいつと共に狩りをしたのなんか7年間の内、両手で数えられるくらいだ。


誰とも喋ってないと無表情に成ると思われるかもしれないが、他の人はどうかは知らないけど俺の場合、独り言が多くなった。


考えている事を口に出して喋っちまうんだ。


流石にヤバイと思って独り言をしないように気を付けた・・・結果、口で感情をださないかわりに顔に感情が出るように成った。


・・

・・


俺は店主さんに金を支払う。


「確かに頂ました・・・それでは品を揃えて包むのに少しばかり時間が掛かります、一時間程したら再びお越し頂けますか?」


「分かりました」


アクアはまだ俺の隣で嬉しそうに笑っている。


グレンはセレスを呼ぶと、小走りで近づいて来た。


「グレンちゃん、もう用事はすんだの?」


2人に渡して貰うまで時間が掛かる事を伝える。


「と言う事で、お前らは少し外で見学でもして来い。確か近くに玩具屋とか装身具とか売ってる店が在ったから」


アクアは疑問を口にする。


「・・・グレン君は何で行かないのさ?」


セレスと2人きりなのが気まずいだけだろ。


「行っても良いけどよ、お前らが買うもんにケチつけるぞ」


そうなると買い物どころじゃないだろ。


「そうだけどさ・・・」


2人はウジウジしてて動こうとしない。


「さっさと行けよ、ここで買わなかったら、もうどこでも買えないと思えよ」


お前らが買おうとした物を方っぱしから否定してやる。


セレスが勇気を振り絞ってアクアに語り掛ける。


「ア、アクア、良かったら一緒に・・・」


似たような返事でアクアが言葉を返す。


「ぼ、ボクもセレスちゃんで良かったら」


何か言葉がおかしく成っている。


なんか思ったんだけど、19歳と15歳・・・喧嘩にしても幼稚だよな。


まあ、俺の所為で起こった喧嘩? だし、どうこう言えたものじゃねえけど。



俺から言わせれば・・・喧嘩ができる相手がいるだけで羨ましい話だ。





4章:四話 おわり







すみません趣味に走りました、作中に作者の言葉を入れてしまった。


どうしてもあそこに入れたくて、武具の事を書いていたら抑えきれなくなってしまいました。まあ趣味といっても、そこまで詳しくもないんですがね。


明日の内容はツッコミどころ満載です、久しぶりの戦闘になります・・・今までと一味どころか180度違う戦闘です。


無謀な事をしました。


0時ジャストに投稿できると思います。


それでは明日も宜しくです。

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