表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎拳士と突然変異  作者: 作者です
3章 炎は赤く燃えていた
25/209

五話 鉄を打つと鋼

レンガでの最初の朝が来る、年代物の部屋を照らす。


大好きな朝の光に目覚め、寝心地の良い暖かな場所からでるのは嫌だが、いつまでも包まってはいられない。


・・

・・


アクアとセレスは2人で洗濯に行き、ガンセキさんは朝飯を買いに外に出ている。


俺は油玉と火玉の製作が完全に終ってなかったから、現在残りを造っている。



ガンセキさんの買って来た朝飯は美味かった、主食は普通パンを食べ切らなくてはカビが沸くから今まで通りだが、副食が美味かった。


久しぶりにまともな野菜を食べた、体に良さそうな健康的な朝飯・・・少なくともオバハンの飯よりは体に良いだろう。


食後は自分の衣類を洗濯する、アクアは纏めて洗うと言ったが断った。


自分で出来る事は自分でしたいんだ、人の手を煩わせたくないから・・・ガンセキさんには何時ものように怒られたが、性格だから仕方ない。


3人が修行に向かい、俺は1人になる。


窓から光が差し込む場所に布を敷き、その上に火の玉を並べて天日干しをする。


本当は窓を開けて風を通したいのだが、今から出掛けるから諦める。


火の玉は多めに造っておいた、これは造ってもすぐには使えないからな。


・・

・・


すべきことを終え、グレンは外に出る。


宿主はカウンターにはいなかった、こんなんで良いのだろうか、この宿。


少し移動し、時計台が見える位置まで歩く。


時刻は朝の9時20分。


肩掛け鞄だけを持ち、腰袋は装着していない。


・・

・・


目的の場所に到着する、ここまでは昨日通った道だから覚えている。目の前に広がる大通りは夕方に比べれば人の数は少ない・・・充分込んでるけど。


グレンは振り返り、北門を眺める。


陽が昇って辺りが明るくなると、改めて巨大な門だと感心する。


とりあえず軍所の入り口に立っていた兵士に声を掛けた。


「闇の魔力を金に換えたいんだけど、ここで出来ますか?」


俺は当たり前だけど、初対面の年上には敬語を使うぞ・・・時と場合に寄るけど。


「このまま入って左側のいる受付にランプを渡して下さい」


以外だ・・・鎧なんて纏っているから、もっと偉そうな感じだと思っていた。


グレンは頭を下げる、すると相手は笑顔を返してくれた。


そのまま軍所の中に入る。



壁の中は広い空間だと思っていたが、右側に細く長い通路があり、通路の10メートル間隔に扉と窓が設置されていた。


外から見た壁の高さと、内から見た天井の高さを比べると2階も存在していると思う。



軍所内は幾つかの部屋に別れているみたいだ。


通路にも兵士が立っていて、恐らく関係者以外は通路の先に進む事はできないんだろう。



右側は広い空間になっていて、少し奥にカウンターが設置され受付が立っている。


俺以外にも旅人風の人間が数人、並べられていた椅子に座っている。


少し緊張するが受付の下まで歩く。


鞄からランプを取り出すと話しかける。


「金にしたいんですが」


受付は目を見開くとマジマジとランプと眺める。


「これ程の魔力を・・・随分と溜められましたね」


受付の人は少し驚いているようだ。


元々ランプには魔力が入っていたけど、犬魔を誘き寄せる為に使ったから一度しか戦闘はしてないんだけどな。


「今から測定しますので、席の方でお待ち下さい」


受付はそう言うと、番号の書かれた札を渡された。


7番・・・何に使うんだこれ?


良く分からないけど、如何しようもないので言われた通り、適当に席に座る。



旅人風、いや・・・旅人だろうな、彼等の話し声が聞こえる。


レンガの兵士が最近少ない、冒険者ギルド・討伐ギルド・護衛ギルド等々、良く分からない話をしている。


彼らは友人なのかどうかは分からないが、知人であることは間違いないようだ。


今度ガンセキさんにでもギルドに付いて聞いてみるかな・・・それじゃあ駄目か。


情報をガンセキさんにばかり頼っていては駄目だ、自分の力で調べるんだ。


・・

・・


数分後、受付が丁寧口調で言う。


「7番の方」


周囲を見渡す、俺が来る前からいた人達は残ってないから俺だろう。


グレンは立ち上がり、受付のもとまで歩く。


「こちらで宜しければ名前の記入をお願いします」


変な紙切れを渡される、其処には20万と書かれていた。


・・・ガンセキさんの予想よりも多くないか?


とりあえず名前を書く。


「では」


受付が金を出すと、20万が確かに有ると俺に確認させる。


金を入れる袋を用意する場合、その分の金を取られるらしい。しかし自分の金袋を持っているから断る。


俺が金を袋に詰めていると、受付が話しかけてくる。


「宜しければ、レンガには何日ほど滞在の予定でしょうか?」


「・・・まあ、明日明後日では発ちませんが」


何でも軍関係の仕事もここで扱っており、金が必要な時は軍の仕事を引き受けて貰いたいと頼まれてしまった。


「兵士の数か足りないんですか?」


「近いうちにレンガ軍の多くが遠征に出ることに成りまして、護衛ギルドに協力の依頼をしても人数に心配があるんですよ。夜間の間だけでも、レンガ周辺の警護をお願いしたいのですが」


ただの旅人にそんな情報を漏らして良いのか?


まあ、それだけ平和なのか。ここら辺は魔族に狙われる心配も無いだろうし、なんたって奴等は海の向こうだ。


流石に俺でも戦場の位置くらいは知っている。


しかし国とギルドってのは随分と共存してるんだな、都市が兵士の不足分を任せるなんて。


「考えておきます」


「どうか宜しくお願い致します」


丁寧に頭を下げられてしまった、気まずいので早足にて軍所を後にする。



外に出て、軍所・・・壁を見上げる。


そう言えば仕事を頼まれたのって、俺だけだったような気がする・・・気の所為だよな。


でも金は必要だ、覚えていても損は無いな。


・・

・・


気を取り直して、本日のメイン・・・いざ工房へ。


ガンセキさんの書いてくれた地図を取り出す。大通りを通る道順は勘弁して貰った、1人で突き進む勇気がない。


西側の道を行く、しばらくは今までと同じ風景が続いていた。


・・

・・


歩き続け、ふと空を見上げる。


時刻は11:00か・・・軍所から30分ほど歩いていたが、まだ付かない。


鉄を打つ音は段々と煩く鳴ってきた、本当に広いなレンガって場所は。


この街を歩いていると一つ分かった。レンガ内の交通手段だ。


玉具関係の乗り物じゃない、ペダルを漕ぐことで前に進むんだ。それに台車を取り付けて客が座る。


この街にも馬車はあるけど、漕ぎ車の方が良く視界に入るってことは、そんだけあの乗り物は庶民向けなんだろ。


だけどな、金を払うくらいなら自分で歩くよ・・・時間はある訳だし。


しかし本当に都会だよ。どれをとっても勇者の村とは別世界だ。


・・

20分後

・・


グレンは立ち止まり様子がおかしい。



気を抜くと頭を抱えて蹲りたくなる、この場所で商売なんて不可能だと良く分かった。


煩い!! 何だこれは、耳を塞いでないと変に成る。


グレンは顔を引き攣らせながら周囲を見渡す。


目の前を歩く輩は平然と歩いてやがる。


駄目だ、これ以上ここにいたくない!!


グレンは走り出す、周囲には巨大な建物が立ち並ぶ。


気持ちではなく絶対に熱い、少なくても5度は温度が高い筈だ。



煩くて走り抜けたいのに、グレンは何故か立ち止まると、建物の方へと近づいて行く。



鉄の音が心臓に響く・・・大鉄所には扉と言うものが無い、全てが一階建てだがその分面積が広い。


扉が無いと言うか壁もない。俺は屋外から勝手に見学しているが、此処から大鉄所内は全貌が伺える。



人が鉄を打ってるんじゃない、ありゃ玉具かなんかか?


沢山の見た事もない玉具が鉄を打ち鳴らす。人はビッシリと並んでおり決められた作業をしている。


細かい所は人間の腕が必要なようだ。


人々は作業台の上に乗っている鉄を、小さなハンマーで打ち形を作っている、鉄が熱いのか分厚い手袋をしている人もいる。


人や玉具が熱を放つ鉄を打つ。


パーツを造る人、パーツを磨く人、造られたパーツを組み立てる人。


一見武器や防具を造っているようには見えない、だけど間違いなくこの音は・・・駄目だ、もう行こう。


・・

・・


数十分かけて走り抜け、多少だが静かになった。


音が落ち着くと、今度は頭が少し痛いし耳鳴りがする。


だけどあの音は煩いはずなのに、引き寄せられる。


心臓が締め付けられて、何かが揺さぶられて・・・この感覚には覚えが有る。


俺の視界に移っただけでも8ヵ所は大鉄所が在ったな、俺が見学したのは防具を製作する所だった。


他にも一部のパーツだけを造る鉄所が存在しているらしい。


本当は嫌だが、帰りは武具を製作している大鉄所を見学してみるか。


・・

・・


オッサンはあの地図で俺をどのように工房通りまで導く積もりだったんだ、ガンセキさんに見せてなかったら日が暮れてたぞ。


グレンは目的の場所を見渡す。


鉄工街と工房通りはなんか違うな・・・鉄を打つ音も聞こえるけど、ここは心が静かになる。


大鉄所は群れの魔物と戦っている時の心境で、工房は単独と戦っている時の心境だ。


工房は大きくはない、赤い光がガラスの嵌められていない窓の隙間から漏れている。


俺はどうも・・・こっちの方が症に合いそうだ。


ガンセキさんの地図を見て、依頼してある工房の場所を確認する。


・・

・・


見た目は周りの工房と変わらない、煙突から煙はでていない。


全体的に白を基準にした建物だけど綺麗ではない。


扉は木製じゃないな、でも鉄でもない・・・ツルツルしている。


扉を軽く叩くが返事は返ってこない。


恐る恐る扉を開きながら言葉を発する。


「すみません、宝玉武具の依頼で来たんですが」


工房の中は全体的に黒く煤汚れている、色々と道具や工具は置いてあるが、詳しくないので何に使うのかは良く分からない。


おっちゃんの道具屋も汚かったけど、あれは荷物が溢れた汚さだった。


本人は宝の山だとかふざけたことを抜かしていたけど。



設計図を立て掛け、それを眺めている人物がいた。


その人の作業着も黒く薄汚れており、元がどんな衣類だったのか分からない。


声を掛けたが気付いてないようだ。


「すんません!」


少し強めに声を出す。


「・・・ん?」


こっちを向いた、おっちゃんの友人って聞いてたから同い年位かと思ってた。


35~40の間って所か?


ガンセキさんより小柄だな、土使いには見えない。


マジマジと見てるのも失礼だから軽く頭を下げる。


「ども」


「ああ、君がグレンか・・・ギゼルさんの想い人だね?」


その言い方は間違ってるだろ。


「ささ、入って・・・お茶もなにも出さないけどね」


椅子から立ち上がると、座るよう促される。


中に入り扉を閉めると、グレンは再び軽く頭を下げて職人に近づく。


「ご丁寧にどうも・・・良く俺のことが分かりましたね」


そう言うと職人は人当たりの良い笑顔をグレンに向ける。


「ギゼルさんから特徴は聞いてたからね、遅いと思ってたんだよ・・・ささ、座って座って」


職人と言う人種は、もっと無愛想な人だと思っていた。


椅子が汚いが、折角進められたので座る。


「始めましてで良いのかな?」


「はあ、会った記憶もないんで始めましてだと思いますが」


「それじゃあ遠慮なく・・・レンゲと言う名前です、仲良くしてね」


ペコリと頭を下げると汚い手袋のまま握手を求められた、世話に成るから断れない。


「おっちゃんから聞いてると思いますが、グレンです」


俺も自己紹介を済ませる。


「うんうん知ってるよ、捻くれ者のクソ餓鬼だよね」


あの奇人変人糞野郎、随分と好き勝手行ってくれてるじゃないか。


グレンは苦笑いを返す。



レンゲはそのままニコニコしながら。


「雑談もこの辺にしてさ、早速だけどギゼルさんから預かってる品が有るでしょ、ちょうだい」


本当に早速だな。


はやくはやく、と言った感じで手を俺に伸ばしてくる。


鞄から宝玉と設計図を取り出し、レンゲに向けた瞬間だった、物凄い勢いでそれを俺から奪う。


レンゲはまず始めに宝玉を手に取り、暫し眺める。


グレンをその場に残し、自分はそそくさと工房の奥へ向かうと宝玉を良く分からない装置に嵌める。


次に用途不明の筒状物体を覗き込む。


「こりゃ凄いね、本当に純宝玉だ。これ数百万するんだよ」


・・・マジか。


「ギゼルさん純宝玉を手に入れるとか書いてあったけど、本気だったんだね」


「見た目で分からないんですか? 先が見える程に澄んでるじゃないですか」


レンゲはグレンに笑顔を向けると、道具箱に向かいゴソゴソとあさりだす。


探していた物を見つけると、俺の方に近づいて来た。


「ほれ、見てみ・・・」


レンゲに2つの宝玉を渡される、どちらも澄んでいて先が見える。


「純宝玉ですね、見た目は」


「ギゼルさんの言ってた通り、変な所は鋭いね・・・可愛くない!」


怒られてしまった。


「君は分かるみたいだけどさ、普通の人が見ると分からないの。これは宝石玉を加工して造るんだよ、見た目だけ変えて中身はそのままだけどね」


人工濁宝玉を造り出す為の技術から産まれた困った技術らしい。


「こりゃギゼルさんの予想通りかもしれないね」


「どう言う意味ですか?」


「・・・秘密」


なんかウザイ、この人。


「それじゃあ、本題に入りますかね」


レンゲは設計図を広げると立て掛ける。


・・

・・


・・

・・


レンゲさんが設計図を見始めてから2時間、俺が話しかけても何も言わない。


時々ペンで設計図に文字や図式を加えている。


まいったな、どうすりゃ良いんだ。


「・・・を・・・腕全体に・・・そうか、内側からしか発動しないんだ、そうなると魔力の練り込みが出来ないと話しにならないね、この設計なら炎が隙間から噴出して熱をある程度調整してくれるかな」


ブツブツ言ってるよ、怪しい人だな・・・流石オッサンのダチ。


「ああ!! 字が汚い!! イライラするな~もうっ!!」


俺の方がイライラする。


ボーとしていたら、突然レンゲさんが俺の方を向く。


「君は魔力の練り込みを知ってる?」


「話だけなら・・・魔力を纏う、それの上級技術ですよね」


「そう、それ。出来る?」


「無理、練り込みは難しいですから」


正直いうと魔力まといができればあまり必要がない・・・練り込みを覚えるより、魔法の修練をした方が良いからな。


「そうか、訓練方法は分かる?」


「おっちゃんに教えてもらったことはあります」


「じゃあ、1週間後にまた来て」


1週間で武具が完成するのか?


「ムリムリ、それまでに練り込み覚えておいて、良いね約束だよ」


「無理がありますよ、コツとかないんですか?」


「私に分かる訳ないよ、だって練り込みなんて私できないし、実戦に使うのは難し過ぎるからね」


「うわ、あんた適当だな」


俺は怪我人で無理は禁止されてるけど、練り込みの修練は動きが少ないから大丈夫だろ・・・多分。


・・

・・


グレンは肩掛け鞄を見詰めていた。


迷いがある・・・オッサンが俺の考えていることを知れば怒るかも知れない。


それでも俺は奴の最後の言葉を、意識を忘れられないでいた。


頼むなら今しかない、断られる可能性も高い・・・それでも俺は頼みたい。


グレンは意を決し、レンゲに話しかける。


「レンゲさん、鑑定して貰いたい物が有るんですが」


グレンの表情から何か感じ取ったのか、レンゲは少し表情を変える。


「良いけど・・・専門じゃないと分からない事も有るから期待しないでね」


グレンは肩掛け鞄から魔犬の前足を取りだす。


オッサンには失礼かも知れない、だけど俺は決めたんだ。


「できればこれを、オッサンの武具に組み込んで貰いたい」


レンゲは暫く無言でいたが、グレンを睨みつけ。


「君はこれがなにか解って、私に見せてるんだね?」


「魔獣の一歩手前、魔犬の前足です」


レンゲは顔をしかめながら。


「まったく、馬鹿にも程がある。私から言わせて貰うと、正気の沙汰じゃないね」


「無理ですか・・・」


グレンは顔を下げると肩を落とす。


だがレンゲは首を振るった。


「時間が掛かるけど可能ではある・・・勉強したことも有るし、挑戦したことも何度か有る。もちろん魔獣じゃなくて魔物だけど」


「残念ながら私の専門を外れてるね、私は宝玉武具職人だから・・・するとなると危険が大きくなるよ」


レンゲの話は続く。


「魔獣が身体の一部を残すなんてことはまずない。武具には組み込めるけど、私には呪いを消す技術が無いんだ」


「呪いですか?」


レンゲは頷くとグレンに質問してくる。


「この魔物を倒した時に、頭の中に意識が入って来たでしょ?」


「覚えは・・・ありますね」


「何を言ってたか知らないけど、絶対に信用しちゃ駄目だ」


絶対と言ったときの瞳は、なぜか恐ろしかった。


グレンは自分の手の平を見詰めながら。


「確かに因縁がある相手でした。だけど・・・だからこそ、俺の武具に組み込んで貰いたい」


「使い手である君の好きにするべきだと思う、だけど魔獣具の説明だけはするからね」


魔獣具・・・魔獣の残した身体の一部は強力な力を秘めている。


だがそれには魔獣の邪念が宿っており、技術なしで魔獣具を造るとなにが起こるか解らない。


「次に来る時までに、できる事は調べておく。だけど私じゃ限界がある」


「私達職人にとって自分の技術は商売道具なんだ、魔獣具の職人に聞くこともできないから、期待しちゃだめだよ」


「予め造ることのできるパーツは既に完成してる。今から魔獣具職人を紹介しても良いけど、完成しているパーツの材料費と技術料は頂くよ。私も半分は商売として仕事を引き受けたんだ、それに関しては勘弁してね」


恐らく魔獣具職人では宝玉を扱う技術は低い。この人じゃないとオッサンの武具は完成しないはずだ。


「金にも余裕はありません、それにオッサンが紹介してくれたんだ、あんたに任せたい」


「その言葉は職人としては嬉しいんだけど・・・本当に組み込んで良いんだね」


最後にレンゲさんが念を押す、グレンは真直ぐ相手の目を見ながら頷く。


本当は魔犬の前足を自分の武具に組み込むのが嫌なんだろう、この人にも職人としての拘りが有るんだ。


「無理を言って申し訳ないです、だけど俺は組み込んで貰いたい」


「どうなっても知らない・・・とは言わない。私にも職人としての責任がある、だけど覚悟だけはしていてね」


グレンは頭を下げる。


「本当に無理を言ってすみません」



レンゲの表情は元に戻り、今日の仕上げに入る。


「油玉はどっちの腕で投げてる?」


「右腕です、火の玉より重要度が高いんで利き手で投げています」


レンゲはメジャーを持ってくると、左腕の寸法を測りながら俺に問う。


「この武具を使用すると火の玉の命中率が落ちる、承知していてね」


グレンは軽く笑いながら。


「設計図を見て何となく想像してましたから」


暫く無言になり、俺の指先から肩までを隅々まで計る。


大体の作業が終わり、もう帰って良いらしい。


「あの、料金の方は?」


暫し考えたレンゲは。


「純宝玉はそっちで用意してくれたし、材料費と技術量を含めて・・・グレンは今どれくらい持ってる?」


自分で溜めた20万、闇のランプの20万。それと婆さんの5万。


「45万あります」


「魔獣具のことも有るし、そんな所で妥当だろ。何度も聞いて悪いんだけどさ」


「構いません、呪われたらそのとき考えます」


あいつを殺し、仲間を殺した俺の責任だ。


レンゲは溜息をつくと。


「分かった・・・もう何も言わないよ。料金は先に10万貰うから」


「それじゃあ後払いで35万渡しますんで」


グレンは10万をレンゲに渡す。


「あの人が目を付けるような人間だから、予想はしてたけど・・・」


その先の言葉を想像出来たから、その前に遮断する。


「似てませんよ、変人と一緒にしないで下さい」


俺の言葉が余程気に入ったようで笑いが止まらないらしい。


「はい、確かに貰うもんは頂きました。あとギゼルさんからグレン宛に」


手紙らしき封筒を渡された。


「グレンが来たら渡してくれって汚い字でね、まったく」


たぶん魔力の練り込みについてだろ。


「俺もオッサンの殴り書きには何度も泣かされましたから」


店を手伝ってたころ、おっちゃんの字が読めなくて色々と苦労した覚えがある。


「それじゃあ、1週間後にまた来ます」



俺が別れの言葉を送ると、レンゲさんはどこか気まずそうに。


「あのさ・・・彼、どうしてる?」


「誰ですか?」


「ほら、私が上げた、その・・・杭を」


そう言えばガンセキさんの師匠だったか、この人。とてもそうは見えない。


「いつも丁寧に手入れしてますよ、そう言えばレンゲさんから貰ったって言ってました」


「まあその、選別代わりに・・・一応弟子だし」


「あの杭はレンゲさんが造ったんですか?」


レンゲが照れくさそうに顔をこする。


「いや、あれ・・・私が現役時代に使ってた宝玉武具」


そうか、そりゃガンセキさんの師匠ってくらいだから昔は属性使いか。


「ま、まあいいや・・・その、それじゃあ1週間後に来てね」


「はい、宜しくお願いします」


再度頭を下げ、工房を後にする。





辺りは昼をとっくに過ぎて此処からだと少し遠くて正確にはわからないけど・・・16時前後か。


腹が減ったな、今日の飯は自分で何とかすると言ってあるから、その分の金はガンセキさんから貰って有る。


宿に帰らないで、少しレンガ内を歩き回ってみるか。


明日から刻亀の情報収集と魔力の練り込み修練を同時進行しないといけない。


今日の内にギルドに付いて知っておきたい。


門まで戻って、兵士さんにギルドの場所を聞こう。


・・

・・


実を言うと身体の傷が癒え次第、金を稼ぎたい。


グレンは鞄を開け、布袋を取り出す。


5万・・・この金だけは使いたくないから。


いっそ軍の仕事でも良いか、正直言うと金さえ稼げれば良いんだ。


とりあえずギルドに付いて調べてから決めよう。




だってこの金は・・・俺が人生で始めて返せた恩だから。




3章:五話 おわり



どうも刀好きです。


前話の油玉や火の玉の材料はそれっぽいものを適当に書いただけで、制作方法は作者でも分かりません、あれで想像できる人は凄いです。



それでは次回は修行です、楽しんで頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ