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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
3章 炎は赤く燃えていた
24/209

四話 旅の目的

4人は同時に立ち止まると、これから数週間を過ごす事になるその建物を見上げる。


レンガの中では一般的な大きさだけど、勇者の村に此処まで大きい建物は無い・・・祭壇よりは小さいけど。


幽霊が出そうな程にボロボロではない、どちらかと言うと年代物とでも言うべきか。


俺は飯が食えて寝る場所さえあれば特に言う事はないが、アクアは文句が有るらしい。


「ガンさん、ボク達って一応勇者御一行だよね?」


「オババと国の方針が贅沢は敵、との事だ・・・すまないが男女同部屋になるぞ」


アクアが俺の方を見ると。


「グレン君、変な事を考えちゃ駄目だよ」


「安心しろ、男には興味ない」


「セレスちゃん!! グレン君は女に興味が有るんだって、ボク怖いよ!!」


・・・俺はアクアへの殺意が目覚めた、何時か日頃の恨みを晴らしてやる。


セレスは慌てながら。


「あわわ、恥ずかしいよ~ わたしどうすれば良いの~」


「安心しろ、お前の存在自体が恥ずかしいから」


馬鹿な事を話していると。


「ほらお前等、何時まで話してるんだ速く入るぞ」


いつの間にかガンセキさんは、宿の扉の前に立っていた。


「まってよガンさん、ボクも行くよ」


3人が続いて宿に入る。


宿主と挨拶をするのかと思っていたら、カウンター越しにガンセキさんと話をして、金を渡すと鍵だけを4人分カウンターに置く。


ガンセキさんの後ろに続いて3人は歩き出す。


田舎の宿には止まった事が有るけど、都会ではあれが普通なのだろうか?


その事をガンセキさんに尋ねると。


「泊まる宿それぞれだ、此処はただ生活する場所を提供するだけだからサービスは期待できないぞ」


そう言う事か。


ガンセキが一方を指差す。


「此処には浴槽は無いが、お湯を出す生活玉具(シャワー)が男女別に一ヶ所ずつ設置されている、時間で金を取られるから気を付けろよ、あと夕方の6時から9時までしか使えないからな」


都会にはそんな便利な物まで有るのか、まるで別世界だな。


魔力は浴室の管理人が生活玉具に込める、入っていた時間で金を取るらしい。



「うへ~ わたし楽しみだな~」


「そうだな、始めて自分の力で風呂が沸かせるな、ガンセキさんに渡された金を渡すだけだ」


「にへへ~ 凄いでしょ~」


本当に凄いな、馬鹿にした事に気づかないなんて。


「セレスちゃん、グレン君は褒めたんじゃなくて馬鹿にしたんだよ」


こいつ、余計な事を言いやがって。


「グレンちゃん酷い!!」


また喧嘩をし始めた俺達にガンセキさんが。


「他の客も居るんだから静かにしろ、速く部屋に入くぞ」


黙ってガンセキさんの後を行く。


ギシギシと音を立てて階段を上がり、2階の通路左側の一番先。


鍵を開け部屋に入ると、そのままランプを灯し天井に吊るす。


「明るくする生活玉具は無いんですか?」


「玉具ってのは濁宝玉でも結構な値段がするだろ、高級宿なら明るくする玉具は各部屋に備え付けられてるが、その設備を全部屋に設置したら物凄い金が掛かるだろ?」


確かに、こんなボロ宿にはそんな設備をそろえる金は無さそうだな。


無論そんな金は俺達も持ってない。


「因みに此処は食事も各自で用意しないといけない、残念ながら今日の晩飯はお昼と一緒だ」


ガンセキはパンの入った袋を取り出すと、アクアが不満を述べる。


「折角レンガに到着したのに・・・またパンなんてやだよ!」


グレンは満面の笑みをアクアに向けると、嬉しそうに語りかける。


「残念だったなアクアさん」


「ガンさん、グレン君は保存パンで良いそうだよ!」


俺はそんな事は一度も言ってないぞ


そんな会話を聞いていたセレスが。


「グレンちゃん、わたしもグレンちゃんが食べさせてくれるなら保存パンでも良いよ」


なんかもう面度・・・飯にしよ。


グレンは袋からパンを取り出し食べ始める。


・・

・・


食後、何故かアクアとセレスは一ヶ所しかない浴室に2人で入りに行った、金の削減だろうか?


グレンは一度部屋から出ると、店主に頼み濡れた布を貸して貰う。


金を取られると思っていたが、タダで貸してくれた。


部屋に戻ると体を拭く、流石に昨日の今日で怪我は完治しないからな。


包帯も替える、ここは長期滞在が目的の宿のようで洗濯場も用意されていて助かる、無論自分で洗濯しなくては成らないが。


ガンセキはグレンを見て。


「お前、明日工房に行くんだろ?」


「ええまあ、その積もりですが」


「場所の地図を貸してみろ、多分ギゼルさんの地図だとお前迷うぞ」


ガンセキさんの書いてくれた地図は分かり易かった、流石土使い?


それとも、おっちゃんの地図が滅茶苦茶なのか。



「そう言えば、ガンセキさんの師匠なんですよね?」


ガンセキは頷き、グレンの問いに答える。


「本格的に土使いの修行に付き合って貰ったのは勇者の護衛に失敗した後だ、旅の道中では精神鍛錬だったな」


グレンが疑問を口にする。


「精神鍛錬って事はその時のガンセキさん、内面に問題でも有ったんですか?」


ガンセキは苦笑いを浮かべると、気まずそうに。


「お前は本当に察しが良いな・・・」


どうも余り触れて欲しくない事だったようだ・・・今後は気を付けないと。


「上手く戦闘に集中出来なくてな、それを問題視した旅の責任者がその人に修行を頼んだんだ」


これ以上は追求しない方が良いな、其処までして聞く必要もないだろ、間違いなく今現在はガンセキさんの精神面に問題はない筈だ。


・・

・・


男同士で雑談をしていると、セレスとアクアが興奮状態で部屋の中に入ってくる。


「凄いのグレンちゃん! お湯がビュウって出て来てね、くすぐったいんだよ!!」


「細いお湯が一杯なんだ、出てくる勢いが凄いんだよ、ボクは感動した!!」


まず始めに何に感動したのかを説明してくれ。


だがガンセキさんは、馬鹿2人の言っている内容が解かったのか、そのまま言葉を続ける。


「確かに俺も始めてシャワーを使った時はお湯の出る勢いと、あの独特の感触に驚いて攻撃魔法と勘違いして身構えた覚えがある」


ガンセキさん、少し用心深過ぎじゃないか?


その話にアクアは笑いながら。


「ガンさんビビリ過ぎだよ、あ~でも楽しかったな」


「わたしも~ もう一回入りたいよ~ ガンセキさん良いでしょ、お金ちょうだ~い」


こいつの頭の内側を一度で良いから除いてみたい、きっと空洞だろうな・・・小突いたらいい音が鳴るかも知れん。


セレスの頭をノックする、良く分からないな。


「酷い!! グ~ちゃん何するの!!」


「すまん、未知への興味に勝てなかった・・・大体よ、風呂なんて何度も入るもんじゃないだろ」


「グレンちゃんは入った事ないから、きっと入ったら私と同じ事言う筈だもん」


「どんなに感動しようと、俺は一日一回で充分だ」


当たり前だがガンセキさんも賛成する。


「何度も入るのは勘弁してくれ、金にも限りが有るんだ」


「ホレ見ろ、駄目だったじゃないか」


「う~ 言いもん明日入るもん」


残念そうなセレスをアクアが慰める。


「セレスちゃん・・・ボクもセレスちゃんの気持ち分かるよ」


「アクア~ 優しいよ~」



セレスはグレンを見ると。


「アクア、グレンちゃんが怖いよ~ 私に何時も意地悪するの!」


「大丈夫だよ、ボクの目が黒い内はセレスちゃんを護ってあげるから!!」


勝手にやってろ、どうせ俺が悪者ですよ。


・・

・・


する事も無くなった4人は、部屋内で思い思いに時を過ごす。


ガンセキさんは自ら持参した本で読書中だ。


アクアとセレスは小豆を布で包んで縫っただけの玩具で遊んでいる。


こいつは旅の荷物にお手玉を入れてたのか・・・まったく、どうしようもない勇者様だよ。



俺はと言うと・・・油玉と火の玉を製作している。


油玉の材料は、樹液・布・灰・空洞の骨・ナイフ・糸・針・秘伝の油・・・制作方法は想像にお任せする。


火の玉の材料は、枯れ草・紐・油で湿った布・乾いた布・長釘・乾燥剤・石・・・油玉に同じ。


火の玉は数日時間を置き、天日干しをする必要がある。



次に秘伝の油の製作方法だ。


色々と意味不明の物体が詰め込まれた液体を鍋で煮込み、それを布でこす事により、不気味な液体を製作する。


不気味な液体と油を決められた分量で調合する事により、秘伝のおっちゃん油となる。


此処までの行為を見るだけで、俺がおっちゃんを変人扱いする理由が分かっただろう。



まだ材料には余裕が有ったんだけど、今後の為に野宿中に不気味な液体を煮込んだ、アクアだけじゃなくガンセキさんにすら引かれた、セレスは興味深そうに見学していた。


見た目は変な色だけど無臭だから魔物を呼び寄せる事は無い。


メモには食べても味の保証できないけど、体への害は多分無いらしい。


おっちゃん油は粘着力が強く、僅かな量でも良く燃える。


油玉は火力を上げ、何よりも炎の最大の武器である【燃え移る】を強化してくれる。


火の玉は熱さで敵を驚かし、隙を造る効果もある。



どちらかと言うと油玉の方が使用頻度が高い。



しかしアレだな・・・野宿中と違って安全の確保された場所ってのは、こんなボロ部屋でも安心感が違うな。


窓は一つ、ガラス張りだがくすんでいて外が良く見えない、尤も外は暗いからガラスが綺麗でも何も見えないけど。


ベッドは人数分ある、少なくとも我が家で使ってたベッドよりは頑丈そうだ。


木製の机と椅子、その真ん中に蝋燭が皿の上で火を灯していた。


天井を見るとランプが吊る去っており、4人の影が壁に映る。


セレスとアクアはベッドの上で2人で遊んでいる、今度は影で狐や犬を造って遊んでいるようだ。


ガンセキさんは椅子に座り、机に手を付いて読書。


俺は冷たい床に胡坐をかいて没頭中、意外と抜け出せなくなる。



薄暗い部屋の中で、各々が楽しい時間を過ごしていた。


ガンセキが音を鳴らして本を閉じる。


「忘れてた、そう言えば旅の目的をまだ言ってなかったな」


俺も忘れてた、一番大切な事なのに。


グレンは作業を中断し、机を挿んでガンセキの前方に座る。


アクアとセレスは遊ぶのを止めると、座る椅子がもう無いのでベッドに腰を下ろす。


「ガンさん、それを忘れちゃ駄目じゃないか・・・ボクも忘れてたけど」


「すまん、本に意識を持ってかれてた」


ガンセキさん、野宿中も寝る間を少し削って読んでたからな、村に居る時も修行してるか飯食ってるか、本を読んでるか寝てるかだけだったりして。


まあ・・・俺も人の事言えないけど。


「ふえ~ ガンセキさん本を読んでるなんて、お利口なんだね~」


読書してるから頭が良いと考えてるだけで、馬鹿を証明しているようなもんだ。


本が好きでも馬鹿な奴は馬鹿だし、本を読まなくても利口な奴は利口だろ。


メガネを掛けているから利口って言ってるようなもんだ。



言いたいが、それを言うとアクアが怒ってまた喧嘩に成る、此処は歯を食い縛って我慢する。


「セレス、読書してるからって頭が良いとは限らないぞ、俺は単に本を読むのが好きなだけだ」


「ほえ~ そうなんだ~」


・・・何故喧嘩に成らないんだ?


「グレン君の言い方に問題が有るんだよ、易しく言えば喧嘩には成らないよ」


「・・・言い方?」


アクアは頷く。


「グレン君の言葉にはトゲが有るんだよ、馬鹿と証明しているような者だ、とか思った事をそのまま言うから喧嘩に成るんだよ、考えてトゲを減らしてから発言しないと」


「何んで俺がセレス如きの為にそこまで考えなきゃいけないんだ、馬鹿な事を言うコイツが悪いんだ」


アクアが溜息を吐いて。


「今の言葉にもトゲが有るよ、セレス如きの為にとか、馬鹿な事を言うコイツが悪いんだ、これを消すだけで少しは優しい言葉になると思うよ」


何なんだこの展開は、アクアに説教されるって。


このまま続けても悔しいだけだから話題を変えよう。


「・・・ガンセキさん、旅の目的は何ですか」


「あ、グレン君逃げた」


「煩い、一向に話が進まないだろ」


最近アクアに口で勝てなくなって来ている、今度奴を言い負かす策を考えよう。


・・

・・


ガンセキさんが話を始める。


「俺たちが旅に置いて成すべき事は・・・名声を高める事だ」



セレスが疑問を口にする。


「名声ってなに?」


「簡単に言うと功を上げて、人々に名を知って貰う事だ」


有名に成るには何をすれば良いのか。



今度はアクアがガンセキに問う。


「何で名声が必要なの?」


「今のまま戦場に向かおうと兵士達は誰も俺達を信用しない、兵士たちの信頼を集め兵士たちの心を一つにするには名声が必要だ」


死と隣り合わせに生きている兵士たちが、実績も何もない連中に命を掛けるとは思えない。



最後にグレンが質問をする。


「それで、俺達勇者御一行は具体的に何をすれば良いんですか?」


ガンセキは一度3人を見渡す。


「方法は幾つかある」


1つ・遺跡や聖域の調査、強力な玉具の発見等により実績を上げていく。


2つ・国内治安軍に所属し犯罪者の捕縛、または殺害に協力して実績を上げていく。


3つ・魔獣を討伐し武功を上げていく、国からの依頼も有る。


4つ・このまま戦場に赴き、0から武功を上げていく。



以上を聞いたグレンが笑いながら。


「4はありえませんよ、そんな無謀な事をした連中は居ませんよ」


「ギゼルさん達は4だぞ」


あの変人なら有り得る、仲間も類は友を呼ぶって言うし。


グレンは苦笑いを浮かべながら。


「2は反対です、勇者が人を裁くのは何か違う気がしますから」


アクアも賛同する。


「ボクも2はやだな、悪い事をした人でも・・・人を殺したくないよ」


俺も出来る事なら人殺しには成りたくない、そんな考えの俺は甘いのか?


ずっと黙っていたセレスが。


「1・・・グレンちゃん好きそうだよね」


正直言うと一番興味が有る・・・遺跡は歴史だし、この世界に付いて調べられる。聖域は神と何らかの関係がある場所だ、こんな体じゃなければ。


「だけどよ、一番勇者っぽいのは・・・3じゃないのか?」



俺達の話を聞いていたガンセキさんが、言葉を発する。


「俺はどれが間違ってるとかは無いと思っている、お前が決めろ」


ガンセキさんの視線はセレスに向いていた。



何時もの馬鹿面は何処へやら、セレスは難しい顔をしていた。


「・・・私は・・・」


俺はセレスの方は見ず、窓の暗闇を眺める。


ガンセキがセレスに言い聞かす。


「セレス、俺達の今後の方針を・・・お前が決めるんだ」


アクアが止めを刺す。


「ボクはセレスちゃんが決めた方針なら、文句はないよ」



セレスは目を瞑り・・・静かに喋りだす。


「私は・・・勇者として魔獣を討伐する・・・」



ガンセキは遠い目をして。


「前回の旅も3だったよ、一体を狩るだけでも事足りる名声を得る事が可能だ」


ただし尤も命の危険を伴う。


アクアはニッコリと笑う。


「ボクも、それが良いな」


グレンは窓の外を見たまま、言葉を発さない。



ガンセキさんは一度手を叩き。


「魔獣討伐をするなら、まずは魔獣に付いて知らないとな」


そのまま魔獣の説明に入る。


以前俺が戦ったのは魔獣とは言わない、黒いのは魔獣と呼ぶにはまだ若すぎる。


基本的には魔物と一緒で。


単独の魔獣・・・強い、魔力量はセレス並みにある。


群れの魔獣・・・単独に比べれば弱い、魔力量はガンセキやアクア以上は有る、ただし魔獣が率いる群れは本来の群れと違いが出てくる。もし魔犬の群れが10年・・・いや、5年そのままだったら大変な事に成っていた可能性が高い。


恐らくガンセキさんはあの群れのボスが魔獣クラスだった事に気付いているだろう。


ガンセキさんはボスの事をセレスとアクアには黙っていてくれた。


俺はガンセキさんに気を使わせてしまった。



「此処までで何か質問は有るか?」


アクアが問う。


「魔獣って知能は高いのかな?」


「元になった魔物にも寄るが知能は高い・・・人語を喋れるとは聞いた事がないが、一説に寄ると人間以上の知能を持っている奴もいるらしい」


次はセレスが問う。


「魔獣って普通の魔物より、長生きなんですか?」


「元の魔物の平均寿命が20年なら40年位は生きるな」


「まさに妖怪だな」


ふざけた事を言うグレンにアクアが怒る。


「グレン君、今真面目な話をしているんだよ」


「そうかい、それは悪かったな」


グレンはそのまま話を繋げる。


「それじゃあよ、真面目な話で・・・どの魔獣を狙うんだ? そもそもこの国には、世界には何体居るんですか?」


「確認されているだけで23体だ、この国には7体の存在が確認されている」


「どの魔物を狙うか・・・実を言うと国から依頼がある、その依頼は断っても構わない・・・その前に1つの話を聞いて貰う必要がある」



ガンセキは咳払いを一つすると目蓋を閉ざし語り始める。



この世界には23体の魔獣が居る、だが時の流れと共に討伐されたり寿命が尽きたり。


20年もすれば、その半数は入れ替わるだろう。


数百年、変わる事無くその座に立ち続けている魔獣が四体存在する。




時間と共に、この四体には名前が付いた。



空の王・飛竜 ひりゅう


時の王・刻亀 こくがめ


数の王・主鹿 ぬしじか


幻の王・夢鳥 ゆめどり



幾度の危機を乗り越えたこの4体は過ぎ行く時の中で、王の位を授けられた。


全てを含めてこう呼ばれる。



・・・四大 魔獣王・・・



俺は今、物凄く嫌な予感がする。


ガンセキが話を続ける。



「この四体による死者の数は、現在も増え続けている」



空の王は自由気ままに地上を襲い。


幻の王は人の心を狂わせる。


数の王は村を消し、国を喰らう。


時の王は異常気象を起こし、その魔力に当てられた魔物が昼夜を問わず凶暴化する、短い期間で進化すら促してしまう。


やけに時の王の説明だけ詳しい気がするのは・・・気のせいか?


「普通の魔獣ですら、死に逝く勇者が大勢いる」


「未だ・・・魔獣王に挑み、勝利を掴んだ者は存在しない」


ガンセキが顔を歪めながら。


「此処まで言えば・・・分かるな?」


「因みに、この国の大地に根を下ろしている魔獣王は、時の王だけだ」


空の王は自由に空を飛んでいるらしい。


幻の王は何処にでも現れるが、何処にも存在しないらしい。


数の王はこの国には居ない。




「断る事も可能だ、普通の魔獣だって楽な相手じゃない・・・さて、どうする?」


アクアは不安の中にも、決意の見える表情をガンセキに向ける。


「どうするって言われてもさ・・・ボク達はボク達のすべき事をするんだよ」


ガンセキは自分の掌を見詰めながら。


「国が無理を承知で俺達に依頼してくる・・・それだけの状況なんだ」


黙っていたセレスは、グレンを見ながら恐る恐る口を開く。


「時の王を討伐出来れば・・・それだけ人々の為に成るのかな・・・」


グレンは何も言わない、ただ黙って机の上で揺れる蝋燭の弱い灯火を眺めていた。


ガンセキはセレスの話を聞くと。


「もし依頼を受けてくれるのなら、国が全力を持って俺達のサポートをすると約束している」



その話を聞いたセレスが狙う魔獣を述べようとした時、その声をグレンが遮断する。


「反対だ・・・」


突如出た反対意見に対してはガンセキが対応する。


「反対の理由はなんだ?」


グレンが始めてセレスの方を向く。


「俺達の最大の目的は何だ・・・言ってみろ」


セレスは暫し無言、自信の見えない声を喉から搾り出す。


「・・・魔王を・・・倒す事」


「普通の魔獣でも充分な名声は得られる、ガンセキさんはそう言っていたよな。お前が魔獣王を倒す決断をしたとする、誰かが死ぬかも知れないぞ」


セレスの代わりにアクアが言葉を放つ。


「どうなるかなんて戦って見ないと分からないじゃないか」


「お前等ならまだ良いさ、俺は生き残る自信が持てない」


アクアが首を振りながら反論する。


「ボクだってそんな化け物と戦うのは怖いよ、だからってそんな事で逃げ出してるようじゃ魔王なんて打てる筈がないよ」


「魔獣王に勝てたとしてだ、仲間を失った状態で魔王に勝てるのか? セレス、お前はその決断に対して責任が持てるのか?」


「決断の結果が悪かった可能性を考えて見ろ・・・その失敗を乗り越えてお前は先に進めるのか?」


セレスは俯き、口を閉ざす。


決戦の時、お前は俺に言った・・・今その反論をさせて貰う。


「弱者の気持ちがお前に分かるのか? 俺達には魔法が有るからまだ良い、魔力の無い人間は剣一つで魔物と戦うんだ、強者が魔物の前に立つのと、弱者が魔物の前に立つのとでは恐怖が違うんだ」


「以上の事を踏まえた上で言う・・・俺は、この中で一番弱い」


「戦いの作戦を考える事は出来ても、いざ戦闘の時に成ると少なくとも、お前より強い恐怖を感じる筈だ」


本当は違う、恐怖と言うのは性格として個人差が有る・・・確かにこの4人の中で一番弱いのは俺だ、だが俺にはある程度の経験がある、その分俺は恐怖に慣れている。


「それでもお前が自分の意思で決断したのなら、俺は従う・・・何故お前が魔獣王と戦うのか、その決断の理由を俺に教えてくれ」




セレスは顔を上げ、グレンを見詰める。


「・・・そんな難しい事、分かんないもん」


「きっと結果が悪かったら立ち直れない」


「私はグレンちゃん見たいに、先の予想なんて考えられない」


セレスの瞳にはそれでも確かな覚悟が宿っていた。


「そんな私だけど、決断した理由だけは言える」


「弱い人の気持ちを本当に理解する事なんて、私には難しすぎて分からない」


「だけど・・・魔族と戦っている人達の中には、剣一本で戦っている人もいる」


「その人たちの信頼を得るのは名声じゃないと思う・・・上に立っている人が、自分は戦わないで命令ばかりしてたら、弱い人達もその人の為に命を掛けない」


「一緒に戦うからこそ、きっと信頼してくれる。だから私は兵士たちの事は絶対に部下なんて言わない」


セレスが立ち上がる・・・グレンの瞳を真直ぐ見る。


「私には力が有る、だからこそ国は勝てるかもしれないって依頼をしてくれた」


「私は力有る者として、その可能性から逃げたくない」


「・・・確かにグレンちゃんは私より弱いかも知れない」


「でもお願い、同じ目的を持つ者として・・・同志として私に力を・・・私と一緒に戦って」


セレスの瞳には確かな意思が、決意があった。



桟橋での一見から、ずっと考えていたのか・・・自分の力を使う道を。



「それだけの覚悟が有るなら、このまま王都に向かい戦場に行っても兵士達はお前の同志になってくれると思うぞ」


セレスは首を振るう。


「それじゃ駄目なの、私は自分の力の可能性から逃げたくない」



だけどお前の言葉は、こうも解釈が出来るんだ・・・自分の決断を力の限り実行する、だけど失敗したら・・・。




「お前が自分で決めたのなら俺は従うしかない、勝手にしやがれ」




不満げに言うグレンをアクアが馬鹿にする。


「残念だったね、でも自分の意見が通らなかったのに何で嬉しそうなのかな?」


「なんと言われようと俺が死ぬ確立が一番高いんだ・・・嬉しい訳ないだろ」


だけどグレンの顔は、本当に嬉しそうだった。




ずっと黙っていたガンセキが纏めに入る。


「それじゃあ魔獣王を狙うとして、今後の日々をどう過ごすのか・・・それを考える必要が有るな」


グレンがその言葉に続く。


「まず今の状態だと、全滅しますね」


アクアが察した。


「まさかして修行するの?」


ガンセキが頷くとアクアが反対する。


「ガンさんは一体何日レンガに滞在する積もりなのさ」


「そうだな、大体はグレンの武具が完成次第出発する予定だ、2,3週間って所だな」


「そんな短時間で修行しても効果ないよ、修行って何年も掛けてするものだよね?」


アクアの意見に賛同するのは酌に触るが、俺も短時間の修行に意味は無いと思う


「それよりもさ、魔物と戦って戦う事になれた方が良いよ」


確かに、短い期間でも魔物との戦いを重ねるだけで、数週間修行するよりは効果がある筈だ。


ガンセキは頷きながら返答する。


「魔物との戦闘も何度か予定している、だがレンガ滞在中は魔物との戦闘よりも修行に重点を置く」


「具体的にどんな修行をするんですか?」


「修行には時間が掛かるが、明日からするのは短時間で効果の現れる修行だ」


まあ、ガンセキさんは修行に置いては誰よりも詳しいだろうからな。


「グレン、お前は俺の戦い方を見て、何か思い当たる節はないか?」


・・・ガンセキさんの戦い方?


「セレスとの初戦の前半、俺は何度か使っていたが」


悩んでいたら、アクアに先を越されてしまった。


「もしかしてさ、靴底で地面を叩いて岩の壁を召喚したのかな?」


ガンセキは頷く。


「あれは熟練と違って攻撃力や防御力とは関係ない、コツさえ掴めば出来る筈だ」


「他にも岩壁を岩剣ですり抜けたり、召喚した岩の壁を倒したりする・・・言わば工夫の修練をする」


熟練は共鳴率と違って修行しだいで上がって行くが、相応の時間を必要とする。



だけどガンセキさんの言う工夫ってのは魔法そのものを使えれば、岩の壁を倒したり、岩壁を岩剣がすり抜ける現象を想像する事さえ出来れば可能な筈だ。


でも、それは触る事のできる岩や氷だからこそ出来る事で、雷や炎は実体を持たないから出来ないだろ。


むしろ炎の壁は物理攻撃なら敵の攻撃でも構わずすり抜けてしまう、それが一番の問題なんだ。


炎の壁を倒した所で重量が無いから敵を潰す事も不可能だし。


雷なんて一瞬で現れて、一瞬で消えるからそれこそ修行しても無駄だろ。


グレンはセレスを見る、先程の事で疲れたのかウトウトしている、このまま放っておけば眠りに落ちるだろう。




ガンセキさんは、また俺の表情から予測したのか。


「セレスにはセレス専用の修行を考えているから大丈夫だ」


本当に修行が好きなんだな、ガンセキさん・・・物凄く楽しそうだ。


ガンセキはグレンに一つ注意をする。


「お前は怪我人だから修行は駄目だぞ、悪いが無理な運動はさせるなと言われているからな」


・・・一番死ぬ確立が高い俺が修行しなくて大丈夫なのか?


「その代わり、お前には一番重要な事をして貰う」


「あんまり無茶言わないで下さいよ」



ガンセキは真剣な表情を造り。


「刻亀の情報を集めて貰う」


「どうやって集めれば良いんですか?」


「言っただろ国が全力でサポートすると、戦闘面と情報面の両方を手伝ってくれるんだ」


レンガ国立書庫の使用を許可してくれるらしい。


「こう言う事はお前の方が向いてそうだ・・・旅人や商人からは俺が情報を集める」


「本当は専門家から聞きだすのが一番良いんだが、残念ながらレンガには居ない」


此処には鉄や宝玉に詳しい人間は腐るほど住んでるだろうけど、魔獣に詳しい専門家は居ないだろうな。


「そして集めた情報から・・・策を練ってくれ」


「3人にも協力はして貰いますよ」


・・

・・


まあ、まずは設計図と宝玉を明日にでも工房に届けに行かないとな。



3章:四話 おわり

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