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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
3章 炎は赤く燃えていた
23/209

三話 此処に存在する意味

辺り一面は赤に染まる・・・草原も、何処までも長く伸びている壁も、何もかもが。


グレンは空を見上げる、太陽が西に傾き闇は少しずつ迫っている。


門の向こうに見える景色からは、闇が迫っていると言うのに力強い活気が門を通る風に乗り、生暖かい空気と共に俺の肌を掠めていく。


遠くからは魂を揺さぶる鉄を打ちつける音が耳に入ってくる、離れているから煩くはない、だがその音は戦太鼓のように俺の心臓に響き渡る。



命を奪う鉄の音、命を護る鉄の音。



「・・・これがレンガ・・・鉄の街・赤鋼か」



俺がレンガの活気に圧倒されていると、アクアが俺の感動を邪魔する為に言葉を発する。


「ぐ、ぐれん君・・・そんな顔してると田舎者丸出しだよ」


「アクアさん、お前こそ声が裏返ってるぞ」


セレスは顔の筋肉が何処かに逝ったような表情で、変な声を出しながら呆然と門の向こうの様子を眺めている。


「ふょえ~」


「お前もう少し恥を知れ、幾らなんでも人前でその顔とその声は有り得ないだろ、脳味噌だけじゃなくて顔まで溶かすつもりか」


「ぐれんひゃん、わたしどうすれば良いの? 人が怖いよ~」


セレスが半泣き状態で助けを求める。


こいつが言いたい事も分かる、確かに人が怖い多すぎる。


「俺に助けを求めるな、俺だって混乱しそうだ」


ガンセキさんは何時もと変わらず。


「相変わらず賑やかなだなレンガは、まあどっちかって言うとお前等の反応見ている方がレンガ見ているより面白いな」


「ガンセキさん、良く平然としていられますね」


「1年近く住んでたんだ、平然としていられるのは当然だと思うが」


ガンセキは3人に。


「ほら、何時までも其処に立ってたら不審に思われるぞ」


確かに、門の前で見張りしている兵士がさっきから俺達の方を見ている。


兵士は頭には何も被ってないが、特に此れと言った特徴の無い鉄の軽鎧を纏っている。


手には槍、腰には剣を挿し微動だにしない・・・訳ではなく欠伸を一つすると足下の小石を蹴る。


レンガ外側の壁、その周囲30メートルは野草が綺麗に刈られており、大地がむき出しに成っている。



俺は何時も思うんだが、あの鎧ってのは動きにくくないのだろうか?


あの兵士はまだ軽鎧だから良いけど、重鎧とかは戦い難いと思うんだけどな。


俺は素手で戦う拳士だからそう思うのであって、武器を使う連中からすれば其処まで問題ないのかもしれないな。



門の脇に立っていた見張りの兵士に軽く会釈をしながら、4人は北門の中に入る。


この北門は予想以上に分厚く出来ている、30メートルは幅がある。


門を潜りレンガ内に入る、内側から北門を見ると壁が分厚い理由が理解できた。


「レンガの軍所って壁その物なんですね」


俺はてっきり門の近くに軍所が建てられているのだと思っていたが北門内側の壁に入り口があり、窓が横一列に並んで向こうの先まで設置されていた。


軍所への入り口には先程と同じ軽鎧を纏った兵士が2人立っており見張り番のようだ。


ガンセキはグレンの話を聞くと壁の方を向く。


「軍本部と演習場はレンガの中央辺りに存在しているが軍所は南北の壁その物なんだ。此処でも闇魔力を金にする事は出来るが、この時間ではもう駄目だな」


「数週間滞在しますし・・・明日にでも行きますよ」


それよりも壁の方が気になる。


「壁の内に人が入れるような設計だと、壁自体の強度の方は大丈夫なんですかね?」


「まあ此処は戦場ではないし、攻めて来ると言っても魔物だからな」


そうだよな、其処まで考える必要もないか。




俺が壁を興味深く見ていると、アクアが不満の声を上げる。


「2人とも壁ばかり見てないで速く行こうよ!」


「良いだろ、俺は壁が好きなんだよ」


「また兵隊さん達に変な目で見られるよ」



セレスは辺りを見渡しながら。


「う~ 人がいっぱい居るよ~」


ガンセキさんがそんなセレスの様子を見て笑いながら。


「そんな怖がる必要もない、逆に震えていると余計に目立つぞ」


確かに・・・さっきから周囲の人達が俺達を見ている気がして来た、俺の被害妄想か?


北門周辺は其処まで人は多くない、真直ぐに大きな道があり多分これが大通りだろう。


それ以外に大通りを0時とすると9時・10時・2時・3時の位置に道が存在している、それらの道の間に大小の建物が詰め込まれていた。


大通りの人込みが異常に凄く、この中に突っ込むくらいなら犬魔の群れに突撃した方が俺は幸せだ。


「セレス頼むから我慢してくれ、目立っている気がして来た」


アクアがセレスに歩み寄り、セレスの手を握る。


「ほら行こ、セレスちゃん」


「アクア~ 優しいよ~」


正直凄い、俺ですら人間の数に圧倒されてるのにアクアは余裕が有る様だ。


・・・と思い感心しながらアクアを見ていると・・・。



グレンはニヤケながら昼間の仕返しをする。


「アクアさんよ、お前身体の動きが変だぞ」


グレンが馬鹿にした口調で言うと、慌てながら言い返す。


「い、良いじゃないか別に!! ボクだって怖いものは怖いよ!!」


「セレス、アクアさんは優しくなんか無いぞ、お前を利用したんだ」


「う~ 良いのっ! アクアなら!」


セレスはアクアにしがみ付く、ガンセキはそんな様子を見て。


「この時間が一番込むんだ、鉄工街からの帰宅だったり、外店を出している人達が店を片付けるから慌しくなるんだ」


そう言うとガンセキさんが素晴らしい提案をしてくれる。


「慣れるまで大通りは避けた方が良さそうだな、遠周りになるが別の道を行こう」


「ボクは賛成だよ、その方が良いよきっと」


「そうしましょう・・・俺も正直、大通りを歩くのは避けたいです」


ガンセキを先頭にセレスとアクアが寄り添うように真ん中を歩き、俺が最後を歩く。


森中を歩くよりも慎重な気がする。


産まれてから俺達は田舎から出た事がないんだ、仕方ないよな・・・速く落ち着いた場所に行きたい。


・・

・・


数分歩くと次第に人の数も減ってきた、セレスとアクアも何時もの調子を取り戻したようだ。


グレンは周囲を見渡す、ここら辺には外店はないが室店が多いようだ、道具屋に衣類店・・・武具屋まであるのかよ。


「てっきり武具屋は鉄工街に在ると思ってました」


「大鉄所はあくまでも大量生産が目的だし、玉具工房は個人が特注する場合は足を運ぶか使いの者を寄越す必要がある。基本的に宝玉具を売ってるのは武具屋だ、鉄工街だと煩くて商売にならないだろう」


成る程な、詰まり俺は特注だから工房通りに行かなくてはならないのか。


3人は田舎者丸出しで周りの風景をキョロキョロしながら歩き続ける。


しかしこんな草原のど真ん中に良くこれだけの都を築いたもんだ、偉大な先人達だよまったく。


・・

・・


あと1時間もすれば陽が落ちる、このレンガですら夜は暗くなる。


夜は明かりを持って兵士が巡視しているようで、さっきから何度かすれ違う。


鎧を来た連中が暗い街中を歩き回るのって、住人からしたら怖くないのかな?


何事も慣れって事だろうか。


「しかしこれ程の街を魔物から護るのも大変ですよね、闇魔力を利用しても厳しい気がする」


「その為のレンガ軍だ・・・兵士の中にも属性使いは居るからな、ある程度は大丈夫だと思うぞ」


まあ楽な仕事は無いか。



そう言えばこの世界って・・・。


「世間一般の属性使いは全体から見ると何人くらいなんですか?」


アクアは驚いた顔をグレンに向ける。


「村に居た時にお婆ちゃんに教わらなかったの、ボクはお姉ちゃんに教えて貰ったよ?」


「・・・記憶が無い」


婆さんそんな事、教えてくれたっけ?


グレンはセレスに聞く。


「なあ、お前知ってるか?」


セレスは腰に手を当てて偉そうに威張る。


「えっへん、オババに教えて貰ったもん、グレンちゃん興味ないって何時も魔法の修行してた」


何時までも婆さんの世話になっている訳にはいかないから、少しでも強くなって速く仕事を始めたかったんだよ。



「とりあえず今後の為に知って置いた方が良いな」


ガンセキがこの世界の属性使いに付いて、グレンに説明する。



この世界では魔力を持って産まれてくる人間は全体の60%だが、その半数は低位魔法しか使えない。


属性使いとして認められるのは並位以上の魔法を使える者だけだ。


勇者の村出身者以外で高位魔法を使える属性使いは物凄く少ない。




勇者の村は特別だ・・・魔力を持つ者が100%の確立で産まれ、その内の7割が並位魔法の使用が可能。


高位魔法が使える者は5年に1~2人産まれる(炎使い以外)、此れが勇者の村と言われる所以だ。


グレンは納得した。


「成る程な・・・知らなかった」



そんな事を言っている俺に、アクアが失礼な事を言う。


「ボク何時も思ってたんだけどさ、グレン君って魔物とか戦いの事は詳しいけど、意外と村の事とか世間一般の事はあまり知らないよね?」


「馬鹿にすんな、俺が勇者の村で何年生きて来たと思ってるんだ」


「南の森に強い魔物が多い事知らなかったじゃないか」


村全体の魔法関係の事は婆さんが指揮を取っている・・・だから婆さんに言われた場所が俺の仕事場だったんだ。


黙ってアクアの話を聞いていたガンセキが口を開く。


「そう言えば剛炎を使える炎使いが少ない事や、ギゼルさんが勇者候補だった事も知らなかったな」


グレンは無言になり、暫くすると無理やり話題を変えようとする。


「・・・速く行きましょう、宿が俺達を待っています」


「グレン君、駄目だよ話を逸らしちゃ」


「煩い!! お前は俺を世間知らずって馬鹿にしたいだけだろ!!」


グレンは逃げるように歩き出す。


・・

・・


同世代が仕事を始める前から俺は森の中で逃げ回ってたし、誰かと遊んだ記憶なんて無い。


どうせ俺は友達が一人も居ないよ・・・愛想も悪いし、口も悪いから。


仕事を始める以前は婆さんに迷惑を掛けたくないから、一日でも速く仕事の許しを得たかった。



今思うと仕事か飯・・・あと魔力を纏う修行を家でしていた、それくらいしか記憶が無い。


魔物を倒して金を受け取る事が唯一の楽しみだった。


いや、油玉や火の玉を造るのも楽しかったかも知れない。



魔物狩りが楽しい筈も無い、だけどこの仕事を望んだのは・・・他ならぬ俺なんだ。


7年か・・・長かったな。


先が見えなくて・・・たった7年が・・・途方も無く長くて・・・。




12歳・・・婆さんに頼み込んで仕事を始めた、何から始めたら良いのか分からない、誰かと組むのも嫌だった。


魔物が怖かった、足が震えて助けを求めようとしても俺の誇りが邪魔をする、何度助けられても礼すらまともに言えなくて・・・大人達に嫌な思いをさせてしまったかもしれない。


オッサンが俺に放った言葉、あの時は反感する事しか出来なかった、それでも無理やり俺の手助けをしてくれた。


俺が最初に始めた事は、東の森の全貌を頭の中に詰め込む作業だった。


その作業の最中に犬魔に襲われた事が何度もあったな・・・確か黒い犬魔に出逢ったのはこの頃だ。



13歳・・・油玉と火の玉を使った今の戦闘スタイルになった。


油玉を投げても魔物に命中しない、逆手で投げる火の玉なんて当たる訳が無い。


投げても当たらないから他の使い道を考えた・・・油玉を握り潰して火力を上げる方法を思い付いた。


火の玉は油塗れの敵に当てないと効果が無いと思っていたが、火の熱さだけでも一瞬だけど敵が仰け反る事を知った。


最初の内は至近距離から玉を投げ、少しずつ命中距離を伸ばして行った。



14歳・・・ガンセキさん達が旅立つ。


祭壇の上から剣を掲げるオバハンの息子、彼に魔王を倒してくれと本気で祈っていた覚えがある。


俺が宴に参加すると旅立つ4人よりも宴の飯を優先させる、だから参加しなかった。


当時の俺は満足に飯すら食べれなかった・・・あと5年しか時間がない。


日々少しずつ迫ってくる期限、怖くて夜も眠れない。



15歳・・・生活は全く安定しない、ただ毎日を必死に生きていた。


何が駄目なんだ、俺は何で成長しないんだ・・・体術も身に付いて来た、最近はオッサンにだって勝てるようになって来たのに。


俺は並位魔法しか使えないから油玉を考えた、炎を飛ばせないから火の玉を考えた、最近は命中率だって上がっているのに・・・考えるんだ。今のこの状況から抜け出す方法を。


この程度の魔物に苦戦しているようじゃ、魔族なんてとても相手に出来ないだろ。


まさかして・・・戦い方が間違っているんじゃないのか?


俺はずっと単独を相手にして来た、それは間違ってない筈だ。


今までは単独を探して歩き回って来た、だけど体術に置いて戦う場所は重要なんだ、ある程度足場がしっかりしてないと地面を踏み締める事が出来ない、それは攻撃力だけではなく防御力も落ちるんだ。


戦う場所を俺の方で決めて見るか、単独が現れるまで待てば良いだけだし。


既に東の森は頭の中に入っている、単独と戦う場所の候補は幾つか在る・・・その周辺をもう一度調べ直して逃走経路を完璧な物にしよう。



16歳・・・南の森に仕事場を移された。


あのクソババア。


俺がもう少しで何か掴めそうな時に、また始めからやり直しかよ・・・笑えねえよ、時間が無いのに。



今まで通りでは間に合わない、如何にかしないと。


寝る時間を削るしかないか、一刻も速く南の森を頭に詰め込まないと。


昼の内に単独を狙い、夜の森を息を潜めながら歩き回り、崖を攀じ登り草を掻き分けた。




17歳・・・日中で互角の相手に、不覚にも夜中に遭遇してしまった。


このような経験は今までも何度かあるけど、今回は最悪だ。


まず足場が悪い、そしてまだ把握出来ていない場所だから逃げ切る事も難しい。


それでも逃げるしかない。


両腕の炎で辺りを照らしながら暗闇を走る、地面がぬかるんでいる為に足を取られる。


木々や生い茂る草が俺の行くてを遮るように邪魔をする。


静寂に包まれた森の中には俺が息を切らせながら湿った土に足を取られる音と、湿った土を弾き飛ばしながら走る恐怖の音色が鳴り響く。


・・・駄目だ相手は俺より速い、隠れる場所も分からない・・・戦うしかないか。


グレンは意を決し向きを返す、そのまま敵を迎え撃つ。


・・

・・

・・


目が霞んできた。


意識が朦朧とする・・・無謀だった・・・ただでさえ危険な相手に寝不足の状態で挑むとは、馬鹿にも程がある。


グレンは体中泥に塗れ、ぐちゃぐちゃになった地面に倒れていた。


立たないと・・・殺される・・・立たないと。


魔物がゆっくりとグレンに近づいてくる。


油玉、火の玉の残玉は共に0。


でも、まだだ・・・死ぬ訳には・・・いかないんだ。


グレンは血を地面に滴らせながら立ち上がる。


目を逸らすな、敵を見詰めろ、炎をこの手に。


グレンの右腕に赤い炎が宿る。



単独はグレンとの距離を縮めると、2本の後足で立ち上がり、前足両方でグレンを捕らえようとする。


魔物の前足がグレンに届く瞬間、姿勢を低くしながら魔物の腹に燃える掌を打ち込む、それにより魔物は少しだが後方に体勢を崩す、そのまま押し込み魔物と共に地面に倒れる。


この程度で死なない事は分かっている、だがこれならどうだ!!


グレンは魔物に跨りながら自身の体を起こす、左腕で握っていた短剣を振り上げ、そのまま魔物の胴体に突き刺そうとした。



甘かった・・・魔物の両腕は自由に動く状態だった、短剣が突き刺さる一歩手前、単独の豪腕がグレンを吹き飛ばす。


吹き飛ばされたグレンは地面に削られながら、木に激突して停止する。



・・・畜生、策が尽きちまった・・・痛たいなクソっ。



何事も無かったかのように単独は体を起こすと、倒れているグレンに向けて4足で歩き出す。



体が・・・動かない・・・動けよ・・・ポンコツ・・・頑丈だけが取り柄だろ。


悔しい・・・悔しい・・・。


悔しい・・・悔しい・・・。



セレスと旅立つ事も出来ずに俺は死ぬのか。




情けない・・・悔しい、何で俺はこんなに・・・弱いんだ!!




グレンは動かない体で茂垣ながら立ち上がろうとするが・・・。


魔物はグレンの首を掴むと、再び2本の後足で立ち上がりグレンを持ち上げる。


首が絞まる・・・死ぬのか・・・俺は・・・憎い。



・・・憎い。


・・・憎い。


・・・憎い。


・・・憎い。



情けない自分が・・・惨めな俺が・・・弱い己が憎くて堪らない。





朦朧とする意識の中で、脳裏に言葉が聞こえて来た。




何だ・・・この声は・・・。




その言葉はまるで燃え上がる炎の如く、俺に語り掛けてくる。


首を絞められているにも関わらず、無意識の内にその言葉を喉の奥底から搾り出していた。








「目覚める者・・その名は紅蓮・・憎悪と共に・・全てを焼き尽くせ」








・・・熱い・・・熱くて死にそうだ・・・魂が燃える、これが俺の炎なのか。


グレンはそのまま気を失う。


目覚めると、俺は家のベッドに眠っていた・・・誰かが運んでくれたのか?







18歳・・・生活が少し安定した。


まさか自分が金を溜める事が出来るようになるなんて。


婆さんに金を始めて返した時は、堪え切れそうに無いから妖怪に金を投げつけて家に逃げた。


一晩中、ベッドの中に隠れていた。




19歳・・・俺は候補として選ばれた・・・嬉しい筈なのに喜びで心が満たされない。



俺は少しでも強くなる為に戦ってきた、でも魔物との戦いは辛くて苦しくて・・・やっと手に入れた安定した生活に、俺は未練があった。


勇者候補に成る為に俺は魔物狩りを仕事に選ん筈なのに、他の候補に力の差を見せ付けられるのが怖かった。


必死になって力を手に入れたのに、簡単にセレスに敗れる自分の姿を想像するだけで逃げたくなった。



旅には出たかったが候補として3人と・・・特にセレスと戦うのが嫌で溜まらなかった。


俺は捻くれ者だから抵抗する、負けるのが怖いからギリギリまで候補に成る事を拒み続けた。



それでも俺は旅に出たいから候補に成った。


初戦は自分の力を試したかった、だからアクアとは本気で戦った。


勝てた時は心の底から嬉しかった。


セレスとだけは本当に戦いたくなかった、負ける事より恐ろしい事が一つあった、セレスが勇者に成る事を嫌がったら、俺はどうすれば良いんだ。


その為に俺は考えた・・・コインで決着をつける事にした。



俺は少しは強く慣れたのだろうか?


この4人の中で俺は一番弱い、足手まといだけは御免だ。



俺はセレスに借りがある。


いや・・・そんな言葉じゃ駄目だ・・・俺は救われたんだ。


セレスが俺に与えてくれた・・・俺がこの世界に存在する意味を。


だけど俺を救った所為で、あいつは勇者として一番大切な何かを失ってしまった。



全て俺の所為なんだ、俺がセレスに甘えていたから。


だからセレスと旅立つ必要があったんだ・・・一生掛かっても返せない恩を、セレスに少しでも返す為に。


10年前、俺はそう決心した。



グレンは気が付いたら、アクアと仲良く歩いているセレスの後姿を長い事見詰めていた。



セレスの為に戦うなんて言葉は、俺には絶対に許されない。



だから共に戦うと・・・セレスと共に戦うと決めたんだ。




この世界の事を殆ど知らない俺が、今後の戦いに生き残れる筈が無い。


考えるんだ、俺が今此処に存在している意味を。


調べるんだ、世界の事を・・・何から調べたら良い?


商人の事だけならオッサンに教わっているからある程度分かる。


俺はまず何を調べたら良い・・・敵の事か? それともこの国の事か?



考えるんだ、俺の成すべき事を・・・仲間を護る方法を。


出来る事から調べて行くしかない。



アクアを、ガンセキさんを・・・勇者を・・・皆を死なせない方法を。



・・・考えるんだ・・・。



・・

・・

・・


数分後、俺達はボロ宿に到着した。





3章:三話 おわり








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