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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
3章 炎は赤く燃えていた
21/209

一話 想いを力に

モクザイを出発して2日、明日にはレンガに到着するであろう、風景はあまり変わらず薄い緑の野草が風に揺られ、少し遠くに存在する森がざわめく、冬の寒さも手助けして成れるまでは暗闇が怖かった。




辺りは暗くランプの光を囲みながら食事を済ませ雑談をする4人。


あまり騒ぐとガンセキさんが怖いから、出来るだけ言葉に気を付ける。



魔犬に破かれた俺の上着はアクアが直してくれた、意外な事に手馴れていて驚いた。


まさかアクアに、こんな特技が有るとは知らなかった・・・良く考えると姉の仕事を手伝っていたんだろうな。


火の服だって何着も予備が無いから正直助かった・・・て言うか旅が始まって2日目で服が破れるって、王都に到着する頃には下手したら裸に成ってるんじゃないか?


火の服が数着、普段着と部屋着を合わせて数着が俺の背負い鞄の中に入っている。



ガンセキがコップに注がれた暖かい飲み物に口を付けると、グレンに話しかける。


「ところでお前、この前の傷の調子はどうだ・・・まだ痛むか?」


グレンは苦笑いを浮かべて。


「まあ、少しは痛みますが慣れたから普通に歩けますよ」


「なんか何処かで聞いた台詞だな」


今度はガンセキが苦笑いを浮かべる。



アクアがガンセキに質問する。


「ところでガンさん、レンガには明日中に着けるのかな?」


「ああ、何事も無ければ明日の夕方には到着できると思うぞ」


「泊まる宿とかは決まっているんすか?」


グレンが尋ねるとアクアが茶化す。


「グレン君、まさか男女一緒の部屋が良いの? 変態だね!」


アクアの言葉にセレスが乗る。


「分かるよ~ 私と一緒の部屋が良いんだよね? 寂しかったら来ていいよ、にへへ~」


グレンは無表情で応える。


「大丈夫だ、俺とガンセキさんは普通のボロ部屋だが、お前とアクアは星空の見える特別ルームだ、少し寒いけどレンガは冬でも暖かいらしい、だから心配するな安心してくれ」


「グレン君は外道だね、寒空の下に女の子2人を野宿させるなんて、口も性格も性根も腐ってるよ」


俺よりアクアの方が口が悪い気がするんだけど・・・気のせいか?


「違うよ、グレンちゃんは照れてるだけだよ、口が悪いのは優しさの裏返しだもん」


「良く分かってるじゃないか、そうだ俺は誰よりも優しいんだ」


グレンはウンウンと頷きながら。


「ちなみにセレス、お前の頭が悪いのは脳味噌が裏返っているからだ」


アクアがグレンを指差し。


「あっ病気出た!! グレン君駄目だよ、野宿中は禁止だってガンさんが言ったじゃないか!」


アクアはガンセキさんに俺を怒るようにお願いする。


ムカつく、そもそもお前が俺を茶化すから悪いんだろ。


「しまった、口に気を付けようと思っていたのに・・・やっぱり俺は嘘を付けない性格なんだよ、心が純粋なんだなきっと」


「グレン君、たとえ思っていても口に出しちゃいけないんだよ大人は」


「アクアさんよ、正直な大人と言ってくれ、俺みたいな人間こそが子供の見本になるんだよ」


口論が止まらない2人にガンセキが口を開く。


「2人とも、そのくらいにしておけ・・・セレスが本気でいじけてるぞ」


セレスを見るとブツブツ言いながら人差し指で地面に円を描いている。


ガンセキさんが追い討ちを掛ける。


「これ以上は結界の外でやれ、好きなだけ叫んでいいぞ」


その言葉に2人は素直に頭を下げる。


「「御免なさい」」


素直に謝ったのにガンセキさんが困った事を言う。


「俺じゃなくてセレスに謝れ」


うっ・・・何故俺がセレスに謝らないといけないんだ。


「セレスちゃん御免ね・・・ほら、グレン君も謝ろうよ」


ちくしょう、アクアに大人の対応をされた。


「セレス、そう気を落とすな」


「それ謝ってるとは言わないんじゃないかな?」


この野郎、余計な事を言いやがって。


「子供の見本なんだよねグレン君は、そんなんで良いのかな? 悪い事したら謝らないと」


アクアは馬鹿にした顔でグレンを諭す。


・・・ムカつく・・・でも言い返せない・・・悔しい。


「悪かったな許してくれ」


セレスは顔を上げると、グレンを見詰めて。


「いいもん、わたしはグレンちゃんと違って大人だから許してあげもん」


こいつにだけは言われたくない、でもガンセキさんが怖くて言い返す事も出来ない。


グレンは顔を引き攣らせながら。


「どうもありがとうございました」



もうムカつくから毛布に包まって不貞寝する。


「あ! グレン君ずるいよ、まだ見張りの順番決めてないのに!」


「拗ねたグレンちゃんも素敵だよ~」


どいつもこいつも好き勝手言いやがって、もう俺は布団から出ないからな。


グレンは毛布に包まったまま言葉を発する。


「悪いけど俺は後番にしてくれ、我侭いって申し訳ないけどガンセキさんと一緒がいい、て言うかガンセキさんでお願いします、マジで」



「もう、グレン君は子供だな」


煩い、お前らが俺を馬鹿にするからだ。


「え~ わたしグレンちゃんとが良いよ~」


決めるのはお前じゃない、責任者のガンセキさんだ。



正直な話を言うと俺の武具に付いてガンセキさんに相談したがった、色々有って言い出す機会がなかったから。


おっちゃんの話しだと武器が出来上がるまで、かなりの時間を必要とするらしいからな、レンガには元々何日滞在するのか聞く必要があった。



アクアが何かを思い出したようにガンセキに尋ねる。


「ところでガンさん、宿は決まってるのかい?」


「ん? ああ、元々その話だったな」


どうやら宿は決まっているらしい、そこまで立派な宿ではないけど、人の入りも少なくノンビリ出来る良い宿だそうだ。


それって、あれだよな・・・ボロ宿?


・・

・・

数時間後

・・

・・


ランプの小さな明かりを頼りに、ガンセキさんがおっちゃんの設計図を見ている。


俺が武器の話をすると、興味が有るようで見せてくれと頼まれた。


「成る程な・・・これなら防具として、お前の戦闘スタイルを邪魔する事もないと思うが・・・」


ガンセキさんは真剣に設計図を眺めている。


「武具として、どう機能するのか・・・もっともギゼルさんの考えた武具だ、抜かりは無いだろう」


ガンセキはグレンの方を見ると。


「レンガには数週間滞在する予定だったから時間の方は気にしなくていい、問題は金だが大丈夫なのか?」


「はい、貯えは20万ほど有りますが・・・足りない分は自分で何とかします」


「確か火の宝玉が反応しないんだよな?」


グレンは頷くと返答する。


「おっちゃんもその事は知っている筈なんですけど・・・まさか火の純宝玉を渡されるとは」


「ギゼルさんの事だから考えが有っての事だと思うが」


ガンセキさん随分あの変人を評価しているようだけど。


「おっちゃんの考えた武具って、そんなに凄いんですか?」


ガンセキさんは暫く俺の顔を無言で見詰めると、突然大声で笑い出した。


何時も大声出すと怒る癖に。


「お前、何も知らないでギゼルさんに協力して貰ってたのか?」


なんか笑われてしまった。


「ギゼルさんが昔勇者の護衛だった事は知っているよな」


言ったらまた笑われるな。


「・・・その手紙で始めて知りました」


どうやら俺がおっちゃんの事を何も知らなかった事が可笑しくて堪らないらしい。


「お前は自分が周りからギゼル2世って呼ばれてた事も知らないだろ」


周りから変わり者扱いされている予感はあったけど、おっちゃんと同じように見られているとは・・・ショックだ。


「俺がお前と勇者の儀式で戦いたかったのは、お前がギゼルさんの弟子だからだよ」


・・・は?


「ちょっと待ってくださいよ、俺の師匠は昔から妖怪だけですよ、確かにおっちゃんには色々世話に成ったけど、俺に魔法を教えてくれたのは婆さんだけですから」


「それじゃあ一つ聞くが、お前の体術は誰に教わった・・・素人が飛んでくる矢を素手で掴む、なんて事は不可能だと思うが、オババは接近戦で戦うタイプの炎使いではないぞ」


婆さんは離れた場所からの飛炎や炎放射を得意とする炎使いだからな、確かに体術はおっちゃんに触りだけ教わった、とても師匠なんて呼べる程は習ってない筈だけど。


「今までお前の戦い方を見てきたが、お前の戦いの中心は魔法より体術が基本になっていると俺は思うが」


言われてみるとそうだけど、俺がおっちゃんから教わったのは身軸の取り方・体の捻り方・力の流し・精神集中・呼吸法・そして最も重要な足運び、それらの基礎だけでオッサンと組み手をした事は数えるほどしかない、あとの事は魔物との実戦で身に着けていった。


だから俺の体術は我流の積もりだったんだけど。


「ギゼルさんが現役だった頃は、接近戦であの人に勝てる者は居ないとまで言われていた」


グレンは笑いながら。


「ありえませんよ、オッサンと組み手した事何度かありますけど、俺が15の時で勝率5割でしたよ」


あのオッサン、俺が頼んでも嫌がるから滅多に組み手してくれなかったし、そんで負けると年甲斐にも無く負けず嫌いだから腰が痛いとか言い訳してたな。


ガンセキさんは苦笑いを浮かべて。


「まあ良いから聞け、あの人の話は・・・お前にとって学ぶべき所は沢山ある筈だ」


グレンは頷く。


「ギゼルさんの魔力量は平均以下で魔法も並位までしか使えない、属性使いとしては2流だ」



グレンは半信半疑でガンセキに。


「詰まりあれですか・・・体術だけで勇者候補に選ばれたんですか」


「・・・実際に高位魔法を使える炎使いはいたが、その人よりギゼルさんの方が強かった、初戦を勝利し、決戦では自分から勇者になる事を拒んで護衛に成った」


「恐らく俺が知る中で最強の炎使いだよ、ギゼルさんは」


おっちゃんも年取ったって事か・・・今のオッサンを想像すると考えられない。


「婆さんより強いんすか?」


俺の中じゃあ妖怪が最強の炎使いなんだけど。


「オババは俺が産まれる随分昔に現役を引退してたからな、少なくとも現役時代のギゼルさんは当時のオババよりも強かったぞ」


・・・それから更に歳を取った婆さんは俺より強いんだけど・・・まあ、最後に手合わせしたのは結構前だけど。


「確かにオッサンが強かった事は良く分かりました、ですがその話とおっちゃんの設計した武具は関係ないですよね?」


「お前の油玉と火の玉はギゼルさんが居なかったら完成してないだろ、あの人は体術意外にもう一つ、道具使いと言われて様々な道具を駆使して戦いを有利に進める人だったんだよ」


ガンセキは話を進める。


「炎使いとして2流だったギゼルさんは、体術と道具で他の勇者候補との差を補った人だ、勇者の村の歴史の中でも高位魔法を使えないで勇者候補に成ったのは、ギゼルさんだけらしい」


今の勇者の村は剛炎を使える炎使いが少ない、36~60の中では過去に剛炎を使えた人も居たが、その殆どが旅と戦争の中で帰らぬ人に成っている、15~35の中には俺しか炎使いが居ない、0~14ではまだ剛炎を使える歳じゃない。


今まで嬉しそうにおっちゃんの話をしていたガンセキさんの表情が変わる。


「あの人は今も昔も、これからも俺の目標だ」


「今から話す内容は人伝に聞いた事だ・・・美化や嘘も混ざっている可能性が有る、だが魔族との戦争に置いてギゼルさんの戦いの記録が残っている」



戦いの記録・・・ギゼル戦記。



彼の戦記には勝利の記録は殆ど無い、ただ必死に戦った男の昔話だ。


「魔族2体を同時に相手をして、助けが来るまで戦い続けた」


「可動式の橋を構造して、味方だけを通れるようにした」


「兵糧を燃やされても雑草を食べながら、魔物の肉を食らいながら耐え抜いた」


「起きる事のない仲間を背負いながら、敵から逃げ抜いた」


「どんなに勇者から憎まれようと、味方から非難を浴びようと、仲間の為にその体を焦し続けた」


「片方の膝から下を魔族に斬り落とされながら、その手で勝利を掴み取った」



「どんなに劣勢に立たされようと、生き残る為に死なない方法を考え続けた」



ガンセキは目を閉じると。


「子供心に、あの人は俺の憧れだった」


ガンセキは目を開くとグレンを見詰める。


「大人に成った今、あの人が俺の目標だ」



死なない為にか・・・それなら教わった覚えがあるな。


ガンセキさんは戦闘の中で、体術が俺の中心だと言ったが本当は違う。


俺の最大の武器は・・・考える事だ。


戦闘の中で相手の特徴を知り、勝利に導く為の策を練る。


まだ未熟だけど、それを俺に教えてくれたのはオッサンだった。


仕事に置いて、あのオッサンが居なかったら・・・俺は自力で飯を食べれるようには成らなかった。


この言葉が俺の原点なんだ。


『自力で魔物を狩れねぇなら、それを補う為の工夫をしやがれ、分からない事があったら調べろ、炎使いとしての自分の特徴を知れ、お前には何が出来て何が出来ないのか、敵の特徴すら分からねえ癖に、お前は一人で敵に勝てると思ってるのか、仲間に頼りたくねえなら一人でも戦える方法を模索しろ、狩りに失敗したなら何故失敗したのか、そこから必ず勝利への道を掴み取れ、詰まりだ・・・勝ちたいなら死なねえ方法を考えやがれ』


この言葉が俺の全てだ。


グレンは故郷に居るオッサンを想いながら。


「それでも・・・勇者を護れなかったんですね・・・」


ガンセキの表情に影が落ちる。


「あの人は、どんなに活躍しても・・・勇者の護衛として誇りを持っていた」


「確かな事は分からないが、ギゼルさんは勇者の幼い頃からの友人だったらしい、何時か旅立つ彼を護る為に必死に修行して、弱さを補う為に道具を考え体術を身に付けたと俺は思っている」


勇者を失った護衛は故郷に帰るか、そのまま国の将軍として戦い続けるか、放浪の旅に出たりする人も居る。


おっちゃんは村に戻り、汚い道具屋の主になった。


「俺には重過ぎます・・・2世なんて」


ガンセキはそう言うグレンに。


「だがギゼルさんは、お前を選んだようだな」


一方を指差す・・・その先には設計図が置かれていた。


「あまり深く考えるな、お前の出来る事をすれば良いんだ、俺から話を振っておいてすまないが、ギゼルさんの想いを重荷として背負うな、あの人の想いを力にするんだ、その為のグレン専用武具だろ」


あの言葉の本当の意味が、オッサンの想いの重さを俺は理解していなかった。


グレンは手紙に書いてある汚い文を読む。


『一つ言っとくが、お前の世話を焼いたなんて俺は思ってないぞ・・・俺は勇者じゃなく、お前に想いを託したんだ、昔叶えられなかった俺の使命を・・・俺はお前に託したんだ、ただで人に託して自分は何もしないなんて、俺のプライドが許さねぇんだよ』



あのオッサンは自分の想いを力にする為に、俺に武器を託したんだ。


「改めて言わせて貰いますが・・・俺には重過ぎます」


ガンセキがグレンを直視する。


「お前は剛炎を何発も使えない、炎すら飛ばす事も出来ない、火の宝玉具を使う事すら出来ない」


「本来ならお前が候補に選ばれる事は無かっただろう」


グレンは俯き、薄く笑いながら。


・・・おまけに・・・病気持ちだ。


グレンが目を逸らそうと、構わずにガンセキはそのまま続ける。


「だがお前は油玉で火力を上げて、火の玉で炎を飛ばし、玉具の変わりに体術を身に着けた」


ガンセキはグレンに笑顔を向ける。


「誰かに似てると思わないか?」


「止めて下さい、あんな変わり者と一緒にしないで下さいよ」



似ている訳ないだろ、俺には何もない。


オッサンには知恵がある、道具を造り出す閃きも。


ガンセキさんには経験から来る確かな判断力がある、何よりも仲間を護りたい意志を持っている。


アクアはあの年齢で確かな観察力を持ち、戦いに置いて冷静に自分の成すべき事を実行出来る。


セレスは誰よりも神に愛され、人々を愛する優しさを持っている。


俺は自分の命すら護れない・・・信念すら貫き通す強い心もない。俺はただ、変人に言われたことを実行してきただけだ。




ガンセキさんが、俺に闇のランプを渡す。


「旅の資金は国の方からある程度貰っている・・・お前が強くなれば、俺たち一行の戦力向上に繋がるからな、これだけの闇魔力なら15万くらいにはなるだろう」


グレンは笑いながら首を振るう。


「俺の性格からして受け取らないことは分かってますよね、ガンセキさんなら」


「実を言うとな、お前の武器を造る職人は俺の土使いとしての師匠なんだ」


「前回の旅で数週間世話に成って、村に帰る途中で1年ほど修行を付き合ってもらった」


・・・マジですか。


「まさかして、その杭」


「これはその人から貰った宝玉武具だ。玉具造り一筋の職人だから、昔世話に成った礼として俺からも協力したいと思ってな」


やっぱり、金を受け取るわけにはいかない。


「気持ちは嬉しいんですが、その闇魔力は受け取れません、4人で集めた魔力ですし」


ガンセキはニヤケながら。


「その点は問題ない」


そう言うとアクアとセレスの眠っている方を向く。


暫く動かなかったアクアが、少しするとモゾモゾと動き出し。


「ガンさん意地が悪いよ、気付いてたなら言ってくれれば良いじゃないか!」


アクアが気まずそうに起き上がる。


「アクアさん盗み聞きかよ・・・性質が悪いな」


「ガンさんがあんなに笑ってたら起きちゃうよ、まったくもう」


ガンセキが頭をかきながら申し訳なさそうに。


「すまんすまん、それで・・・グレンに武具を買う金を渡したいと思うんだが、どうだ?」


「前からボクはグレン君が丸腰で戦うのは危険だと思っていたから賛成だよ」


そう言えば以前、アクアに何故武器を使わないのか聞かれた事が有ったな。


ガンセキさんが、今度はセレスに話しかける。


「セレスはどうだ?」


セレスは寝ぼけながら立ち上がると、自分の鞄を空けて布で出来た袋を取り出す。


「ふぁい、ぐれんちゃん」


目を擦りながら俺に布袋を渡す。


「なんだ、これ?」


「おばばにグレンヒャんに、わたすように言われてたの、わひゅれてた」


布袋の中身を見ると、金が入っていた。


「グレンヒャんが、オババに渡してたおかねだよ」


昔世話に成ってたから、その分の金を俺は出来るだけ返すようにしていた・・・婆さん、使わずに取っていたのか。


「悪いけどこの金だけは受け取れない、旅が終ったらお前から婆さんに返してくれ」


俺がそう言うと、さっきまでウトウトしていたセレスの表情が変化する。


「だめ、グレンちゃんが使うの・・・グレンちゃん言ったよね、私の決断に従うって」


グレンは黙り込む。


「勇者として命じます・・・このお金と闇のランプはグレンちゃんに預けます、それで貴方は武具を買って下さい」


こんな時に限って、勇者に成りやがって。


「グレン、お前の負けだ・・・諦めて金を受け取れ」


ガンセキの言葉を聞き、グレンはセレスを見ながら。


「分かった・・・この金は受け取る、だけど何時か婆さんには必ず返す」


金を受け取る事に納得出来ないでいるグレンに、アクアが真剣な表情を向ける。


「グレン君・・・人の善意は素直に受け止めなきゃ駄目だよ・・・」


何時も見たいに俺を茶化す口調ではない、多分本気で言っているのだろう。


正直気分が悪い、善意でしてくれている事は分かるんだ・・・アクア・・・お前に分かって溜まるか、俺が婆さんに始めて金を返せた時の気持ちが。


「グレン、お前の性格は俺も知っている積もりだ・・・だが、こう言う時に仲間を頼る術を覚えるべきだと俺は思うぞ」




グレンは何も言わず黙っている。


「お前が強くなれば戦いが楽になる、それだけ俺達の生存確率が上がるんだ」


グレンは深く頭を下げる。


「3人とも、ありがとう・・・この金と、ランプは有り難く使わせてもらう」


婆さんに渡した金だけは使いたくない・・・頼むから俺から奪わないでくれ、俺の数少ない誇りなんだよ・・・この金は。




セレスの方を見ると、既に夢の中に戻っているようだ。


アクアは立ち上がり、セレスの方に近づくと毛布を掛ける。


「それじゃあ、ボクも寝るね」


ガンセキさんがアクアに。


「ああ、起こして悪かったな」


「野宿中なんだから静かにしないと・・・ガンさん魔物に食べられちゃうよ」


ガンセキは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして。


「面目ない、以後気を付ける」


グレンはニヤケながら。


「珍しい場面を見さして貰いました」


ガンセキさんが怒られてる場面はそう拝めない。


「はは、そう言うな・・・俺だって失敗もするさ」


ガンセキは誰にも聞こえない程の小さな声で。



「俺は今も・・・昔も、失敗だらけだ」



だけどグレンがその声に感付いてしまう。


「ガンセキさん、今何か言いましたか?」



軽く視線を逸らし。


「いや・・・独り言だ」






3章:一話 おわり







投稿が遅くなってすみませんでした。


3章は全八話です、一日一話で投稿しますのでどうか宜しくです。


それでは刀好きでした。

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