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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
春よ来い
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十三話 戦う者たち③

引継ぎを終えた三人は、うす暗い隧道をもどる。壁穴の灯りだけでは心持たないので、先頭を歩くトントが手に火を灯す。


「ちょっと多すぎるのよね。これ厳しいんじゃない?」


「そうか? 流石は勇者一行だけあって、余裕すら感じられたけどな」


ガンセキが移動を始めたことで、大地兵の援護が消えた。氷球の狙いは残った四人に集中し、それに加え刻亀が隙をついて狙ってくる。


「まあそうだね。責任者なんて玉っころ無視してたのよ」


初代団員とはいえ、高位魔法を実際に見た経験はほとんどない。


「グレンちゃんも使えるんだよね? 剛炎」


「あの三人と一緒にしないでください。数度の使用で魔力が(から)になりますんで」


トントとフエゴの故郷。民長も高位魔法は使えたが、魔力の保有量は他と一緒。


「並位魔法と同じ感覚で使えるってんだから、もう逆に呆れてくるな」


セレスに至っては、ガンセキやアクアよりも魔力量は多い。


「でも高位にも短所はあるんすよ。使いどころっていうか」


氷の球に対し、雷撃ではなく電撃を使っていた。


「大地の兵だって、術者が安全な場所にいないと駄目だと思いますし」


雨魔法もそれは同じで、使っている最中は守ってもらうか、戦地から一定の距離を置く必要がある。


「予想してたより、あの従属魔法は厄介ですんで、なにか対策を考えませんとね」


グレンは振り返りフエゴを見る。嫌な予感がしたのか、おいちゃんは顔を引きつらせていた。



そんな会話をしていれば、三人は空洞に到着する。


数名の補佐員が迎えてくれた。大地の声に関してなど、いくつかのやり取りをしていると。


「おいちゃんもう限界よ、ちょっと横になるね」


雨避けのタープまで移動すると、フエゴは靴を脱いで倒れ込む。


「まだ一回しか戦ってねえだろうが」


一名が付き添い、マッサージを始めていた。



グレンは記録係のもとに向かいながら、空を見上げる。


「雨が降ってからが問題っすね。特に俺とフエゴさんは」


火属性の濁宝玉や宝石玉が使えないので、水の玉具で雨を凌ぐことになっていた。しかし炎使いである彼らは、水属性の玉具を完全には使いこなせない。


「刻亀の場合は土砂降りって可能性も高いんだよな?」


長年生きたことによる熟練の高さ。雨量によって炎魔法は弱体化する危険もある。


「合体魔法もこっちの雨で対抗するわけなんで、たぶん降水量は増しますね」


ヘンティルは今も一心不乱に作業を続けていた。補佐員に聞いた内容だと、まだ完成にはしばらく必要。




旧花畑。次に残る者。


セレスとアクアをさげて、この空洞で天雲雷雨の準備をしてもらう。責任者は残る。


ガンセキをもどし、大地の兵による援護。旧花畑に残るのは勇者と青の護衛。



魔法がなくても戦えるのはグレンとクエルポ。トントは水魔法も使える。


フエゴは以前、魔法陣による妨害を受けたが、その状態でも火力を上げれていた。


「さすがにクエルポさんはもう無理か」


「あいつは化け物だが、一応は人間なんでね」


魔力回復のため休ませなくてはいけない。



記録係にお疲れさんの挨拶をしたのち、目を通させてもらう。


「俺から責任者に送った内容、けっこう届いてるみたいっすね」


大地の声。氷球に関しては加えるべき点もない。


「刻亀ですけど、たぶん氷壁(ひょうへき)越しからでも、こっちの様子みえてますよ」


トントに意見をうかがえば、賛同の動作を返してくれる。


「俺らが気を抜いた瞬間とか、見逃さずに槍を放ってきやがるしな」


「氷の球が増えてくると、やっぱそんだけ刻亀に意識を向ける余裕もなくなります」


記録係は全てを書き込んでいく。



フエゴは濡れた布で目を冷やしていた。補佐員は彼のこめかみをマッサージしている。


「だいぶ負担もあるみたいっすね」


瞬きをせず、複数の氷球体を脳裏で捉え、一斉に着火する。


「着火眼の射程って、かなり長いんでしたっけ?」


「目に映る範囲は可能だと自慢してたぞ」


崖上からの援護。ただし刻亀よりはある程度の距離をとった位置取り。


「旗持ちの兵士たちに苦労かけるけど、護衛は彼らにお願いしようと思います」


十分経過の笛。交代合図の鐘。フエゴのお守。


「刻亀の槍が上を向く可能性はないか?」


氷球の小刃であれば兵士の盾でも防げるが、刻亀の氷槍となれば難しい。


「一番危険なのは槍の後にくる大きな氷塊です」


もし槍の切先が上を向いた時は、全力で森中へと逃げる。


「氷塊を崖上に発生させんのは、いくら刻亀でも無理だと願いたいな」


何事にも絶対はない。


「申し訳ないっすけど、試してみましょう」


「自分から参加表明しやがったんだ。こんくらいさせて当然だろ」


グレンが近場の補佐員に指示をだせば、彼は急いで梯子に向かう。


くつろいでいたフエゴのもとに向かうと、トントは彼をつま先で小突く。


・・

・・


旧花畑。


隧道口の付近まで下がったのち、ガンセキは祭壇なしで下級兵を十体召喚していた。これまでクエルポを守っていた中級兵は土にもどす。


「ありがとう」


感謝の気持ちを込めながら、セレスは両手で黄土を広げた。


「クエルポさんには俺の護衛と雪の対処を。セレスとアクアは少し前に出て、氷球の接近を防いでくれ」


旗はすでになく、兵士たちもさがっていた。彼らと戦っていた数体はもう、こちらに狙いを切り替えていた。


無数の敵が宙に浮かびながら迫ってくる。


アクアは弓を構えて氷の矢を放つ。セレスは少し前に出て、片手剣と電撃で迎え撃つ。


「普段から祭壇に頼り過ぎだな。もっと杭なしでの練習をしておくべきだった」


ハンマーで地面を叩いて下級兵を召喚するが、敵の従属魔法に押されていた。この状態で氷壁の強度を探るのは、少し不安が残る。



クエルポは放たれた氷刃を掴みとり、それを相手に投げ返す。命中はしたが、削れただけでまだ浮かんでいた。


「このくらいの石をお願いしてもいいかしら?」


両手の人差し指と親指でサイズを教えるが、なぜかハートの形にしていた。


「そこまで細かな造形は難しいですが、了解しました」


ガンセキは丸い石を作りだし、それをクエルポに放る。


「たしかに受け取ったわ」


貴方の気持ち。



オカマは姿勢を整えると、片足を天高く上げたのち、石を投げ放つ。それが氷球に命中すれば、あまりの威力に石も粉々に砕け散る。


「あれくらいなら、歩行の邪魔にはならないわよね?」


「はい。助かります」


大飛炎という攻撃手段もあるが、炎走りを無数に展開させている現状だと、流石に魔力の残量に不安が出てくる。


休憩中に心増水をつかう予定だが、今後も戦いは続く。



クエルポは一方を指さしていた。


「炎走りも連中からすれば攻撃対象みたいね」


「ですが無意味とも気づくようです」


炎走りを囲っていた氷球は小刃を放つが、しばらくすると諦めて近場の下級兵に狙いを切り替える。


これも記録係に伝えるべき内容だろう。


「だいぶ判明してきたんじゃない?」


氷球体(こおりきゅうたい)について。


「注意すべきは壁内部の個体です。良く見ていてください」


氷の壁から時々だがそれは顔を覗かせていた。


「少しずつ前進するぞ!」


地面をハンマーで叩き、下級兵を二体召喚。それをもう一度繰り返す。


前を守っていた二人はうなずくと、セレスが歩き始め、皆が後を追って進む。



段々と傾斜は緩やかになり、氷壁の姿も容易に確認できてくる。


「アクア、余裕があれば近場の土を広げてくれ」


矢を放ちながらも隙を見て、下級兵が残した黄土を足で慣らす。その作業に移った瞬間だった。


「来るぞっ!」


氷壁内部の個体が高く浮かび上れば、その全身を槍に変化させていく。空気中の水分でも吸収しているのか、大きさを増していくのが此処からでも解る。


「なるほどね、これは厄介だわ」


壁内部の氷球体が盾や槍に変化する。


全部で五つ。だがそれらは扇状に広がっていた。



真っ直ぐこちらを向いている槍は、勢いよくセレスへと飛んでいく。


横の二つは円を描きながらアクアとクエルポを狙う。


弓を背中に引っかけ、両手をあけると振り向いて


「ガンさんっ!」


外側の二槍は大きく外をまわりながら、責任者へと迫っていた。


「クエルポさんは俺のもとに!」


少し嬉しそうにオカマは走り出す。ガンセキは地面に片手を添えていた。




先頭を進んでいたセレスの周りには氷球体が複数。片手剣を使って小刃を切り払いながら、目前まで接近してきた氷槍に雷撃を放つ。


アクアの近場にも球体はいたが、二つの氷壁を召喚することで攻撃を防ぐ。回り込んできた氷の槍は左右の雷撃で撃ち壊した。



ガンセキは大地の壁を神に願う。それは二人を囲うように出現。


もともとクエルポを狙っていた槍が命中したが、難なくこれを防ぐ。少し遅れて別の位置でも音がしたが、そちらも防御成功。


だが問題は三本目の槍だった。狙ってそうしたのかは不明だが、クエルポ狙いの攻撃が当たった場所を、最後の槍が貫いた。


大地の壁にめり込んだ状態のまま、オカマは氷の槍を受け止める。壁ごと両腕から胴体までが凍りつくが、彼女の足もとは燃えていた。


「溶かすのに少しかかるわ。責任者さま、守ってちょうだい」


上部より氷球が壁内に侵入してきた。ガンセキは腰のホルダーから杭を抜くと、それに地面の泥をまとわせてから投げ放つ。壁に杭が突き刺されば、串刺しにされていた球体は水になっていた。


ガンセキは上を向き。


「氷塊の有無はどうだっ!」


「ないよ」


「私も」


大地の壁を崩す。黄土から杭を取りだすころには、クエルポも氷の捕縛から解放されていた。


二人が駆け寄ってくる。


「この距離だと氷塊は難しい?」


「まだなんとも言えんが」


意見を聞こうとアクアを見たが、苦笑いで。


「ボクには無理だよ。でもさ、刻亀に水使いの常識は通用しない」


矢を放ち個体に刺さったところで、氷の形状を変化させて内側から破壊する。


「近場では槍からの氷塊。距離があれば先ほどのような進路変更をしてくる」


「どうするのかしら? 私は貴方に従うわよ」


足に炎をまとわせ、それを氷球に蹴り放つ。


「私は無理する場面じゃないと思う」


剣を鞘にもどしたのち、両手からの電撃で敵を削り落とす。


「持ち帰るべき情報は十分に入手できた」


氷壁の強度測定は現状だと難しい。




その時だった。笛の音が鳴り響く。


すこし離れた位置の崖上を見ると、そこにはフエゴと三名の盾もち。


杖を肩に背負っていた彼は、高い場所から偉そうに戦地を見下ろす。




遠くからの方が全体を見渡せる。


着火。


アクアはその光景に目を輝かせ。


「すごいやっ!」


初代団員は誇らしげに。


「さすがね、団長」


ガンセキとセレスは、互いにうなずき合う。


「いけるぞ」


自分たちを囲っていた無数の氷球体が、一斉に燃え上がっていた。

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