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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
春よ来い
201/209

五話 勇者護衛 

赤火が山中に散り、戦いが始まったのは四時ころ。魔物の怒りが安定し、六十名の朱火が出発したのが五時半。


カフンの防衛も現状では大きな問題はなく、一般兵が本格的に単独と戦ったのは、片手で数えられるほどだった。


落下型の長距離一点放射隊。これがあるからこそ、今のところは油玉の出番もあまりない。



時刻は七時。


いつでも山道への出入口を上げれるよう、兵士たちが配置についていた。


魔獣と戦う八名を見送るためか、一般大隊長は第二演習場にもどり、その場にはホウドや軍服も数名。


一夜を通して魔法陣を描いていた明火長は、起きてすぐのようで少し辛そうにしながらも、口調はいつもと変わらず。


「恐らく昼を過ぎるころには、なんらかの不具合が発生するかと。ですので事前に皆へ知らせるようお願いします」


魔物との接触前に一点放射を期待できるのは、兵士側からすれば心強い。山へ攻め入る側よりも、カフンを守る側のほうが恩恵はあるだろう。


「士気への影響もありますので、何時頃がよろしいですか?」


敵からすれば覚悟を決めて攻めてきたようなもの。最初から引く気はなく、一点放射を上手く避けれたとしても、出鼻を挫かれろば勢いも落ちる。


「知らせる頃合いに関しては、私にも判断しかねますので。そちらに任せます」


早すぎれば不安がくる。遅ければ混乱となる。


ホウドは無精髭をなでながら。


「もっと前日から、そういうもんだって言っとくべきだったかねぇ」


団長はこれから進む山道へと意識を向けながら。


「当日にならないとわからないことって多いのよ。だから記録に残しとけば良いんじゃない」


今回の討伐作戦が成功するとは限らない。


「これが最後になることを祈っとる」


属性大隊長が敬礼をすれば、後ろの軍服たちもそれに続く。


すでに門は上がっていた。


ここを守る朱火たちは通り道をあける。


「そんじゃ、ご武運を」


老人が裏で所属する組織からすれば、四人が生き残るのは喜ばしくない。だがあの男の発言を信じるとすれば。


「また会えることを、楽しみにしとるよ」


彼らにとって希望となる。



小隊長を含めた他の分隊はすでに出て、それぞれが配置についていた。


勇者は面々を見渡して。


「行ってきます」


爺は笑顔で。


「気をつけて、行ってらっしゃい」


今回は魔物を刺激する必要もないため、とても静かな出発となった。


・・

・・


本部に戻れば、大柄の軍服が土の領域を展開させていた。彼は役目からして、見送りへの参加はできなかったようだ。


「なにか変化はありましたかな?」


ちょび髭は自分の席に腰を下ろす。


ホウドと一般大隊長は座ることなく、黄土からなるそれを眺める。他の軍服も椅子まではいくが座ることはなかった。



兵士あがりの軍服は、領域を展開させたまま一点を指さし。


「見た感じですと、やはり山側からの攻撃が激しい。特に第六班が狙われていますかと」


正確には明火の一点放射。もともとこの魔法は魔虫を呼び寄せやすく、魔物も刺激する。


今のところ山肌を駆け降りている魔物はいないが、いくつかの黒点が狙っているとわかる。


「待機中の一般小隊を向かわせますか?」


ちょび髭は立つこともなく。


「現状は特に要請もありませんので、下手に動かすのは」


予備の二ノ朱も実力からすれば、属性兵と同等と彼らは判断していた。


「私としましては、沢方面の方が心配ですな」


そこには魔物防柵は設置されていない。


「予想より越えてくる単独が多いので、属性兵の配置を考え直すべきでしょう」


沢から侵入できるのは猿や犬といった系統の魔物。これらは柵があっても飛び越えたり、交差の隙間を抜けてくる。


ホウドは細長い棒を持つと、それで外壁の辺りをさし。


「もう何カ所か壊されとる」


ヒノキから離れていることもあり、まったく群れがいないわけでもない。


「そこから侵入する魔物もいますね」


棒を受け取ると、一般大隊長は発言を続ける。


「ここと、あとここは地形上、外壁はおろか内壁も設置できておりませんので。ここから属性兵を動かすのは難しいでしょう」


指先を湿らせると、それで髭の形を整えて。


「問題の発生していない現状としては、無理に配置を変えることもありませんか。それと第六班に関してですが、どちらにせよ此処の防備を固めるべきですし、いざとなれば」


明火より要請があったときは、第二演習場のほうがすぐに駆けつけられる。



一般大隊長は棒を近場の兵士に渡すと。


「では一個小隊を移しますが、それで」


もともと第二演習場は広くない。


「そうじゃね。ていうか、早くせんと危ないねぇ」


今ここを守っているのは、朱火の二十名のみ。勇者一行が出発したことで、伝達路を確保する兵士たちもいなくなっていた。


準備に取り掛かるため、一般大隊長は第二演習場を離れる。


・・

・・


前回一行が山道を通ったときは、隧道入口までは一時間半もかかっていた。しかしそれは道中の見学などが含まれていたので、実際にはそこまで必要としない。


四人を守るのは一般と属性の二分隊だが、これはイザク・コガラシではない。


山道は傾斜を削って作られたものだが、作戦開始の時点ですでにそうなっていた。目視はできないが下方からは水の流れる音が聞こえる。


黄土は大きい麻袋につめられ、それを力馬が背負っている。恐らく管理しているのは情報兵。



分隊の歩きに合わせているため、ガンセキは杭からの領域しか展開できず。


「どうだ」


「さっそく始まってますよ」


近場で一カ所、少し先で二組が戦闘に入っていた。


気楽なもので、トントは煙草を吸っていた。


「出鼻から挫かれなけりゃ良いんだがな」


「油玉もあるし、なんとかなるわよ。あれで一般兵の子たち、良い体してるしね」


チラチラと責任者の方をうかがっている。


「お前なんだかんだで、開拓の護衛だったもんな」


直に見てきたのだろう。


「そうよ、レンガの兵士って優秀なんだから」


火炎団は各地を移動していたため、他都市の兵士とも面識があるのだろう。


特に朱火は接する機会も多い。


「季節によって大発生とか、大移動する魔物もいるじゃない。で依頼されんだけど、ほとんど私たちに任せっきりなのよ」


「金をもらってるからは、文句も言えねえわな」


新人勧誘以外にも、そういった理由で拠点を動かすこともある。



責任者はしばし考え。


「火炎団の選択次第では、毎年のそういった役目に影響が出るかも知れませんね」


「大丈夫よ。だって登録団体なんて、私たちだけじゃないもの」


会話ができて嬉しそうなオカマ。どこか顔が赤い。



ずっと周囲を探っているグレンは、ほっとした様子で。


「片付いたようっすね」


「ねっ 優秀でしょ」


可愛らしくウインクするが、苦笑いを返す。



セレスたちはグレンたちよりも少し後ろ。


「大丈夫ですか?」


「はい。ヘンティルさんこそ、あまり寝てないんですよね」


ホウドの演説を聞いてから、少し元気がない。


アクアも魔物具で周囲を探っていた。


「前もって怒らせてなかったらさ、もっと激しかったのかな」


「おいちゃんも開拓を手伝わされたことあるけど、普段はもう少し荒れてんのよね」


赤火が山中で暴れただけでなく、第二演習場で皆が騒いだからこそ。


「本当、とんだ団長だわ」


これはやってられないと泣きついて、フエゴは明火の手伝いに回された。


「選んだのはオバサンたちよ」


最初は護衛ギルドの団員として経験を重ねた。


クエルポとヘンティル。この二名との交渉が上手くいき、火炎団は結成される。


「本当はおいちゃんなんかよりさ、もっと適任がいたのよ」


「トントさんかい?」


メラメラ団と話ができてうれしいのか、目が輝いていた。


山の中。これから魔獣との戦いが控えているとは思えないほど、八人は穏やかな空気だった。



会話が聞こえていたのだろう。名前を出された本人は振り返ると。


「あの人はそもそも無関係なんだから、んな役職頼めるわけねえだろ」


ボルガの父親。


「それに俺はあれだ。結局のところ、最後まで現実を見てなかった」


故郷の状況を正しく理解していたのはフエゴだった。


「おいちゃんだってあれよ。どうしていいかわからんまま、なんとなく団長やってたね」


「私だって、一緒だもん」


当時は今のガンセキと同じように、ボルガの父親やクエルポが主体となっていた。


「別にそれで良いじゃない。目標を定めてくれたから、私たちはそれに向けて頑張っただけよ」


オカマは沢があると思われる方角を見つめながら。


「彼も後悔なんてないわ。少なくとも成人を迎えるまでは、貴方たち戦うの待ってくれたでしょ」


ボルガは次男。


「私らが団長に望んだのは、そういう所よ」


山道から外れると、そのまま下ろうとしたが、少しして足を止める。


「準備運動でもしようかと思ったけど、やっぱレンガの兵士って優秀ね」


クエルポの眺めた方角を探っていたのだろう。兵士たちは即座に警戒態勢に入っていた。


「我々が対処いたしますので、今は山道をお進みください」


魔物の位置からすれば、戦闘を任されるのはコガラシの分隊だろう。すでに彼らは動きだし、回り込んでいた。


「わかったわよ」


「鎧なんてしながら、良くこんな山中で行動できるのよね」


思い当たる節があるのか、ヘンティルは笑いながら。


「朱火だってそれなりの装備はしてる。あんたはすぐに追い越されちゃうからわかんないでしょうけど」


新人への指導で山中の歩き方を教えていたが、大半はフエゴよりも身体能力が優れていた。


「おいちゃんだって頑張れば何とか登れるのよ。それに明火長さまのほうが、実戦なんて久しぶりなんじゃない?」


「そうね。私は刻亀戦でも補助が主体だけど、準備運動もしておきたいか」


すでにコガラシたちの戦いは始まろうとしていたが、一行はそのまま山道を進む。


・・

・・


勇者一行を狙ってきたのは、三種いる氷魔亀の一つ。


虫付氷魔亀。大きさはボルガよりも少し大きい。動きはそこまで早くないし、性格も穏やかな部類。それでもここはヒノキ山なため、相手が人間であれば迷わず攻撃を仕掛けてくる。


共存しているのか、甲羅にはボルガ半分ほどの虫が張り付いていた。


位置取りは亀の方が低く、周囲の木々は間隔があいており、太陽の光が地面に当たっている。


「まあまあ急な斜面ですが、足場はしっかりしてまさあ」


分隊十名のうち、当たるのは半分の五人。残った者たちは周囲の警戒をしながら勇者を追って少し先で待機。



もともと魔法を使いたがらないが、補佐に言われたからか以前よりも頻度は上がっていた。


「こいつは連射してくる奴でしょう。ちっと厄介なんで、風魔法を使いやす」


低位炎使いとコガラシが、木から木へと隠れながら敵との距離を詰める。すぐ後ろには魔力なしと低位水使い。


低位土使いは距離をおき、領域で周囲の警戒。



鎧をまとわない分隊長は、右腕の玉具に魔力をまとわせる。


木に身体を隠しながら。


「仕掛けやすぜ、覚悟は良いですかい?」


口に鞘をくわえると、左手で懐刀を抜く。玉具の影響がもっとも強い右腕には、シンセロの片手剣を。




三名がうなずけば、皆の背後から風がふく。


低位炎使いは両手に火を灯し、それを風に当てていた。


コガラシの魔法がうすい赤色に染まる。


火の風・皮膚や鎧系統の魔法を少し弱体化させる。


亀が作り出した小さな氷塊を体内にため込んでたのだろう。虫は角度を整えると、それ専用の器官から放つ。


連射。


木々が邪魔をして、放たれた氷塊も兵士までは中々届かない。


しかも火の風に無力化され、兵士たちにたどり着く頃には、拳ほどだったのが半分以下の大きさになっていた。



コガラシは走り出す。魔虫もそれに反応して、狙いを定めた。


後ろにいた一名がその隙をついて片手剣を振れば、斬撃のみが風に乗って走る。亀の片足に命中するが、氷の皮膚に亀裂を入れるだけに終わった。



小回りの利く懐刀で氷を払い落としながら、亀の右前方に存在する木へと飛び跳ねる。


水使いが叫ぶ。


「いまだっ!」


魔力なしは隠れていた木から身体をだすと、切れ味優先の剣を構え、一点を狙って斬った。


まだ先ほどの亀裂は修復されておらず、そこに鋭い斬撃が命中。氷魔亀は片足を深く斬られ、大きく体勢を傾けた。



コガラシは木の幹を靴底で蹴り上げると、全身を横に回転させながら甲羅ごと片手剣でぶった斬り、亀の後方で着地した。



魔虫は最後の一瞬、狙いを魔力なしの青年に変えたのだろう。


口に鞘をくわえたままのため、変な口調になってしまったが、思わず叫ぶ。


「おみごほっ!!」


鎧をまとう水使いが、その身を盾にして氷塊を防いでいた。



着地したのち即座に姿勢を整えると、コガラシは亀の側面に回り込み、後ろ足を氷の皮膚ごと懐刀で切る。


痛みは小さかったのだろう。亀は剣士に怒りを向け、そちらを向いて噛みつこうとしたが、そのころには後ろに飛びのいていた。


亀がコガラシに気をとられている隙に、低位炎使いは回り込んで油玉を投げつけた。命中したのは先ほど懐刀で斬った場所。


氷の皮膚を修復する前に、火を飛ばして着火させる。


燃え移ったのを確認したコガラシは、懐刀を口の鞘に戻すと、再び接近する。


後ろ足は燃えており、前足は深手を負っている。


もう亀は満足に動けなくなっていた。片手剣で皮膚ごと切り裂けば、空いた左腕で油玉を叩きつけ、そこに兵士が火を投げる。



すでに勝敗は決していた。


戦いを終えたコガラシは、魔力なしと水使いのもとにもどる。


「大丈夫ですかい?」


鎧の数カ所にはヘコみもうかがえる。


「問題ありません。ていうか、あんたよくその格好で飛び込めるな」


他の一般分隊はどのように戦うかといえば、いくつか手はあるが接近戦は仕掛けないだろう。


「鎧なんてまとってたら、逆に飛びかかれやせんよ」


魔力なしは先輩である水使いに感謝と謝罪をなんどもしていた。


低位炎使いは魔力なしの肩を叩き。


「にしても、やっぱ切れ味は大したもんだな」


「はいっ! これもイザクさんのお陰です!」


あまり山中での大声は良くないが、すでに周りは殺気立っているので問題ない。


「その剣もですが、日頃の鍛錬が重要ってこんでさあ」


ゼドがどういうかは不明だが、才能はあるとコガラシは思っている。なにより実直なその姿勢を。


個人としてではなく、一兵士として高めてもらいたい。


「じゃあ、行きやしょう。お楽しみはここからですぜ、皆さん」


「はいっ!」


戦闘狂はとても楽しそうにしているが、他二人はやれやれと分隊長についていく。

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