戦争の終わり
夜明け前。眠る都市の北門には兵士が立っている。
ここまで旅をしてきた男女。女性はこの都市に残り、男性は故郷へと帰る。
二人は恋人ではない。友と呼べるほど仲が良かったわけでもない。魔族と戦った仲間であった。
かつて少女だった女性は、ただ一人生き残った同郷の仲間に。
「私も一緒に行かなくて大丈夫なのかな。もし魔物に襲われても、昔のようには戦えないよね」
その言葉に男は苦笑いを浮かべ。
「せっかくお前のために国が工房を用意してくれたんだ。俺の心配をする暇があるなら、自分の道を進むことだけを考えろ」
たくさんの勇者が戦場に向かい、若い命を散らしていく。私たち護衛は、勇者がいなくなればその役目を終える。
「こうやって生き残ることができたんだ。俺もお前のように、なにか生きがいを探そうと思っている」
いつだって彼は嘘をつく。同じ場所に立っているのに、彼は私を見ているのに、この人は今も戦っていた。
その身を焦がしながら、暗闇の中で勇者を照らし続けた炎使いは、仲間に背を向けて歩きだした。
未だあどけなさの残る土使いは、去っていく男性に別れの言葉を。
「遠回りになっても、生きることを優先させないと駄目だからね」
夜明け前の薄暗い世界を、太陽の光が暖かく包み込む。
照らす存在を失った炎使いは、仲間に向けて別れの言葉を返す。
「俺たちの戦争は終わった。まずは故郷に帰って、セリアに謝らねえとな」
彼はいつだって嘘をつく。
自分を偽って。
平然な顔をして。
己の本心と戦って。
どんな姿に堕ちようと、たった一つの約束を守るために戦った。
それが正しいなんて思ったことは一度もない。
だけどそんな彼こそが・・・私たちの炎拳士だ。