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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
13章 終わらない冬
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十四話 夢の終わり

開かれた幕に、いくつもの視線が集中する。


 

最初に姿を現したのは勇者。まず全員を見渡し、頭をさげると、緊張した様子で案内に従い歩き出す。


次に責任者。全体にお辞儀をすると、再度火炎団に向けて小さく頭をさげた。


いつもグレンがお世話になっています、といったところか。


「あら、いい男」


背後からなにか聞こえたが、ヘンティルたちは気にしないことにした。


続いて青の護衛。セレス以上に緊張している様子。


「アクアと言います、どうか仲良くしてくだしゃい」


手足の関節が曲がることなく、ガンセキの後を追っていく。


最後に顔を出した赤の護衛は、入ると早々に兵士側の人たちに向け。


「挨拶が遅れてすみませんでした、赤の護衛グレンです」


続いて火炎団にも挨拶をするが、視線はそらしている。



勇者と責任者は椅子の横に案内され、赤と青の護衛はその後ろにつく。


四人分の席を用意されなかったのは、発言権が強すぎても困るという、勇者側の意向によるもの。


「あい、皆さんお忙しいところ、集まらせて悪いねぇ。堅苦しいのは抜きで、どうぞお座りになって」


一般大隊長はため息を押し殺し。


「会議中もお飲み物は自由にとってください、おかわりも用意してありますので」


大幕の外で湯でも沸かしているのかと思うと、少し面白い。


「そんじゃ、まずは手数の確認から行こうかねぇ」


一般大隊長はうなずくと、手元の資料を皆に見えるように上げ。


「まず、人数分用意できなかったことを謝らせてください。もし必要でしたら、近くの者に合図をよろしくお願いします」


数名が手を挙げて用紙を受け取る。


「まずは一ページから」


一般大隊長が音読する。



刻亀討伐作戦の参加者。


一般兵・八百の一個大隊(戦闘以外の役職を含めれば千名ほど)


属性兵・二百の一個中隊。


赤火・六十の十五班。


一ノ朱火・二百の十班。



二ノ朱はこれまでの戦いで一ノ朱に編成され、その数は現在半分ほどとなっている。


一般兵と属性兵も彼らほどではないが、当初よりも数は減っているとのこと。


赤火は怪我人がいるものの、その数は減らしていない。



気の抜けた口調は、もしかするとワザとなのか。


「とりあえず決行日は一週間後ってこんで、皆さんよろしく頼んまさぁ。それまでに此処へ戦力を集めるとして」


本陣の防衛。


一般兵・四百の二中隊。そのうち半数は待機。


属性兵・五十の一小隊。


二ノ朱・四十名の二班。(予備)


一ノ朱・四十名の二班。


明火からなる長距離一点放射隊。



一般大隊長は抑え気味の咳ばらいをすると。


「ヒノキ以外の方面を一般兵と属性兵で受け持つ。激戦を予想される山側は、朱火と明火にお願いしたい」


すでに話は通っているのだろう。反対の声は上がることもなかった。


「要である明火の護衛は二ノ朱。戦況により彼らは一ノ朱に加わってもらい、その穴は我々一般兵で埋めさせて頂く」


長期間で見れば外側の壁は有用だが、決行日となれば人数的に守るのは難しい。


「外壁は基本捨て、内壁のみで防ぐ。土の領域により侵入した魔物を特定、兵士側で対処します」


山麓は群れよりも単独が(おも)であり、訓練だけでなく実践を重ねた一般兵も多い。


「決行日までには、畑の収穫もしないとねぇ」


そこまで終えて、赤の護衛が遠慮がちに手を挙げる。


「あの、一通り聞いてからの方が良ければ待ちます」


「大丈夫です、意見をお聞かせください」


許可を得たため、グレンはガンセキの隣まで足を進めると。


「多分ですが、内壁を突破されることもあると思います。だからその、木とかもっと伐採したほうが」


敵の存在だけなら土の領域でも把握(はあく)できるが。


「明火の一点放射隊でしたっけ? ヒノキ側みたいに丸裸になってれば、いざってとき助かるんじゃ」


外壁と内壁のあいだは視界が開けている場所が多いものの、内壁の中はそうでもない。


「地盤の心配もあるんだけどさぁ、そこら辺はなんとかなるとしても、自然破壊が過ぎるとワシ怒られちまうねぇ」


責任者がグレンの意見に手を加える。


「丸裸とまではいかなくても、もう少し見通しが利くぐらいにはできませんか。木が密集していますと、戦いが基本接近戦になりますし」


相手が二足歩行であれば、足場の整った場所を使うことが多い。歩道周辺の木々は太陽の光が地面にあたるようになっている。


しかし今回の敵は魔物。多少の悪路であれば、難なく抜けてくるだろう。


一般大隊長は現場監督の方を見て。


「こちらで何カ所か例をあげるとして、可能でしょうか?」


「いや無理だよ。あと一週間だろ」


ヒノキ山で彼らは道づくりをしている。


「現状でいうと、刻亀までの脇道は草刈りで限界なんだ。まあこれから人が集まるみたいだし、余裕があればってとこか」


「不安は残りますが、内壁を突破されないよう、全力を尽くすということで。納得いただけますでしょうか?」


グレンは一歩さがることで、意思を一般大隊長に伝える。


・・

・・


話し合いは本陣の守りから、ヒノキ山への攻めに移る。


「ここの魔物さんは確かに気性が荒い。でも調べてみるとねぇ、ちょっとした特徴が解った」


怒りは長時間続かない。


「まずは夜明け前に出て、山の魔物をできるだけ刺激してもらいてぇ」


受け持ちは赤火の六十名。各班が散って暴れ、とにかく相手を怒らせる。


「次にある程度落ち着いたら、朱火三班が出発。そんで山中の定位置に各自ついとくれ」


刻亀のいる旧花畑を囲うように六十名が展開。


「最後に要である勇者一行さまは、うちの連中が護衛させていただきます」


属性兵の五十名。隧道入口やその先の前線拠点設営も彼らが受け持つ。



追加要素は一般大隊長より皆に説明される。


赤火はそのまま旧花畑周辺で戦い、敵を引き付けてもらう。時間交代で休憩をしてもらうが、隧道入口で属性兵に戦況を伝える。


属性兵はカフンと隧道の間を受け持ち、情報の伝達路を確保する。一般兵との協力体制。


ホウドは用紙の一文を眺めながら。


「要はあれだねぇ」


本陣の防衛失敗。


旧花畑への防衛線崩壊。


勇者一行の敗北。


「この中のどれか一つでも崩れろば、ワシは引き上げの判断をくだすんで。皆さん、互いに協力しながら、少しでも長く維持させていきましょう」


伝達路が分断された場合も、作戦の続行は不可能となるだろう。


「それでは、各持ち場の担当者について。用紙をお待ちの方は確認をお願いします」


本部である第二演習場には属性大隊長。


内壁の指揮は一般大隊長。補佐として一般中隊長と属性小隊長。


一点放射隊は明火長。



隧道入口は属性小隊長(イザク分隊所属)


情報伝達路。ヒノキ側は上記属性小隊長。カフン側は一般小隊長(コガラシ分隊所属)



属性中小隊長、一般中小隊長の何名かは現在、デマドまたは中継地の指揮に当たっている。朱火の一部も物資運搬のため参加できず。


また赤火長(トント)二班班長(ラソン)のどちらかは、常に隧道入口で待機してもらい、属性兵との共闘関係を維持してもらう。


勇者一行が休憩する隧道先の空洞。最前線の拠点には衛生兵を含めた補助要員を配置。そこの防衛は一ノ朱火長に任せられる。


・・

・・


ホウドはお茶をすすると、一息を入れ。


「ここから先は、勇者さま方にお願いした方がいいねぇ」


勇者はうなずくと立ち上がる。


「私たちが四人では刻亀を倒せないと判断していることを、これまでの説明で察して頂けたかと思います」


最初はうつむいていたが、ぎこちなく唾を飲み込むと、セレスは面々を見渡して。


「理由としましては、赤の護衛の魔力量が一般のそれと同じく、心増水を使っても長時間の戦闘には耐えられないこと」


平均年齢が若く、それぞれが熟練の域には達していない。


「神位魔法に関してですが、私はまだ使えるというだけで、会得にはほど遠い」


前回決行した勇者一行と比べても、自分たちは弱い。


「共に戦ってくれる方を募りたい。情報を伝達できるのなら、万が一失敗に終わっても次に残せます」


「ワシらもそこら辺は承知してたからね。異論はないよ」


一般大隊長もうなずく。


「でっ 候補はあげてんのかい?」


責任者は立ち上がり、よく頑張ったとセレスの肩をたたく。


「火炎団の各火長にお願いしたいと思っております」


明火長と二ノ朱火長は判断を二人に任す。


約束どおり、一ノ朱火長も成り行きを見守る。


「おいちゃんは兎も角、他の連中はそれぞれ決行日には役目があるのよね」


「俺らももう年だしな。うちの若い奴らなら、初代団員と同等以上に戦えるのもいるぞ?」


赤の護衛が責任者の隣に立つ。


「自分たちが欲しいのは戦闘力よりも、魔獣と戦ったという経験です」


ガンセキがグレンに続く。


「そちらがおっしゃる通り、優秀な部下が揃っている。なんとか編成は組めませんか?」


交渉。誰が味方で、誰が敵か。


そして中立は誰か。


責任者が問いかけたのは、二ノ朱火長。


「確かに難しいですが、できないこともないかと。特に赤火は問題も少ないですね」


彼女。いや、運営からすればこれが思惑。


「一点放射隊は私が指揮を採ることになっているのだが」


専門の知識を必要とする。


「ペルデルさんとこの補佐さんみたいに、そっち関係の弟子も何名かいませんか?」


これまで火炎団と関わってきたからこそ、見えることがある。


「でっ 何くれんの。タダ働きなんイヤよ」


グレンは尋ねていた。今回の刻亀討伐に関する報酬があるかどうかを。


「俺と責任者の二人分。相手は魔獣王ですし、相応な額になるかと」


勇者一行に魔獣討伐を目指す者が多いのは、先の戦いへの支度金。高価な玉具を揃えたり、自兵の強化に役立てる。


「けっ 話になんねえな。そりゃ成功したらだろ」


「そもそも報酬なら、おいちゃんたちも受け取ってるのよ。前払い込みでね」


会議の場。この交渉を、それぞれがそれぞれの立場で、興味深く聞いている。


いつの間にか、セレスの隣には青の護衛が。


「ボクらが戦場に行けば、魔獣討伐の報酬だけじゃなくて、ちゃんと国からもお金をもらえるんです。でもそれを好きには使えないのです」


どんなに緊張していても、今後のためにアクアも交渉に参加する。


「それと同じで、刻亀の報酬はあくまでも火炎団へのだから、二人が自由にできるのじゃないです」


「なにが言いたいのかな、おいちゃんちょっと分かんないのよ」


責任者が続く。


「もし了承を得られるのなら、お二人の故郷復興に、我々の名を使っても構いません。この金は勇者一行から貰ったものだと」


トントは吐き出すように。


「上辺だけの協力なんていらねえよ」


「刻亀討伐の後、俺らは本当の役目を全うしなきゃいけねえ。だから、これ以上の協力はできません」


フエゴは肩を落とし、覚悟を決める。


「交渉決裂だね。おいちゃんたちのことは諦めて、他の候補をあげな」


勇者は火炎団の面々を見渡す。


「どうしても、一緒に戦ってはもらえませんか?」


「うちの団員なら、俺らから話を通してもいい」


赤の護衛はわかりましたとうなずき。


「では、兵士から何名か力を貸してください」


ホウドはお茶のおかわりを頼んだのち。


「名前を挙げてもらえますかねぇ、あと理由も教えてもらいてぇ。そこから判断いたしますんで」


「ありがとうございます。では、まず一人目はイザクさんを」


レンガを守ったときグレンは彼の指揮下に入っている。剣技だけでなく、刻亀との戦いで、彼の意見を取り入れていきたい。


「二人目はコガラシさん」


一般大隊長が口を挟む。


「その二名は確か魔力を持たなかったかと。少し、厳しいのでは」


ガンセキが返答する。


「長期戦です。共闘は刻亀を休ませないのが目的ですので。それに彼らの魔法への対処能力は非常に高いです」


刻亀の魔法は文様により強化されたものが多い。ログからの情報があったとしても、実際に受けてみなければわからない。


属性使いとは違った意見をもらえる可能性が高い。


「だとしても、どちらか一名にすべきではないでしょうか」


「まあ、勇者さま方が望むなら、ええんじゃない。それに、コガラシ君が優秀なんは、ワシよく知っとるからねぇ」


風魔法を使うことで、イザクの剣がとてつもない威力を発揮する。


一般大隊長は納得がいかないまでも、ここで意見を引く。


三人目は責任者から。


「本当にすべき時は抑えてくれると思うのですが、念のため補佐にも協力をお願いしたい」


調和型の土使い。守りと攻めは有用。


「また彼女はイザク、コガラシ双方の分隊と繋がりがあります」


四人目はアクアより。


「ボクらずっと守ってもらってきたから、メモリアさんにも協力してほしいな」


「彼女は優秀な攻撃型の土使いです。なおかつ指揮能力の高さから、参謀役として迎えたい」


運ばれたお茶を、待ってましたと受け取って、それに息を吹きかけながら。


「なるほどねぇ。良く観察してらっしゃる。してっ、もう全員でええのかぃ」


最後の一人は、グレンが言わなくてはいけない。


「イザク分隊に優秀な防御型の土使いで、名をボルガというのですが。双角なんて用意してるくらいだから、目につけてるのではありませんか?」


その名前を出した瞬間だった。トントが妨害に移る。


「しょせん兵士だろ。うちの団員の方が戦えるはずだ」


これが彼にとって、最後の希望。打ち砕くべきは、これまで関わり続けてきたグレン。


「たしかに団員さんたちは兵士よりも優れている」


魔獣を倒した名声の恐ろしさ。


「でも俺が一番危惧しているのは、刻亀を倒せたとして、勇者一行に集まる期待です」


古代種族が去った。その事実は人類を劣勢に追いやった。


代わりとして現れた、勇者という存在。


実績を残した勇者一行が消えたとき、その消沈は大きい。


「俺らが今から戦うのは、魔獣王です。勝てるかどうかわかりませんが、もし勝てばどうなるか想像できますか?」


古代種族。


「陽ノ(ヒノモト)の民が去った。あの瞬間の再来です」


もう、勇者という替え玉は利かない可能性がある。


「共に戦うのはあんたらじゃないとダメだ。団員さんたちだと、名が弱い」


刻亀を倒したのは勇者一行と、かつて魔獣を倒した初代団員。


勇者が倒れたとしても、火炎団という名は残る。



グレンはトントをしっかりと見つめ。


「以上を踏まえたうえで、俺が指名するのはこれまで共に戦い、実力者と判断した兵士です」


愚か者は、上下の歯を噛みしめる。


「お前なら赤火は兎も角、朱火なら相応の奴あげれるだろ」


「ボルガだけは、絶対に外しません」


もう一人の愚か者は、これまでだと諦める。


「そうかい。できれば彼の代わりに、おいちゃんを加えてくれないか」


見守っていたヘンティルが、フエゴをにらみつけ。


「自分が何言っているかわかってるのか。それが個人としての判断とするなら、私は明火長として許可はださないわよ」


「決断するさ。今まで何もしてこなかった団長として」


トントは足掻く。


「俺たちは気づいたらここにいた。俺たちがこいつらと共闘すれば、また流されて今度は戦場まで行かされる」


夢を終わらせまいと。


「本当の意味で後戻りできなくなるぞ。お前はそれでいいのか」


討伐ギルドとしては、もう世間が認めない。国を統べる者たちが、それを認めさせないだろう。


「あの人の息子を、これ以上の危険にさらすわけにはいかない」


フエゴとトントは純宝玉の武具を持っていない。


「罪なら、慰謝料なら払ったはずだ。兵士になったのは坊主の意思だろ、俺たちは関係ねえ」


魔獣を倒したときの報酬を、父親の分に上乗せして、ボルガの母親に無理やり押し付けた。



それでもフエゴは譲らない。


「周りを見てみろ。こんな膨れ上がって、もう収集はつけれないだろ」


ただ一人、火炎団の巨大化を防ごうとした男がいた。


「俺がいなくなっても、赤火はなんとかなる。お前だってそうだろ、教育係が一人いなくなるだけだ」


また二人で、一からやり直そう。


・・

・・


彼らは魔獣さえ倒せば、なんとかなると思っていた。だが現実は甘くない。


村を作る。または築き直すには、国だけでなく都市や町の許可がいる。すべては繋がっているのだから、自給自足では成り立たない。


『もし刻亀討伐に協力してくだされば、我々が火の民復興のため、都市へ掛け合いましょう』


「本当に協力してくれるのか?」


『すべては貴方がた次第です。我々ができるのは切欠だけです』


「それでもいい。望みが、まだあるなら」


『わかりました。では、契約を交わしましょう』


「まってくれ、俺だけじゃ決めれねえから、あいつの意見も聞いてからにしたいんだ』


『ええ、構いませんよ。それでは、いい返事をお待ちしていますね』


成人を迎えたての娘にすがるのは情けないが、彼にはもうどうすれば良いかわからない。




意見をこうにも、相手の精神状態はそれどころではなかった。


「協力する」


少女は嬉しそうに微笑みながら。


『ありがとうございます』


そこから、すこし困った表情をつくり。


『ですが、今のままでは少々難しいかと。なので、まずは仲間を募りますか』


「俺たちだけじゃ駄目なのか。クエルポは目覚めてみないとわかんねえけど、ヘンティルはもう少し付き合ってくれるらしいんだ」


『はい、なにせ相手は魔獣王ですので』


「まあ、頼れるのはあんたしかいねえしな。スウニョさんに従うよ」


『少しでもトントさんのお力になれるよう、微力ながら私もお手伝いしますね』


「なんでも言ってくれ、俺にできることならやるから」


『ではまず手始めに、二十名から行きましょう』


トントとフエゴは、途中からもう気づいていた。


魔獣さえ倒せばなんとかなると、現実から目を背けていた。


失ったあの時点で、すでに手遅れだったと。


それでも、諦めることができなかった。


全部わかっていながら、最後まで付き合ってくれたあの人を死なせてまで。


諦めることができなかった。


・・

・・


魔獣の毒を逃れ、生き残ったのは彼らだけじゃない。


「人が集まらなきゃ、復興なんてできないだろ。もう皆、新しい場所で、新しい人生を送ってるんだ」


「ちがう、そんなことない。俺だけじゃないはず」


助けを求めて、無関係のヘンティルを見る。


意見を求めて、クエルポを見る。


「フエゴ、答えろ」


お前は。


「もう終わったんだ……トント」


無能な馬鹿は、無言で会議場を去っていく。



最後の瞬間を見届けたオカマは、低い声で。


「団長が戦うなら、私も参戦するわ」


明火長は一点を睨みつけ。


「トントが戦うなら参加してもいいが」


無責任な団長は勇者一行に問う。


「こんな状態の僕ら四人で、君ら一行と連係なんてとれるのか?」


勇者は相手の目をしっかりと見て。


「交渉という形をとったのが、私たちにできる精いっぱいの誠意です。それでも私たちが、あなた方を利用した事実は変わりません」


すべては偉い人たちの思惑通り。なにもせずとも手札はそろっていた。


力を貸してくれなどと頼まず、最初からボルガの名前を出していれば、フエゴは自分から名乗り出ただろう。


「そうだね、君たちに礼を言おう。できる限りの協力を約束する」


少しでも彼らが有利に立てるよう、こちらからのお願いという形をとった。



勇者一行の四名は、火炎団に向けて深く頭をさげた。



ホウドはお茶をすすると。


「じゃあ、編成もろもろ、考えないとねぇ」


まだ会議は終わっていない。一般大隊長の進行で、話し合いは続いていく。

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