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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
2章 黒く、誇り高き獣
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六話 たとえ迷惑を掛けようと




俺を追ってきた15体の犬魔を、全て殲滅した。


だが・・・ボスが現れない・・・。


グレンは、じっと何かを考えるように、その場所に立っていた。


まだ戦闘は終っていない、セレスやガンセキさんアクアはまだ戦っている。


ボスは・・・来ないのか・・・ガンセキさんからの指示はまだ来ない。


ガンセキさんの作戦ではボスと戦うのは俺の役目なんだ。


だが、ボスがこの戦場に現れなくては、作戦が実行できない。



ガンセキさんの考えた、ボスを倒す作戦の内容は。


まず始めに、もし俺達の前に現れた群れが小さな群れだったら、ボスをそこまで恐れる必要は無い。


小さい群れのボスは、俺がさっき戦った小犬魔くらいの実力だからだ。




だが実際に現れた群れは、予想を超える程に大きかった。


大きい群れのボスが最初から戦う事はまずない、基本塒(ねぐら)で待機しているか、少し離れた場所で様子を見ているか。


ボスが現れるのは、犬魔が鳴いた時だけだ。




ガンセキさんはボスが複数連れて現れると読んでいた。


その場合、ボスは一人で居る俺を先に狙ってくると予想を立てた。


ボスは部下を引き連れて俺を追う。



俺は追われながら全速力で走る・・・俺は犬魔よりも速い、だがボスだけは追いついてくる事が可能だ、ボスは魔法は使えないが、魔力を纏い身体能力を底上げできる。


それが出来ないボスなら恐れる必要は無い、そのままこれまでと同様に戦えばいいんだ。


そして、ボスが俺に追いついたその瞬間を狙って、ガンセキさんが大地の壁を召喚する。


その大地の壁は、ボスの攻撃を防ぐ為に使うのではなく、俺とボスを囲うように召喚する。


後から追いついた雑魚は、中に入る事ができない・・・詰まり俺とボスは1対1だ。


俺は単独を狙って仕事をしてきた、群れのボスなら1体1であれば何とか倒せる。




だがこの策には、弱点がある。


まず、大地の壁を離れた場所に使う場合、ガンセキさんは攻撃魔法はおろか、自身を守る事すら出来なくなる。


俺がボスと戦っている間は、アクアがガンセキさんを完全に護る必要があり、セレスは大地の壁の周りに居る雑魚の殲滅に向かう。





ボスが俺を深追いせず、集団から離れない可能性がある。


その時はアクアが俺の援護に向かい、ガンセキさんは俺のサポートを止める。


セレスとガンセキさんが周りの敵を殲滅させる・・・その後、俺とアクアの援護に向かう。



それまで、俺とアクアは持ち応える必要がある。




だが、まだボスが現れない。


グレンは3人の方を見る。


まだ犬魔は残っている・・・だが、数は大分減っている用に見えた。


グレンはガンセキに語りかける。


「ガンセキさん、後そっちには何体残っていますか」


『10体前後だ、何とか数は減らせている』


「ボスは、今何処に居ますか」


『理由は分からんが、此処に向かう途中で止まっている・・・どうやらボスの一体だけだ』


「ボスが出て来た塒には、まだ魔物は残っていますか?」


『いや、大きい魔力だったから複数いると思っていたんだが、どうやらその魔力はボスの魔力だったようだ、今の塒には小さい魔力の反応しかない・・・戦力にはならんだろう』


・・・成る程な・・・。


「ガンセキさん、俺はボスの方に向かいます、そっちは3人に任せていいですか」


『駄目だ・・・これ程の群れを率いるボスだ、4人で此処の雑魚を殲滅後・・・ボスを狙う』




グレンが人に本気で頼みごとをする事は・・・滅多にない。


「ガンセキさん・・・お願いします、俺を行かせてください・・・」


ガンセキの言葉が返ってこない。


「敵のボスが・・・此処に現れないのは、俺との決着を着ける為です」


「奴は俺が殺します、この手で・・・必ず」


突如グレンの前に岩の腕が召喚され、一方を指差す。


『残った敵を殲滅後、俺達も援護に向かう、1人で戦いたいなんて事は絶対に言わせないぞ・・・分かったな』


「はい・・・ありがとうございます」


グレンは走り出す。


・・・

・・・

・・・

・・・


群れの魔物の中には、追い出される魔物がいる。


理由としてはボスの座を狙い、戦いを挑み敗れた者。


産まれ付き体が弱く、群れにとって邪魔にしかならない者。



・・・周囲と姿が違い、同種とすら認められない者。



今から数年前、俺が仕事を始めた頃は南の森ではなく、比較的に安全な東の森で俺は仕事をしていた。


だが俺はその時から1人での仕事に拘り、東の森ですら上手く戦えていなかった。


俺と同じく東の森で仕事をしていた大人達に、何度も命を助けられていた。



何時ものように犬魔達から命からがら逃げ出して、ボロボロに成りながら村まで帰ろうとしていた。


空腹で腹の音が鳴る。


仕事を始めて数ヶ月、未だに魔物一匹すら狩れていない。


2日ほど飯を食べていなかった。


また・・・婆さんに食事を頼るしかないか・・・。


情けなかった、自分で飯すら食えないなんて、自分で生きる事すら出来ないなんで・・・惨めだった。




グレンは腹を減らしながら、魔物に見つからないように村へ。


そんな時だった・・・目の前に犬魔の子供が現れた。


グレンに気付くと犬魔の子供は身構える。



・・・こいつ犬魔なのか?


犬魔と言う魔物は、雄が全身茶色の毛色で、雌が全身白の毛色だった。


だけど俺の前に居るのは真っ黒であり、犬魔の子供を見るのは始めてだけど、明らかに他の犬魔とは違う特徴が毛色の他に、もう一ヶ所あった。


前足の爪が鋭かった・・・本来の犬魔の爪は速く走る事に優れている、その為ここまで攻撃に向いた鋭い爪は持っていない筈だ。


こんな事が自然界にあるのか、この黒いのは爪と毛の色を除けば、それ以外は間違いなく犬魔だ。




そう言えば婆さんに聞いた事がある・・・魔物の中には他の同種より、体内の闇魔力を多く持つ魔物がいて、姿も少し異なって産まれてくる奴等がいる。


そんな魔物が産まれる事はそれなりに有るが、異常な見てくれの所為で群れの仲間に殺されるか、群れから追い出される。


単独の魔物でも、親から見捨てられる事が多い。


そんな魔物達の多くは成長する前に死んでしまう。



だが、もしその魔物が成長したら、恐れと蔑みから人々はこう呼ぶ・・・魔獣。





この犬魔の子供は傷ついてはいない、だが周囲には仲間が居ないようだ。


グレンは腰に挿した短剣を抜く。


将来魔獣に成るかも知れない魔物は、たとえ子供でも殺せば報酬が高い・・・こいつを殺せば、俺だけの力で飯が・・・誰にも頼る事なく飯が食える。



黒い犬魔は弱々しく喉を鳴らす。


炎を片手に灯す。


俺の短剣には火の濁宝玉が埋め込まれているが、何故か俺の魔力には反応しない為、剣に炎を灯せない。




この時はまだ、油玉は試作段階で実戦には使用していなかった。


俺が店の手伝いをする代わりに、おっちゃんは油玉製作を手伝ってくれていた。


材料費から何まで、おっちゃんが出してくれていた。




暫くお互いに睨み合い、グレンが短剣で仕掛ける。


黒犬魔は爪で短剣を払おうとするが、剣の勢いで押されて背中から倒れる。


炎の拳で倒れた黒犬魔に掴みかかる。


黒犬魔は横に転がり何とかグレンの炎を避け、起き上がりながらグレンに噛み付く。


グレンの腕に血が滲む・・・まだアゴの力が弱く、其処まで強い痛みは感じなかった。


両腕を力の限り振り、そのまま振り落とそうとするが、前足で必死にしがみ付いて離れない。


爪が皮膚に突き刺さり、物凄い痛みが腕を襲う。


グレンは片手に持った短剣で顔面を狙い斬る・・・痛みに耐えながらの混乱状態で斬った為、傷が浅かった。


だがその傷は、黒犬魔の片目を切り裂いていた・・・流石に黒犬魔も耐えらず、グレンから振り落とされる。



黒犬魔は起き上がり、グレンに背中を向けて逃げ出す・・・。


だが、前足の爪が邪魔をして上手く走る事が出来ないのだろう、その歩みは他の犬魔に比べると遅かった。


グレンは走り出し、黒犬魔を蹴飛ばす・・・地面に倒れたその小さな体に圧し掛かり、短剣を翳す。


必死の形相で黒い犬魔に向け、短剣で突き刺す。





だが、剣先が・・・犬魔に突き刺さる事は無かった。





・・・なんで・・・刺せないんだ・・・こいつを殺せば、飯が食える筈なのに。


その後も、黒犬魔を殺そうとするが、外れてしまい地面に突き刺さる・・・それでも、グレンは繰り返し何度も殺そうとする。


「クソ!! クソ!! クソ!! クソ! クソ! くそ・・く・・そ・・・」


終には短剣を地面に落としてしまう・・・。


黒い犬魔に、水滴が落ちる・・・犬魔は不思議そうにグレンを見詰めていた。



自分でも分からない・・・目から、何かが溢れて止まらない・・・なんで、俺はこいつを殺せないんだ・・・。


グレンは立ち上がる。


「生き残って・・・お前を見捨てた奴等を・・・見返してやれ・・・」


黒犬魔は立ち上がり、グレンを・・・じっと見詰めていた。


「さっさと・・・行け」


犬魔の子供は動かない。


「勘違いすんな、人間はお前等魔物の敵だ・・・次に合う時は・・・絶対に殺してやる」


黒い犬魔はグレンの落とした短剣を咥えると、グレンに近づき足下に短剣を置く。


グレンは振り向く事も無く、じっと其処に立っていた。



黒犬魔は・・・グレンから離れると、振りかえる事も無く・・・そのまま森の奥に消えていった。


・・

・・

・・

・・


ボスに向けて走り続ける・・・グレンの顔は無表情だった。



グレンは、ただ走り続ける。


お前に向けて走り続ける。



誇り高き、黒い魔犬に向けて・・・ただ走り続ける。






2章:六話 終わり。




此処まで読んで頂、嬉しいです。


次回はボス戦になります。


では、明日も宜しくです。


刀好きでした

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