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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
外伝 壊れゆくものたち
176/209

大昔 花畑にて

洞窟。いや、先人の手で掘られたものだとすれば、隧道(ずいどう)とでも呼ぶべきが。


それを抜けた先は、一面の花畑だった。種が統一されているところからして、ここは自然にできた場所ではないのだろう。


染め物。化粧品。なんの目的で使われるのかは、今となってはもうわからない。


多少の傾斜はあるものの、美しいといえるその風景の中で、ぽつんと岩が花に埋もれていた。


なぜこんな山中に花畑をつくったのか、村の近くでは駄目だったのか。先人の考えることは、もう解らない。


隧道から男が一人でてきた。その方面は二十mほどの崖となっている。



男は花を踏み潰さないよう、岩まで足を進めると、背負っていた荷物をそこに置く。


岩をよじ登る。高さはそこまで変らなくとも、景色は良い。


指をくわえ音を鳴らす。


「おいっ 来たぞ、チビ!」


叫んでも見たが、風が花や木を揺らすだけで、変化は見られない。


「ったく、どこにいるんだか」


男は荷物を岩の上に引っ張りあげると、中身をあさる。


白い布のなかには、硬そうなパンが二つ包まれていた。


よく噛めば気持ち甘い気がしてくるが、そこまで美味いものでもない。


周囲の花々を見渡しながら。


「自然ってのは偉大だねえ。最近は手入れもできてないのに、良く育ったもんだ」


食事を終えると、男は岩の上で寝転ぶ。


真っ青な空を仰ぎながら。


「春だねえ」


肌に当たる風が匂いを運んできて、とても心地いい。



くつろいでいると、花が揺れる。


不自然。


何かが花をかき分ける音。



男は即座に身体を起こし、脇に置いていた短剣を抜く。


岩の周囲に花はなく、土が剥きだしになっていた。


「チビか?」


花は揺れ、少しずつ近づいてくる。


現れたそれは、チビと呼ぶには少し大きい。しかし男が警戒を解いたのだから、恐らくこれがチビなのだろう。


「お前、またでっかくなったんじゃないか?」


花の中から顔を出したチビは、声をあげることもなく男を見上げていた。


「俺がわかるか?」


チビはなんの反応もなく、じっと男を見つめる。


「大丈夫そうだな。そうだよな、お前は」


チビはあくびをするように、口をあけた。


「なんだ、寝てたのか?」


意思疎通はできない。それでもこんな所まで会いにくるのだから。


「悪いな、本当は水辺にでも離してやりゃあ良かったんだが、そういった場所は危ないんだよ」


水を飲みに、獣が寄ってくるかも知れない。


「まあ、元気そうで何よりだよ。お前大人しいから、けっこう心配してんだぜ」


男は岩から降りると、荷物をあさる。


「本当は鶏肉でもありゃ良いんだけどな、そんなもん俺でも滅多に食えないんだよ」


固いパンをナイフで小さくし、チビに放り投げる。


「普段は鈍いくせに、こんな時だけは素早いんだな」


パン屑は地面に落ちることなく、今はチビが噛んでいた。


「無反応でつまんねえんだよ、お礼くらいあっても良いんだぜ」


文句を言いながらも、容器に水を注ぐ。


「まあ、お前みたいな奴で良かったのかもな。犬や豚なんてもう駄目だ」


ペットなんかではない。


そんなもの飼う余裕はなかった。馬鹿にもされてきた。


一方通行だとしても、男にとっては大切な話し相手だった。


「どうなっちまうのかねえ。最近変なんだよ」


異変はここだけではないらしい。



人が居なくとも、花々は咲き誇る。


「神さまは、何やってんのかね」


不安でしかたない。


「頼むから、お前は変わってくれんなよ」


チビは反応することもなく、無言で水を飲んでいた。

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