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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
12章 雪の降る山
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十五話 中編 歪な絆

三話投稿の二話目です

トントは報告を兼ね、ニノ朱火長に別件の用事があるとのことで、途中まで四人は一緒に歩いていたが。


「またすぐ寄せ場に行くかも知れねえから、お前は先に休んどけ」


赤火はすでに解散させていたが、チビデブは離れようとしなかった。


「へい、ですが」


一緒に行きたいと、不満そうな顔をする。


「心配すんな。またいつも見たく、小言いわれて終わりだよ」


「親ビンもたまには言い返さねえと、要求がどんどん酷くなってくるっす」


チビデブはなんだかんだで、親分のことが大好きだった。


「言っておくがな、奴との付き合いはお前よりも長いんだよ。本当に譲れねえ時は、俺だって反抗くらいできるわ」


一応でも立場は対等。


「へい」


チビデブは肩を落とす。


「昨日今日と魔物も身体を休めてるから、今夜あたりからまた動きだすかも知んねえだろ。二人しかいないんだから、お前にへばられちゃ俺が困るんだよ」


「わかったっす」


納得のいかない表情だが、デブはトボトボと別方向に進む。


カフン村跡地には居住だけでなく、一通りの施設がそろっていた。


精神への負荷は魔力の回復にも影響するため、娯楽とまではいかないが、大浴場など癒やしの場も用意されていた。


「ほんと、あんたには勿体無い部下だ。でもねえ、いつまで面倒見させるつもりなのよ」


何時まで、面倒を見るつもりなのか。


「人材はいつだって不足気味だし、彼もうベテランの部類に入るでしょうに。良い加減、独り立ちさせてやらんと」


新人の面倒を長年見てきたオッサンは、昔の事を想いだしながら。


「依存ってのはさ、けっこう怖いのよね」


「あいつがそれを望んでる以上は、俺から一班を再編成させる気はねえよ」


トントは二人を残して歩きだす。


「どの道、あと少しだしな」


夢を見させてくれ。


明火長は溜息をつき、話題を切り替える。


「でっ 赤の護衛様はどんな感じだった」


ケッケと笑いながら。


「クソ真面目な兄ちゃんだ」


「おいちゃん達があの年の頃は、もっと餓鬼だった気がするよ」


確りしている。


「あんたらみたくチャランポランなオッサンも多いがね。それとは逆で若くても、落ち着いている子はいるでしょ」


確りしているとは、少し違う気がしていた。


「押し殺してんだよ、無理やり」


「でもグレンちゃんはさ、ちゃんと自分なりの考えはもってんじゃない。成否は兎も角として」


人付き合いが苦手ということは、三人もなんとなく理解していた。


「嫌でも目的のために行動して……あんたら見習いなさいよ」


「うるさい、オバサンは黙ってて」


フエゴは餓鬼のようにそっぽを向く。



何年たっても、歳を重ねても、あの日のように。



目の前には、中継地にあったものと似た建物。


「それじゃあ私たちは行くが、一人で大丈夫?」


「誰に言ってやがる。俺は赤火長様だぞ」


ケッと唾を吐き、トントは建物の中に入っていく。


明火長はその背中を眺めながら。


「役目は果たしていなくとも、自覚があるだけ、あんたより立派だ」


「……そうね」


よく似ていると二人はグレンを評価したが、なにが似ているのか。


・・

・・


建物に入り、奥の一室の前に立つと、緊張した様子もなくノックをする。


「返事くらい待てないんですか?」


女は椅子に座り、机の上でなんらかの作業を行っていた。


「いつも返事なんてしねえだろ」


トントの接近がわかるのか、彼がノックしたときだけ無視される。


「お疲れ様です。いつも悪いですね」


感情がこもっていない。


紙に数字を。大昔より伝わるソロバンという計算機を、時々弾く。


「心配していましたよ」


顔を上げ、にっこりと微笑む。


トントたちより、一回り若い。


「兵士が一人死んだが、赤の護衛は無事だ」


「それは良かったです」


視線を用紙に戻し、再び作業に移る。


「祈願所の魔物はそのままだ」


「困りましたね。責任とって、トントさん行ってくださいますか?」


溜息をつこうとするが、小言をもらうため堪えて飲む。


「すぐにとは言ってませんよ。こちらで処理班を用意するので、その護衛という形でも」


「無理に決まってんだろ、俺を殺したいのか」


二ノ朱火長は鼻歌混じりに仕事を進めながら。


「私も貴方に死なれては困ります」


一定の経験を積むと、火炎団を抜けていく者たちも多くいる。


「予定していた人員を揃えられず、作戦開始時点でも戦力が不足していた状況ですので、そのぶん頑張って貰わないと」


用紙と向かい合ったまま、うふふと笑い。


「トントさん馬鹿だから、自分で自分の首を締めちゃったんですよ。ちゃんと責任は取らないと」


「俺にも譲れないもんがあってな。まあ、約束まであと少しだ……やれってんなら、何でもやるよ」


ペンの動きが止まる。


「祈願所の方はこちらで何とかします」


「良いのか?」


ペンを机に置き、用紙の束をコンコンとまとめる。


「ええ」


「できれば、今日は休みたいんだが」


顔を上げ、困ったなあといった表情をつくり。


「今夜あたりから、また魔物の動きが活発になると思うのですが」


「じゃあせめて、夜までは休ませてくれ。救出に向かった連中の体力が持たねえ」


うーんと悩む姿勢を整え。


「今夜お酒に付き合ってくださるのなら、トントさんはお休みでも良いですよ」


「酒は苦手なんで遠慮しますよ。もうあんなのは懲り懲りだし、お前への借りを増やしたくもねえ」


そうですかと頷いたのち。


「では、夜までゆっくり休んでください」


「ああ、悪いな」


二ノ朱火長は微笑みを消し。


「すみません。一ノ朱も先日の狂い雪で怪我人が多く、本当に人手がギリギリなんです」


「わかってるよ。俺のせいだってこともな」


兵士に限らず、火炎団も輸送などで全てがここにいるわけではない。


日中はヒノキ山を拓く作業に護衛も必要。



トントはずっと扉の前に立っていたが、女性の位置する机まで足を進めると、一枚の紙をそこに置く。


女は首を傾げ、それを手に取る。


「死んだ補佐の遺言で、分隊長に宝玉具を用意したいんだとさ」


「はあ」


フィエルの文字。シンセロという名だけは、本人の直筆で震えていた。


「赤の護衛様のサインもありますね」


「頼めるか?」


女は文章を確認する。


「もう一手間必要ですが、別紙で契約を交わせば」


「そうか」


少し微笑む。


「お優しいんですね」


「うるせえ」


二ノ朱火長は受け取った用紙を丁寧にしまう。


「すみませんが、手続きは明日以降にしてもらえると」


「ああ、俺の方で伝えておく。忙しいのに悪いな」


兵士とは別に、火炎団も必要な物資を中継地から取り寄せなくてはいけない。


先日メモリアたちが運んできた積荷も、数を確認してからそれぞれに分配する。



シンセロは明日この地を発つ。彼女はそれまでに、色々と計算をまとめる必要があった。



トントは咳払いをしたのち。


「あと、もう一つ頼みがあるんですが」


これほど敬語が似合わない男も珍しい。訝しげに相手を睨む。


「なんですか?」


「できれば、煙草を取り寄せて欲しいんですけど」


要件を聞き、呆れた表情になる。


「そういった私物は前もって各自用意しておくよう、伝えておいたはずですが」


「いや、多めに持ってきたんだけど、吸えば無くなるって最近気づきまして」


溜息をつく。


「誰かに貰うか、それが駄目ならお金でも払って買えば良いじゃないですか」


「今までそうしてたんだけど、もう自分の分がなくなるとか言われまして」


女は少し怒った表情で。


「どちらにせよ、こちらで取り寄せることはできません。貴方だけ特別扱いすれば、他者の不満が増してしまいます」


煙草など吸わなくとも、生きていける。


「赤火長という自覚があるのなら」


小言がしばし続く。


何だかんだで、この二人は長い付き合いだった。


「だいたい、もう良い歳なのだから、健康に気を使わないと」


「はいはい、わかりましたよ」


ケッと不貞腐れると、トントは背を向けて歩きだす。


首だけを動かして振り向くと。


「まあ、煙草のことは置いといて、よろしく頼むわ」


どのような立場や関係にせよ、愚かなことに繋がりは深い。


トントの去った室内に一人。



二ノ朱火長は小さく息をはき。


「笛……ふけなくなっちゃいますよ」


うつむいた。


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