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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
12章 雪の降る山
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十一話 朝食

こちらは二話投稿の一話目です


勝手な行動をとったトントとデブに対し、合流した四名は怒鳴り散らす。心配したからとかではなく、本当に迷惑そうにしていたのが印象に残った。


後から到着した二班は雪に怯え、魔物の鳴き声に震えており、正直にいえば情けない。


ペルデルからはガラが悪いと聞いていたが、実際にみると苛ついているという感じだった。どちらかと言えば朱火のほうが、落ち着きもあり優秀な集団に思えた。




もうすぐ夜明け。雪はまだ降っているが、もう魔物の声はたまにしか聞こえない。


三班は薄めた酒を呑むこともなければ、賭事に興じる様子もない。男も女も関係なく、目をギラギラとさせ、神経を尖らせていた。


そんな者たちに守られながら、四人は朝食の鍋を囲う。


大した料理ではないが、担当するのはチビデブ。


清水を少し混ぜた熱湯の中に、まずは干し肉を入れる。


都会育ちのフィエルは不審のこもった眼差しで。


「木の根?」


「自然薯っていう芋っす」


どこからか取ってきた、粘り気の強い芋を擦る。


デブが出した小さな容器の中には、茶色い物体が詰められていた。


「なんすかそれ、もしかしてあれっすか」


目を輝かせるグレンに苦笑いを浮かべ。


「こりゃミソっていいまして、大豆を発酵させたもんです」


グレンはそもそも料理ができない。剣国としては一般的なもので、味噌汁なども飲んだ経験はあるが、見るのは初めてだった。


味噌を溶かしたあと、沸騰させてはいけないのだが、火力の調節も難しいため気にしない。


面々は興味深くその光景を眺めていたが、少ししてフエゴとトントが戻ってきた。


「やっぱついてって正解だっだのよ。こいつ毒草摘みやがった」


「うるせえ。いつも最後の確認はデブにまかせてんだよ」


トントの左手には、良くわからない草。まだ土がついているようで、それを魔法の水で洗い落とす。


「黒魔法を料理に利用するんすか?」


「我儘はいっちゃいけねえ、物には限りがあんだ。まあ飲んでも害はないし、そもそも俺らは魔物だって食うぞ」


鍋の水は祈願所にあったものをつかったが、いつもはトントの水魔法を利用することが多い。


フエゴは曇り空を指差すと。


「だいたいグレンちゃん、これも黒魔法じゃない?」


魔法とは認めない者もいるが、間違いなく神位と同列の魔法だろう。雪は今にもやみそうだったが、鍋の中に落ちては消えてゆく。


チビデブは草を受け取ると。


「一度アク抜きしますんで、もうちょっとお待ちを」


味噌の入った鍋はここの倉庫にあったものだが、それとは別の物をデブは用意していた。アク抜きといっても適当で、塩ゆでをしたのち、冷水で洗って絞るだけだった。



擦った自然薯を容器に移し、そこに干し肉と野草の味噌汁を注ぐ。


チビデブが朝食を作っているあいだに、フエゴは細枝を削り箸を用意していた。



グレンはその場から立つと。


「先にもらって良いっすか。あと、干し肉は外してもらえると」


なにをしたいのか皆もわかったようで、文句をいう者はいなかった。


「おれは早く食いてぇんだな」


一人を除く。


「オイラだって我慢してんだから、同じデブならちょっとは堪えろ!」


チビデブから容器と箸を受け取ると。


「悪いっすね」


「熱いんで、気をつけるよう言ってくだせえ」


布の上で横たわるシンセロへと、中身をこぼさないよう、慎重に足を進める。


数時間前に目覚めていたが、麻酔の影響がまだ残っているようで、すこし調子が悪いとのこと。


「身体起こせますか?」


グレンの声に目を開ける。


「……はい」


上半身を起こそうとするが、脇腹が痛むようで力が入らない。グレンは容器を布に置くと、片手でシンセロの背中を支える。


視線が変わり、少し目が回ったのか、しばらく手の平を額に当てていた。


「朝食できたので、もってきました」


「すみません。食欲があまりなくて」


今回の救助にあたり、本当は衛生兵も同行させたかったが、彼らはシンセロよりも実戦経験が浅い。それでも怪我は予想されていたため、物品だけは持参していた。


「痛み止めよ。胃にくるらしいから、なにか入れといたほうが良いわ」


フィエルが渡したのは、紙に包まれた茶色の粉。


「わかりました」


置かれていた容器に手を伸ばすが、痛みで指先の動きが止まる。


「熱いんで気をつけてください」


グレンが代わりに取り、シンセロに持たせる。


まずは一口。


「おいしいです」


本当は味など良くわからない。


「良かった」


半分ほど食べたが、吐き気がでてきたため、シンセロは箸をおいた。


しばらく横になりたいとのことで、グレンの支えを借りながら、再び傷口を上にして身体を休める。



一通りの介助を終えると、自分の朝食に入る。ボルガともう一名を除き、他の者たちはすでに食事を終えていたようで、今は赤火の連中に配っていた。


実際にはそこまで寒くなかったが、なんとなく身体の冷える夜だった。


となりではデカブツが自分の容器に味噌汁を注いでいた。


「こりゃあ、うめぇんだな」


「もうちっと落ち着いて食えよ、汁こぼれてるぞ」


気持ちもわかる。まともな飯を食ったのは、すごく久しぶりな気がする。


「おめぇだって人のこと言えないんだな」


「うるさい」


グレンは握り拳で箸を掴んでいた。


塩気と共に色々抜けたようで、干し肉はあまり美味くない。というか味噌との相性には首を傾げる。


それでも(すす)ってみれば。


「うめえ」


箸ですくうと、その先には擦った芋が付着していた。顔を出した太陽の光に、表面についた汁が照らされる。


・・

・・


一時間ほどが経過した。


グレンの手を借りてシンセロは立ち上がる。


「どうですか?」


「薬が利いたのか、思っていたよりは歩けそうです」


怪我人がいることは、すでに赤火も承知している。今は祈願所の外で待機していた。


「そりゃよかった。歩けるならさ、自分の速度で歩いたほうが良いのよね」


肩を貸したり背負う場合は、身体の姿勢がある程度固定されてしまうため、そのぶん傷口への負担に繋がる。


「俺らはあくまでもお前の護衛だ。手は貸さねえからな」


グレンもとい、シンセロのペースに合わせて移動する。


「わかってます」


ゆっくりと歩きだした一般補佐から離れると、グレンは祈願所の出入り口に向かう。


その先には居たのは、身体に赤い布を巻いた者たち。


「突然の命令で疲れてるとは思いますが、本陣までの移動、よろしくお願いします」


「あの沢を越えんのは無理だな」


班長の一人と思われる者が、壁の上に飛び乗ると、下り坂の先を見通して。


「せっかく祈願所にきたから、そっちのルートを通ろうと思う。けっこう安定した道に入れるから、あの兄さんでもなんとか歩けるはずだ」


グレンたちは途中から二手に別れたが、目的地は一緒だった。


勇者一行が近道を通ったのには理由がある。


「本当は先にあんただけでも俺らで運んで、さっさと準備に取り掛かって欲しいんですがね」


迷惑だという空気が感じとれるが、一応の納得はもらえたようだ。


もう一度頭をさげ。


「頼んます」


赤火の者たちは互いに目を向け合うと、やれやれと言いながらその場から散開する。


いつの間にか、トントとデブが背後に立っていた。


「誰かさんに指揮能力がないからよ、俺らは基本まとまった行動ができねえ。ただ闇雲に寄ってくる魔物を殺すだけだ」


彼は指揮を放棄しているのではなく、それをできる器量がない。


「まあ俺の指示なんかなくても、連中は勝手に自分らで動くから、安心しろ」


肩を叩くと、二人も祈願所から離れていく。



シンセロは脇腹を押さえながら、グレンの横で立ち止まり。


「ご迷惑をお掛けします」


「そりゃこっちの台詞ですよ」


自分たちで強化した祈願所に愛着があったのか、ボルガは内外を見まわっていた。壁の上から飛び降りれば、巨体が地面を揺らす。


「じゃあ、行くんだな」


祈願所にて祈りを捧げてきたのか、一足遅れてフィエルがでてくる。


「忘れ物はないわね」


食事のとき声をかけたが、ゼドは死んだように眠っていた。


「お腹がすいただす」


「起きなかったあんたが悪い。今は干し肉で我慢してください」


フィエルに叱られるが、肉を渡され微笑んでいた。



魔物の死骸は放置したまま。


「次に使う人たちに怒られたら、グレンちゃんが責任持つのよ」


「あんたは俺らと行くんすね」


これまで行動してきた六名の中で、唯一の火炎団。


「自分から言ったことだしさ、ヒノキまでは付き合うよ」


グレンは肩を貸そうと、シンセロの左側に立つが。


「とりあえずは、自分で歩いてみようかと」


一般補佐はゆっくりと坂をくだっていく。


「フエゴさんの話しだと、しばらく魔物は動けないらしいから、今日中に寄せ場までは行くわよ」


「わりぃことばかりじゃねぇってこんだな」


ボルガとフィエルは一般補佐を追い越す。


「ほらグレンちゃん、さっさと行くよ」


フエゴも歩きだせば、グレンは一人その場に残される。


上着が汚れてしまったゼドは、祈願所にあった布を身体に巻いていた。干し肉をむさぼれば、腕の隙間から布の下が裸だと見て取れる。


「置いてかれちゃうだすよ」


「ああ、いま行く」


振り返れば、すでにボロボロの囲い壁。ここに到着したとき、どれほど嬉しかったか。


空を見あげれば、雲の隙間から薄い青がみえる。



祈願所に頭をさげると、グレンは五人を追って歩きだした。

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