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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
2章 黒く、誇り高き獣
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五話 前編 犬魔対炎

犬魔は徐々に俺達への間合いを詰めて行く・・・一斉に攻撃を仕掛ける為に姿勢を低くした。


その瞬間だった、ガンセキがグレンに叫ぶ。


「今だ!! グレン、行け!!」


グレンは走り出す。



戦いが始まる。


・・・

・・・

・・・


犬魔が攻撃に移る瞬間に走り出した為、敵の不意を突く事に成功した。


両手に炎を灯す。


犬魔を両腕で払いながら敵の中を、強引に突っ走る。


だが、炎で一瞬触れただけでは、敵に燃え移らせることはできない、それでも犬魔どもを熱さで仰け反らせるくらいなら可能だ。


俺が突然動きだしたことによる混乱が収まる前に、敵中を突き抜ける必要があった。


犬魔と犬魔の隙間を縫うように走る。より多くの敵が俺を追って来るよう、遠くの魔物にも火の玉を当てる積もりだったが、正直言ってそんな余裕が無い、敵中を走ってるだけで精一杯だ。



もう少しで敵中を抜けられる、その時だった一体の犬魔が俺に攻撃を仕掛けて来た。


グレンは前方に炎の壁を造り出す、炎の壁で犬魔の視界を塞ぐ。


だが犬魔は恐れることもなく、炎の壁に飛び込みグレンに攻撃を仕掛ける。


グレンは片足に力を入れて、犬魔の噛み付きを避ける・・・回避には成功したが、どうやら炎壁の火力が弱かったようで、敵に着火することができなかった。




そのまま走り抜け、敵中を突っ切ることに成功した。




くそ、犬魔を1体仕留め損なったか。でも壁の火力を上げると魔力をそのぶん消費しちまう、今後のために節約しておきたいから、炎の壁は敵の視界を塞ぐ用途にだけ使うことにする。



グレンは走りながらガンセキに話し掛ける。


「ガンセキさん、俺に何体くらい着いて来ましたか?」


無論近くにガンセキは居ない、だがグレンの足下から胴体を通り、声が頭の中に直接響く。


『大まかだが15体だ、残りの25は此処に残っている』


この魔法は大地の声という・・・今回の作戦の要とも言える魔法である。




走りながら後方を確認して、追ってきた敵との距離を確かめる。


犬魔は人間よりも脚力は上だが、俺は魔力で身体能力を底上げしているから、全力で走ればあいつらより速く走れる。


だけど奴らから離れすぎちゃ駄目なんだ、着かず離れずを意識しながら走る必要がある。


俺が気に掛ける必要があるのはそれだけじゃない、ガンセキさんのサポート有効範囲(半径50m)から出ないように走らなくてはいけない。


はっきり言って無理だ、逃げながらそれだけのことをするなど俺には不可能である。大地の声があるからこそ、不可能が可能に成るんだ。


大地の目によりガンセキさんは、戦闘範囲全体を把握している。俺はそのお陰でガンセキさんから指示を受けることが出来るんだ。




『グレン、その速度を保て』


かなり速いな。全力とまでは行かないけど、後のことは俺の体力に任せるしかないか。


・・

・・


『そのまま行くと、俺の目が届かなくなる。目の前にある岩を越える前に、左側に回れ』


直角で曲がると犬魔に追いつかれるため、円を描くように左に曲がる。


・・

・・


『外側を走り過ぎだ、今から壁を造って犬魔の行く手を邪魔するから、その隙に俺達のいる方へ近づけ』


難しいことを言ってくれる・・・やるしかないけどよ。



次第に俺自身、逃げるのに慣れてくる。ガンセキさんの補助がなくても、なんとか感覚が掴めてきた。


事実。ガンセキさんの声も少なくなって来ている。



だが、俺は甘かった。犬魔の知能が高くないと言っても、いつまでもただ追いかけているだけじゃない。


ガンセキが突然に言葉を吐く。


『犬魔が少し前に2手に分かれていた。左に逃げれば俺のサポートが届かなくなる、右に曲がると挟み撃ちを喰らうことになる』


このまま真直ぐ逃げても挟まれるか。


グレンは周辺を確認する。


俺の正面を0時として、2時の方向から4体。


先頭に1・真ん中に2・後尾に1が向かって走ってきている。



俺がガンセキさんから離れられないことに気づいたのか。


犬魔のくせに・・・野生の勘か?


「どうにかして避けれるルートはありませんかね」


『すまん・・・俺が気づくのが遅すぎた』


俺が後方にだけに気を配りすぎていたのが原因だ。ガンセキさんは自身の身を守りながら、アクアとセレスの指揮を取って、その上俺の補助をしているんだ。


何か策を考えねえとな。


・・

・・


グレンは2時の方向の4体に向けて走り出す。


「ガンセキさん。横長の岩壁を造れますか?」


『ある程度なら可能だ』


「俺が止まったら、真後ろに召喚して下さい」


責任者はしばらく沈黙すると。


『なんとなく策が分かった。一度しか使えんと思うが、お前を追っている犬魔を仕留められるかも知れん』


それは有り難い。


『前方の4体を仕留められるか。あまり時間は掛けられんぞ』


「3体までなら、残りは根性で何とかします」


『1体は俺が何とかする、後の3体はお前で何とかしろ』


後ろから追ってくる魔物たちを岩の壁で足止めしている間に、前方の4体を仕留める・・・策とは言えないな。


グレンは走りながら両方の腰袋に手を入れて、油玉と火の玉を取り出す。


そのまま止まらずに、向かってくる4体のうち、先頭を走る1体に向けて油玉を投げつけ、続いて火の玉を投げる。


油玉は見ごと命中。だが火の玉は横に飛ばれて避けられた・・・世の中そんな甘くないか。


まあ、油玉だけでも良しとしよう。まだ手段は残っている、物凄く嫌なんだけど。


グレンは両足を前に、地面を削りながら急停止する。


停止後すぐに、油玉を地面に落とす。


そうすると、落とした油玉を右足で踏み潰した・・・油が飛び散る。


俺は以前、手からしか炎が出せないと言った。だけど油を使い着火させれば、自分の足を燃やすこともできる。


左手に炎を灯し、右足に着火する。


魔力を右膝下に集中させることで、下半身の衣類を燃やさないようにする。


右足は手と違って手袋がないから、物凄く熱い気がする。だから嫌いなんだ。


・・

・・


グレンを追いかけていた犬魔約10体は、突然止まった標的に対し、先頭を走っていた犬魔3体が飛び掛る。


その時だった、グレンの背中に向けて飛び掛った犬魔3体は、突如召喚された岩の針壁に激突する。


並位中級魔法、岩の針壁・・・岩の壁、その一方の表面に鋭く尖った突起が付いている。


・・

・・


グレンは自身に向けて走ってくる、4体の犬魔だけに集中していた。


後方の敵は・・・ガンセキさんを信じよう。


先頭の犬魔から中間の犬魔までの間は、勘だが3メートル。



まずは先頭の犬魔1体を確実に仕留める。


犬魔は走りながら、一瞬で飛び上がり俺に向かって、鋭い牙を表に出す。涎が糸を引き、噛まれることへの恐怖を引き立てる。


だが俺にその恐怖は利かない、己の間合いに入った所で炎の蹴りで左に吹き飛ばす。


犬魔は攻撃を仕掛ける際、飛び掛る癖がある。それは慣れない人間には恐怖だが、慣れた人間からすれば狙い目だ、空中では身動きが取れないからな。


いま蹴り飛ばした犬魔は油玉が命中している、その為に一瞬炎が触れただけでも瞬く間に燃え広がり、暫くすれば息絶えるだろう。




次は中間の2体、その息の根を止める。


先頭の犬魔は既に油まみれだったから、薄い炎の壁でも充分に着火出来ただろう。だが、敵の視界を塞ぐと言うことは、俺自身の視界も塞がれるんだ。先頭の犬魔に炎壁を使っちまうと、次の2体への対処ができなくなる。


その為の炎の蹴りだ。熱いから足の炎は消す。


中間の2体は横一列に走っている訳ではない、少し先を走っていた犬魔が飛び掛かった瞬間を狙って炎の壁を造る。真直ぐ飛んでくる為、飛び上がった瞬間さえ分かれば後の軌道は予測できる。


炎の壁から先に飛び出してきた犬魔の首を左手で掴み、身体を捻りながら流す。その反動を利用し、後から飛び出してきたもう1体の犬魔を左足で蹴り飛ばした。


左足で蹴り飛ばした犬魔は、右に吹っ飛んだが威力が足りなかったようで、倒れた後に四本の足で起き上がった。


だがもう1体の犬魔は、俺の左手で首を握リ絞められ、今ももがいている。悪く思うなよ、お前ら魔物は俺たち人間の敵なんだ。


グレンは左手に炎を灯し、握り絞めた犬魔を焼き尽くす。最後の力を振り絞った犬魔の爪が、グレンの左腕に突き刺さっていた。


耐えてやるさ、これくらい・・・お前は、死ぬほど熱い思いをしているんだからな。




残るは後尾の1体。


手に持っていた犬魔を投げ捨て、構えようとする。だが遅かった、その時には既にグレンに向けて飛び掛っていた。


くそ!! 間に合わない!!


しかしその牙がグレンに届くことはなかった。


犬魔の後方に突如現れた、岩の腕が轟音を鳴らしながら地面に激突する。



『グレン、まだ安心するには速いぞ』



岩の針壁を回り込んで来た犬魔が再度2手に別れ、一方がそのまま左側よりグレンを狙い、もう一方は前方に逃げる道を塞ぎに掛かっている。


左側には3体・前方には2体・右側にはさっき蹴飛ばした1体。


恐らく岩の針壁の向こう、詰まり後方にも2体残っているだろう。



そうなると俺の選ぶ道は1つだけだ、右側の1体・・・グレンは走り出す。


『壁の向こうに居る2体は俺が足止めする、お前はその一体に集中しろ』


止まって戦っている時間は無い、走り抜けながら止めを刺す。



グレンは走りながら、一体の犬魔に向けて火の玉を投げる・・・。


犬魔は横に少し飛びそれを避ける。


犬魔が回避し、着地したその瞬間を狙い油玉を投げる・・・。


それが命中し、犬魔が油塗れになる。



そのまま走り続けて、右手に宿した炎で犬魔を殴りつける。


俺の左腕はさっきの怪我で、狙って投げる事が上手く出来なかった、始めから火の玉は捨て玉だったんだ。


グレンはそのまま走り抜けた・・・危機は脱した。


だが、まだ此処からだった。


・・

・・


・・

・・


息が切れる・・・だが俺を追ってきた敵は、かなり減った。


これまで何とか戦っては逃げを繰り返し、残り3体まで減らす事に成功した。




現在の戦況を説明する前に、作戦の全貌を・・・。


この作戦は、ガンセキさんが手を加えた事により、かなり別物になっている。


まず、本来の策では俺は囮役だった・・・だが今は違う、俺がこの作戦に置いて、敵の数を減らす係りになっている。


ガンセキさんは俺の傍には居ないが、防御だけでなく、攻撃もしている。


岩の壁はその場に召喚するだけだが、岩の腕は召喚した後に敵にぶつける必要が有り、その分扱いが難しい・・・以上の理由で、本来の策ではガンセキさんが離れた場所への攻撃魔法は無理だった。



俺の策では、ガンセキさんには自身・俺・セレスの護りをして貰い、アクアには自身を護りながら戦って貰う積もりだった。


アクアなら戦況に応じて、2(セレスとガンセキ)を護りながら戦ってくれると思ったからだ。



だが現在・・・ガンセキさんが防御をしているのは、自身と俺の2人だけだ。


セレスを護らなくて良い訳だから、その分を離れた場所からの攻撃魔法に使える。




中心に居る3人は・・・。


ガンセキが自身を守り、その場での攻撃はしない。


アクアは常にセレスの傍に居て貰い、勇者の護衛と敵への攻撃。


セレスは敵を攻撃しながらガンセキさんに集まった犬魔を払う役を。


詰まり、3人は守りを主体に戦っている・・・中央に残った25体の殲滅を目指している訳ではない。


確かに俺の考えた策よりも、俺自身の安全は保証されるが・・・その分中央に居る3人の息が合わないと成り立たない。



あと、ガンセキさんは逃げ出した俺を追って来る犬魔の数は、自分達の場所に残る犬魔の数より少ないだろうと読んでいた。


そして俺はガンセキさんの力を借りて、自分を追ってきた魔物の殲滅を行う。



だが作戦に誤算が生じた。



まず群れが予想を超えて多すぎた事だ、30体を超える犬魔の群れは前例がない。


最初広場に現れたのは約40体だが、まだ動きがない(ねぐら)が一ヶ所存在しており、その中に居るであろう数を想像すると、全体で50体前後だろう。



次に、力の優劣がかなり激しい。ボスだけが強くて、雑魚は大体同じと言う訳じゃない。力による順位の構造社会だということは知ってたが、これ程に差がある群れは前例がない。


俺の魔力を纏わせた蹴りでも、立ち上がり再び攻撃を仕掛けてきた奴もいた。




グレンは自分の目前に佇む一体の犬魔を見詰める。


なんとなくだが、他の雑魚と違って獰猛って言葉が似合わない。冷静に獲物を狙っている、そんな感じがする。


恐らく、俺を追っていた15体のまとめ役はこの犬魔だろう。


特徴は肉が薄く、ほかの犬魔より少し小さい気がする。こいつのことは小犬魔と呼ぼう。



こいつと一緒に、他の2体も同時に相手をする必要があるのか。



小犬魔が他の2体に指示を送ったようには見えない、だが2体は同時にゆっくりと動き出し、グレンを囲むように位置どる。



『2体は俺が相手をする、お前はヤバそうなのを相手にしろ』


グレンは言葉を発さず、頷きだけを小さく返す。


犬魔3体が一斉にグレンへ攻撃を仕掛ける。




右後方より飛び掛った犬魔は、岩の壁に行くてが阻まれるが、前足で壁を蹴り跳ね返る。その判断により、壁への激突は免れた。


しかし次の瞬間だった。岩の壁が倒れて犬魔は押し潰される。



左後方より仕掛けた犬魔に対しては、岩の腕で対応する。


だがその犬魔は飛び込まずに走っていた、岩腕の攻撃を冷静に避け、グレンに接近する・・・安易に岩の腕に背中を見せたのが間違いだった。


今まで地面に激突した岩の腕は土に帰っていた、それを見ての判断だったのかも知れない。


地面にぶつかってもなお、岩の腕は土に帰らず、そのまま回転しながら手の甲で魔物を破壊した。






小犬魔は、グレンに向けて飛び掛る・・・だが今までの犬魔とは明らかに違う・・・言葉に表すとすれば低空飛行と言うべきか。


グレンは回避に移る、地面ギリギリの飛び掛りのため、こちらの攻撃に合わせるのが難しいと判断した。


あの低空の飛び掛りに、当てられる攻撃を考える必要がある。


だが小犬魔はその暇を与えずに再び飛び掛る。


その後もグレンが避ける度に、間を開けずに仕掛けてくる。



確かに、その低空の飛び掛りは厄介だ・・・でも何度も見せちゃいけないよ、攻略方が思いついちゃうからな。


グレンは自身の姿勢を低くし、袖から小油玉を落とし、それを握り締め右手が油塗れになる。



このまま顔面ごと叩き潰す・・・正面から打つと噛まれる危険がある、だから手の平で顔の側面を狙う。


だが野生の本能で危険を察知したのか、小犬魔は地面を蹴り、横に飛びグレンの攻撃を免れた。



・・・低空で飛び掛るから、いざと言う時に地面を蹴り危険から回避するってことを、俺は予測していた。


俺が姿勢を低くしていたのは、小犬魔の攻撃に合わせるためだけじゃない。この体勢は俺が地面を蹴リやすく、直ぐに次の行動へ移るれるんだ。


小犬魔が横に跳んだ方向に、グレンは地面を蹴って飛び掛り、そのまま両腕で小犬魔のからだを掴む。



「これで終わりだ!!!」


小犬魔の体が燃え上がる。



15体全てを殲滅した。


だが、本当の戦いはこれからだった。


3人と戦っていた内の1体の犬魔が遠吠えを。




それを聞いたガンセキが叫ぶ。


「グレン!! 気を付けろ、ボスが来るぞ!!」


遂に・・・来るか。


「これだけの群れを率いるボスだ!! 単独と同等かそれ以上の力が有ると見て、間違いないぞ!!」


息を切らしながら、グレンは左腕の傷を確認する・・・大丈夫だ、この程度なら問題ない。




肩で息をするグレンの脳裏には、黒い嫌われ者の姿が浮かんでいた。


もしお前だと言うのなら、あの日の決着を。




今度こそ・・・殺してやる






2章:五話 おわり





どうも刀好きです。


後編は明日の投稿と成ります、どうか宜しくです。


それでは楽しんで頂けたら幸いです。


刀好きでした。

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