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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
9章 集団行動
112/209

一話 精々

荷馬車というのは大量に物を運べるが、そのぶん短所も存在していた。


馬車が通れる道を開拓するとき、徒歩道よりも多くの費用を必要とする。


車輪が自然に動かないようにして、馬の力だけで荷台を引っ張る。このような機能がなければ、下り坂で事故が起きてしまう。しかし馬にかかる負担は大きく、急な坂道には利用できない。


平地なら馬車を利用する者は多いが、坂が多い地域となれば、馬に荷物を背負わせた方が無難である。



一行がデマドを出発してから、すでに一日が経過していた。


山を越えるには坂道も通らなければならないが、これまで通ってきたのは緩やかな傾斜が主となっている。


積荷の量が多いため、急な坂道を進むときは、一瞬の油断が大事故に繋がってしまう。


ガンセキたちも予想はしていたが、進行速度はかなり遅いものとなっていた。


・・

・・


時刻は朝の九時半。


その場所は山道というよりも、森の道といったほうが近い。地面は平坦ではなく、気持ち上り坂となっていた。



周囲の木々には隙間があり、太陽の光が差し込んでいる。だが荷馬車が進んでいる道は、決して状態が良くはない。


レンガからデマドは普段から行き来が盛んだが、今の道は作戦に向けて広げられたものであった。


それでも刻亀が現れるまでは、この道を先人たちが使っていた。過去の討伐作戦にも利用されていたからこそ、開拓の下準備はそこまで苦労しなかったとのこと。


刻亀単体の記録は少なくとも、過去に討伐を失敗したという経験は、しっかりと今に活かされている。


ヒノキへと物資を送る一団にとって、この不格好な道は味方だった。



一時間ほど進むと、景色そのものに変化はないが、周囲の気配が一変する。


昨日デマドを出発したとき、グレンだけが少し暑いと感じていた。しかし今は肌寒く、厚手の布に包まれていようと、周囲から浮いたりしていない。


空気は乾燥しているが、冬のそれとはどこか違っていた。


水神の司るその季節では、外套をまとうだけで、寒さの中に存在する暖かさを実感できる。


しかし今は身体が冷えるだけで、いつかやって来るはずの安心がない。


ここのような寒さを感じる場所は、中継地を過ぎれば少しずつ増えていく。たとえホノオの熱が世界を包んでも、本陣周辺は夜になると雪がふる。




ヒノキ山に、本当の春はこない。




危険はどこにでも潜んでいる。先人が残したこの道も、当然だが例外ではない。


荷馬車が進む人工道から、少しだけ離れた場所にグレンはいた。それは突然の出来事であった。


周囲に霧が発生し、彼らを不気味におおっていく。


しばらくすると眼球が痛くなり、涙で視界がにじむ。明らかにそれは、自然の霧とは違っていた。



グレンの隣に立っていた属性兵が、この場にいる全員に指示を飛ばす。


「発見が遅れた! 申し訳ないけど、清水はアタシから使わせてもらう!」


目を洗っているあいだ、その人物は無防備となってしまうため、二名の一般兵が属性兵を守る必要があった。


赤の護衛は足を一歩進めると。


「俺が前にでて敵を引き付ける。時間は稼いでやるから、さっさと戦いに参加してくれ」


相手の返事を待つこともせず、グレンは霧の奥へと消えてしまった。


・・

・・


眼球はすでに痛みを感じない。それでも涙は止めどなく溢れてくる。放っておけば失明の危険もあるが、この程度なら恐怖を誤魔化すこともできる。


独自の呼吸により意識を集中させると、グレンは拳心を身体の軸に向ける。


目が見えないわけではなく、視界がかすんでいるだけで、相手を認識することは可能だった。


音は耳から取り入れ、肌で感じる。


小さな何かが、森中の草を押しのけて、自分に少しずつ近づいてくる。敵と思われるその物体は、しばらくして動きを止めた。


それでも彼は構えを崩さない。



数秒後。グレンの右後方から、それが飛びかかってきた。


赤の護衛は腰を捻ると、左足を一歩前にだし、右肘で小さな黒い塊を破壊する。


命中したときの感触が、魔物とは明らかに異なる。グレンの右腕には、魔虫の体液と残骸が付着していた。


だが顔をしかめている暇はない。個体は弱いが、そのぶん数が多い。



後方から迫る魔虫は地面を這い、そのまま足首を狙う。


グレンは踏み込んでいた足を後ろに下げ、大地を削りながらかかとで蹴りあげる。だがそれは吹き飛ぶことなく、彼の背後へと浮かされていた。


魔獣具の使い手は左腕を動かすと、魔犬の爪で黒い物体を貫いた。



しかしまだ群れの攻撃は終わらない。正面にいた個体は高く飛び上がり、彼の顔面にしがみつこうとする。


先ほど右腕で魔虫を殺したとき、グレンが使ったのは肘であり、拳はまだ脇の下に残っていた。


赤の護衛は右手に炎を灯すと、飛びかかってきた個体を叩き潰す。


その一撃で魔虫は破裂したが、顔の半面に体液と残骸が付着してしまった。



このとき下手に拭ってはいけない。


戦闘中に道具を使う。彼の腰袋はそれを目的としているため、取りだし口が特殊な作りになっていた。


腰袋から清水を取りだすと、グレンは頭からそれをかぶる。


清水で目を洗うことはできないが、それが少しでも眼球に当たるよう、瞼は開いたままにしておく。


しだいに効果が発揮されてくると、失っていた痛覚がもとにもどる。水が目にしみて困るが、魔虫から意識を逸らすことはできない。



敵の習性を利用することで、戦いを操作する。グレンは右腕の炎を消した。


それにより周囲が少し暗くなると、群れの一部がその場から離れていく。多少の安全を確保でき、視界もある程度は回復していた。


グレンは群れを見渡したのち、個体に注目する。


成人男性の握りこぶし。これより小さいものが、微魔小物と呼ばれる。



六本足。


色は黒よりの青。


尻の部分が少しふくれている。


大きさは幼児の頭。




グレンは容器に残った水を飲み干すと。


魔霧毒虫まぎりどくむし


相手の名を呼んだ瞬間だった。注目していた魔虫は、グレンに向けて跳びかかる。


だが彼のもとへ辿りつく前に、飛んできた容器にぶつかってしまい、毒虫は呆気なく破裂した。


・・

・・


護衛の数は二十名。だがグレンは四人で行動していた。



・人工道を通る荷馬車。

属性五名。中心となるのは属性分隊長。

(土の領域を使えるのは二人)


・荷馬車の前方三十m。

属性二名と一般四名。中心となるのは一般分隊長。

(土の領域を使えるのは二人)


・荷馬車の左右後方二十m。

それぞれ属性一名と一般二名。

(土の領域を使えるのは、三方で一人ずつ)


これに勇者一行を含めろば、二四名の護衛となる。



接近してくる。または意識を向けている存在がいた場合は、中央にいる属性兵の一部が、その方面へ増援として向かう。


左右後方のうち、どれかが魔物との戦闘に入れば、荷馬車は先行している六名と合流する。


先行の六名に魔物が接近したときは、荷馬車はその場で止まり、後方の三名が追いついてくるのを待つ。



夜間は人間だけを襲ってくるが、日中は物資を優先させる魔物も確認されていた。時には食料と勘違いし、武具の入った木箱を狙ってくる。


小型の魔虫は積荷に紛れ、中身を食い荒らすことがある。もし相手が単独だとすれば、木箱など一撃で粉砕される。そのため戦闘方面と荷馬車のあいだに、数名の属性兵をおくこともある。



ここは獣が魔物と化した世界。


手引書などをつくり、対策を徹底させなければ、護衛業は成り立たない。



今回の襲撃は魔霧毒虫の群れであり、戦っているのは荷馬車の前方と左側。


幸い前方にはガンセキがいたため、事前に魔虫の存在を知ることができた。彼らは人工道から外れ、敵が迫ってくる方面から迎え撃ったことで、群れの進行を防ぐことに成功している。


しかし左側は探知に失敗したことで、気付いたときには霧が発生していた。その差が数十秒だとしても、対処は難しいものとなる。



中央の五名はその場で待機すると、左側に数名の属性兵をおき、荷馬車へと近づく魔虫を喰い止める。


兵士の安全よりも、今は物資を守ることが優先されていた。後方の三名が中央と合流しなければ、グレンたちの方面に増援を送ることはできない。


・・

・・


赤の護衛は跳びかかってきた魔虫を掴むと、火力を上げて焼き殺す。そうしているうちに、彼の背後から別の個体が迫ってくる。


だがグレンには味方がいた。


一般兵の電撃が命中したことで、その個体は動かなくなった。だがそれは威力が低いため、身体能力を強化したもう一名が、剣を突き刺すことで沈黙させる。


この場にいるのは赤の護衛を含めて四人。



属性兵は岩の壁により、敵の進行を防いでいた。しかし複数の魔虫が、それをよじ登ろうとする。


本来の土使いは、攻撃か防御のどちらかを選ぶ。


「冷静に対処すれば、アタシでもなんとかなる」


自分にそう言い聞かせると、属性兵は身を屈め、攻撃魔法を発動させた。


地面から出現した岩の腕はこぶしをひらき、そのまま壁を押し倒すことで、多くの魔虫が下敷きとなった。



グレンは二人に礼を言うと、属性兵に視線を向け。


「あんたたちは少し下がってくれ」


低位協力魔法・霧 参加している水使いのみ、土の領域から身を隠せる。


霧の範囲は人数によって変化し、濃さは参加者たちの熟練で決まる。この魔虫は肛門から毒を噴射することで、その魔法を変化させていた。


すでに霧は一面に広がっているが、魔虫が密集していなければ、毒の影響はそこまでない。



握っていた魔虫の燃えかすを、グレンは三人に見せながら。


「炎が弱点のくせに、なぜか魔虫ってのは俺の属性によってくる。こいつらの毒は厄介だけどよ、清めの水で対処が可能なら、そこまで危険な敵じゃねえ」


三人にはこの場から引いてもらい、赤の護衛に敵を集めることで、増援がきたら一気に仕留める。


だが属性兵は首を左右に動かすと。


「舐めてかかると痛い目にあうよ、小型でもこいつらは魔虫だ。あなたは防御に徹してください、攻撃はアタシたちが担当する」


自分の身を守ることができるなら、狙われ役が一人いたほうが、安定した戦闘に持ち込める。


魔虫の接近に気づけなかった。その失敗に動揺することなく、彼女は自ら考えて行動していた。



二名の兵士が魔虫を引きつけているからこそ、グレンたちは話し合いができる。


「増援は恐らく炎使いだ。連中がくる前に、一体でも多く集めておきたい」


魔霧毒虫は実際にグレンを狙っている。しかし三人がここに残ってしまえば、魔虫はそのぶん散らばってしまう。


分隊長は考える。グレンの提案に従うか否か。


一般兵は足下の魔虫を片手剣で突き刺すと、跳びかかってきた別の個体に電撃を放つ。


「あのときこの人が牛魔を殺してくれなければ、自分の分隊は壊滅してたかも知れません」


牛魔と戦ったのはデニム分隊だが、最初に接触したのは一般分隊だった。



ある属性分隊は数日前まで、中継地にて待機を命じられていた。なぜなら隊長が不在となっていたからである。


イザク分隊は中継地から本陣への輸送を任される予定であった。しかし勇者一行を無事に送り届けるには、デマドから本陣までを、同じ分隊に任せるべきとの意見が上がる。


分隊長補佐が代理として、今は十名をまとめている。だが属性使いではなかったとしても、イザク個人の戦闘能力は本物だった。


レンガを出発する少し前に、彼が抜ける穴を埋めるために、牛魔との戦いで壊滅した属性分隊から、一人の女性が加わっていた。



グレンは属性兵を睨みつけると。


「決定権はあんたにある」


たとえ不満があろうと、従わなくてはいけない。勇者一行だからといって、それは例外ではない。


分隊長代理補佐は赤の護衛を睨み返すと。


「その方法で行けば、たしかに効率よく魔虫を殺せる。でも結果だけを求めれば、今に過程を見失うよ」


「俺が結果だけに溺れていたのなら、そのときは今のあんたみたいに、誰かが反対してくれる」


全ての物事をグレンが決めるわけではない。



代理補佐は一般兵に守られながら、袋から清水を取りだすと、それをグレンに向けて投げる。


「もしアタシが指揮をとっていても、たぶん失敗してた。本当は反対だし、私情を持ち込むのはどうかと思うけど、あなたには借りがあるんで」


牛魔がレンガを襲ったとき、彼女は勤務時間外であった。


グレンは受け取った清水を腰袋に入れ。


「じゃあこれで、貸し借りなしってことで。あと牛魔との戦いですが、俺も自分が立てた策を失敗しています」


根性や運だけで殺せる相手ではなかった。


「あんたの分隊が戦っているあいだ、俺たちは下準備をさせてもらった」


牛魔の情報をボルガから教わり、事前に対策を練る。


「まあ俺がなにを言ったところで、分隊が壊滅したのは隊長の責任だ」


グレンは優しい笑みを浮かべると。


「あのとき私はいなかった。今度はそんな言い訳できねえからよ、せいぜい代理を補佐すんだな」


属性兵はそっぽを向き、嫌味な男を横目で見つめながら。


「勇者一行ってくらいだから、どんな良い子ちゃんがくるのかと思ってたら、予想外のクソガキね」


「そりゃどうも。相手が三十過ぎの潤ったむすめさんだから、こちらも舞い上がってしまいました」


ギゼルに関する一件。ガンセキの言葉。そしてアルカとの出会い。


デマドでの経験により、グレンの中でなにかが吹っ切れていた。


「アタシが誰よりも世話になった相手が、珍しく他人を褒めてたのよね」


女性は青年に優しく微笑むと。


「だから今だけは……あんたを信じてあげる」


代理補佐は二人の一般兵に指示をだす。自らもグレンに背を向けて、この場から離れようとした瞬間だった。


先ほどの発言を思いだした分隊長は、相手に振り返ると。


「そんな憎まれ口をたたくからには、あなたがその瞬間を迎えるとき、きっと若者に同じことを言われるわよ」


女性は口元の傷跡をさすりながら、もう一つ重要なことをグレンに伝える。


「あと私はまだ二十代だから、それを覚えておきなさい」


傷を負うのも仕事のうち。兵士という職を選んでも、女であることを捨てたわけではない。


グレンは去っていく分隊長を見つめて。


「なにをするにも、精々やるさ」


一人この場に残される恐怖は、ギゼル直伝の呼吸法で対応する。



赤の護衛は炎拳士の構えをつくり、これから始まる魔虫との戦いに、今だけは心を躍らせた。


・・

・・

五分後

・・

・・


周囲には沢山の魔虫が蠢き、もはやどこにも逃げ場はない。


グレンは敵を引きつけるため、右腕に炎を灯していた。



跳びかかってきた魔虫は逆手重装で切り裂き、地面から迫る個体には二段掌波で対応する。炎が腕から消えてしまうため、壁魔法は使い所を見極める必要がある。


だがどれほど対策を練ろうと、単体は犬魔よりも小さいため、一斉に複数の部位を狙ってくる。グレンにも全てをさばくことはできず、少しずつ毒虫が火の服へと到着してしまう。


胸元にしがみついた個体は、彼の右手に向けて毒水を噴射する。それだけで火力は弱まらないが、群れ全体がグレンの炎を消そうとしていた。


地面から左足首をつたい、尻まで辿りついた魔虫は、その場で噛みつく。


接近してくれば殺そうとするが、身体に付着した魔虫は放っておく。そちらにまで意識を向けると、混乱により命が危険にさらされる。



魔虫は少しずつ、グレンの身体を蝕んでいく。


その後も劣勢は続き、ついに右腕の炎が消えてしまう。



だが男は楽しそうに笑っていた。


「もう、そろそろ良いか」


少しでも多くの魔虫を集めなくてはいけないため、彼は周辺を動き回る必要があった。


だが充分に引き寄せた今。もうそんなことをする必要はない。



赤の護衛は火玉と油玉を四方に投げ捨てると、その火力を上げることで、自分を囲うように炎を燃やす。


周囲の魔虫は攻撃対象を、グレンから炎へと移していた。


身体にまとわりついていた魔虫は逃げ場を失い、一体ずつ握り潰される。数体が服の中に潜り込んでいたが、グレンは笑いながら全てを殺した。



岩腕が岩壁を破壊するとき、大きな音がなる。


それを合図だと信じると、周囲の炎をそのままにして、グレンはできる限りの魔力をまとう。


彼の炎をよほど消したかったのか、たくさんの魔虫がそこには集まっていた。


数分後。


味方の炎放射が、グレンごと敵を焼き払う。






戦いは無事に終わった。


一点放射ではなく、通常の炎放射を数秒あてるだけで、この毒虫は息絶える。


あとに残ったのは焼け焦げた大量の死骸と、全身に浅い傷を負った化け物。



このような戦いを、グレンがする必要はあったのか。


今回の戦闘が始まったとき、セレスとアクアは荷馬車を守っていた。


青の護衛が中心で雨を降らせるだけで、毒霧を無力化させることができる。そもそも人間と違い、魔虫は闇魔力を宿しているのだから、敵味方の判別はかなり楽なものとなっている。


だが敵の数は百体を上回り、味方の兵士も二十名と多い。


アクアの技術は未熟であるため、この場で雨魔法を使ってしまえば、味方にも被害をだす恐れがあった。


それでも魔虫の魔力量は属性兵よりも少ないため、彼らの魔力が尽きる前に、毒霧を無効化させることも可能である。


しかしそれをしてしまえば、一般兵への負担が大きいものになっていた。さらに最悪を想定すれば、味方の中に信念旗の協力者が紛れていたとき、アクアの雨魔法が未熟だという事実を知られてしまう。


勇者一行は物資を守ることよりも、情報の防衛を優先させていた。





グレンの身体には魔虫の体液と残骸がこびりついている。


強烈な臭いを発する周囲の死骸。


「きもちわるい」


先ほどまで笑いながら魔虫を殺していたくせに、青年は今ごろになって吐き気をもよおす。


だがここでそれをしてしまえば、とても格好が悪いから、グレンは必死にこらえていた。



青年の無事を確認するために、代理補佐がこの場に戻ってくる。


明らかに具合が悪そうなグレンを見て。


「とりあえず服を着替えたほうが良いわね」


なぜかその属性兵は、楽しそうに笑っていた。



しかしグレンはそれどころではない。なぜなら彼女の隣には、恐ろしい目つきの男が立っていたからである。


ゼドは相手の姿に目を見開くと。


「怖いだす、化け物だす……どうか、殺さないで欲しいだす」


あんたにだけは言われたくない。


そのようにグレンは考えていたが、今は口を開いた瞬間に、理性の開放が起こってしまう。


ゼドは相手に平伏すると、懐からお金をとりだして。


「これで勘弁ねがいたいだす。このとおりだす」


面を上げたゼドは瞳をパチクリさせ、許しを請うために可愛らしく微笑んだ。



青年はあまりの恐ろしさに、両膝を地面につけると、涙目でこう言った。


「もう、ダメ……むり」


グレンはついに限界をむかえ、今朝の食事を大地へとお返しする。

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