道剣士と剣士の間より
剣の国。
三の大島。
千年前にその中から一つ消え、今は島だけを取り戻した。
風はいつも吹いていた。
少年は船の上。
海は青くきらめき、潮風が肌にこびりつく。
子供は鼻水を手でこすると。
「父さん。ねえ父さんってば。僕らはなんで、別の国にいかなきゃいけないの」
後ろから服を引っ張られた父は、首だけを動かして。
「俺たちの魔法を、少しでも世に広めるためだ」
子供は首を傾げながらも、一生懸命に考える。
「母さん。僕は村から離れたくなかったよ。だってさ、友達と別れるのは寂しかった」
「鎧国の新しい友だちが、きっとあなたを受け入れてくれます」
少年は立派な船に乗っていた。
友好の証として、隣国に差しだされる、貴重な贈り物として。
風はとても暖かく、どこか冷たい。
こんなに貴重な存在なのに、彼らを認めない人たちがいるなんて、幼い少年にはまだ知らなかった。
変化を起こし蔑まれる。
友じん殺して疎まれる。
なにもしてない少年は、わけもわからず流されて、それでもどこかへ辿りつく。
・・
・・
青年は戦場で、中年のあとを歩く。
潮風ではなく、血の匂いが服にこびりつき、洗ってももう取れやしない。
新たな国で出逢ったあの子とは、恋のもつれで空回り。
気づけば逃げるようにここへ辿りつき、この地で彼は魔法を使う剣士と出会った。
青年は中年に問う。
「俺はなにを斬ればいい」
「自分を斬れ。そうせんと、俺みたいになっちまいますぜ」
求めるものもなく、意味なく剣を振るう青年は、目的もなく生きていた。
時は流れ、中年は大人になった青年に。
「お前さんは力に興味がないんさな。それはとても良いこった、忘れちゃあいけませんぜ」
「でもなにを斬れば良いか、あたしにはわかりゃしません」
中年はわずか数年で年老いたのか、もう衰えるとこまで衰えていた。
「下手に剣を使えても、下手に魔法を使えても。自分を活かせなけりゃあ、刃先はこちらに向けられまさぁ」
ここは魔王の領域でありながら、内地は今日も平和であった。
老人のもとを訪れていた大人は、静かに椅子から立ち上がり、剣を腰に差すと。
「明日からしばらく、ここにはこれやせん。移動することになりやしてな、あっしも前にでて頑張ることになりやした」
そうかと頷くと、老人は呆けた顔で。
「こんな役立たずになっちまっても、居場所を残してもらえてる。でもなぁ、時々故郷に帰りたくなるんよ。もうどうなっているのかも、ようわからんのにな……しけた田舎だったのは覚えとる」
大人になった小年は、恩人に頭を下げると。
「これたら必ず寄りやすから、前みて長生きしてくだせえ」
恩人は鼻を啜りながら。
「おめえはまだ若いんぞ。こんな死にぞこないを構わんでいいから、機会があったら国に帰えるんよ」
それでも孤独な恩人は、ただ一人ここに訪れてくれる若者へ、とても嬉しそうな笑顔を向けていた。
この地に立ったのは十九であり、すでに男は二十七をまわっている。
恩人の故郷には入る墓もすでになく、長年同盟のために魔族と戦った兵士は、戦場で手厚く葬られた。
血まみれの剣は乾き、太陽はぼやけて見える。
魔王の領域に、生暖かい風が吹く。
それはまるで、ここにいてはいけないと、恩人が自分に叫んでいるようだった。
故郷など男にはもうなかった。
彼は数年ぶりに、懐かしい場所へいく。
眠る都市。レンガ軍に復帰した彼の物語は、もうすぐ本編と合流する。