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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
1章 俺の故郷
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八話 穢れた誇り



俺達人間と、魔族が使う魔法は違う。


人間の魔法は魔力に光の力が混ざった・・・白魔法。


魔族の魔法は魔力に闇の力が混ざった・・・黒魔法。




魔人病・・・この病が発症すると、光の魔力に闇が混ざる。



これに発病した人間は、体中から黒い靄が沸き、そのまま放って置くと死に至る。


助かる方法は唯一つ・・・魔力に混ざった闇を封印する。


だが封印する側もリスクを負う・・・現に婆さんは、その時に重症を負っている。


俺は何とか一命を取り留めた、その代わり・・・・大切な何かを失った。



封印に成功した魔人病患者は・・・魔人と言われ、世間から嫌われる。



魔人と成った人間は、黒魔法を使う事が出来る。


ただし、黒魔法は魔族の魔法だ・・・人間にとって害にしかならない。


一度でも使えば黒魔法は自身に牙を向き、魔法を消す事も出来ず・・・最後は死ぬ。



魔人病は病気だ、俺の片親が魔族とかではない。


遺伝による病気じゃない、誰が発病するか分からない・・・発症確立は極めて低い。



俺の本来の魔力はもっと多かったんだけど、封印による副作用みたいなもので、現在は標準の魔力になっている、俺の炎が飛ばせないのは産まれ憑きで、副作用とは関係ない。



俺が魔人病だと言う事は、オババだけが知っている。


俺達は魔物に襲われ、俺だけがオババに助けられた、という事になっている。


・・

・・


・・

・・


オババとグレンは以前、封印に使った村外れにある、俺の実家に到着する。


正直・・・此処に来るのは、ずっと避けていた・・・。


グレンは実家に入り辺りを見渡す。


蜘蛛の巣が顔に引っかかる、何年も人が住んでいなかったから、もはや廃墟だな。





既に封印の準備が出来ていた。


火雷水土、4つの宝玉が並べられており、複雑な魔法陣みたいなものが描かれている。


オババに誘導され、その中心に入る。


「良いか・・・以前、あの2人が行った事を、お主が変わりにするんじゃ」


「何をすれば良いんだ?」


「黒魔法・・・自身の黒炎に負けぬよう、紅蓮の炎で己を護る・・・それだけじゃ」


「やった事ないから、良く分からないぞ」


「炎を手に灯す時、頭で想像するじゃろ?」


「・・・ああ」


「頭の中で空間を造り、自分の魂を護るよう、炎を想像するんじゃ」


「成る程な・・・それだけで良いのか?」


「口で言う程楽ではない・・・覚悟しといた方が良いぞ」


「それ以外は、ワシがする」


「・・・ああ」


体の震えが止まらない・・・俺は情けないな。


「心配するな、前回の封印を今度こそ、完成させるだけじゃ」


「・・・世話掛けて悪いな・・・婆さん・・・」


「戯け・・・弟子の世話をやくのが、師匠の仕事だわい」


俺はまた・・・こうやって・・・人に迷惑を掛けるんだ。




上半身を脱いだ俺の背中に、オババが手を添える。


「出来るだけ、頭の中で白い空間を想像するんじゃ」


「なんでだ?」


「光の中では黒炎は見え易いが、闇の中では黒炎は溶け込んでしまうからの」


そう言う事が。



「覚悟は良いか・・・封印を緩めるぞ・・・」


「・・・ああ・・・来い!」





オババが俺の黒炎を呼び覚ます言霊を唱える。



「『忌まわしき、闇の灯火・・・赤き誇りを穢せ」』


・・

・・


・・

・・


暫くは静かな時が流れていた・・・だが、グレンが突然叫ぶ。


「婆さん、まだ終らないのか!! 頼む、速くしてくれ!!」


「意識を集中せい!! 空間を闇に染められたら終いじゃぞ!!」


さっきから集中している・・・だが、炎で何度焼き払っても、どんどん沸いてくる。


護りに徹していると、黒炎は一点に集まって、周囲を黒く染めちまう。


俺の炎を見切ってる、流石は俺自身の黒炎だよ・・・笑えない。


・・

・・


・・

・・


グレンはもがき苦しむ、オババがそれを押さえつける。


「まだか!!」


「あと少しじゃ!!」


黒炎は集まり闇となる、集まった先から炎で焼き払うが・・・駄目だ、追いつかない。


何かこの状況を打破する手はないのか・・・。


・・

・・


・・

・・


意識が朦朧として来た。


このままだと・・・ヤバイ・・・旅立つ前に・・・死ぬなんて御免だ。


白い空間を頭で想像する事が、まず難しいんだ、目を瞑ると視界が暗くなっちまう。




・・・・まてよ、黒に白で対抗する、それ自体が間違っているんじゃないのか・・・。


だってよ、黒炎と戦ってるのは炎だから。


・・

・・


・・

・・


良し!! 赤い空間を想像したら、黒炎の動きが少しだが鈍くなって来た。


何とか・・・このまま・・・持っていけろば・・・。


「婆さん・・・まだか・・・」


「作業は終った・・・後は緩めた封印を、再び絞め直すだけじゃ」


「・・は・やく・・・して・・くれ・・」


・・

・・


・・

・・


「これで・・・終いじゃ!!!」


オババがグレンの背中に、指で文字のようなものを描く。


すると、さっきまでグレンの頭の中で蠢いていた黒炎が小さくなり、消えていく。




事が終わると急に体が重くなり、そのまま床に倒れる。


気付かなかったけど、魔力と言うか・・・かなり体力を消耗した。



「ご苦労じゃった・・・予想より手間が掛かったが、何とか成功した」


「そりゃ・・・よかった・・」


「これで聖域でも行動できるはず・・だがの、聖域内では体調が優れなくなるぞ」


「まあ聖域なんて行く事はないだろ、とりあえず王都に入れるならそれで良いさ」





グレンは何とか起き上がり上着を着て、よろめきながら立ち上がる。


「婆さん・・・俺達は明日には村を出る」


「勇者の儀式の禁則で、見送りは出来ないんだろ?」


「・・・そうじゃ」


「なら、婆さんと会うのも・・・これで最後かも知れないな」


「宴はもう日が暮れとるから参加はできんが・・・誰か別れを告げる者がおったら、今の内に済ませておけ」


「特に居ないな・・・それに、また帰ってこれるかもしれないからな」


グレンは朦朧とした足取りで、扉に向かう。


扉の前で立ち止まり。


「婆さん・・・世話になったな・・・」


「生きて帰って来い・・・お主等なら、必ず魔王を討ち取れると、ワシは信じておる」


「精々、長生きしろよ・・・あと千歳まで、八百五十年だ」


「このクソガキめ」


グレンは片手を上げて振り返る事もなく、そのまま実家を後にする。






オババはグレンの出て行った扉を暫し眺める。


「お主はワシの自慢の弟子じゃ・・・グレン・・・セレスを頼んだぞ」


今まで多くの者を見送ってきた、これで・・・最後にしたい者じゃ。


・・・そしたら・・・安心して、あんたに逢いに逝けるわい・・・。










実家を出て・・・グレンは夜道を歩いていた、家の方向とは違う。


途中で木に凭れながら、ゆっくりと目的地に向かう。


別れを告げる人が本当は2人居た。


何度も転びそうに成りながら、歩き続ける・・・村の中に、ひっそりと其処は在った。




グレンは石で出来た、何かの前に座り込み。


「よう、久しぶりだな・・・あれから一度も来なくて悪かったな」


「元気でやってるか? やってる訳ないよな、あんたら死んでるし」


「まあ・・・俺はボチボチやってるよ・・・」


グレンは石に向かって話し続ける・・・ ・ ・


・・

・・

・・


「ああ、忘れてた・・・今日は報告があって来たんだった」


「暫く村に帰れそうにない、また来なく成るから化けて出るなよ2人とも」


「それじゃ、またこれたら来るからよ・・・そっちで仲良くやってくれ」



村の人が、俺の変わりに綺麗にしててくれたみたいだ。


まったく、セレスの事ばかり言えないな、供える花すら忘れるとは。


・・

・・


この場所の中心には旅に出て、帰れなくなった村人の慰霊碑が在る。


俺は生身で戻って来たいけど、戻れなかった人は魂になって、此処に眠るらしい。



最後にセレスの母親の前に立つ。


あいつはもう挨拶は済んでいるようだ・・・既に花が供えてあった。


「はは・・・俺はセレスより大馬鹿だな・・・」





グレンは自分の家に戻る。


出来れば誰にも会いたくないから、遠回りをして人気の少ない場所を行く。


誰にも挨拶する事なく、家まで行く事が出来た・・・だが、家の前に人影があった。




「グレンちゃん、何処行ってたの? オババも居ないんだけど、グ~ちゃん知らない?」


「さっきまで婆さんと一緒に居たから、もう家に帰ったんじゃないか」


「2人で何してたの・・・ま、まさか」


セレスの顔が青ざめる。


この馬鹿、俺を何だと思ってるんだ、流石に150歳相手にそんな事ある訳ないだろ。


「旅立つ前に修行に付き合って貰ったんだよ」


アホのセレスの顔色が元に戻る。


「な、なんだ・・・私てっきり愛の逃避行かと思っちゃったよ~」


「そうか、分かったらさっさと帰れ、ハエ脳味噌」


「にひひ~ そうだよね、私のグレンちゃんに限って、浮気なんてしないよね~」


駄目だ、頭が何処かに逝ってる・・・もう手遅れだ。


セレスをその場に残して、家に入り鍵を閉める。


「あっ!! グレンちゃん酷いよ~ 中に入れてよ~!!」


扉をセレスが叩く。


「うるさい!! さっさと帰れ!!」


「ぶ~!! もう少しお話ししたいよ~」


まったく、こいつは・・・。


「なあ、セレス・・・婆さんの傍に居てやれ・・・俺とはまた会えるんだから」


静かになる。


「最初から、その積もりだもん・・・」


まあ、そうだろうな・・・此処に来たのも、婆さんを探しに来たついでだろう。


「ねえ・・・グレンちゃん」


「なんだよ?」


「私ね・・・勇者に成っちゃった・・・ちゃんと使命、果たせるかな?」


「お前1人じゃ無理だろうな」


セレスは言葉を返さない・・・。


「その為に、アクアやガンセキさんが居るんだろ」


「グレンちゃんは?」


「俺は生き残るだけで精一杯だ・・・使命なんて後回しだよ」


「グ~ちゃんの意地悪」


「そりゃどうも・・・ま、やれる事はやって見るさ」


セレスが笑った気がする。


「うん・・・グーちゃん、よろしくね」


「おう、任せとけ」


足音が少しずつ、遠ざかっていく。





さて・・・飯食った後は何するかな・・・まだ寝るには少し速いし。


とりあえず、少し豪華な飯にするかな・・・野宿だと、ろくな物を食えないだろうし。


グレンは食材箱を覘く・・・。


食材殆ど無いや・・・まあ良いか何時も通りで、どうせ大した物は作れないし。


・・

・・


・・

・・


食後、家の掃除をする事にした・・・数年だけど、お世話になったし綺麗にしてから出て行こう。


グレンは掃除を始める。
















・・・出来るだけ、誰にも迷惑を掛けないように・・・。














八話 おわり











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