勇者ゴリラよ、どうか世界を救ってくれ
「勇者ゴリラよ、どうか世界を救ってくれ」
事の発端は数カ月前、とある時代に封印されていた魔王が復活してしまったのだ。
人々は魔王を倒そうと奮闘したが、戦えるものは全員魔族や魔物に殺されてしまった。
戦える人がいなくなって困った王は、比喩でもない『本物のゴリラ』に魔王討伐を任せることにしたのだ。
「ウホッ、ウホウホッホ(はいっ、わかりました)」
彼は国で一番賢いゴリラで、戦うこともできるし人間の言葉を理解することもできる。
身体の構成上喋ることはできないので、誰も彼が何を言っているのかはわからない。
もちろん勇者パーティーのメンバーは一人しかいない。通常の人間では足手まといになるだけだ。
「ウホウホ、ウッホウホ(それでは、いってきます)」
最後まで城の皆は勇者ゴリラが何を言っているのかわからないまま、彼は出ていった。
◇◇◇
「勇者ゴリラ、今頃どうしてるかのぅ……」
「死んでないといいわね……」
勇者ゴリラが旅に出た後、城では王様とその娘である姫がチェスをしていた。
「お父様、もし勇者様が魔王を倒してお帰りになられたら何を報酬にするつもりですか? まさか極上完熟バナナ一生分とか言いませんよね」
「そりゃそうだ。そうだな……お前を嫁にでもやるか。そうでもしないと恩は返せない」
「そうですか……チェックメイト」
私はクイーンの駒を動かしてそう言う。
「すまんな」
「いえ、勇者様と結婚できるならむしろ本望です」
そう……本望よ。お父様は申し訳なさそうな顔をしているけれど、この気持ちは本当に嘘ではない。
「帰ってくるといいわね。いろんな意味で」
「そうだな……」
でも、彼は人間じゃない。
人間が成し遂げられなかったことを、勇者ゴリラ様ならやって見せれると思うのは、私の気の所為かしら――……?
◇◇◇◇◇
あれから1週間の時が経った。
城の人たちはずっとピリピリしていて、正直居心地が悪い。
勇者ゴリラ様まで魔王を倒せないとなると、本格的に世界が危機に陥る。そのことを皆恐れているのね。
「大丈夫、勇者様は帰ってくる」
早鐘を打つ心臓を押さえながら、私は心を落ち着かせるために毎日そう呟く。
「心配なのは皆同じよね」
城を出ていくときの勇者様の背中を思い出して、私はふぅ……と息を吐く。
その時。
「勇者ゴリラが魔王を倒して帰って来たぞ――!」
城が熱狂で揺れたかと思った。
外も中も熱気にあふれ、王国の人たちの歓声が室内でもはっきりと聞こえる。
「勇者様……倒して、くださったのですね……」
私の中で何かが切れた。
一つ涙が零れ落ちたら、もう止まらなくなる。
「ゴリラが魔王を倒す……これ以上の偉業は、きっとないですね」
そう言って、私は微笑んだ。
◇◇◇
「勇者ゴリラ、よくぞ魔王を倒して来た。これでこの国の民の平和が訪れた。褒美として、そなたを我が娘の夫としよう」
「ウホ、ウホホウホホホホウホホウホホホホ……(いや、まずは本人の意思を聞いてから……)」
長年ゴリラを見てきた私には勇者ゴリラが私のことを気遣ってこのような事を言っているのがわかるけれど、お父様やほかの人にはわからないようね。きっと喜んでるんだな、としか思わないんだわ……。
安心して。私はそういう意味を込めた笑みを勇者様に向ける。
「ウホホホ……(姫様……)」
通じたようね。もしかしたら勇者様、普通の人間よりも頭がいいのかも。
……いや、そんなことはどうでもいいわ。
こみ上げる感情を押し殺して、私はなんとかこの場を耐える。
今日のやることをすべて終えたあと、私は自室のドアを開け、閉じる。
「勇者ゴリラ様と、結婚できる――――!!!」
何を隠そう、私は紛れもない「ゴリラフェチ」。
今まで何度も様々なゴリラを見てきたけれど、勇者ゴリラ様はまさに私の好みドンピシャ!
「勇者様……絶対に、逃がしませんよ?」
今の私の目はハートになっているんだろうなと思いながら、あまりの嬉しさにしばらく悶えるのだった。




