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辺境惑星アルカディアにおける、パワードスーツ対ドラゴン戦闘記録

作者: 十六凪
掲載日:2026/01/01

※本作は読み切り短編です。

SFとファンタジーが混ざった世界で起きた、ある一日の出来事を描いています。

 辺境惑星アルカディア。その惑星の中央大陸西部に果てしなく広がる原生林――通称、「魔竜の森」。鬱蒼と茂る木々の間に、空気を震わす激しい咆哮が響き渡った。

 漆黒の鱗。巨大な翼。長い尾と鋭い牙。数十メートルに達する巨体。――それはファンタジー小説やゲームでおなじみの存在。

「ちょっと、オベイロン!?この惑星にドラゴンが生息してるなんて聞いてないんですけどーっ!?」

 魔竜から逃れようと森の中を必死に走る少女。だが、彼女の叫び声に対して返ってきたのは、通信機越しの無感情な人工音声だけだった。

『アイリス、事前に銀河連邦軍から支給された調査報告書に目を通しましたか?生物編1107ページに、魔竜の森の主、現地の冒険者による討伐隊を何度も撃退している無敗のブラックドラゴンロードの記述が――』

「あんな大量の資料、読み切れますか!」

 数十もの電子ファイルにわかれた膨大な調査報告書のことを思い出し、オベイロンに文句を言う。なお、最初の数行を読んだあたりで飽きて、ゲームを起動したという事実は棚に上げておく。

「とーにーかーくー、私がドラゴンから無事に逃げられるルートを教えて下さい!迅速に!」

『私を連れずに一人で野営地を離れたアイリスの自業自得では?』

「だって、せっかく近くにきれいな湖があるんですから、水浴びくらいしたいじゃないですか!」

 それがまさか、水浴びしている最中に、偶然、漆黒のドラゴンと鉢合わせするなんて。

 しかし、アイリスは気づいていなかった。ドラゴンは水場に狩りの獲物が現れるのをじっと待っていたのだということを。そこにのこのこと現れて、服を脱いで無防備に水浴びをし始めたアイリスは、ドラゴンの1週間ぶりのご馳走なのだということを。そして――空腹のドラゴンが、慌てて服を抱えて逃げる白い柔肌を決して逃す気はないのだということを。

『アイリス、現在の状況からシミュレーションした結果が出ました。運動音痴のアイリスは、このままだとブラックドラゴンロードに丸飲みにされる確率60%です』

「えええっ、私、ドラゴンのご飯にされるなんて嫌ですよ!?残りの40%の私が逃げ切れる可能性は!?」

『残りの40%は、ブラックドラゴンロードの炎のブレスでこんがり丸焼きにされて丸飲みにされます』

「レアかウェルダンの違いだけじゃないですかー!?」

 その時、急にアイリスの周囲が暗くなった。さっきまで、森の木々の間から差し込んでいた太陽の光が、まるで厚い雲に隠れてしまったかのよう。水に濡れた長髪が張り付いた素肌で感じる気温がぐっと下がったような錯覚。無意識に頭上を見上げると、そこには――。

「ええっ、ド、ドラゴン!?」

 アイリスの頭上、木々の上空を飛翔する漆黒の魔竜の姿がそこにあった。その巨体は太陽を覆い、羽ばたく風圧がアイリスの身体から体温を奪っていた。アイリスを見つめる瞳は、狩人が獲物に向かって銃の引き金を引く瞬間のものだった。

 ドラゴンは巨体に似合わぬ速度で急降下してくると、鋭い鉤爪で少女の身体を捕らえようとし――。

「きゃあああっ!――って、あ、あれ?」

『どうやら間に合ったようですね、アイリス』

 ドラゴンの爪は空を切り、アイリスはロボット――人工知能オベイロンが制御するパワードスーツの腕に優しく抱えられていた。冷たいはずの金属のボディから、ほのかな熱が伝わってくる。緊急機動による動力炉からの発熱のためだと頭では理解していても、それは間違いなく相棒の腕の温かさだった。


「っていうか、遅いですよ、オベイロン!」

『アイリスがブラックドラゴンロードに追いつかれなければ、もう少し余裕がある計算だったのですが。それで、どうしますか?向こうはまだ食事を諦めていないようですが』

 オベイロン――パワードスーツの頭部が漆黒のドラゴンに向けられる。光学カメラに映るのは、アイリスに向かって鋭い牙を剥き出しにした狩人の姿だ。

「このまま大人しく食べられるわけにはいきません!迎撃しますよ!オベイロン、ハッチ開放!」

『アイリスの音声コード認証。コックピットハッチ、オープン』

 アイリスの指示でパワードスーツの胸部装甲が開く。その内部はアイリスの体格に合わせて設計されたコックピットになっている。そこに身体を滑り込ませハッチを閉じると、素早くコンソールを操作する。真っ暗な空間の中、モニターが点灯していき、外部の様子が映し出される。

『コマンド承認。操縦をオートモードからマニュアルモードに変更しました』

「機体各部オールグリーン。さあ、オベイロン、私たちの力を見せてあげましょう」

 マニュアル操縦に切り替わった機体が、カメラアイを緑色に灯す。そこに立つのは、アイリスの身長の2倍に及ぶ、彼女の全身を包み込むパワードスーツ――戦闘用外装だった。

 対する黒竜は、獲物が金属の殻に隠れたと知り、獰猛な咆哮を上げる。あの殻から引きずり出し、なんとしても今日の食事にしてやろうという気迫が伝わってくる。

『アイリス、ブラックドラゴンロードもやる気のようです』

「上等です。返り討ちにしてあげましょう。オベイロン、プラズマブレード展開です」

『了解、プラズマブレード、出力80%』

 パワードスーツの右腕に装着された発振器から強力な磁場が発生し、電離したプラズマを固定。どんな物質をも溶かす超高温の青白い刃が形成される。

 だが、ドラゴンも黙って見てはいない。巨大な口を開け大きく息を吸い込むと、体内で生成した炎を勢いよく吐き出した。

『警告、高熱源体接近』

 炎のブレスがパワードスーツに直撃する。地上に存在するどのような炎よりも高温の熱量が、周囲の木々を燃やし、露出した地面をも溶かしてガラス化させていく。

 黒竜が勝利を確信し、金属に包まれていたとはいえ、獲物が燃え尽きて炭になってしまっていないかと心配した瞬間。

 ――いまだ燃え盛る炎の中から、青白い刃を掲げた人影が飛び出してきた。

「あっついですー!オベイロン、クーラー全開にしてくださいー!」

『アイリス、現在、機体冷却システムの90%で装甲の耐熱処理を実行中です。コックピット内温度は、生命維持には支障のない範囲かと』

 これまで、あらゆるものを焼き尽くしてきた黒竜の炎のブレスを耐え抜いたパワードスーツ。冷却剤の蒸気をまとった機体は、まるで炎を防ぐ魔法のベールをまとっているかのようだった。

 自慢の炎が効かなかったことに、ドラゴンの動きが一瞬止まる。

「暑いから、さっさと終わらせます!プラズマブレード、出力最大!」

『プラズマブレード、出力100%』

 パワードスーツの右腕から伸びる青白い刃が大きくなる。振りかぶった刃は、パワードスーツの全高よりも巨大な大剣の形状になり――。

「受けてください!必殺、ハイパープラズマブレード!」

 勢いよく振り下ろされた青き刃は、黒竜の尻尾を斬り裂いた。炎のブレスの高熱にも耐えられる漆黒の鱗を超高温のプラズマがやすやすと溶かし、その巨大な尻尾を根本から切断する。地面をのたうちまわる尻尾は、大きさがまったく違うが、まるでトカゲの尻尾のようだ。

 黒竜は、尾を失ったことで半狂乱となり咆哮する。

『ブラックドラゴンロードの尾の切断を確認しました。アルカディア報告書、生物編1107ページによれば、尾を切断されたブラックドラゴンロードは戦意を喪失するはずです』

「あ、本当ですね、逃げていきます」

 黒竜は翼を勢いよく羽ばたかせると――尻尾を失ったことでバランスを崩しながらも――上空へと飛び去っていった。

 残されたのは、炭化した木々とガラス化した地面の上に立つ、パワードスーツだけだった。


「ふう、一時はどうなることかと思いましたね」

 パワードスーツのハッチを解放し、サウナ状態になっていたコックピットから外に出たアイリスがほっと呟く。吹き抜ける風が、サウナで火照った身体を冷ましてくれて心地が良い。身体の隅々で感じる風の冷たさは、まるで――。

『ところで、アイリス。そろそろ衣服を着用することを推奨します』

「ふえっ!?」

 そこで、ようやくアイリスは気がついた。

 自分が水浴びをしていた時の格好のまま、パワードスーツに乗り込んで戦闘し――そして今もまだ全裸でいるということに。

「きゃっ、きゃああああっ!オ、オベイロン、最優先命令です!今すぐ外部モニタをシャットダウン!あと、さっきまでの映像記録も全てデリートですっ!」

お読みいただき、ありがとうございました。

本作は読み切りですが、また気が向いたら惑星アルカディアの別の出来事を書くかもしれません。

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