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戦姫と戦鬼

作者: 山本大介

 戦記をかけて書いてみました。


 戦国の世、九州筑後は柳川の地において大名たちは、水に囲まれ難攻不落の要害と化す、この地の覇権を巡り幾度も戦を繰り返したのだった。

 先主蒲池氏が竜造寺氏に謀殺され、柳川に暗雲がたちこめる。

 九州に覇を唱えんとんとす大友氏は重臣、戸次(べっき)道雪と高橋紹運が筑後への進出を果たし、同じくして九州の雄である島津氏が竜造寺を破り筑後へと進出し、かの地を巡り大友と島津は争いを繰り返した。

 その最中である。

 久留米高良山で陣を構えていた戸次道雪は命が尽きる時、

「必ず柳川の地を手に入れよ」

 愛娘誾千代とその夫宗茂に固くそう言い残した。


 やがて、戦乱の火種は九州の各地へと飛び火するが、豊臣秀吉の九州仕置によって、九州は平定され、その戦いで獅子奮迅の活躍を見せた立花家は、念願である柳川の地を与えられたのである。

 それから立花改易、田中氏入封、復活と紆余曲折を経たが、江戸時代が終わるまで柳川の地は立花家が治めた。


 そして・・・現在。

 立花道雪の愛娘にして、戦国地代のチート武将宗茂の妻、かつては戦姫と呼ばれた立花誾千代の魂は、今を生きていた流星綺羅々の身体へと転生する。

 魂が器に入る刹那、綺羅々の生前の思いが誾千代の魂へと流れだし、誾千代こと綺羅々は己の宿命を悟った。

 筑後柳川にはびこる、怨霊、化け物を誅す、それが妖怪ハンター流星綺羅々なのである。


 綺羅々は柳川の戦鬼と対峙している。

 その鬼は、現世での友人であった。

 友人は心をこの地に根付く、怨霊に取り込まれ鬼と化したのだ。

「立花っ!お前が憎い。何故、貴様如き、いち大友の家臣が、この我の地を奪い、のうのうと子々孫々繫栄し生き長らえたかっ!」

「決して、そんな事はないのだがな」

 すらり、愛刀雷切丸を鞘から抜いた綺羅々は正眼に構える。

「・・・蒲池か、竜造寺か、はたまた島津か、それともそのすべての恨みか・・・だが、知っているはず、栄枯盛衰、それは戦国の習わしであると」

 戦鬼は美しい顔を般若へと変え激昂する。

「ぬかせっ!五月蠅いっ!お前たちがいなければ」

「いなければどうなった?」

「我々は栄達を極めておったはず!」

「天下人が来てもか」

「・・・ぬう、この地を再び治めなければ、死んでいった同胞に報いることが出来ないのだ」

「今更」

 そう呟く、綺羅々。

「死ねい!」

 戦鬼は飛びかかり、死神の鎌を振り下ろす。

 斬撃。

 頭上への一撃を、彼女は雷切丸で受け止めた。

「我々をずっとこの機をうかがっていた、幾百年同胞の魂を集め、この強力な依り代をもって、柳川を取り戻すのだ」

 鍔迫り合いの後、綺羅々は押し返す。

「戯言を」

「戯言ではないっ!」

 戦鬼は後ろへ飛びのいた後、着地と同時に綺羅々へ横薙ぎの一撃を加える。

 ひらりとかわし彼女は宙に舞う。

 綺羅は着地後、再び正眼に構える。

「現実を見よ。今の世は平和だ」

「一体どこがだ」

「少なくとも戦はない」

「我は知っている。今を生きる者たちの心の闇を、だからこの地を平定して救うのだ」

「悪霊に、悪鬼には救えない」

「ぬかせっ!」

「ふんっ!」

 鎌が振り下ろされる刹那、彼女は踏み出し雷切丸を真っすぐ一閃する。

 柄の部分が真っ二つに両断される。

「さらば、戦国より根付く怒りと恨みの連鎖よ」

 綺羅々は返す刀で、横に薙いだ。

 戦鬼の首が刎ね飛び宙に舞う。

「な・・・たちばな・・・ぎんち・・・」

 鬼の首そして身体は塵となり消えて行く。

 綺羅々は刀を払うと雷切丸を鞘へと納めた。

 長い黒髪が風に揺れる。

 彼女はそっと両手を合わせ、静かに目を閉じた。

 



 現世に蘇った誾千代公。

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