一章 -この世ならざる世界へようこそ-
遠くから何かの音が聞こえた。
何故か身体中から汗が吹き出す。これは困惑、そしてどこか知っているような感覚に襲われる。
思わず1歩、足を踏み出した。
ふと、
足元の違和感に気づく。いつの頃だったか、小さい頃に裸足で校庭を走り回った時の感触に似ている気がした。足元に目線を移すと、自分の足が見え、モロだしのモノまでが見える。全裸だった。
な、何故。そんな感想が出る。
この今の環境の変化に困惑し、自分自身に起きたことが理解できていない。
突如、森の中(?)に全裸の男がいるのである。可笑しい。
今の状況を把握するべく、脳をフルで動かす。
鬱蒼とした森。
周りには木々が生え、とても人間の手が入った様子はない。まるでテレビで観る屋久島のような環境が広がっていた。行ったことがないし、生で見たことがないがそんな気がする。
そして全裸の自分。
風呂上がりで唯一身に付けていたパンツさえなく、モロだしであった。手に持っていたビール缶もいつの間にか消え失せていた。
また周りに目を向ける。主に足元、上。そこには先ほどから変わらず湿った地面、そして木々。それしかない。
な、何故こうなった。あまりにもいきなりのことで首を傾げる。そして、突拍子のない単語が頭の中に過ぎる。
異世界転移
自分自身、リアリティのない考えに笑いが出そうになる。笑ってはいないが。
もしかしたらお酒を飲みすぎたか。
ふと、無意識にしゃがみ込んでいたのに気づく。
今はとりあえず冷静に物事を考えるんだ。
俺は山中晴久、25歳。今は彼女無しで絶賛恋人募集中。〇〇県〇〇市在住、趣味はゲームなり映画なりと、深くもなく浅くもなく娯楽を楽しむのが好きだ。で、今は仕事帰りでシャワーを浴びてビールを飲んでいた…。はず…。
…。OK、普段3、4杯飲んで心地よく酔った時よりは鮮明に思考はクリアだ。酔って夢を見ている、なんてことはなさそうだ。
しゃがみ込んだついでに身体中を異常がないか触診的に触ってみた。普段から触り慣れているこの感覚。リアルだ。現実だ。
目線を下に降ろした。しゃがみ込んでいるついでに、右手の人差し指で地面をなぞってみた。
当たり前ではあるが、指先に土が付いている。地面にも指先でなぞった跡がある。
指先に付いた土を払う。パラパラと。
どうも現実。でしかなかった。
寝起きドッキリで起きたら別の場所に居た時の気持ちってこんな感じだろうか。意味がわからなかったし、もちろん理解ができずにいる。
だが、これは現実なのは変わらなそうである。
「…こっからどうすっかね~。」
しゃがんだ体勢から立ち上がる。何故全裸なんだ。どうも外で全裸だと違和感がある。しかし、開放感もあるといえばある。生物として自然な形なのかもしれない。
…。
現実逃避している暇はない、だろう。
考えるに、今の状況に陥った原因は何個か候補がある。
1つ目はドッキリ番組のターゲット。にしては全裸すぎるし、ターゲットになるにしても一般人の俺では絵にならないだろう。その他も考えは出ているがまず無理だろう。
ぶっちゃけると1つの可能性が高いのはわかっているが認めたくない。有り得ないからだ。
異世界転移もの。
その言葉が頭の中で過ぎる。
日本に生まれ、過ごすと嫌でも見る、触れることになるのがアニメや漫画、そういった類のもの。
基本的にそういうカルチャーは触れてきたし好きだ。理解もあるし、どこか心の中でそういった所に行ってみたいとも思ったこともある。
そういうゲームとかもいつかはVR《仮想現実》で出るんだろうなぁとも考えていた。是非開発を急いでほしいものだ。
「やっぱり、いくら考えても異世界転移っぽいよね~。」
一言呟き、左手を顎に添えた。乾いた笑いが出る。
何の冗談だよ。てか女神とか神とか異世界へ連れていってくれるトラックとかないのかよ。トラックに事故るのは嫌だが。痛そうだし。
どうしたものかと考えにふける。こういうパターンの異世界転移ものはいくつか読んだし、アニメにもあった気がする。
大体の異世界転移ものは神の悪戯やミスで死亡した償いのようなもので転移とかがあったはず。
いきなり異世界へ飛ばされるパターンもあった気がするが、もし異世界転移したのであれば俺はそのパターンに属するだろう。
…。
これって、まじで異世界転移したのか…?本当に?なんで俺?行ってみたいとは考えたことはあるが、まじで?
行ってみたいけど、痛いのとか苦しいのは嫌だぞ。俺TUEEEEってやつを希望するのだが…。
「とりあえず、今何かしないとまずい、か。」
異世界でもドッキリでも、この鬱蒼とした森の中、全裸ではやばいのは誰が考えても分かるだろう。
1文無しとかのレベルでは無いのだ。何も無いのだ。サバイバルをするにしても最低限とかではなく最低でのスタートだ。そこまで思考すると、何故か喉が渇いてきた。
なにか行動をしなければ、野垂れ死ぬ。そんな気がしてきたのだ。
「お、終わった、かも。」
また汗が吹き出す。鳥肌も出てきた。
死、そのワードが身近な近づいて来ているのだ。




