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第7話 いざ、ダンジョンへ

 この世界におけるダンジョンは、何もない場所に突然現れる。リューキの町に存在するダンジョンも、数十年前に突如現れた。どのような原理で発生するのかは、いまだ解明されていない。


 メインストリートから離れた北の森に、ダンジョンの入り口がある。森の中に存在するためか、町の外からやって来る探索者からは『森のダンジョン』と呼ばれていた。


 鬱蒼とした森を進むと洞窟があり、その先にダンジョンに繋がる扉がある。洞窟付近は通常であれば探索者で賑わっているが、緊急事態である今は閑散としていた。


 太陽の光が木々で遮られて、辺りは薄暗い。肌に触れる空気は、町にいる時よりもひんやりしていた。外からでは洞窟の先は見えない。一歩でも足を踏み入れたら、深い闇に飲み込まれそうだ。


「ほ、本当にここに入るんですか?」


 ミモザは、エクレールの袖を掴みながら声を震わせて尋ねる。弱気な態度を見て、エクレールは呆れたように溜息をついた。


「ついさっきまでのやる気はどこに行ったの?」

「だ、だって~……」


 先ほどまではやる気に満ち溢れていたが、真っ暗な洞窟を前にしたら足が竦む。見ただけで分かる。この先は絶対に危険だ。洞窟の前で渋っていると、エクレールはトランクケースから小瓶を取り出した。


「ダンジョンに入る前に、これを両手首に付けなさい。そうすれば危険な目には遭わないはずよ」

「…………はず?」


 そこは「危険な目には遭わない」と断言してほしい。疑いの眼差しでエクレールを見つめていると、はぁと溜息をつかれた。


「上手くいくかどうかは、貴方のスキル次第よ。さあ、手首を出しなさい」


 言われるがままにワンピースの袖をめくって手首を出す。すると小瓶に入った香水を拭きつけられた。ミントを含んだ清涼感のある香りが鼻腔をくすぐる。反射的に、頭がシャキッとした。

 エクレールは、自身の手首にもミモザが調香した香りを付ける。


「自分で調香した香水を使わないんですか?」


 何気なく尋ねると、エクレールは表情を変えずに頷いた。


「ええ。まずはこっちで試してみたいから」

「そうですか……」


 理由は分からないが、自分の調香した香水を使ってもらえたのは、ちょっと嬉しかった。


「さあ、行くわよ」

「うう……まだ心の準備が……」


 泣き言を漏らすも、エクレールは躊躇いなく洞窟に入っていく。その背中を渋々追いかけた。


 真っ暗な洞窟をおっかなびっくり歩く。まだダンジョンに入ってすらいないのに、心臓が口から飛び出そうだ。恐怖のあまりエクレールの袖を掴みながら進んだ。


 洞窟の突き当りまでやって来ると、重厚感のある扉を見つける。恐らくこれがダンジョンの入り口だ。扉には古代壁画のような装飾が施されている。見るからに不気味なオーラを放っていた。


 エクレールは躊躇いなく扉に手をかける。ギギーッと鈍い音を立てながら、扉が開いた。

 扉の先には階段があるが、真っ暗で先が見えない。目を凝らして先を見ようとしていると、エクレールがランプを点けた。魔法石で稼働するランプだ。これなら足もともよく見える。


「行きましょう」

「はいっ」


 先導するエクレールに続いて、ミモザも階段を下る。ここから先はダンジョン内だ。モンスターがいつ出現するか分からない。


 ビクビクしながら歩いていると、階段を下りきって一階層に出た。目の前には何もないだだっ広い空間が広がっている。


「モ、モンスターが出てくるんじゃ……」


 ミモザは涙目になりながら、エクレールの腕にしがみつく。しばらくは階段の傍で様子を伺っていたが、モンスターが出てくる気配はなかった。


「あ、あれ~……」


 絶対に何か出てくると身構えていたから、ちょっと拍子抜けした。モンスターが出てこないに越したことはないのだけれど。


 ミモザが立ち尽くしていると、エクレールは腕組みをしながらにやりと口元を緩める。


「なるほど。ちゃんと効果は現れているようね……」


 なんだか嬉しそうな反応だ。理由が分からず首を傾げていると、エクレールはコツコツとヒールを鳴らしながら歩き出した。


「先に進みましょう」


 その後も階段を下り、フレイムキャットが出現している十五階層を目指す。その道中では、一切モンスターと遭遇しなかった。


「モンスター、出てこないですね……。ダンジョンってこんな感じなんですか?」


 ミモザはダンジョンに潜ったことがないため、この状況がいつも通りなのかは分からない。ミモザの質問に、エクレールは涼し気な顔で答えた。


「普段なら、とっくにモンスターと出くわしている頃よ。モンスターが現れないのは、貴方の調香したモンスター避けの香りのおかげ」


 そこでようやく理解した。香りには、虫や動物を避ける効果もある。前世でも害虫対策として、忌避剤を利用することがあった。嫌な香りを避けるのは、モンスターも同様のようだ。


「モンスターと遭遇しないでダンジョンを歩けるなんて、素晴らしいですね!」


 この香水さえあれば、ダンジョンを堂々を歩ける。怪我をする心配もない。素晴らしいアイテムに感心していると、エクレールは冷静に指摘した。


「まあ、一般の探索者には需要はないけどね。モンスターと闘わなければ素材も得られないのだから」

「ああ、確かに……」


 素材をゲットして一攫千金を狙っている探索者からすれば、モンスターに遭遇しないなんて本末転倒だ。このアイテムは、モンスターとの戦闘を避けて目的の階層まで向かう時に限って役に立つのだろう。


 その後も香りの効果のおかげで、モンスターと鉢合わせることなく十五階層まで進んだ。

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