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第16話 キースの加護

 無事に入会テストを終えたところで、エクレールは改めてギルバートと向き合う。


「これでミモザに調香師の素質があることはお分かりいただけたでしょう?」

「まあ、そうだね。調香師養成学校に通っていない子が、ここまでできるのは正直驚かされたよ」


 ギルバートは複雑そうに目を細めている。そんな彼に追い打ちをかけるように、エクレールはにやりと笑った。


「でも、それだけじゃないんです」

「というと?」


 ギルバートは、まだ何かあるのかと身構える。するとエクレールは腕組みをしながら得意げに告げた。


「ミモザは、キースの加護持ちかもしれません」

「なんだって!?」


 ギルバートは机から身を乗り出して声を上げる。驚くギルバートだったが、ミモザ本人は首を傾げるばかり。


「キースの加護?」


 頭にハテナを浮かべながら小首を傾げていると、エクレールが淡々と解説をする。


「キースは、今から二千年前に香りの力で心身の不調を改善させる手法を見出した人物よ。要するに、調香師の父」

「調香師の父……」


 その話は初めて聞いた。ミモザは香りそのものには興味があるが、歴史についてはあまり知らない。キースという人物の存在も、今初めて知った。呆然としていると、エクレールは解説を続ける。


「キースは、香りの力を強く引き出すスキルを持っていたの。キースの加護を受け継いだものは、同等のスキルを持っているということ。ちなみに、私も加護持ちよ」

「エクレールさんも!?」


 初めて聞く情報ばかりで頭がこんがらがってくる。するとエクレールの隣にいたロイが補足をした。


「ダンジョンに潜った時、エクレールさんが調香したアロマ水で、フレイムキャットを骨抜きにしていただろ? あんなことができるのは、加護持ちだけだ」

「そうなんですか!?」


 それも驚きだ。てっきりレシピ通りに調香をすれば、誰にでもできると思っていた。


「ちなみにモンスター避けの香りを調香できるのも、加護持ちだけよ」

「なんと!」


 エクレールの言葉に、再び驚かされる。モンスター避けの香りも、虫避けのように誰でも調香できると思っていた。納得をしかけたものの、あることに気付く。


「でも、モンスター避けの香水は私が調香しましたよね?」


 ダンジョンに潜る前に付けたモンスター避けの香水は、ミモザが調香したものだ。エクレールの指示通りに作ったが、実際に手を動かしたのはミモザだった。出来上がった香水は、きちんとモンスター避けの役割を果たしていた。


「だから貴方も加護持ちかもしれないって言っているんじゃない」

「あれって、私がスキルを発動したからなんですか!?」


 ミモザは自分の手のひらを見つめる。スキルを発動した覚えはなかったが、エクレールの言うことが真実なら、ミモザも特別な力を宿していることになる。

 すぐには納得できずに呆然としていると、エクレールが真っすぐミモザを見据えながら告げる。


「貴方のスキルは、まだ発現したばかりのようね。香りを自在に操れるほどの力はない。だけど調香スキルを磨けば、できることも増えていくはずよ」


 要するにスキルを磨けば、あらゆる効力を持つ香りを調香できるということになる。自らの可能性に気付くと、身体の奥底からエネルギーが沸き上がった。


 ミモザは、香りの力でみんなを幸せにしたいと願っていた。キースの加護があれば、その夢を叶えることだってできるかもしれない。


「私、頑張って調香スキルを磨きます!」


 ミモザは翠色の瞳を輝かせながら拳を握る。意気込みを伝えると、エクレールは口元を緩めて微笑んだ。


「ええ。期待しているわ」


 エクレールの言葉と笑顔に勇気づけられる。誰かから期待されることがこんなにも嬉しいことだとは思わなかった。

 二人が乗り気になったところで、エクレールは勝ち誇ったような表情でギルバートと向き合う。


「というわけなので、ミモザのギルド入会を認めてもらえますよね?」


 エクレールの圧に押されたのか、ギルバートが項垂れながら溜息をついた。


「はあああ……分かったよ。加護持ちの子とあれば、放ってはおけないからね。ギルドへの入会を許可しよう」

「ありがとうございます!」


 ミモザは両手を合わせながら歓喜する。ギルドに入会できれば、堂々とエクレールの弟子として香りの勉強ができるということだ。

 ミモザの入会が決まると、部屋の隅で事の成り行きを見守っていたロイが意気揚々と右手を掲げた。


「無事に入会も決まったことだし、今夜は歓迎会でもしますか!」

「ええ、そうね」


 エクレールも頷きながら賛成する。ロイの期待に満ちた眼差しと、エクレールの圧を一手に受けると、ギルバートは項垂れながらひらひらと手を振った。


「あーあ、分かった、分かった。今夜はミモザちゃんの歓迎会だ。各々定時で仕事を切り上げるように」

「了解っす!」

「私はいつも定時で上がっています。上がれないのは貴方でしょう?」


 エクレールの言葉は図星だったのか、ギルバートはグッと胸を押さえた。

 賑やかなやりとりを見ていると、ミモザも自然と笑みが零れる。これから彼らと共に調香師ギルドで働けることが楽しみで仕方がなかった。


「私、精一杯頑張るので、よろしくお願いします!」


 ミモザが元気よく伝えると、三人から温かな笑顔が返ってきた。エクレールは、ミモザに手を差し伸べる。


「あらためて、ようこそイストワールへ」

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