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第7話 逃げても、またここに

 執筆にあたり生成AIを使用しています。

(公園・夜)


「……さよなら」


 僕は玲奈に背を向け、走り出した。


「和樹!」


 背後から玲奈の声が響く。

 でも、僕は振り返らなかった。


 マンガやドラマなら、わざと嫌われるようなことを言って別れる展開もあるだろう。

 けれど、僕にはできない。


「嘘も方便」——そんな器用なことは、僕には無理なのだ。


 それに——


 玲奈は、本気で僕が好きらしい。

 僕が教室で嘔吐しようと、自虐しようと、それでも。


 なら、彼女を傷つけない方法は一つしかない。


 逃げること。


 何の解決にもならないとわかっていても。


(アパート)


 自室に飛び込み、すぐに鍵をかけた。

 玲奈は、追ってこなかった。


 安堵と虚無が入り混じる。


 買ってきた弁当を開く。

 口に運ぶが、味がしない。

 まるで砂を噛んでいるようだった。


 しばらくして、スマホの着信音が鳴る。

 画面を見ると——母からだった。


 電話に出ると、開口一番、「高校から連絡があった」と言われる。


「大丈夫だよ」と僕は返す。

 母はなおも心配そうだったが、「明日は登校する」と伝えると、少しだけ安心したようだった。


 もしまた休めば、両親はきっと様子を見に来るだろう。

 それだけは避けたかった。


 だから——明日は、学校へ行く。


(翌朝)


 いつも通り洗顔をし、朝食を済ませ、登校する。


 教室に入ると、クラスメイトたちがこちらを見た。

 先日、僕が教室で嘔吐したことを心配しているのだろう。


「大丈夫?」


「無理しなくていいからな」


「……ごめん、大丈夫だから」


 僕は短く答える。

 どう対応すればいいのか、よくわからなかった。


 玲奈も、来ていた。


 目が合う。


「おはよう」


 玲奈が、変わらぬ調子で言う。


「……おはよう」


 僕も、ぎこちなく返した。


 玲奈は、まるで何事もなかったかのように振る舞っている。

 少なくとも、表面上は。


 ——あんなことがあったのに、心穏やかなわけがないのに。


 クラスメイトたちが、ちらちらと僕と玲奈を見ている。

 気まずい雰囲気が、教室に広がるのを感じた。


(放課後)


 下駄箱で上履きをしまい、そそくさと帰ろうとしたその瞬間。

 隣に、ひょいっと玲奈が現れた。


「一緒に帰ろ?」


 ……やれやれ。


 気まずい。

 とてつもなく、気まずい。


 けれど、ここで「無理」と言えば、彼女はさらに突っ込んでくるだろう。

 そして、またクラスメイトたちに妙な噂を立てられるのも面倒だ。


「……わかった」


 肩を落とし、そう返事をすると、玲奈は満足そうに微笑んだ。


「素直でよろしい」


 玲奈はいつも通りの調子だった。

 少なくとも、表面上は。


 ——でも、本当に”平気”なわけがない。

 昨日、僕があんなことを言ったのだから。


 それなのに、彼女は変わらず僕に向き合ってくる。

 本気で、逃がすつもりがないらしい。


 僕らは、無言のまま並んで歩き出した。


(学校前の通学路)


 道の両端には、枯れかけた街路樹が並んでいる。

 冬が近い。冷たい風が頬を撫でた。


 僕は、なるべく玲奈の方を見ないようにしていた。

 でも、彼女の視線が、時折こちらをうかがっているのを感じる。


(……何か、話さなきゃいけないのか?)


「……」


 いや、でも何を?

 どうせ玲奈は、僕の言葉を押し返してくる。

 それが分かっているから、無駄に思えてしまう。


 沈黙が続く。

 だけど、彼女は焦る素振りもなかった。


 それどころか、どこか穏やかな表情すら浮かべている。

 僕が逃げたことも、僕が拒絶したことも、何もなかったかのように。


 ……それが怖い。


 僕がどれだけ突き放そうとしても、彼女は離れようとしない。

 まるで「私が勝つまで諦めない」と言わんばかりの強さ。


 そんな彼女の態度に、胸の奥がざわつく。


(……何なんだよ、お前は)


 しばらく歩いた後、ふと、玲奈が立ち止まった。


「ねえ」


「……ん?」


 僕も足を止める。

 玲奈は、前を向いたまま言った。


「昨日のこと、まだ引きずってる?」


「……」


 即答できなかった。

 答えたくなかった。


「……別に」


 適当に流そうとする。

 だけど、玲奈は「嘘つき」と言いたげな顔で僕を見ていた。


「和樹、さ」


 玲奈は静かに言葉を継ぐ。


「昨日、私にさよならって言ったよね?」


「……言ったな」


「本気で、私と関わるのをやめたいの?」


 僕は、ぐっと唇を噛む。

 昨日、そう言った。でも……本当にそうか?


「……そう、だよ」


 なんとか言葉を絞り出す。

 だけど、玲奈は、どこか寂しそうに笑った。


「そっか」


 その笑顔が、胸に突き刺さる。


「でも、私はやめないから」


「……」


「だって、“好き”ってそういうものでしょ?」

 玲奈は、まるで何でもないことのように言った。


「何言われても、どんなに拒まれても、簡単に諦められるなら、そんなの最初から本気じゃないもの」


「……」


「私はね、和樹がどんな人でも、和樹を好きでいるって決めたの」


 淡々とした声だった。

 まるで”変えられない真実”のように、揺るぎない口調で。


(……何なんだよ)


 僕は目を伏せた。

 玲奈の真っ直ぐすぎる想いが、苦しかった。


「……それでも、僕は」


 言いかけたその時。


 玲奈が、すっと手を伸ばした。

 そして——僕の袖を、そっと掴んだ。


「……っ」


 驚いて顔を上げると、玲奈は小さく微笑んでいた。


「和樹。今すぐ全部を受け入れなくていいの」


「……?」


「ただ、一つだけ約束して」


「……約束?」


 玲奈は、僕の袖を掴んだまま、静かに言った。


「もう、“いなくなりたい”とか”消えたい”とか、そんなこと言わないで」


 僕の胸の奥が、チクリと痛んだ。


「……」


 玲奈の手の温もりが、じんわりと伝わってくる。

 寒いはずなのに、妙に暖かい。


「それだけでいいの」


 玲奈は、僕の答えを待つように、そっと僕を見つめていた。


 ——どうすればいい?


 僕はまだ、自分の価値が分からない。

 玲奈が言う”好き”の意味も、信じることができない。


 でも。


「……わかった」


 その一言だけ、僕は絞り出した。


 玲奈の表情が、ふっと緩む。

 そして、そっと袖を離した。


「よし、なら今日はここまで」


 まるで、何かの勝負に勝ったような顔をして、玲奈は満足げに微笑む。


「じゃあ、また明日ね」


 そう言って、手を軽く振ると、玲奈は踵を返した。


 僕は、その後ろ姿を、ただ見送る。


 ……結局、今日も彼女には勝てなかった。


 でも。


 胸の奥で、少しだけ何かが溶けたような気がした——。

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