第6話 必要とされない僕
執筆にあたり生成AIを使用しています。
(公園・夜風の吹く中)
「白石さん」
そう呼ぶと、玲奈は不機嫌そうに眉をひそめた。
「“玲奈”でいいわよ」
「いや……“白石さん”と呼ばせてもらう」
玲奈が何か言おうとしたのを遮るように、僕は続ける。
言わなければならない。今ここで、はっきりと。
「僕はね……社会に適応できない人間なんだよ」
玲奈の表情が一瞬、固まる。
「……?」
「小さい頃から、マイペースすぎて、こだわりが強くて……他人の顔と名前が一致しなくて……」
自分の中に閉じ込めていた言葉を、吐き出すように話し続ける。
「医者に言われたんだ。ASDだって。アスペルガー症候群だって……発達障害なんだって」
玲奈は黙って、僕を見つめていた。
「それでも、小学生の時はまだよかった。でも——」
視界が歪む。
頭の中で、あの頃の記憶が蘇る。
「中学になってから、ものすごく嫌なことがあって……その時、わかったんだ。僕は、出来損ないの人間なんだって」
玲奈は、何も言わない。
けれど、その瞳は真剣だった。
「昨日だって、君とのことがみんなに知られて……気持ち悪くなって、吐いたんだ。情けないよ。でもね、それで、ほっとしたんだ」
「……ほっとした?」
玲奈が、初めて声を発した。
でも、僕はうなずく。
「そう。これで、君も僕に幻滅するだろうって」
静寂が、公園を包む。
「それでいいんだ」
夜風が吹く。
冷たくて、僕の言葉を運んでいくようだった。
「僕は君にふさわしい人間じゃない。いや、誰にとっても必要とされない人間だ。僕がいなくても地球は回る。世の中は動く。僕が死んでも、人口がひとり減るだけだ」
言いながら、どこか自分がひどく冷たい存在になったような気がした。
でも、それが僕の真実なんだ。
「これでわかったろう」
玲奈は、ただ静かに僕を見ていた。
まるで、僕の言葉をすべて受け止めるかのように。
「もう、ここに来ないでくれ。君と僕は、ただの同級生。いや……」
僕は一瞬、言葉を飲み込む。
でも、最後まで言わなければならない。
「いっそ、退学しようと思ってる」
玲奈の表情が変わったのがわかった。
でも、僕は続ける。
「……カレー、ありがとう。それじゃ」
踵を返し、玲奈に背を向ける。
これで、すべて終わる。
……はずだった。
「待って」
玲奈の声が、僕の背中を貫いた。
足が、止まる。
立ち去るはずの足が、前へ進まない。
「……もう、いいだろ。わかっただろ?」
振り向かずに言う。
「待って、和樹」
玲奈の声が、少し強くなる。
「やだ」
「……は?」
思わず、振り向いた。
玲奈は、少しだけ頬を膨らませ、真っ直ぐ僕を見ていた。
まるで、怒っているようにも、泣きそうにも見える。
「そんなの、やだ」
「……何が」
「和樹がそんなふうに、自分で自分を切り捨てるの、やだ」
「……」
「退学する? 私と関わらない? 必要とされない人間? そんなの、全部嘘よ」
玲奈は、一歩僕に近づく。
「和樹は、私にとって”必要な人”よ」
——何を言ってるんだ、この人は。
「だから、逃げないで」
「……逃げてなんか」
「逃げてるわ」
玲奈の声は、少し震えていた。
「自分を守るために、“自分なんていなくてもいい”って言ってる。そんなの、和樹の本音じゃない」
「……」
「私はね、和樹がどんな人でも、ちゃんと”好き”なの」
玲奈の言葉が、胸に突き刺さる。
「だから、そんな悲しいこと言わないで」
玲奈の目が、揺れていた。
それでも、僕から目を逸らさなかった。
「……」
僕は、何も言えなかった。
言葉に詰まり、ただ、立ち尽くすしかなかった。