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第5話 逃げても、そこにいる

 執筆にあたり生成AIを使用しています。

(和樹のアパート)


 玲奈が帰ったあとも、僕はまだ状況を受け入れられずにいた。


 ——僕には、誰かに好かれる価値なんてない。


 ずっとそう思っていたし、そう信じていた。

 中学時代の苦い記憶——思い出したくもない過去——が、それを証明している。

 だからこそ、僕はそうあらねばならないと確信している。


 明日、玲奈にちゃんと伝えよう。

 気持ちはありがたいけれど、君とは付き合えない、と。


(高校)


 翌日。


 教室に入った途端、クラス全員の視線が僕に集まった。

 何だ、この空気は——と思ったその時。


「ごめんね、ばれちゃった」


 そう言って、玲奈は笑顔で舌を出した。

 これが、いわゆる「てへぺろ」というやつか。


 どうやら昨日、玲奈が僕の部屋から出てくるところを、クラスの男子・斉田が目撃していたらしい。


 ——最悪だ。


 クラスメイトが一斉に押し寄せ、僕を質問攻めにする。

「付き合ってるの?」「何で家にいたの?」「え、マジ?」——次々に投げかけられる言葉。

 からかうような口調の者はいなかったが、それでも僕はたちまち返答に窮した。


 一方の玲奈は、軽く謝りつつも、どこか楽しんでいるようにも見える。

 まるで、これを既成事実にしようとしているかのように。


 やがて担任が入ってきて、クラスは席に戻った。

 さっきまでの喧騒が嘘のように、授業が静かに始まる。


 しかし——


 僕は、ずっと落ち着かなかった。


 僕と玲奈、二人だけのことにしておきたかったのに。

 これからどうなってしまうんだ。


 胸が苦しい。

 息がうまく吸えない。

 視界が揺れる。

 胃が裏返るような感覚——


 そして。


 机の上に、今朝の食事を吐き戻した。


 隣席から、悲鳴が上がる。

 クラスがざわめき、誰かが教師を呼びに走る。


 ——その後のことは、よく覚えていない。


 気がつけば、保健室のベッドに寝かされていた。

 早退を申し出ると、担任が車で送ってくれることになった。


 玄関のドアを閉めた瞬間、僕はその場にへたり込んだ。

 膝を抱えて、頭を抱え込む。


 教室で嘔吐するなんて、何という醜態だろう。


 だけど——

 一方で、ほっとしている自分にも気づいてしまった。


 これで、玲奈も僕を見限るだろう。

 もう、僕に関わるのはやめるだろう。

 それでいい。


 ……そうだろう?


 その日は、夕方まで眠った。


 目が覚めると、空腹を感じた。

 けれど、料理をする気力はない。

 コンビニへ行き、おにぎりを買ってくる。


 部屋に戻り、テーブルの上に置かれたタッパーに目を向けた。

 玲奈が作ってくれたカレー。


 おにぎりと一緒に、それを食べる。


 ——もう、この味とも、お別れだ。


 そして翌朝。


 僕は学校に電話し、休むと告げた。


(夕方・アパートの玄関前)


 コンビニの袋を手に提げて、僕は深く息を吐いた。


 今日は一日、英語の勉強をしていた。

 少なくとも、机に向かっている間は昨日のことを考えずに済んだ。


 教室で吐いたこと。

 クラスの視線。

 玲奈の「ごめんね、ばれちゃった」という言葉。

 ——そして、彼女が本当に僕を好きなのかどうかもわからない、あの曖昧な態度。


 でも、それももう終わりだ。

 玲奈はもう、僕に関わってくることはないだろう。


(……それでいい)


 冷たい夜風が頬を撫でる。

 少し肌寒い。早く帰って夕飯を食べよう。


 そう思って、歩き出したそのとき。


「やっと出てきたわね」


 ——声がした。


 耳慣れた、少し勝ち気な響きを持つ声。

 心臓が跳ねる。


 公園のベンチ。

 そこで、玲奈が僕を待っていた。


 僕の足が、すくんだ。


「……なんでここにいる」


 震えそうになる声を無理に押し殺す。


「そりゃあ、会いに来たのよ」


 玲奈は、ごく自然にそう言った。

 まるで、昨日のことなど何もなかったかのように。


 ——どうして。


「……もう、いいだろ。僕とは関わるな」


 そう言うのが精一杯だった。

 彼女が僕を見限るなら、それを後押しする方がいい。


 玲奈はしばらく僕を見つめていた。

 そして——ふっと、笑った。


「ダメよ」


「……は?」


「私が”もういい”って言うまでは、終わりじゃないの」


 そう言って、玲奈は立ち上がる。

 僕の正面まで歩いてきて、じっと僕の目を覗き込んだ。


「ねえ、和樹。昨日、すごく辛かったでしょ?」


 僕は息を呑む。


「……」


 言葉が出ない。

 玲奈の瞳が、僕の心の奥を見透かしているようで。


「私、ちゃんと謝りたいの。昨日のこと」


 玲奈の声は、どこまでも真剣だった。


「でもね、それだけじゃないの」


 彼女は少しだけ表情を和らげると、いつもの調子で言った。


「私、和樹を好きだから。だから、また会いに来たのよ」


 ——わからない。


 どうして、そこまで言えるんだ。

 どうして、僕なんかに関わろうとするんだ。

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