第10話 英語クラブと押し問答
執筆にあたり生成AIを使用しています。
(放課後・教室)
僕と玲奈は交際を始めた。
——と言っても、特に大きく変わったことはない。
朝、待ち合わせて一緒に登校し、
放課後は途中まで一緒に帰る。
週に一度、玲奈は僕のアパートに来て、料理を作ってくれる。
デートらしいデートはしていない。
そして——僕はまだ、「好き」とは言っていない。
玲奈はそれを気にしているのか、いないのか。
相変わらず、いつもの調子で僕に絡んでくる。
そして今日も——
「和樹、英語クラブを作ろう」
突然、玲奈がそんなことを言い出した。
「……英語クラブ?」
教室の窓際で、僕は顔をしかめる。
聞き間違いじゃないよな?
「そう、英語クラブ。学校には正式な英語部がないでしょ? だから、作るの」
玲奈はにこにこと笑いながら言う。
なんだか"決定事項"みたいな顔をしているのが、すごく嫌な予感がする。
「まあ、悪い話じゃないけど……」
「でしょ?」
「……でも僕には関係ない」
「あるよ」
玲奈は、ずいっと顔を近づける。
「だって、部長は和樹だから」
——ほらきた。
「ダメ」
即答で拒絶する。
「えー、なんで?」
「僕はそういうの向いてない」
「向いてるよ」
「向いてない」
「向いてる!」
「向いてないって言ってるだろ!」
玲奈と押し問答になるのは、もはや恒例行事だ。
でも、これは絶対に譲れない。
「中学の修学旅行で班長になったことがあるけど、全然統率が取れなくてさ」
「ふむふむ」
「結局、まとめるのが下手すぎて、みんな自由行動みたいになったんだ」
「あら」
「そういうの、向いてないんだよ。だから無理」
「でも和樹が一番英語が上手いんだから」
「部長の仕事は英語が上手いことじゃないだろ!」
「でもでも、和樹がやらなきゃ、みんなついてこないと思うの」
「いや、別に僕がやらなくても——」
「じゃあ、私が部長をやる」
「……」
言葉に詰まる。
玲奈が部長……? いや、それはそれで……。
「で、副部長は和樹ね」
「それ、結局僕が動かされるやつじゃないか!」
「そうよ?」
「開き直るな!」
「大丈夫、和樹が補佐してくれれば、私も完璧な部長になれるわ」
玲奈は、自信満々に言う。
むしろ、"和樹が手伝ってくれるなら何の問題もない" くらいの勢いだ。
「やらないって言ってるだろ」
「じゃあ、どうする?」
玲奈は、腕を組んで僕をじっと見た。
どうやら完全に折れる気はないらしい。
僕はため息をついた。
「……部長は、他に適任がいるんじゃないか?」
「いない」
「いや、いるだろ。たとえば——」
「いない!」
玲奈は力強く断言する。
——くそ、逃げ道がない。
「やって」「嫌だ」の押し問答が続く中、玲奈はしばらく考え込んでいた。
そして——
「じゃあ、こうしよう」
玲奈が提案したのは——
「和樹が"好き"って言うまで、私が部長。でも、"好き"って言った瞬間に和樹が部長交代!」
「……は?」
あまりにも理不尽な提案に、僕は思わず固まった。
「いや、意味がわからない」
「分かりやすいでしょ?」
玲奈は、いたずらっぽく微笑んだ。
「和樹が'好き'って言う日が来るまで、私は部長をやるわ。でも、その日が来たら、和樹が責任を持って引き継ぐの!」
「いや、だから何でそうなるんだ!」
「そしたら和樹も、'好き'って言う理由ができるでしょ?」
「いや、好きって言うために部長交代するんじゃないだろ!」
「そう? でもこれなら、公平じゃない?」
玲奈は、にこにこと笑っている。
「和樹が'好き'って言わなければ、ずっと私が部長よ?」
「……」
「でも、いつか言うつもりなら、その時は覚悟してね」
玲奈は、いたずらっぽくウインクした。
「ほら、これなら和樹も部長をやる可能性があるんだから、妥協点でしょ?」
妥協点……?
いや、どこが妥協なんだよ。
完全に玲奈が有利な条件じゃないか。
「……ふざけるな」
「ふざけてないわよ?」
「そんなルールで……」
「ダメ?」
玲奈は、じっと僕を見つめる。
何かを試すような目。
(……くそ)
どうする?
このまま押し切られるのか?
でも、どうせ「好き」なんて簡単に言うつもりはない。
だったら——
「……わかったよ」
僕は渋々答えた。
「お、やる気になった?」
「部長交代のルールは認めないけどな」
「まあまあ、そう言わずに。じゃ、さっそく明日からクラブ申請ね!」
玲奈は、満足げに笑った。
——こうして、英語クラブが発足することになった。