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第二十一話 黒き夢の始動

「突然で悪いんだが…少し、吾輩の昔の話をしようか。何、長くは話さない…まぁ話すならまた後日、かな。」



「あれはだいたい…十五年前、くらいか?吾輩の名前がラプラスではなく、ラプリオスと名乗っていた最後の年。そして、吾輩の心に大きな”枷”をもたらした年だ。」



「まず最初に吾輩がどんなものなのかを説明したほうがいいな。」



「吾輩はまず人じゃない。見ての通りだけどな。次に天使、悪魔でもない。簡単に言うと、『天理を越えし星オベイロス・モルゲート』というものなんだ。これは、二十万年に一度常世に出現する"暗黒杯"を五体の天理を越えし星オベイロス・モルゲートで奪い合う儀式、『黒杯殲戦』のために選ばれた神や半神、星魔などのことを指す。」



「そして、吾輩は丁度十五年前に行われた儀式に参加するために呼ばれた。そこで、風見やギルガメッシュと出会った。アイツラは暗黒杯が指定した天理を越えし星オベイロス・モルゲートだったからな。まぁ、出会いは最悪別れも最悪だったけどな。」



「何はともあれ、その儀式を何とか勝ち抜き暗黒杯を手にしようとしたその時、惨劇は起こった。通常、意志を持つはずのない暗黒杯が、自らの意志で"黒の呪縛ゼバース・ニーゼス"を溢れさせ、儀式が行われた地域一帯を焼き尽くした。」



「何とか少量の力を集めることはできたが、街も家も焼け、眼前はさながら地獄絵図だった。だが、その中でも希望が見えていた。いろはを見つけたんだ。いろはを救い、唯一の希望として育てていった。」



「それでも黒杯の近くにいた吾輩は、この呪いを受け、心が、身体が蝕まれた。その時、呪縛は吾輩の心を縛り付け、力を封じてきた。無理に抗ってもだめだと思い、この呪いと付き合ってきた。」



「…だが、それも限界がそろそろ来る。前例のないこの短いスパンで再び黒杯殲戦が行われているのである。風見やギルガメッシュがこの世界にいたのもその影響だ。黒杯と直接つながってしまった吾輩は、暗黒杯が再び現れたことによって、呪の影響が強まってきている。」



「…とまぁここまで話してきたんだが、伝えたいことを簡潔にすると、『暗黒杯を壊したい』となるな。」



「え?場所はわかるのかって?当たり前だろ、ここまでしゃべっててわからないわけないじゃないか。」



「暗黒杯の持ち主も、その利用方法も、分かってんだよ。なぁ、そうだろ?…八咫峰烏やたみねからす!!」



ラプラスがそう叫ぶと、背後から歩み寄ってくるものが居る。そう、八咫峰烏だ。



「良く分かったなラプラス・ダークネス。全く…お前は何時も私を愉しませてくれる。だが一体どうして分かったというのかね?」



「どうしても何も…暗黒杯の真下にいて!何の影響も受けていなかったのはお前だけだっただろうが!」



ラプラスは激昂し右手を構え、技を使おうと準備をする。



「いいのか?その技を使ってしまって。その技には膨大な魔力と大幅な処理能力が必要だ。能力があればよかったものを…鞘を渡したのはまだいいが、剣さえも壌土したのは愚行ではなかったか?」



「煩い…お前と暗黒杯を壊せるのなら、この命には然程価値はない!」



「お前はやはり、人間のようなだな。それだからいつまでたっても理解できないのだ。」



「何ッ?」



「お前は、私が暗黒杯の真下にいて影響を受けていなかったからと言って特定したな?それはそうだ、なにせこの私が暗黒杯を所持しているのだからな。だが、一つ、たった一つだけ勘違いしている。」



「前回の黒杯殲戦は、誰も勝者はいない。私ですらも、呪に蝕まれた。だが、呪は私を認めてくれたのだ。私の持つ娯楽、他人の不幸をな。」



「何が言いたい。」



「まぁそう焦るな。呪いとは元来人より起こるもの。あの呪も元をたどれば人によるものだ。暗黒杯とは、その集合意識を汲み取り、貯蔵し、常世に放つ。そしてその呪は、今やこの私に委ねられた。この意味がわかるかね?」



「…言いたいことは分かった。要するに吾輩の詰みということだろう?」



「そうだ。今すぐにでも、この星に呪を溢れさせてもよいのだぞ?」



「要求は何だ?」



「なに、簡単なことだ。お前の魂をこの杯に捧げるだけだ。」



「その要求、了承しよう。だが、吾輩の意思は、想いは、いずれ形をなしてその呪を打ち壊す。覚悟しておけ!」



「フッ戯言を…飲み込むがいい『黒の呪縛ゼバース・ニーゼス』」



烏の背後からドス黒い泥が溢れ、ラプラスを飲み込んでいった。



「これで一つだ、着々と進んでいる。あの御方の復活も間近に迫っているッ!あぁ…愉しみだ。どれだけの人が死に、どれだけこの私を愉しませてくれるのか…」





場所は変わり、いろはが職場で作業をしている。その身体に一つの風が流れる。



「おわッ、なんでござるか…?ここ地下のはずでござるが…」



机に再び視線を向けると、一つの紙が置いてあった。



「こんなのあったでござるか?」



いろはは手に取り目を通す。



『いろは、ごめん。少しのあいだ帰れそうにないわ。どこいったか気になるんなら探さないほうがいいと思う。それでも知りたいのなら、星を探せば見つかるかもな。』



「ラプ殿のでござるか…?そういえば朝からいなかったでござるな…星でござるか…取り敢えず置いておくことにしよっかな。」



いろはは紙を置き、仕事に再び取り掛かる。その目はまだ何も知らず、生き生きとしている。

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