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十六話 天竜の衝撃

「なんで僕がまた天界に…あんのジジイども…なにしに呼んだんだよ。」


かなたは、天界に呼び出されていた。だが、その理由や目的は知らされていなかった。


「呼び出し場所は確か…『竜界ドラグス』だっけな。」


「てか、なんで中央セントラルじゃなくてあそこなんだ?呼び出しなら中央セントラルで良くない?」


『それは言う通りだ。』


「ッ?!ジg…天主…て、脳波信号か。そりゃそっか、あんた達はあそこを動かないもんな。」


『チッ…追放してから好き勝手しおって。』


「なに?駄目なの?」


『自由にするのは構わんが、力の使いすぎはこちらの評判に関わる。』


「ふ~ん。」


『だから、こちらとしては厄介な貴様をここで始末しておくことにした。』


天主がそう言うと、竜界ドラグスの奥から巨大な竜が現れた。


「なっ…竜種だと…狡いぞジジイ!」


『奴の名は『トーラクス』。この竜界ドラグスでも上位に位置する竜種だ。貴様が勝てるはずがない。だが、そうだな…一つ希望を与えておこう。奴は、貴様の力の集合体とだけ言っておくか。』


それだけ言い残すと、天主からの声は途絶えた。


「竜種を倒せた前例のある天使は…いねぇよなそりゃそうだ。」


「ここを指定されたときから考えてはいたが、本当だとはな。」


そんな事を言っている隙に、トーラクスはエネルギーを収束させる。


「まずい!避けないと!」


(でも、横は奈落後ろも奈落。どこに行けばいいんだよ!)


(クッソ…どうせなら賭けだ!なんとなくだけど、アイツの倒し方は分かる。猶予は奈落に落ちきるまで。その間で、倒す!)


かなたは収束していたエネルギーの爆発を受けて奈落へ落下する。読み通りトーラクスはついてきた。


(アイツの倒し方は一つしかない。僕のと同じ頭部に隠された核を潰す。)


「考えるより先に、やってみるしかねぇ!」


かなたは衝撃を利用し、トーラクスに近づいた。


「はぁぁぁ!」


拳骨撃天ヘブンズ・インパクト!』


ドゴォォォン


かなたは拳を当てることに成功し、手応えも感じた。当てた部分を見ると、自身と同じ見た目の核が出てきた。


「うっしゃ!もういっぱ…ぐぁッ!」


バゴォォォン


かなたがもう一発打ち込もうとした隙にトーラクスは魔力を飛ばしかなたを吹き飛ばしてしまった。


「クッソ…もう一回だ!」


もう一度かなたが挑もうとしたが、それはトーラクスの魔力衝撃に敵わなかった。かなたは意識を失い、どんどん落ちていく。




ーそして数十分後ー


(ん…ここは…まだ落ちてる…)


(あんなの、倒せない…助けを呼ぼうにもここからじゃ声すら届かない…)


(守護者の栄誉も、天使の力も、あまつさえこの命も。全部奪われる…彼奴等に。)


(残ってるものなんて…無い。)


『無いなら作ればいいじゃん、新しく。』


(無理だよ…)


『無理なんかじゃないでしょ?だってあんたは、トワの守護者なんだから。』


(!…そう、だったな。)


かなたは、天界を追放されたあと、トワに会いに行きお互い追放された者同士で、協力関係を築いた。その時に、デビルハンターに追われていたトワを守るため、トワの守護者となっていた。


(その時の魔術回路、使わせてもらうよ!トワ!)


誰かの守護者となるときは、お互いに何かでつながる必要がある。かなたとトワを結ぶものがこの魔術回路だったのだ。これは、魔術が使えなくてもこの回路に力を流すことで組み込まれている魔術が使用できるという代物である。二人の魔術回路に組み込まれている魔術は、量子に干渉する魔術だ。これを利用して、周囲に飛び交っている竜種の量子を吸収すれば一定時間飛翔することができる。かなたの左手の甲から、肩までの血管がある部分が蒼白く光る。魔術回路を使用するときの発光だ。


「ゴフッ…流石にキツイ…けど!僕は、戻るんだよぉ!」


「うぉぉぉぉ!」


再び現れたかなたに、トーラクスは驚きもせず魔力衝撃を放とうとした。だが、かなたが通してやるはずがない。


「それはもう見破ってんだよぉ!」


拳骨撃天ヘブンズ・インパクト!』


放たれる魔力衝撃、だが、それはかなたの力によって相殺され消滅した。


「それは言わば、魔力を帯びた衝撃!同じ衝撃なら相殺もできる!」


「僕の勝ちだ!」


「はぁぁぁぁ!」


混沌収砕カオティック・クエーサー!』


それは、死に際に編み出した竜種との混合技。竜種の持つエネルギー収束を利用し、一度に二回の衝撃を与える。核さえ壊せば終わるこの戦い、故にかなたの勝利である!


ドゴォォォン


一度目の衝撃。


キュィィィン


衝撃の収束。


ドガァァァァン


そして二度目の、破壊の衝撃。そのすべてがトーラクスに命中し、奴の体を破壊することができた。


「やった!これで勝ったんだ!」


喜んでいるかなたの周りに無数の青い光が集まる。


「これは…僕の、力?」


光は呼応するように輝く。


「また僕に力を貸してくれる?」


光は何も言わないまま、それでも言葉に応えるように、かなたの体に纏わった。それは、背中にある小さな翼や、頭上に浮くヘイローに移り、元のかなたの姿に戻してゆく。翼は大きく純白に、ヘイローはもっと鋭く神々しくなってゆく。


「またこの翼で飛べる時が来るなんてね。」


「これからもよろしくね。」


そう言ってかなたは現世に向かって飛んでいった。



ー現世のかなたの家ー


かなたは天門を通り現世に帰ってきた。天使の力を取り戻したかなただが、元から追放された身だったので体は人のまま力だけが戻っていた状態になった。


「我が家よ!僕は帰ってきたぁ!」


「何大声上げてんの?」


「あ…居たの?トワ。」


「プリントとか届けにね。」


「?なんで?今日は休みじゃないの?」


「何言ってんの?二日間も連絡よこさないし挙句の果てには今日の学校も休んだって聞いたから心配したんだけど。」


「え…そんなに経ってたのか…」


(ていうかそんなに落ちてたんだ。)


「それで?何してたの?」


「詳しくは話せないけど天界から呼び出し食らっちゃってね。」


「え、追放されたんじゃないの?」


「いやそうなんだけどさぁ、呼ばれたんだよねぇ。」


「まぁ、話せないなら話さなくていいけどね。興味ないし。」


「はは…あ、プリントは受け取るよ。」


「んじゃ、これで仕事終わりっと。」


「せっかくだし一緒に遊ばない?」


「う〜ん…遠慮しとく。そろそろテストだし。」


「あ…忘れてた。はぁ…勉強かぁ。」


「まあ、頑張れよ。分かんないとことかは聞きに来てね。」


「助かるよ。」



ー天主視点ー


「これでいいんだな?」


「ああ。死んでも死ななくても竜種の力さえ持ってくればいいからな。」


「アレの手配もしておいた。だから、天界の崩壊だけは…」


「わかっている。依頼は達成された。これで天界は崩壊させない。」


「ありがとう…」

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