第十五話 魂を喰らう者
トワは道を戻り分かれ道の所まで来た。
「ここで右に行くの?」
『いや、中央に立って目の前の壁に手を触れろ。』
「はい、触れたけど?」
『壁に魔力を流し込め。できるだけ多めにな。』
トワの手から魔力が流し込まれていく。すると、カチッと音がして壁が奥へ凹み、扉のように開いた。
「こんなところに…」
『さあ、行くぞ。』
トワは長く続く回廊を歩いていく。数分歩くと目の前に壁が現れた。
「ねえ、行き止まりなんだけど。」
『良く見てみろ、それは壁じゃないぞ。』
「え?」
『そこにノブがあるだろ?』
トワが目を細めて良く見てみると、壁の色と同じなドアノブがあった。
「わかんないよこんなの。」
『ハハッ、だろうな。』
「もう…それで?この先に?」
『ああ、準備はいいな?』
「もちろん!」
トワが扉を開け中に入ると、巨大な魔獣のような見た目をした生き物がそこにいた。
「…貴様は?」
「常闇トワ。ただの悪魔だよ。」
「そうには見えんのだがな。貴様の後ろ、いや、正確には憑いているものに見覚えがあるからな。」
『流石に気付いてるか。久し振りだな、ククルス。』
「やはりコルニスか。貴様は随分と落ちぶれたな。一介の悪魔に使役されるとは。」
『何勘違いしてやがる。トワは主人じゃないし俺は使い魔じゃない。強いて言うなら協力者ってとこかな。』
「ふん、その減らず口は変わらずだな。癪に障るその口、今すぐ塞いでやろう!」
『っ!トワ、来るぞ!』
「わかってる!」
「その小娘ごと死ねぇ!」
ククルスはでかい口を開け、トワに噛みつこうとした。だが、トワは動かず静かに立っていた。
「っ!そこだぁ!」
『光断つ黒き闇』
トワはククルスの口の中にあった第一のコアに向かって魔力弾を放った。それはコアのド真ん中に命中し、コアは破壊された。
「ぐぅおぉぉぁぁ!」
『はっ、さっきまでゴチャゴチャ言ってた口はどこ行ったんだろうな?』
「舐め、やがって!」
ー少し前ー
『トワ、アイツの倒し方について話しておく。』
「確かに聞いてなかったわ。頼む。」
『アイツには四つの【コア】というものがある。そのコアを全て破壊すれば倒すことができるんだ。それぞれ位置は口の中と左足の後ろと背中と体内だ。さっき行った順番でしか現れない。しかも体内のコアは三つ壊しても体の外には出てこないんだ。』
「最後のはどうやって壊すの?」
『出現したところを体ごと破壊するしかないな。これには俺も悩まされたよ。』
「トワの力でできるの?」
『ああ。トワの持つ無限の純正魔力を一気に放てば壊すことはできるはずだ。』
「そっか、なら安心だね。」
ー現在に戻るー
『トワ、二つ目がでてきたぞ。』
「了解!」
『天を堕とす魔剣』
トワの右手に黒い剣が現れる。
「これ以上壊させてたまるかぁ!」
ククルスは体に空いている穴のようなものに魔力を送り込んだ。
「うぉぉぉ!」
『ガンゼンダル・ビオークス』
送り込まれた穴から魔力でできた熱光線が大量に放たれた。
「くっ…」
『あんなのあったのか…トワ、正面から行くぞ。』
「ちょっと待って、アレって絶対口からも出るよね?大丈夫なの?」
『どちらかといえば出させたほうがいいんだ。とにかく、正面から突っ走ってジャンプしてくれ。後は俺がなんとかする。』
「わかった。」
トワは剣を片手に駆けた。
「正面から向かってくるか!」
ククルスは口に目一杯の魔力を集めた。
『今だ!跳べ!』
トワはククルスの目の前でジャンプした。
「敵の目の前でジャンプするか!そんなに死にたいなら殺してやるよ!」
『グラッセル・ベグラス』
ククルスから極太の熱光線が放たれた。
『そんな攻撃、当たんねぇよ!』
ザシュゥゥ
「んがぁぁ!」
それに当たったと思われたが、空中でコルニスが高速移動したことにより、トワは避けることができ二つ目のコアを破壊することに成功した。そして、天井に穴が空き、外まで貫通していた。
『トワ、あの空いてる穴を使って外に出るぞ、そのほうが魔力を練りやすい。』
「わかった!」
『ついでに三つ目も破壊しておくぞ。できるな?』
「もちろん!」
極太の熱光線が放たれた直線状は外まで貫通していた。トワはそこを通って外に出るのようだ。
『っ!トワ!三つ目が出現したぞ!撃て!』
「了、解!」
『降り注ぎし暗黒』
外に出る途中、ククルスに振り返り両手を重ね合わせ魔力を込める。そこから放たれたのは無数の弾幕。その全ての着弾地点は、コアのど真ん中だった。
「ぐぁぉぁぁ!」
『てめえももう終わりだよ!ククルス!』
「ふざ、けるなぁ!」
ククルスは再び口に魔力を送る。今度は全ての魔力のようだ。
『チッ…やむを得ん、トワ、ここでアイツを討つぞ。』
「わかった!」
トワは右手を銃のようにして構える。そして、出せる全ての魔力を一気に指先に集める。
『こっちは行けるぞ!』
「こっちも大丈夫!」
『じゃあ行くか!』
「『破滅を運ぶ常闇!』!」
そう叫んで集めた魔力をコルニスの爆発する魔力、『黒魔』を使ってククルスめがけて放った。
「そんなものぉ!」
《真銘開放:クコルニクス・クルタエトス》
対するククルスは自身の真銘を開放し、最大火力を出すつもりだ。
『アトラティスクコルキルコス』
ククルスが技を発動させた瞬間、一瞬だけ世界が闇に包まれククルスの口から暗黒の熱線が放たれた。
ドゴォォォォォォ!
二つの技が衝突する。それにより遺跡の壁は壊れていき周囲の魔力圧も上昇していっている。
『まずい!このままだと魔力圧で潰れるぞ!』
「そんなこと言ったって今離れたらアイツが外に出ちゃうよ!」
『いいから出ろ!後は俺がやる!』
「わかった。でも、絶対帰ってきてよ!」
『わかってるよ!』
トワは技を解除し、穴から外へ出た。
『さぁて、これでここにいるのは俺とてめえだけだな。』
「ああそうなるな。わざわざ残って死にに来てくれて助かったぜ…なんたってお前さえ殺せれば俺に勝てるやつなどいないからなぁ!」
『そうなるな、ククルス…いや俺のもう半分。』
「ああ、俺がはじめに食った魂がお前だったからな。お前を食えば、俺は完全体になれるってわけだぁ!」
『そうなる前に、俺が食ってやるよ。だが、食うのはてめえの力だけだ。てめえ自身は無限の苦しみを味わわせてやるよ。』
「やれるもんならな!」
『…コクルスの闇』
「あぁ?」
『オシリスの神空』
『キリオルの垓変』
「なにごちゃごちゃ言ってんだよ!」
『マクギスの金剛』
『テルイクスの黒夜』
『言っただろう?苦しませてやる、と。』
「な、なにを?!」
【|魂喰らいた五柱の魔神(Πέντε ψυχοφάγοι ημίθεοι.)】
コルニスを中心に闇が広がりククルスを飲み込んでいく。
「ぐ、ぐおぉぉぉ!何だこれはァ!体が、体が飲み込まれていくぅ!」
『魂を置いて闇に堕ちろ、ククルス。』
「グアァァァァァァァァァ!」
ククルスの体はやがて全てが闇に飲まれてしまった。しばらくして闇が引き、そこに残っていたのは黒く染まりながらも微妙に光を放つ物体だった。
『これがアイツの魂か。これを取り込むのは…俺よりも適任がいるな。』
コルニスはそれを持って遺跡の外へ出ていった。遺跡の外には壊れた柱にもたれかかるトワの姿があった。
『おーい、トワ〜!』
「あ、コルニス!生きてたんだ。」
『おい、勝手に殺すな。』
「まあ、戻ってきたってことは倒したんだね?」
『ああ。これがアイツの魂だ。だが、これはお前にやる。』
「え?良いの?」
『そもそも今の俺はトワとつながってるからトワが強くなれば俺も強くなれるんだ。』
「ふーん。それじゃありがたく受け取っておくね。」
トワがククルスの魂に触れる。魂は吸い込まれるようにトワの体に溶け込んでいく。
『どうだ?なんか変化はあるか?』
「う〜ん…強いて言えば魂の核?のようなものが見えるようになってる。」
『?!ホントか?』
「う、うん。例えばあの空飛んでる魔獣なら、青くて翼の形してるよ。」
『凄い…そこまで見えるのか…』
「でも、できるのはこんくらいだね。」
『いや、それだけあれば十分だ。技は俺がどうにかするからそこんとこは任せてくれ。』
「了解。それじゃ、現世に帰るよ。」
『帰ったら飯食わせてくれ。封印してから一つも食ってねえ。』
「はいはい。」
〜??視点〜
(…奴の気配が消えた。倒されたか。だがまあ想定内だ。アイツが魂を持ってきさえすればいいからな。)




