終 節:おもうゆえに⑤
ゆずれない想い
胸に秘めて
突き進むは茨の道
「さあ、私たちも“日常”に戻りましょう?」
志杏椶の言葉に桔梗、キリエ、レヴィの三人は頷く。
「来たるべき時、あなた達は大きな選択を迫られる。今日、この日を忘れないで。自分を、見失わないで。どうか、“運命”に負けないで欲しい」
そう言った羅候に、キリエは真っ直ぐと向いて言う。
「ああ、もちろん。なあ、羅候……だったら俺たちとも約束してくれ」
羅候は、一旦そこで言葉を切って自分を見つめているキリエを不思議そうに見る。
「自分の“未来”を、諦めないでくれ。簡単に“運命”を受け入れないで。羅候、君も一緒に居る。そんな“未来”じゃないと、きっとマナの本当の笑顔は見れない」
真っ直ぐな瞳と、強い意志を持った言葉に、羅候は微笑する。
「ありがとう」
「約束だよ?」
念を押すように、噛み締めるようにゆっくりとそういうキリエに、羅候は頷くことで応えた。
「では、羅候様。また来ます」
そう言って、志杏椶が羅候に向かって一礼する。
そして“ビルレストの鍵”を手に何事か詠唱を始めた。淡い光が“ビルレストの鍵”から放たれた。
「さあ、急いで!」
志杏椶の言葉に、レヴィが……後を追って桔梗がその光の渦へと身を投じた。
キリエがその後に続こうとした瞬間。
<いづれ、あなたは地上に降りる>
「……え?」
声なき声が、頭に響いてキリエは思わず立ち止まる。
<あなたの未来に起こることは、もう決まってしまっている。僕が視た、あなたの“未来”だよ>
聞こえた瞬間、眼前にもう一つの世界が広がった。そこには、紛れもない、キリエが座り込んでいる。
そこにいるキリエは、何かを抱き締めて涙を流していた。
抱き締めている“光”の正体を見ようとキリエが目を細めた瞬間、志杏椶の呼ぶ声で現実へと引き戻された。
「キリエ!何をしているの?早くなさい!」
「ちょっ!?志杏椶!」
―― 待ってくれッ
そう言う間もなく、志杏椶に腕を引かれて光の中へと……帰途へと着いてしまったのだった。尚も、羅候の声は脳に響く。
<選択の時が迫る。苦渋の選択を迫られる。その時“未来”へ繋がる“光”を手に入れる。一度は失ってしまうけれど、諦めないで>
―― 諦めなければ、“光”はより輝きを増して、その手に還ってくる
「どういう、意味なんだ?」
気になったのは、涙を流していた“未来の自分”。
知らず、視線は志杏椶に向かっていた。視線に気付いた志杏椶が、苦笑を浮かべながらキリエに言う。
「どうしたの?ぼんやりして」
―― 嫌な予感が、一瞬だけ胸をよぎった
だが、頭を振ると頭の隅に追いやって、志杏椶に微笑み返す。
「いや別に。なんでもない……そう、なんでもないさ」
―― そう、違うに決まっている
自分は、志杏椶にきっぱりと振られたではないか。
この手に、志杏椶を抱ける時が来るはずがない。
だから、この予感はきっと外れる……
自分自身に言い聞かせるように、キリエは心の中でそう呟いた。




