終 節:おもうゆえに②
ゆずれない想い
胸に秘めて
突き進むは茨の道
「羅候様、次に話を進めないと時間が……」
そう言葉を投げかける志杏椶も、そこはかとなく安堵したような笑みを浮かべていた。
「そういえば……姉上、マナにも会ったことあったのか?」
淘汰の質問に、志杏椶は首を横に振る。
「いいえ、一度も。今日初めてお会いしたわ。まさか、本当に羅候様にここまで似てらっしゃるとは思っていなかったわ」
「マナは、人に対する“警戒心”が強かったから……マナが居ないときを選んで、志杏椶を呼ぶようにしていたんだ」
その答えに納得したのか「なるほど」と一つ頷く。
しかし、胸の中のわだかまりが全て解決したわけではないらしく、淘汰は眉を顰めたままだ。
「何か、他にもあるの?」
「え?いや……」
口ごもる淘汰に、心中を察した志杏椶が先に言う。
「私が父上や兄上達に“狩神”を討伐もしくは捕獲するよう命を下されたことを知っているのね?」
図星だったようで、淘汰は黙りこくって思わず視線をそらした。
初耳だったらしい桔梗、キリエそしてレヴィは唖然として志杏椶を眺めている。
「確かに、私は“伊倭大神”として、地上で殺戮を繰り返す存在“狩神”の掃討命を受けていたわ。でも……」
どうしても、何か引っかかって仕方なかった。“狩神”という存在が無益な殺生をしているようには、どうしても思えなかった。
そして“狩神”のこととなると、口を硬く閉ざしてしまう羅候も気になっていた。
だから、独断で調べた。そこからわかった事実。
「“狩神”は無益な殺生をしてはいなかったわ」
“欲”から生まれた“闇”
そこからとぐろを巻くかのように産声を上げた“穢れ”
その穢れに侵された者たちの哀れな末路、“妖 ”という存在。
「“狩神”の切る対象は、その“妖”もしくは“妖”となりかけている者達。世界を蝕む“闇”しか、“狩神”は切ってはいなかったの」
だからこそ、気付いてしまった。
何故、羅候が自分に隠すのか。父 焔祁が何を目論んでいるのか。
「“名”は関係ないわ。これは、“私”が選んだこと。私自身が“正しい”と思ったから、こうして動いているの。」
「でも、もしも……万が一このことがばれてしまったら、姉上は……」
政のこととなると、肉親の情など一切持ち合わせない。
恐らく、例えそれが自分の愛娘であろうと。
―― 否、愛娘だからこそ……
内密に通じでいた事が知れればどうなるか、予想もつかなかった。
そんな自分を思ってくれている弟の心が嬉しくて、志杏椶は思わず淘汰を抱き締めた。
「馬鹿ね、あなた……私を誰だと思っているの?」
「あっ、姉上!?みっ……皆、見てるって!」
たじろぐ淘汰を気にもせず、志杏椶は続ける。
「淘汰……あなたは、これからの自分の身を案じなさいな?これまで築き上げてきたものを、全て捨てる覚悟を決めなくてはならないのよ?」
その言葉に、はっとする。
そう、全ては淘汰の決断次第なのだ。
地上にマナと共に逃げれば、恐らく二度と天上界に足を踏み入れることは出来ないだろう。
それどころか、肉親や慕っていた人達と敵対することになりかねない。
恐らく、友人達と会うこともなくなるだろう。
行く末が茨の道であることは、一目瞭然であった。それでも淘汰はもう決意していた。
「なあ、姉上」
言いながら志杏椶から離れる。
「俺、今まで“自分の存在”に疑問を持ってた。そりゃ、桔梗もキリエもレヴィもいる。姉上だっている。すごく楽しいし幸せだし……でも、でもさ……」
回りに満ちる、好奇の目
欺瞞に満ちた言葉
「父上ですら“お前がいなければ、珠依姫は生きていたかも”って心のどこかで思ってるし」
焔祁は常に言っていた。
『淘汰、お前は珠依の残した、大切な忘れ形見だ』
―― と……
しかしそれは、淘汰に言っているようで実は焔祁自身に言い聞かせている言葉だった。




