終 節:おもうゆえに①
ゆずれない想い
胸に秘めて
突き進むは茨の道
もう、一緒には居られないと判っていた。
この場所に縛られるのは僕だけで充分だと、そう思う。
……だから……
ごめんね?
傷付けてしまって
もう一緒には居られないのなら
いっそ嫌われた方が良いと思った。
僕の事を“独り”ここに残すことに
あなたはきっと罪悪感を覚えるだろう
僕が消えることに
きっと涙するだろう
でも忘れてしまえば
思い出したとしても
僕を嫌いになってくれれば
マナ、あなたは泣かずに済むだろうか?
※※※※※※
それは、ある程度予測していた申し出だった。
羅候の頼みはこうだ。
―― マナを連れて、地上に逃げて欲しい
志杏椶は予め羅候から聞いていたのか、別段驚いてはいない。
「確かに、マナの中には“創造の力”がまだ残っているけど、僕が封印したから、問題ないよ。但し、代償として“声”と“一部の記憶”も一緒に封印されてしまったけれど。ああ、心配はいらない。淘汰のことは、ちゃんと覚えているから」
封印を施したことにも、理由がある。
「確かに、今現在狙われているのは“狩神”の方だわ。でも、本来の目的は違う。あくまでも“狩神捕獲”は手段に過ぎないの」
現在、理由は異なれど、東西両域において内密に、れぞれが“狩神”を捕獲しようと事を企てていた。
―― 東域は、天帝の与り知らぬところで
天帝補佐である焔摩天 焔祁が玉座を狙って“神の力”を欲している。
―― 西域では、理由は定かではないが
神聖王ラスティの指揮のもと、“精霊王”捜索隊が組まれて明日から動き出すという。
「東も西も、“狩神”の先にいる“精霊王”そして、その先にいる“神”を狙っているのでしょうね」
―― もしかしたら、もう既に動き出しているかもしれない
その言葉は、敢えて飲み込んだ。
「個人の手に羅候様の力が渡ってしまえば、この世は滅茶苦茶になってしまうわ」
羅候の……神の力が“欲”に囚われた者の手に渡ってしまえば、その先にある未来は“破滅”以外ほかにない。
「でもね、真武にしても、ラスティにしても“太陽の王”と呼ばれる精霊王の存在は知っていても、“月の女神”と呼ばれる僕……ユグドラシルの化身が実在することは知らない。僕は、ここから出られないし、彼らはここに来たことがないからね」
―― しかし……
薄々は感じているのだろう。
“世界樹”に隠された秘密を。
“世界樹”が、隠している存在を。
――“神”の存在に……
「だから、彼らにとっては“精霊王”の“記憶”が手に入れば良いんだ。特に、西域の王ラスティにとっては……」
ラスティは、“戦禍の種”となりかねない“神の力”を無に……世界に還すために、動いている。
そのことは重々承知していた。
それに羅候自身、そんなラスティに賛同すらしていた。
「だからといって、マナを犠牲には出来ない。力を失ったといっても、マナ本来の力である“精霊王”の力は健在。“僕”のことを覚えていても、身に危険が迫ることは判りきったことだから」
だから“創世の力”と共に“精霊王”としての力、そして“羅候”に関する“記憶”を封じたのだと、そう言った。
そこまで黙って聞いていたキリエが、思わず口を挟む。
「きみは、どうするんだ?まさか……」
「僕に“死”は存在しない。ユグドラシルに戻るだけ。もともと僕は、世界樹の一部だから」
そう言いながら見上げる先にあるのが、世界の柱である世界樹 ――……ユグドラシルだ。
「マナは、でもマナは、それを阻止したかった。その思いはどうなる?」
淘汰が今度は羅候に問う。
「僕とユグドラシルの同化はね、これから起こる“戦渦”を避けるためには……マナが幸せになる為には、必須事項なんだ。それに、早くても遅くても僕は“消える”定めにある。逆らうことは、赦されない」
「でもっ!」
言い募る淘汰を視線で制し、羅候は続ける。
「大地の嘆きはいづれ、ユグドラシルを枯らし、天の叱責はこの世を滅ぼす。僕はね、その叱責を受け止める為に……ユグドラシルの受ける痛みを代わりに受ける為に、存在するんだ」
―― それに……
「あなたたちのように、僕を信じてくれる人がいる限り、僕は消えはしないよ」
何故か、そう言って微笑む羅候は今にも消えそうで。淘汰、桔梗、キリエ、レヴィの四人は胸が痛んだ。
「そんなに悲しまないで。僕は、本当にうれしいんだ」
マナは、この世界に“絶望”していた。希望を捨ててしまっていた。
「でもね、淘汰……あなたが“共に生きること”を。そしてキリエ、桔梗、レヴィ……あなたたちが“信じる心”をマナに取り戻してくれた。ありがとう」
そう言って、羅候は深々と頭を下げた。
そんな羅候への対応に戸惑う四人に助け舟を出したのは、それまでじっと静観していた志杏椶だった。




