第六節:まじわるとき④
誓いを立てるは
誰が為のツルギ
キリエとレヴィは、ただ黙って志杏椶の後ろを着いて歩いていた。
未だに、自分たちが世界樹の下にいるのだという事実に核心を持てないでいる。
「窓から眺めているだけじゃ、判らないもんだね」
キリエがポツリと言うと、隣を歩くレヴィも「ああ」と頷きながら応える。
「ただ一本の樹が生えてるだけだとばかり思っていたからな」
普段目にしているのは、大樹が一本大地に根を下ろしている様だ。
―― しかし……
ミミルの泉へと通ずる部屋
ビルレストの鍵
そして“珠依姫”
この三つが揃ったときに、その門は開かれる。
このことは極限られた……イザヤ、志杏椶、そしてキリエ、レヴィの両名を加えた4人しか知らない事実なのである。
東西領域を治める王や帝ですら知りえない秘め事なのだ。
『“知らない”ということは“ない”事と同じなのよ』
そう、道すがらに志杏椶が教えてくれたことだ。
「なあ、本当に当の本人達を連れて来なくて良かったのか?」
キリエの最もな問いに志杏椶が苦笑する。
「ええ。彼ら……淘汰とマナは勿論、桔梗も来ている筈よ」
その預言めいた物言いに、2人は眉を顰める。
「何で?」
「元々、キリエとレヴィを“この日”に呼んで欲しいと頼まれたの」
一体どういうことなのか、問い質そうとしたそのとき。
視界が開け、大きな泉が眼前に広がった。
桔梗と淘汰、それにあの金糸の髪はマナだろうか?
姿を確認した瞬間、マナらしき人影が倒れこんだ。抱き留める淘汰が何事かを必死に叫んでいる。
普段、滅多に聞かない……それは怒気を孕んだ叫びで。
慌てた桔梗が、淘汰を後ろから羽交い絞めにしていて。
突然のことに、そこまで傍観していた三人だったが、
「放せっ!桔梗!」
この叫びにはっと我に返ると、まず慌てて駆け出したのが志杏椶だった。
「淘汰!待ちなさい!落ち着いて!」
思わぬ方向からの静止の声に、淘汰はゆっくりと振り返る。
「姉、上?」
「良く見てご覧なさい!」
志杏椶の言葉に、再度自分の腕の中に視線を戻す。
「死んではいないはずよ?」
ふと我に返った淘汰は、震える手でマナの脈を測る。
その手に呼応するかのように、静かに、だがしっかりとマナの鼓動は刻まれていた。
「それに淘汰。マナには刺された後がない」
もう放して大丈夫だと判断した桔梗が、ため息をつきながら視線をマナに落とす。
「そういえば。でも……」
そう、確かに貫かれたのだ。マナの悲痛な叫びもまだ耳に残っている。
「一体、どういう?」
まだ現状を飲み込めていない淘汰を見て、志杏椶はため息をつきながら主を見遣った。
「羅候様、言葉が足りないんですよ、あなたは……」
志杏椶のその言葉に、羅候は表情一つ変えず首を傾げただけ。
「だって、マナを傷付けたのは事実だし。淘汰は純粋に、そのことに対して怒っている。なら僕は、何も言うことはないでしょう?」
淡々とそう、不思議そうに言ってくるのに、志杏椶はため息をつきながら肩を落とした。
「志杏椶、僕のことをそんなに心配しないで?大丈夫だから」
その言葉に、志杏椶が少々きつく反論した。
「心配しますっ!私にとって、羅候様、あなたも大事な方なんですから」
確固とした意思を持った物言いに、羅候は僅かに微笑んだ。
どんどん2人で会話を進めていくのを、少年達はただ眺めるしか出来ない。
そんな様子に気付いた羅候が、それぞれを見遣る。
少年達は何故か動くことが出来なくて。
聞きたいことは山のように頭の中に浮かんではいるのだが、一体何から聞けば良いのか考えあぐねていた。
「あなたが淘汰。マナから話しは聞いているよ。それに、あなたの夢にお邪魔したのも僕。あなたが僕の“声”に応えてくれるかどうかは、賭けだったのだけど。
桔梗、残念ながら別にマナと僕は双子なわけではない。そうだね、“太陽の王”“月の女神”……その考え方は正しいよ」
そこまで言うと、羅候は彼らの後ろに視線を移す。
それにつられて淘汰と桔梗も後ろを見て、驚きの声をあげた。
「キリエ!?」
「レヴィまで……なんでここに?」
だが、その問いに答える前に、羅候が口を開いた。




