第六節:まじわるとき②
誓いを立てるは
誰が為のツルギ
「なあ、マナ。この森、何なんだ?」
見渡す限り、緑で覆い隠されている。上を見上げても昼なのか夜なのか判別も付かないほど、緑が茂っていた。
「いきなり呼び出されたと思ったら、こんなところまで遠足か?」
ため息混じりに、そうぼやくのが一歩下がったところを歩いている桔梗だ。
「あなた、嫌い。淘汰、何で呼んだの?」
マナは、少々機嫌を損ねてしまっている。
「いや、ほら!協力者は多いほうがいいだろ!?」
慌てて淘汰がフォローを出す。
そっぽを向いてしまった二人を交互に見て、淘汰はため息混じりに肩を落とした。
<桔梗。彼は、信用できる。出来れば、一緒に来て>
どういうわけかは、淘汰にも判らない。
それは、突然のコンタクトだった。
淘汰自身、最初は戸惑ってしまったのは言うまでもない。
『何で!?』
声に出したときにはもう遅い。
少し先を行っていたマナが不思議そうにこちらを振り返っていた。
『淘汰?』
『あ……いや、やっぱり明日にしないか?』
たった一度の羅候からのコンタクト、だが無視することは出来なくて。
不振そうに首を傾げるマナを説得したのが昨日のことだ。
帰ってすぐに、桔梗を訪ねて事情を説明した。
本当ならば、キリエとレヴィも誘うべきかと悩んだ。
―― しかし……
『内密にと言われたんだろう?あまり、派手に動かないほうが良い』
そう言い出したのは、桔梗の方だった。
桔梗自身、マナの正体。
つまりは、“精霊王”ということについて、何ら感慨があるわけではなかった。
桔梗にとってみてもまた、キリエやレヴィと同じ見解で“恐るるに足らないチビ”でしかなかった。
だが現状がそうでないことも、重々承知していた。
今現在漂っている不穏な空気に誰が気付かずにいられようか?
―― しかも……
『マナが狩神なんだよ、桔梗』
桔梗は淘汰から話を切り出されたとき、その表情を見たとき、ただ事ではないことは覚悟していた。
しかし、流石の桔梗も巷で噂の大量殺戮の張本人。
しかも東域上層部では捕獲計画が内密に進んでいる“狩神”の正体がマナその人なのだと知らされたとき、絶句してしまったのだった。
だからこそ、変な動きはなるべく控えたかった。
西へ誘いに行くことはしなかった。
淘汰と桔梗の二人の中で“場合によっては帰って話す”と決めたのだった。
「狩神、ねえ?」
思わず呟いてしまってから、はっとする。
前方を歩いていた筈の2人が立ち止まり、こちらを見ていた。
「……桔梗……」
諌める様に言う淘汰。
マナは、桔梗と視線が合った瞬間、ふいとそらしてしまった。
その様に、桔梗はため息をつきながら呆れ顔で言う。
「別に悪いとは言っていない。納得したから、着いてきた。何度も言っているはずだが?」
―― それに……
「守りたいものの為に動いた結果が“狩神”というのならば、誇れ。何に恥じる必要があるのだ?」
淡々と、世間話でもするかのように言う桔梗を、マナはまじまじと見つめている。
淘汰も、苦笑しているもののどこか嬉しそうで。
「桔梗らしいや」
そう、少しおどけて言って見せた。
何だか、柄にもないことを言ってしまい居心地が悪くなったのか、桔梗がマナにわざとらしく問う。
「そういえば、ここはどこなんだ?」
『着いてきて』
ウルドの泉でそうマナに言われるがまま、マナの後をついて来たのだが、周りの景色に何ら変化はない。
否、緑が濃くなっていた。
「ここは、ユグドラシルの大樹の下……とでも言えば良いのかな」
考えあぐねて、マナがポツリと言った。
「どういうことだ?」
「樹の上の方に、まだ沢山の枝葉が見えるでしょう?あれが、ユグドラシル」
ここには、ユグドラシルが結界を張ってある上に、精霊たちにも守られている。
「地上にも、天界にも存在し、存在しない場所」
「違う次元に存在してるってことか?」
淘汰が問うのに、マナはゆるく首を振る。
「ううん。存在する“次元”は同じだよ。ただ、“時”の流れがここは違う。ここは、“時”の交わる場所だから」
―― うーん……
そう唸る淘汰に、マナはどう言えば判ってもらえるか考えあぐねていたが、思わぬ方向から助っ人が入った。
「つまり“入ることを許されたもの”には“在る”が、それ以外のもにしてみれば“ない”に等しい、そういうことだな?」
桔梗だった。マナは一瞬目を丸くして桔梗を見たが、コクリと一つ頷く。
「うん。見ているだけの人たちにとっては、大きな樹が一本は生えているようにしか見えない。そして、樹が見えても近づくことは出来ないんだ」
「なるほどな!桔梗、何でお前判るんだよ」
「……創造史第三巻第三章に似たような記述があったことを覚えていた」
―― お前がサボっている……
その枕詞は敢えて口には出さなかったが淘汰には十分伝わったようで、苦虫を食べたような、ばつの悪そうな顔をしている。




