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原罪  作者: 梨藍
Overture
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第六節:まじわるとき①

誓いを立てるは


誰が為のツルギ

―― ギムレー……


それは、アナテマと呼ばれる異端者が集う街の呼称だ。

透明なドームを思わせるその街の柱が、星を読み、人々に進む道を示すことを生業とする九曜一族(くよういちぞく)の住まう黄神殿(こうしんでん)である。

黄神殿から八方に伸びる支えの側に、死者を悼む場が設けられた場所があった。


その中心に座する十字架の前から、花が絶えた事はない。


「母上、来ましたよ」


そう墓標の前に佇むと、志杏椶(しあんしゅ)は呟くように言って、花を供えた。


血縁者の中で、珠依姫(たまよりひめ)の墓に参る者はない。「無意味」なのだという。

確かに、そうかもしれない。悼むべき相手は、ここではなく今も冷たい水の中に眠っているのだから。


だが、志杏椶はここを訪れることはやめなかった。

母の愛した地、人々がここにはある。


“身体はなくとも、心はここにあるのではないか”


―― そう思える何かが、ここにはあった。


もう一つ、来るべき時にここに訪れても何ら怪しまれることがないようにとの隠れた思惑は、誰にも言ってはいない。


「母上、来るべき時がきてしまいました」


―― 誰も、望んではなかったのだけど


後ろに足音がした。頃合いを見て迎えに来たのだろう。


そこに居たのは、九曜一族の長イザヤ・レイ・クルアーンその人である。


九曜特有の法衣に身を包んでおり、印象的な菫色の髪が被りものの下から見え隠れしている。

いつも閉じられているその人の瞳の色を、見た人はいない。


「お二人方をお連れいたしました」


そう言うのに、苦笑を浮かべて志杏椶は振り返った。


「ありがとうございます、イザヤ殿」


イザヤも微笑み返す。


志杏椶はいつも不思議に思う。

光を持たない彼には、しかし光を持っていては判らない世界があるのだと、幼い時教わった。


その“世界”がどんなものか、未だに志杏椶は知り得ない。


イザヤの横から、2人の少年が前に進み出た。キリエとレヴィである。

志杏椶の隣まで歩いてきて、墓標に立つ。


「ここが?」


キリエの問い掛けに、志杏椶は静かに頷く。


「ええ」


「じゃあ、しっかり参らないとな」


レヴィは言って、膝を付いた。


ここに着いたのはつい先ほど。

もう日が傾きかけている。


「さあ、夜が来ぬうちに行きましょう」


志杏椶の言葉に、2人は静かに頷いた。


―― あなたたち、何か隠しているわね?


そう問われたとき、キリエとレヴィは言葉を失った。

味方だと信じたい、だが志杏椶は地上を統べる王だ。その立場を考えたら、心は揺らぐばかりで。


「人が悪すぎだ、大姐上」


もう何度目になるか知れない、レヴィの言葉に志杏椶は肩を竦めた。


「だから、ごめんと謝っているでしょう?」


この言葉も、何度繰り返したか知れない。その押し問答に痺れを切らしたキリエが口を挟む。


「なあ、何で俺達を試したんだ?」


「ラスティ様に言ったかどうかというのが、まず第一。そして、あなたたちの反応で、見極めたいことがあったの」


歩みを止めずに志杏椶は言う。


「見極める?」


反芻してくる言葉に頷きながら、少し考え込むように黙した。


足音が闇の中に響き渡る。


今、志杏椶、キリエ、レヴィそしてイザヤの四名は黄神殿の最奥にある地下へ続く隠し階段を下っていた。


夜より濃い闇の中、頼りは松明に灯る光のみ。


「もしも、あなたたちがラスティ様に言っていたとして味方に成り得るか否か。いえ、“西が”と言った方が適切かしらね」


キリエとレヴィは目を見合わせる。どう解釈すれば良いのか。

まさか、東でも何か動きがあるのか。


「着きました」


意外にも、その沈黙を破ったのはイザヤだった。そのまま扉に手を翳すと、行き止まりだとばかり思っていた前方の壁が重厚な音を立てながら左右に開く。


最初に飛び込んできたのは眩い光。思わず、顔を逸らした。


それから徐々に目が慣れてくると、4m四方を壁に囲われた小部屋だということが判った。

光の正体は、部屋の中心にある光の柱だった。その光の中には見たことのない魔法陣が浮かび上がっている。


何の躊躇いもなく、志杏椶が近付く。

そして、耳飾をおもむろに外すと魔方陣の中心に掲げた。


「“ビルレストの鍵”はね、それ一つでは何の意味もなさないの」


志杏椶の所持する“ビルレストの鍵”


イザヤの有する、この部屋へ入る為の“資格”


「そして、“神に許されし者”……この3つが揃わなければ、開かれることはありません」


開門の呪を唱え始めた志杏椶に代わり、イザヤが二人に説明する。


「“神に許されし者”?」


「神の声を、聞くことが出来るもの……といった表現のほうが正しいかもしれませんね」


「なるほど。“球依姫”という存在か」


レヴィが答えるのに、イザヤは肯定の意を頷く事で示した。


「開いたわ、行きましょう」


志杏椶の言葉に、イザヤから魔方陣があったところへ視線を戻す。

しかし、そこにあるはずの魔方陣は消えており、部屋の向こうには森が広がっていた。


「な!?」


あまりの出来事に、キリエとレヴィは言葉を飲み込む。

先にある森で、志杏椶がじっと二人を見つめている。


意を決して、キリエは一歩踏み出した。


「レヴィ、行こう」


促しながら、颯爽と進む。その後ろに、レヴィが続いて歩いていく。

その姿を確認して、二人の後方で静かに佇んでいるイザヤに視線を向ける。


「行ってきます」


そして、返事を待たないで奥へと歩き出した。

イザヤは、その後ろ姿が森の奥へと消えるまで、その場から一歩も動かなかった。


「天よ。彼らの進む道に、どうか光あらんことを」


一言、祈りを込めるようにイザヤは呟いた。

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