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原罪  作者: 梨藍
Overture
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第四節:むしばむやみ③

箱庭の安息


偽られしは世の真理

 親友から衝撃の言葉が出たときは、キリエもレヴィも耳を疑った。その様子にしたり顔で頷くのは幼馴染最後の一人、桔梗その人だ。

 ポカンと口を開けたまま間抜けな面を晒しているキリエとレヴィに、淘汰は真っ赤に染め上げた顔を逸らした。


「淘汰。今、何て?」


 キリエが、渇いた喉から声を絞り出す。


「何度も言わせるなよ!」


―― だから……


 照れからの苛立ちか、はたまた照れ隠しのつもりなのか。顔を逸らしたまま、淘汰はぼそりと先程の言葉を繰り返す。


「好きなヤツがいるって言ったんだよ」


 四人の中で、一番色恋沙汰から遠いところに居ると思われていた淘汰からの衝撃の告白。三人一様に興味津々になるのも、無理はあるまい。三人がかりで問い詰めて、漸く名前を聞けたのだった。


―― だが……


「マナ?」


 念を押すように名を確かめれば、淘汰は無言で頷く。三人は視線で会話する。聞いた事がない。つまり、面識がないのだ。


 面識がないという事実が、更に三人の好奇心を刺激した。


『どこの誰だ』と、詰め寄る三人の攻撃をとうとう交わし切れなくなった淘汰が、降参という風に両手を挙げてようやっと白状した内容は、俄かに信じ難いものだった。


「だから、言いたくなかったんだ」


 と、三人の反応に臍を曲げてしまった淘汰をどうにか説き伏せて……半ば強引に……会う約束を取り付けたのが、1週間前だ。

 やっと会うことが叶ったのが、つい先日の事である。


―― 絶対に言うなよ!


 何度も念を押して約束をさせられて連れて来られた場所。そこは何と、立ち入り禁止区域であるイザウェルの森で。困惑する三人をよそに、淘汰はずんずん奥へと進んで行く。森を抜けたそこにあるのは、稲穂の揺れる泉の畔だ。


 畔に佇んでいるのは、透き通るような金糸の髪を無造作に背に流している麗人。信じられないのは、その背中にある三対の翼。


 三人は、目を放すことも出来ずにただ茫然と眺めるだけだ。


「マナ、待たせたな!」


 淘汰が駆け寄ると、マナと呼ばれたその麗人は、朗らかな笑みを浮かべて淘汰に抱き付いた。

 展開に着いてはいけないものの、三人の心の呟きはただ一つ。


「誰が、片思いだって?」


 キリエが思わず口に出したものの、後の二人も頷く事しか出来ない。そう、淘汰とマナは、どう見ても仲睦まじい恋仲にしか見えなくて。


「淘汰、あの人達が?」


「あ?ああ、うん。俺の友達」


 マナが、はたと視線を三人に留めた事で、漸く淘汰は連れの存在を思い出したらしく、離し難い温もりからそっと身を引いた。そして、今だに固まったままの3人へと歩み寄る。


「おおい、キリエ、レヴィ……桔梗?」


 順繰りに目の前で手を振るものの、微動だにしない3人に肩で溜息を付いて「やれやれ」と首を振ったその時、三つの殺気が淘汰に注す。


「へあ……?」


 痛い視線に、今度は淘汰が固まる番だった。


「誰が、片思いだって?」


「貴様、ここは立ち入り禁止だと、何回言った!?」


「その前に、何を一人抜け駆けしている!!!」


 鬼の形相で三者三様の怒りを淘汰にぶつける。たじたじになる淘汰。


「まあ、落ち着けって、な?」


 その言葉に、ボルテージは上がるばかりだ。


「誰のせいだ!」


 三人の声が揃ったその時。凄まじい、純粋な殺気を感じた四人ははっと振り返るとそこには、自らの右手を刃と化して、攻撃を仕掛けるマナの姿があった。


 狙いはキリエで、寸分の違いもなく刃はキリエの喉元に向けられていたのだった。


「マナ、ストップ!」


 その突飛な出来事に逸早く反応した淘汰がキリエの前へ飛び出した。寸前で刃が止まる。


「どうして庇うの?その人達は、淘汰を虐めてたんだよ?」


 困惑するマナに、淘汰は苦笑を漏らす。


「良いんだよ、友人ってのはこんなもんさ。これは、ただのじゃれ合い。だから、ほら、俺は傷付いてないし、笑ってるだろ?」


 その言葉にどうも納得がいかないらしく、マナは眉を寄せた。


「でも、彼らは淘汰を怒っていた。責めていた」


「マナは、羅侯と喧嘩とかしないのか?」


 淘汰の問いに、マナはとんでもないという風に首を横に振る。


「だって、責める理由がない。虐めるなんて、とんでもないもの……」


 マナの言葉に、キリスエが思わず呟いた。


「なんてピュアな」


 まだ警戒を解いてはいない様子のマナがキリエを睨み付ける。


「マッ、マナ……」


慌てる淘汰を他所に、キリエが一歩踏み出した。


「キリエ・エッダ・ヴォーダン……キリエでいいよ、よろしく」


 その自己紹介に続く様に、後の2人も前へ出た。


「俺は、桔梗だ。」


「レヴィ・セラヒン。よろしくな」


 平然と、まるでマナの殺気など気にしない様子の三人に、マナは困惑した。


「どうして?ボクが怖くないの?」


 その言葉に、三人が顔を見合わせるとぷっと吹き出した。マナは更に動揺する。


「いや。だって、淘汰の“大切な人”なんだったら、悪い奴じゃないだろうし」


「それより、お前のようなチビを恐れる程、弱くもない。」


「右に同じく」


 苦笑と溜息とが混じり合った三人の言い様に、マナの顔が朱に染まる。


「チビじゃない!」


 マナのむくれっ面に、三人が笑う。


「やっぱり、あなたたち嫌い!」


 更にむきになって言う姿は、三人のツボを付くばかりだ。歯を喰いしばって睨み付けても笑い続ける三人に途方にくれて、マナは淘汰に目を遣る。


「淘汰まで、酷い!!」


 しかし、例に漏れず淘汰も腹を抱えて笑っていて、マナは何だか泣きたくなったのだった。

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