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原罪  作者: 梨藍
Overture
35/54

第四節:むしばむやみ②

箱庭の安息


偽られしは世の真理

『あら、貴方……最近来た子ね?私はカナンというの。でもね、皆“巫女名”で呼ぶの。珠依(たまより)と呼ぶのよ、貴方の名前は?』


 瞼の裏に鮮明に焼き付いていたのは、そう屈託無く笑い掛けてきた少女の笑顔。


「でも、カナン……私はもう、貴女の笑顔を思い出せないのですよ……」


―― そう、あの時から……


『ごめんなさい』と、謝罪の言葉を口にしながら涙を流す彼女しか、今は思い出すことが出来ない。自分の名を、痛いほど叫んでいた彼女の声しか、想い出せない。

 

 そして名を変え姿を変え、漸く取り戻した筈の温もりに、虚無感すら感じたあの時。


 復讐するべき相手は、彼の中で定まった。


「こんな世界に、何の意味があるというのでしょうね?」


 これから起こるであろう混乱に思いを馳せ、青年は微笑んだ。


―― 貴女の存在を消した世界に


 貴女に触れる事すら赦さなかった世界に


 今こそ一矢報いてやろう。



※※※※※※



「キリエ、急ぐぞ」


「うん、そうだね。早く、淘汰に知らせないと」


 二人は、焦る気持ちを隠しつつ東域へと向かっていた。今朝、御前天使以上の者達に内密に言い渡された厳命。


―― 曰く……


“始祖の神を探し出す”


 目的は「保護」だという。だが、いきなりのその令に戸惑いを隠せない者も少なくは無く。 今まで不可侵とされていた、その領域に踏み込む事に対する躊躇いを、皆感じていた。

 否、それ以前に半ば風説と化している“始祖の神”そして“精霊王”が実在するという事自体に疑心暗鬼で。

 しかし、王令は絶対服従である。戸惑いと混乱の中、捜索隊がその日のうちに編成された。


 明日から本格的に動き出すという。


 その情報を聞いて慌てたのは、キリエだ。


『どういう事ですか!?』


 詰め寄るキリエに、ラスティはゆったりと応える。


『今の世界に、“始祖の力”なんていらない。そうは思わないかい?』


―― そう、強すぎる力は欲望の対象となり、戦の火種となりかねない


『では、保護というのは……』


『本当だよ。但し、保護した後“自然への回帰”を遂げてもらうけどね』


“自然への回帰”とは、即ち“死”を意味していた。キリエは、思わず声を荒げそうになる自分を抑えながら、そ知らぬ振りをして父に問い質す。


『しかし、精霊王などというものは、想像の産物。人の望む姿を偶像にしたに過ぎないのではなかったのですか?』


 息子のその問いに、ラスティは笑みを深くした。


『いるよ。現に、私と弟妹に統治を命じたのは“精霊王”だ』


『弟妹?父上に?』


 違う単語に引っ掛かりを覚え、キリエは反芻するが、ラスティは無視して続ける。


『よしんば、いなかったとしても、それはそれで大いに結構。手間が省けるというものだ』


―― ところで……


 その後続いた言葉に……その鋭い“王”としての視線に、キリストは息を詰めた。


“何か知っている風だね?何を隠している”


 見透かすような鋭い眼光に、キリストは嘘を突き通した。手に滲んだ汗を握り締めて、逃げたい視線を決して逸らさずに。


『さあ、何の事やら。ただ、本当に居るのならお目に掛かりたいと思っただけです。だってどの書物にも“この世のものとは思えぬ美しさ”とありますからね』


 そう言い残して平常心を装ったまま、父の元を後にした。その後は、迷わずレヴィを呼び出し、人気のない事を確認して事の次第を話して聞かせた。


 流石のレヴィも言葉を失った。


 二人の考えが一致している事は言うまでも無く、いつものように東域へと出掛けたのだった。


―― そう……


親友とその恋人にこの恐ろしい計画を報せるべく。


“精霊王”の名を戴く彼の人に初めて会ったのは、つい先日の出来事である。

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