第二節:うまれるこころ②
純粋な願いは
時に鋭利な刃となる
「淘汰様!淘汰様はどこにおられますか?」
女官が泣きそうな声が忉利宮の西館に響き渡る。
「どうかしたのか?」
ちょうど淘汰を尋ねてきた桔梗が、その声を聞いて女官に尋ねると、涙ぐんでその女官は振り返り、そして相手が桔梗だと知れると頭を下げた。
「いえ、あの……伊舎那天様より淘汰様をお呼びするように言付かったものですから……」
それで、桔梗は理解した。様はするに、逃げたのだ。先程まで実父である焔摩天 焔祁に呼び出されていた事を考えれば、昨日の事で咎めを受けたは必然で。父に認めてもらう為に必死になっている淘汰にしてみれば、酷く落ち込んだ事だろう。そして、父に咎めを受けたとなれば、兄からも呼び出されるは必至。だから逃げたのだ。
伊舎那天 法会と淘汰は異母兄弟にあたる。もともと地天 志杏椶と淘汰の母にあたる今は亡き吉祥天 珠依姫 を慕っていた法会は、淘汰を快く思ってはいなかった。淘汰も、父に認められ成人した証である“天名”を既に持っている兄は、苦手な存在であった。
その複雑な淘汰の心を察し、桔梗は溜息を付いた。
「俺が、伊舎那天様にお伝えするから、お前はもう下がれ……」
そう言うと、踵を返した。淘汰の身代わりとなるべく、法会の待つ部屋へとその重い足を向けたのだった。
「淘汰、この借りは高く付くぞ……」
今はいない相手に、そう恨めしそうにのたまった。
「!?」
急に背筋に走った悪寒に、淘汰は思わず振り返る。
「……やっぱり、俺の代わりに桔梗が捕まったかな……」
しかし、あの場にいる事が出来なかった。留まりたくなかった。出来の良い兄姉、比べて劣る弟……囁かれる噂……




