第3話 まぁ俺も人のことは言えないんですけど……
「王宮へと出廷する予定が突然入った。いつものようにフィヨルドを一緒に連れて行く。昼までに支度を整えて置くように言っておけ。」
騎士団の訓練場に一人現れた団長は、訓練に参加することもなく出入り口の柱にもたれかかっていた俺(まぁ、いわゆるサボりというやつなのだが……)を見つけると、訝しげな表情を見せてからそう一言だけ告げて去っていった。
フィヨルドと言うのは、俺より三つ年下の弟である。
まったく。いつもの事でわかっちゃいるけれど、この親父ったらやっぱり俺には一言も無しだ。俺が15歳になって正式に青年隊士になってからと言うもの、もう名前すら呼んでくれやしない。
だって俺はこの騎士団長の親父から疎まれているんだから。
とは言っても、それは仕方の無い話しだ。
この騎士団長は、親とは言ってもいわゆる育ての親。子供と言っても俺は母親の連れ子なのである。
それに引き換え弟のフィヨルドはこの団長の血を受け継いだ実子なわけで、そこに多少の別け隔てがある事ぐらいは俺も承知している。
それに、金髪碧眼の親父とは似ても似つかないこの俺の黒髪と赤い瞳の色じゃあ、あいつが俺の事を実の息子と同じに扱えないのも当然だよ。
たぶんあの義理の親父は、自分の血を受け継いだ弟のフィヨルドを自分の後継にと考えているのだろう。だからこそ弟のフィヨルドをことあるごとに王宮へと連れて行くのだ。
「おいフィヨルド。団長がまた王宮に行くってさ。」
俺は、訓練場の片隅で熱心に剣の素振りをしていた弟を見つけて、団長の言葉を告げた。
「わかったよ兄さん。支度はいつまでに?」
「昼までににだってさ。」
「じゃぁ、今から支度をせねばなりませんね。」
「あぁ。そうだな。さっさと行って来い。」
聞き分けの良い返事と裏腹に、弟のフィヨルドは少し恨めしそうな視線を俺に向けた。
弟はまだ十二歳だが、俺が騎士団に入隊した去年から騎士の見習いとして、俺達新米騎士の訓練に参加している。
はっきり言って十二歳と言えばまだまだ遊びたい盛りのはずだ……。俺も本当に申し訳ないとは思っている。だが代わってやる事などできるはずが無い。俺はあの義理の父親に疎まれているのだから……。
もちろんそんな事は弟だって承知の上だ。俺に恨み言を言ったところでどうにもならない事ぐらい分かっている。
弟の顔に、さっきの恨めしそうな表情はもう消えていた。
眉目秀麗、明朗快活。見れば見るほど俺とは違って本当に良く出来た弟だ。
そんな弟が、去り際に――
「駄目ですよ兄さん。団長が留守だからって昼から訓練をサボっちゃ。」
そう言って、ニコリととびきりの笑顔を見せてきやがる。
う~ん。がんばって隠していたつもりだったんだけどな。やっぱ、俺のウキウキが顔に出ていたのだろうか……。なんてことを考えながら「分かってるって。ちゃんと真面目に訓練するよ。」って言ったのは当然口先だけ。そんなことくらい弟にもバレてるとは思うけど……。
せっかく団長が出かけるんだ。サボらない手は無いよね。
どうせ、今日もあの自称魔法使いの爺さんは王宮西門前の商店の店先にでも腰掛けて、饅頭でも頬張りながら好き勝手に人を転ばせているに違いない。
えっ? 人が転ぶのを見て、なにが面白いかって?
う~ん。そこはちょっと女の子には難しいかもしれないけど……。あの爺さん、転ばし方が絶妙なんだよね。
ちょっとスカートが短めな若い女の子ばっかりを狙ってさ。上手いことスカートがめくれ上がるように転ばすの。まぁ、そこまで言ったら俺がなんのために爺さんに会いくか分かるだろ。
要するに、あの魔法使いの爺さんは、この異世界を異世界足らしめる魔法を単なる女の尻をみるだけの道具としか理解していない。どうしようも無いエロじじいなんですよ。
まぁ、そこ(エロ)に関しては俺も人のことは言えないんですけど……。
新作です。
取り敢えずプロローグの2話だけは投稿していましたが、今日から本格始動です。
週3〜4くらいの更新を目指して頑張りますので、気に入っていただけたら応援やメッセージよろしくお願いします