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ダブスタ上等!騎士団長殺しの生存戦略〜異世界で父親を殺した俺は何故か国王からも反乱軍からも頼られてます〜  作者: 麦チョコ★@新作『ダブスタ上等!騎士団長殺しの生存戦略』投稿中
逃亡
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第21話 ほら

 俺は爺さんの顔を睨みつけ、その軽い身体が宙に浮く程に、なおいっそうの力を込めて胸ぐらを掴んだ。


 しかし、この爺さんはたじろぎもせずにぬけぬけとこう言った。


「おいおい、そんなにワシをねじ上げていったいどうするつもりじゃ。少しは年寄をいたわらぬか。」


 その余裕の表情からもわかるように、この爺さんは俺の怒りを分かった上ですっとぼけてやがるのだ。


 もちろんそんな態度が、よけいに俺の怒りを駆り立てた。


「うるさい。いったいだれのせいでこんな目にあってると思うんだ。今の俺は、父親殺しで騎士団長殺しのお尋ね者なんだぞ。」


「何を言うか。ええ若いもんが日柄なにをするわけせもなく美味い飯だけが運ばれてくる。こんな良い身分は他に無かろうが。なんならワシが代わってやりたいくらいじゃわい。」


「はぁ?よくもぬけぬけとそんな事が言えるな。俺はな、爺さんのせいで死にかけたんだぞ。爺さんのせいであのクソ親父に殺されかけたんだよ。」

 

 正直言うと――


 あの時、俺が何故あそこまで騎士団長の怒りを駆り立てたのかはわからない。でもたぶん、あの日あの場所で何か知られてはまずい事があったんだ。


 そして――あの日。なんのためかは知らないが、この爺さんが騎士団長を殺すために俺を利用した。


 それは紛れもない事実だ。


 もしあの時。あの幸運さえなければ……。俺はあの騎士団長のクソ親父に確実に殺されていた。


 そりゃあ、俺が怒り狂ったって仕方ないだろ。


 つまり……。


 俺は、外に声が漏れることも忘れてありったけの声で叫んだ。


「お前は……、ロウ爺さんは、この俺を捨て駒扱いにしたんだろ!」


 俺は、あくまでも白を切るこの目の前の老人が憎らしくて仕方無かった。さほど長い期間でもなかったが、俺はこの老人とくだらない悪戯をして遊んでいた期間がとても楽しかったんだ。


 育ての親にも疎まれて、なんの楽しみも無かった俺の異世界人生に、この爺さんは少しばかりの異世界の楽しさってやつを教えてくれた。


 本当なら、感謝こそ有れ恨む事なんてあるはずがなかったのに――


 この爺さんはいともたやすく俺を裏切ったんだ。



 しかし……。


 その時この爺さんから返ってきた言葉は……


「バカ言え。あの時はお前さんが殺されん様にワシがちゃんと手助けをしてやったじゃろうが……。」


 そんな俺が考えてもみなかった言葉だった。



 いやいや。実際は考えていてもおかしく無かった言葉なんだよ。でもやっぱり……あの時の俺は気が動転していたって言うかさ。全ての出来事があまりにも突然すぎて――


 やっぱり俺は……そんな事、思っても見なかったんだよなぁ。


 この時俺は、爺さんがまたいつものように適当なことを言ってこの場を誤魔化そうとしていると思っていた。


 だから俺は「嘘をつくなよ。あの時爺さんはあの場所にいなかっただろ。」なんて言って――この爺さんの事を問い詰める気満々だった。


 しかしここから少し俺の旗色が悪くなっていくのは……ご想像の通りである。


「まったく……気が付かなんだとは情けないのう。今から説明してやるから取り敢えずその手を下ろしてくれんか。さっきから息苦しくてかなわん。」


 確かに。いくら何でも胸ぐらを掴んだままじゃ話どころでは無い。

 

 そんな爺さんの言葉に、俺は「お、おう」とだけ答えて手の力を抜いた。


 爺さんが首の歪みを直す様にコキコキと首を左右に振った。そしていかにも魔法使いらしいローブの襟を丁寧に整えると、いつものふざけた感じとは少し違う落ち着いた口調で話し始めた。


「お前さん。あの時――少しはあの騎士団長の動きがおかしいと思わなんだのか?」


「そんなもの覚えているわけが無いだろ。あの時はただただ必死だったんだからさ。」


 確かに、あの時の俺は蛇に睨まれた蛙の様に、たった指を一本動かすだけでも必死だった。そんな状況で刻一刻と近付いて来る『死』ってやつを俺はじっと待っているしか無かった。


 だが、そんな極限だった状況を知ってか知らずか、爺さんは淡々と言葉を続けた。


「それは――団長を突き刺した瞬間もか?」


 そんなもの覚えてるわけ無い――


 と言いかけて、俺はそうじゃない事を思い出す。いや、それは俺もずっと気になっていたんだ。


「確かに、あの時は団長が何かに躓いたお陰で俺は生き延びることが出来たけど――」


 と、その瞬間。


 俺がぽつりとそう言った瞬間。


 突然。満面の笑みで俺の顔を覗き込む爺さんの顔が――目の前に現れた。


「ほら。」


 爺さんは、ものすごく嬉しそうにそう一言。


「ほら?」


 俺は一瞬、理由もわからずそのままオウム返しに聞き返す。


「団長が何かに躓いたんじゃろ?」


 と、爺さん。


 その時。俺はようやくピンときたのである。


「って――。あれってもしかして爺さんの仕業だったのか?」


 ってね。


「当たり前じゃろう。天下一の剣豪があんな何も無い場所で躓くものか。ワシが魔法を使ったに決まっとるじゃろうが。」


「じゃぁ、あのときのあれは……。」


「ワシは、てっきりお前さんから感謝の一言をもらえるもんだと思っとったんだがの。まさか胸ぐらを掴まれるとは思ってもみんかったわい。」


 つまりは、あの瞬間。団長が身体のバランスを崩したのは、この爺さんが『人間を転ばす魔法』を使ったからだったのだ。

ここまで読んでくれてありがとうございます。


逃亡中の主人公。


その間に裏で行われていたのは……。


そろそろ、主人公も表舞台へと……あと3話くらいかな。



あと、都合によりこの章のタイトルを変えます。すみません。

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