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ダブスタ上等!騎士団長殺しの生存戦略〜異世界で父親を殺した俺は何故か国王からも反乱軍からも頼られてます〜  作者: 麦チョコ★@新作『ダブスタ上等!騎士団長殺しの生存戦略』投稿中
騎士団長殺し
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第15話 この陰キャ野郎

「お、おい。もしかして本気で俺を殺そうって言うのか……」


 そんな言葉を俺は震える唇からなんとか絞り出した。


 しかし、剣を俺に突きつけたままの男から返事が返ってくることはない。それどころか男はその眉一つ動かそうとはしなかった。


 まさにそれがこの男の答えだった。


 そこには、俺が期待したほんのひと欠片の親子の情すらも存在はしなかったのだ。


 ズルズルと腰を引きずりながらあとずさる俺に、ゆっくりと歩調を合わせながら男の剣はただ真っ直ぐに俺の眉間へと向けられる。


 周りには、ただ黙って事の成り行きを見守る不気味な二人の男。そして、王国一の剣士の覇気に飲まれて身動き一つとれなくなってしまったワイズ。


 だが、今の俺はそんな取り巻きに気を配っている暇はない。今の俺は人生始まって以来の絶体絶命のピンチなのである。


 何故、どうして俺がこんなめに――そんな疑問が浮かんでは消える。スキルにチート、そんな転生者に相応しい設定が俺にもあれば、この場面は物語最高の見せ場だったろう。

 しかし今の俺は、王国最強の剣士に抗う術を何一つ持ち合わせてはいない。この世界での俺の立場は――当初からの自覚通り、ただ物語冒頭で理不尽な力に蹂躙されるだけの一般人に過ぎないのだ。


「死にたく無いなら抗って見てはどうだ?いくら腰抜けのお前にだって立ち上がって剣を抜く事ぐらいは出来るだろう?」


 みにくく後ろに引き下がるだけの俺に、男はさも呆れた様なな口ぶりで言う。

 

 だが、その言葉は男の剣が俺の首を刎ねるまでの単なる暇つぶしだ。勝ち目の全く無い俺に剣を抜かせたからといって結果は何一つ変わらない。


 ふと、剣を下に向けるふざけた仕草も彼なりの余興なのだろう。この状況を楽しみ始めている男は、俺に立ち上がって剣を抜けと――そう言っているのだ。



「くそっ! 俺を殺したいならさっさと殺せばいいだろう!」


 俺は心の中でそう叫んだ


 どうせ死ぬ。殺される……


 俺にとってそれは、立って死ぬか、それとも座って死ぬかの選択肢が出来ただけの話でしかない。


 だがしかし、


 前世でろくな死に方をしなかった俺が、せめてその二択でも死に方を選べると言う事実に、俺はとうとうその覚悟を決める。


 せっかく異世界に転生したんだ。せめて一回くらいはそれらしい何か(剣を抜いて強敵に立ち向かう……)をやってやろうじゃないか――


 まぁそれは、俺にとって覚悟と言うよりは諦めだったのかもしれない。


 だが、俺がそう心の中で呟いた時。恐怖に震えていた身体に、踏ん張ることすら出来なかった足に、力が戻ってきたのは確かだった。


 どうせ死ぬ。殺される……


 しかし、それならせめて最後に一言ぐらい言ってやらねば気がすまない。妻の前の夫にいつまでも未練タラタラなこの根暗で器量の狭い男に――。


 「この陰キャ野郎!」ってね。


 そして俺は、その言葉を叩き込んでやる為に立ち上がる。


 剣を構えた瞬間。男は俺に切り込んでくるに違いない。だったらその言葉を叫ぶチャンスは剣を抜く瞬間――。


 心と喉の調子は準備万端。眼光を目の前の男に、そして俺はおもむろに腰に下げた剣のつかへと手を伸ばす。


 しかし……


 その緊迫した状況で、あまりにも間が悪く――俺の懐から1枚の紙切れがハラリと落ちた。


 瞬時に俺の気が削がれる。


 たかが紙切れ1枚で、もう一度最初からやり直しだ。


 俺は再びその視線を目の前の男へと向ける。目を合わせてこそ、その言葉は威力を発揮するのだ。




 だが、何故か視線が合わない。


 どう言うわけか男の視線が俺へと向けられていない。男の視線は俺の懐から落ちた1枚の紙切れへと向けられていたのだ。


 これが真剣勝負なら、男の気が削がれた瞬間はまさに好機チャンスなのだが、俺の戦いは男に「陰キャ野郎」と言う最後っ屁を放つだけ。相手の気が削がれていてはなんの意味も無いのだ。





 ところで――


 今、俺の懐からハラリと落ちた紙切れは、俺とワイズがあの魔法使いの爺さんから受け取ったこの場所を記した地図だ。


 男は、まさにその地図に気を取られていた。


「貴様、この地図は何だ?」


 そう言って俺を睨みつける男の声色がさっきまでとは全く違っていた。いつの間にかあの不気味だった笑顔が消えて、男は再び冷静沈着な鉄仮面の表情を取り戻している。


 しかし……


 なんだと言われて、俺はそれに答えられるだけの情報を持ち合わせてはいない。なんせ、この地図がいったい何なのかさえ俺もワイズも聞かされてはいないのだ。


 俺からの返事を待たずに男が地面落ちた地図に手を伸ばす。


 ただのなんの変哲もない紙切れに墨で書かれた雑な千鶴だ。特段そこから何かが分かるわけでもない。




 だが、男がその地図を手にした瞬間。



「待て。オーデン! その紙に手を触れるな!」


 今までただ黙って様子を見ていたはずの、無気味な姿の男が突然大きな声を上げた。


ここまで読んでくれた皆様。どうもありがとうございます。


ストーリーの分岐点。なかなか四苦八苦して書いております。


なるべく一日おきの更新を目指していますが、中二日でも許してくださいw


さて、地図には何が?次の話をお楽しみに。

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