第9話 俺達の遊びが終わる……
俺達の遊びが終わる……。
そう。祭りはいつか終わるものなのだ。
少し淋しくはあるけれど。俺は、この悪ふざけももうこの辺りが潮時だろうと考えていた。もちろん白猫にからかわれて正直に肝を冷やしたっていのが大きいけれど――
俺は……そろそろこの遊びにも飽きがきていたのだ。
魔法使いのロウ爺さんは、終始自分の魔法がバレてしまった事に首を傾げていたけれど、やはり爺さんも俺と同じ様に潮時だと考えているようだった。
手品のタネがバレてしまえば、そこから先はその手品がやりにくくなるなる。魔法もそれと同じだと爺さんは言う。
実際。白猫には魔法だと言う所まではバレていた。だが、そこからその魔法がいったいどの様な原理で発動させているかを理解するのは別である。もう一度手品に例えるならば、タネがあるとは分かっていても実際にどうやっているかは見抜けていないと言ったところだろう。
だから、今はまだ問題にはなっていないと爺さんは言う。
でももし、それが誰かに看破されてしまえば『魔法使い』としては商売上がったりなのだそうだ。
正直俺は、この世界で魔法使いがどの様な立場の存在なのかをあまり理解はしていない。しかしこのあっけらかんとした老人も、こと魔法に関しては存外秘密主義であることを俺はこの時始めて知った。
俺がこの老人と始めて出会ったあの日。欠けた前歯を隠そうともせず、まるで少年が宝物でも自慢するように「魔法じゃよ。」と言ったアレは……。いったいなんだったのだろうか。
しかし。とにもかくにもこの遊びは『魔法』を使わない事には始まらない。つまり、この魔法使いの爺さんが終わりと言えば終わりにするしかない。
こういう遊びは止め時が肝心なのだ。俺も爺さんもそのことは充分に理解している。
『バレそうになったら直ぐに止める。もしバレたら素直に謝る。』
こういう若気の至りには、これこそが被害を最小限に留める唯一の正しい選択だって――俺達は数多くの先人達の失敗から学んでいるのだ。
ただ……
どう言うわけか、一番物わかりの良いはずののワイズ君だけが執拗に(この遊びを止めることに)反対していた。
容姿端麗。好青年。利発。生真面目。そんな形容詞が彼ほど似合う男子はなかなかいない。そう、彼は完璧なのだ。それ故、その容姿があまりに美少年すぎて同じ男でもたまにドキリとさせられる時があるぐらいだ。
つまり。
彼は出会った時からいつも上品で物わかりの良いお坊ちゃんだったはずなのに。それは俺にとって少し意外な光景だった。
もちろんワイズ君の事だ。駄々っ子の様に喚き散らす訳では無いのだが……。なんとか『遊びの終わり』を受け入れようとする彼が、どうにも寂しそうな顔をする。
たぶん魔法使いの爺さんもそんなワイズの姿を見かねたのだろう――。いや、もしかしたら最初からそのつもりだったのかもしれない。
いずれにせよ爺さんはその時。まるで俺と初めて出会ったあの日を思い出させる――少年のような満面の笑みを俺達に向けて――こう言ったのだ。
「それではこうしよう。儂がお前達に次の遊びを教えて進ぜる。今度は魔法は使わん。でも覚悟せいよ。今度の遊びは今までよりももっと過激じゃぞ。」
ってね。
ただし――
ここで俺は、前もって断って置かなければならない。
この爺さんの提案が――これからの俺の人生を全く思わぬ方向に変える『大きな事件』へと発展させてしまうということを。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
つぎの話から時間と場面が少し飛びます。そして、爺さんの言った遊びが『あの事件』へとつながって行きます。