生存戦略
生存戦略
【読み方】せいぞんせんりゃく
【意味】生き残る事を目的として行われる、一連の戦略的行動。
二兎を追う者は一兎をも得ず
【読み方】にとをおうものはいっともえず
【意味】ことわざ。一つの物事に集中せずに、欲張って二つの物事を上手くやろうとすると、どちらも失敗するという警句。
今思い出してみれば、前世の俺――こちらの世界へやって来る前の俺は、なんと言うかこう……もっと誠実な男だった気がするんだ。
それは、くそ正直というか汚れを知らぬと言うか……。いや、それはなにも特別なことじゃ無くて――
あちらの世界では誰もが人を騙したり、貶めたり、そんなことをしなくても充分生きていける恵まれた世界だったんだと今は思う。
出来ることなら俺も、そのままの純粋さを持ったままやっていければ良かったんだけど……。
それがどうだ、今の俺ときたら
『二兎を追う者は一兎をも得ず』なんてことわざが教えてくれる教訓なんかも忘れて、大事な仲間や親友を天秤にかけて……。そりゃこんなしっぺ返しが降り掛かって来ても何も文句は言えないよ。
とうとう俺にも、この国を統治するエーデル国王の親友として立場を取るか――それとも『夏国』復活を目論む反乱軍のリーダーとしての立場を取るか――
その選択をせまられる時が来た。
今。俺の屋敷の周りは二つの集団に囲まれている。
一方は国王と共により良い王国を目指し頑張ってきた近衛騎士団の仲間。そしてもう一方は王国に反旗を翻しもう一度この土地を『夏人』のもとに取り戻そうとする地下組織『立夏党』の面々だ。
近衛騎士団と立夏党。
この相反する二つの組織を天秤にかけて騙してきた俺はもはや絶体絶命だ。
そりゃあ、自業自得と言われればそれまでだけど。俺だってこんな危ない橋を渡りたくは無かったさ。それはまるで終わりの見え無い延々と続く綱渡りだ。
だけどあの時――俺が義理の父親である騎士団長を手にかけた時。
俺の目の前にはこの二つの選択肢しか無かったんだ。
いや。そうじゃない。
そこに選択肢なんか無かった。どちらを選んだところで俺はもう片方から命を狙われる運命だったのだ。
つまりさ。俺が生き延びるにはこの方法しか無かったんだよ。
『どちらかを選択するのではなく両方を選ぶ。』
そんな卑怯な方法しか……
いくら誠実さを欠いても、友や仲間を騙しても。それが生き残る為なら仕方ないだろ?
だって
俺にとってはそれこそが、この世界で生き残っていくたった一つの『生存戦略』だったんだから。